タクシードライバーの紹介:1976年アメリカ映画。当時、新進気鋭のスコセッシ監督がポール・シュレイダーのオリジナル脚本を得て、ニューヨークに生きる孤独な青年が狂気じみた犯罪へと駆られてゆく姿を描いた傑作。カンヌ映画祭でパルムドールを受賞。
監督:マーティン・スコセッシ 出演:ロバート・デ・ニーロ(トラヴィス・ビックル)、シビル・シェパード(ベッツィー)、ピーター・ボイル(ウィザード)、ジョディ・フォスター(アイリス)、ほか
映画「タクシードライバー」ネタバレあらすじ結末と感想
映画「タクシードライバー」のあらすじをネタバレ解説。予告動画、キャスト紹介、感想、レビューを掲載。ストーリーのラストまで簡単に解説します。
映画「タクシードライバー」解説
この解説記事には映画「タクシードライバー」のネタバレが含まれます。あらすじを結末まで解説していますので映画鑑賞前の方は閲覧をご遠慮ください。
タクシードライバーのネタバレあらすじ:起
ニューヨークのタクシー管理事務所へ1人の男がやってきます。名前はトラヴィス。夜眠れないので、どうせなら深夜タクシーの運転手になろうというつもりです。生意気な態度を担当者から咎められながらも、早速運転手として登録し、夜の街を流し始めるトラヴィス。夜中のタクシーにはロクな客はいません。売春婦とセックスを始める客。アパートを見張りながら、これから浮気をした妻を殺すと宣言する客。毎日そんな客を見ているうち、トラヴィスはニューヨークへの嫌悪感を高めてゆき、その気持を細かく日記につけ始めます。
タクシードライバーのネタバレあらすじ:承
やがて、街を流す彼の目に美しい女性の姿が映ります。彼女の名前はベッツィ。大統領候補であるパランタイン議員の選挙事務所でスタッフとして働いています。直接その事務所へゆき、彼女をデートに誘うトラヴィス。驚いた事に彼女はそれに応じます。夜の街へ出てゆく2人。しかし、このデートも、トラヴィスがいきなり彼女をポルノ映画館に連れて行ったことで台無しになります。もう2度と連絡を取りたくないという彼女に腹を立て、再び選挙事務所を訪ねますが、けんもほろろの態度を取られるだけでした。また孤独の淵に沈んでしまうトラヴィス。急に銃を買い込み、体を鍛え始めます。そしてベッツィのボスであるパランタインの演説場所へ。トラヴィスは絶望の余りパランタインを暗殺するつもりです。しかし警備係に怪しまれ、暗殺は失敗。またつまらない日常へと戻る羽目に。
タクシードライバーのネタバレあらすじ:転
やがて、彼のタクシーに少女が乗り込んできます。しかし、ポン引きらしき男に無理矢理外へ。興味を持ったトラヴィスは街角に立っている彼女を見かけ、客のふりをして部屋にゆきます。事情を聞くと彼女は13歳。名前はアイリス。家出をしてきたものの頼るあてがなく、そこへ声をかけられて売春婦として働きはじめたのです。彼女を更生させたいと思い、家に帰るように説得しますが、アイリスはそんな言葉を馬鹿にするばかりです。決心したトラヴィスは再び武装して、ポン引きのいる場所へ。彼を撃ち殺してから、アイリスのいる部屋へ出かけます。見張りのヤクザたちを銃やナイフで倒しますが、逆襲にあって、トラヴィス自身も瀕死の重傷を負います。
タクシードライバーの結末
彼はヒーローだと持ち上げるマスコミ。何ヶ月か経ち、報道のせいで事情を知ったアイリスの祖父が彼女を引き取り、トラヴィスの目的は達成されました。またタクシーの運転手に戻ったトラヴィス。ある日彼の車にベッツィが乗り込んできます。新聞を見たわ、元気?と言う彼女にトラヴィスは笑顔を見せ、代金は受け取らず去っていくのでした。
「タクシードライバー」感想・レビュー
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バーナード=ハーマンが手掛けた上質な音楽が流れる中、夜雨のNYを駆け抜ける描写が非常に美しいと感じました。降りしきる雨をワイパーで拭うのですが、煌めく電飾に彩られた看板が雨によって色が滲んでしまい、NYという街がいつもより猥雑に見受けられる点も素晴らしいと思います。
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まさに、自分の若い時代を思い出すデニーロの姿です。特に無鉄砲に無理目の女性に告白そして1回のデートで破綻、妙に正義感があり、変な恰好する、最後にその女性に声掛けらても、笑うだけで料金も受け取らない。何と不器用なことですか。
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映画マニアには知られた話だろうけど、ラストシーンは妄想オチとも言われる。
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考えさせられる映画でした。
孤独を抱え、社会への不満と失恋が大統領候補暗殺計画へと邁進させていく様子や、その計画が失敗したため少女の斡旋人を殺害したら皮肉にもヒーローになってしまった主人公が現状に満足しているようなラストシーンに感銘を受けました。
あのまま殺害シーンで映画が終わらなくて良かった。崇拝し執着していたベッツィに未練のない様子がこの映画の肝だと思いました。
かっこいいジャズもこの映画の魅力です。 -
「タクシードライバー」は1976年度カンヌ国際映画祭でグランプリ(現在のパルムドール賞)受賞のアメリカ映画の問題作であり秀作だと思います。
監督は当時「アリスの恋」の繊細で鋭い映像感覚で注目されたマーティン・スコセッシ。
脚本は「ザ・ヤクザ」、「ローリング・サンダー」等の異色作で知られるポール・シュレーダー、音楽は数々のヒッチコック映画で有名なバーナード・ハーマン。優れたいい映画はオープニング・シーンからしびれるような映画的陶酔の世界へ我々観る者をのめりこませてくれます。
黒いバックを背景に赤い文字でTAXI DRIVERというタイトルが浮かび上がります。けだるくアンニュイなバーナード・ハーマンのテーマ曲が流れて来て、画面上にはグレーがかった白い蒸気が一面に立ちこめていて、その向こう側の闇の奥の中から不気味な黄色いタクシーが現われて来ます。
正しく息を飲むような戦慄の素晴らしいオープニング・シーンです。真夜中の毒々しいネオンのイルミネーションの洪水に溢れる喧噪の大都会ニューヨーク。
その喧噪の中を走らすヴェトナム戦争帰りの元海兵隊員で、不眠症のタクシードライバーのロバート・デ・ニーロ扮するトラヴィス・ビックル。マンハッタンを走るタクシーの運転席からのショット。
ワイパーをかけてもかけても強烈な雨のシャワーが、フロント・ガラスを濡らし極彩色のネオンがにじみ、舗道の薄暗い光の中で、人々が霞んで浮かび上がって来ます。
マーティン・スコセッシ監督の映像魔術に翻弄されてしまいます。このシーンに続けてトラヴィスの独り言、「獣どもは夜になると外に出て来る。
娼婦とポン引き、チンピラ、ヤクの売人と中毒患者、金が目当ての汚い奴らめ。
いつの日にか本物の雨がこいつら人間のクズどもを街から洗い流してくれるんだ」と狂気の人間像を暗示していきます。この汚れきって堕落している街の中で毎晩、車という密室を一人走らせているタクシードライバーの日常を描いたリアリズム、ニューヨークという街へのファンタジーの境界線に立ち、ニユーヨークという得体の知れない魔性の怪物と、そこに住む孤独で鬱屈した内向的な人間の狂気との関係をドキュメンタリー的手法で丹念に描いていきます。
トラヴィスは日記を書いていますが、彼の視界に飛び込んでくるものは全てゴミですが、監督のマーティン・スコセッシや我々観る者の眼から見る、トラヴィスもまたゴミにしか見えないという二重構造になっています。
そしてトラヴィスの神経は、次第にこの街の腐臭に毒され病んでいきます。
売春と暴力が蔓延するこの大都会は、トラヴィスのような内向的な人間の心を孤独でさいなんでいきます。
「俺の人生にはいつも淋しさがつきまとう。バーにいても車の中でも舗道でも店でもどこでもだ。逃げる場所はない」という精神状況になり、この孤独感はついに強迫観念となり過激な暴力にまで彼を追い込んでいきます。それはあたかもニューヨークという魔性の怪物に一人敢然と立ち向かう孤独なドン・キホーテを想起させます。
大統領選挙の美人の選挙運動員のシビル・シェパード扮するベッツィとの強引とも思えるデートとその無残な失敗は、トラヴィスの異常で狂気の精神状況の始まりで、偽善的な大統領候補に対する暗殺未遂は、彼にとって最後の残された生き甲斐のはけ口のようなものでした。
様々な種類の銃だけが彼に生きる力、勇気を与え、現代のドン・キホーテは銃をもって大都会の汚れきった諸悪に対し敢然と挑んでいきます。そして問題のラストシーンですが、ジョディ・フォスター扮する13歳の娼婦の救出に命を賭ける最後の銃撃のシーンは、凄惨な描写で息を飲むすさまじさですが、この行動は異常で狂気の錯乱としか言いようがありません。
このシーンは、精神に異常をきたしたトラヴィスの膨れ上がった”幻覚の世界”を描いているのだと思います。このように解釈しないとラストのシーンが余りにも英雄主義的で甘すぎます。
何故ならば、ニューヨークという魔性の怪物の大都会に打ちのめされた孤独なタクシードライバーが、ヒーローとなって都会の諸悪を現実に打破するだけの力を持ち得るとは到底、思えないからです。
ベトナム戦争に負けたあとの敗北感と社会に対する不信感が色濃く表現されているアメリカン•ニューシネマの傑作。ザラついたフィルム、ドキュメンタリーではないのにトラヴィスが実在していて彼の人生をドアの隙間から覗いているかのようなリアリティ。当時の同じ境遇だった若者を代弁するかのような強いメッセージ。長いキャリアを持つデニーロですが、やはりデニーロといえばトラヴィス、というほど強烈な個性が魅力的な映画です。