奇跡の丘の紹介:1964年イタリア,フランス映画。イタリアが生んだ鬼才ピエル・パオロ・パゾリーニ監督が『マタイによる福音書』を基に、イエス・キリストの生涯を描いた歴史伝記ドラマです。出演者のほとんどが演技経験のほとんどない素人であり、聖母マリアの処女懐胎からキリスト復活までの主要エピソードを余すところなく描いています。
監督:ピエル・パオロ・パゾリーニ 出演者:エンリケ・イラソキ(イエス・キリスト)、マルゲリータ・カルーソ(聖母マリア(若年期))、スザンナ・パゾリーニ(聖母マリア(老年期))、マルチェロ・モランテ(ヨセフ)、マリオ・ソクラテ(洗礼者ヨハネ)ほか
映画「奇跡の丘」ネタバレあらすじ結末と感想
映画「奇跡の丘」のあらすじをネタバレ解説。予告動画、キャスト紹介、感想、レビューを掲載。ストーリーのラストまで簡単に解説します。
映画「奇跡の丘」解説
この解説記事には映画「奇跡の丘」のネタバレが含まれます。あらすじを結末まで解説していますので映画鑑賞前の方は閲覧をご遠慮ください。
奇跡の丘のネタバレあらすじ:起
ベツレヘムに住む大工ヨセフ(マルチェロ・モランテ)の婚約者マリア(マルゲリータ・カルーソ)は処女のまま身籠りました。驚いたヨセフの前に主の使いが現れ、「マリアは聖霊によって懐妊したのです。彼女を妻に迎えなさい。その子は民を罪から救う救済者となる。その子をイエスと名付けなさい」と告げました。ヨセフはその言葉通りにマリアを妻に迎え、生まれた子にイエスと名づけました。時はヘロデ大王(アメリゴ・ベヴィラッカ)が支配する時代、神の子誕生を恐れたヘロデ大王はベツレヘムとその近辺にいる2歳以下の男の子を全員抹殺するよう命じました。やがてマリアとヨセフの元に再び主の使いが現れ、迫害から逃れるためエジプトに逃げるよう促しました。マリアとヨセフはその言葉通りにイエスと共にベツレヘムを離れ、間もなくヘロデ大王による男の子の殺戮が始まりました。
奇跡の丘のネタバレあらすじ:承
時は流れ、ヘロデ大王が亡くなると、エジプトに逃れていたヨセフらの元に主の使いが現れ、イスラエルに戻るよう告げました。ガラリヤの地で成人を迎えたイエス(エンリケ・イラソキ)は、人々に洗礼を施していた洗礼者ヨハネ(マリオ・ソクラテ)の洗礼を受けました。すると天から主の声が響き渡り、「これこそ我が子。我が心にかなう子である」と告げました。その後、イエスは一人荒野で40日間にも渡る断食を行い、何度も誘惑してきた悪魔からの誘いを全て退けました。修行を終えたイエスはこの頃から人々に神の教えを説くようになり、まず漁師のペテロ(セティミオ・デ・ポルト)とアンデレ(アルフォンソ・ガット)を使徒(弟子)に取り、続いてゼベダイの子ヤコブ(ルイジ・バルビーニ)とヨハネ(ジャコモ・モランテ)を使徒としました。その後、イエスは12人となった使徒を連れてガラリヤ全地を巡り歩き、教えを広めるとともに数々の奇跡をも行い、支持者を集めていきました。
奇跡の丘のネタバレあらすじ:転
しかし、長老や司祭、律法学者らの中にはイエスを快く思わない者も少なくはありませんでした。洗礼者ヨハネはヘロデ大王の王子ヘロデア(フランカ・クパーネ)の娘サロメ(パオラ・テデスコ)の差し金により、ヘロデアの異母兄弟でガラリヤの領主であるヘロデ・アンティパス(フランチェスコ・レオネッティ)に捕らえられて処刑されました。そしてイエスは使徒たちに自分はいずれ長老や司祭、律法学者らによって処刑されるであろうと告げ、彼らの欺瞞を糾弾するためエルサレムを目指して布教の旅に出ました。エルサレムに辿り着き、使徒らと共に食卓についたイエスの元に“ベタニアのマリア”(ナタリア・ギンズブルグ)という女性が現れ、イエスの頭に高級な香油を注ぎました。使徒のひとりであるイスカリオテのユダ(オテロ・セスティリ)は香油を高く売れば貧者に施せると咎めますが、イエスは「女は良いことをしている」と諭しました。
奇跡の丘の結末
イエスは長老や司祭たちの批判を展開、“最後の審判”が近いことを告げました。そして12人の使徒と共に最後の晩餐の席についたイエスは、使徒らの中に裏切り者がいることを告げました。使徒らは疑心暗鬼となりますが、イエスはそれが誰なのか名指しはしませんでした。イエスの預言通り、ユダは銀貨30枚でイエスを長老や司祭らに売り、イエスはピラト総督(アレッサンドロ・クレリチ)に引き渡されました。ゴルゴタの丘に連行されたイエスは十字架に磔にされて処刑されました。自らの行いを悔いたユダはその後自殺しました。その死を嘆く老母マリア(スザンナ・パゾリーニ)や11人の使徒の前に主の使いが現れ、「ガリラヤに行けば彼に会える」と告げました。処刑から3日後、イエスは預言通りに復活し、マリアや11人の使徒の前に姿を現しました。
この映画「奇跡の丘」は、1966年度ヴェネチア映画祭にて審査員特別賞を受賞した、無神論者にして、マルクス主義者の鬼才・ピエル・パオロ・パゾリーニ監督が撮った、異色のキリスト伝映画だ。
新約聖書のマタイによる福音書を忠実に映像化しているが、ハリウッド製のスペクタクル史劇とは全く違い、イタリアン・リアリズムを踏まえて、荒涼とした砂漠でのロケによって、古代世界を再現していると思う。
また、イエス役には学生を、マリア役にはパゾリーニの実母スザンナを配するなど、既存の俳優を使わずに、無名の素人たちを起用しているのも斬新だ。
神を冒涜した映画という前評判を覆して、ヴェネチア映画祭で、聖書をテーマにした最も優れた映画だと絶賛されましたね。