野性の少年の紹介:1969年フランス映画。生い立ちに家庭内不和や感化院体験をもつフランソワ・トリュフォー監督。作品群の中には少年たちがたびたび登場します。実話を題材にしたこの作品でも、登場人物のひとりイタール博士に自らを投影して少年と向き合います。森に育った少年は、文明こそ知りません。しかし無垢な魂をもつ少年は、他の人間たちとは異なった観察眼や洞察力を持っています。トリュフォー監督は、全編にわたって少年に寄り添い、実直なまなざしを注ぐとともに、少年から見た文明社会を観察します。
監督: フランソワ・トリュフォー 出演:フランソワ・トリュフォー(イタール博士)、ジャン・ピエール・カルゴル(ヴィクトール少年)、ジャン・ダステ(ピネル教授)、フランソワーズ・セニエ(ゲラン夫人)、クロード・ミレール(友人レムリ氏)、アニー・ミレール(レムリ夫人)ほか
映画「野性の少年」ネタバレあらすじ結末と感想
映画「野性の少年」のあらすじをネタバレ解説。予告動画、キャスト紹介、感想、レビューを掲載。ストーリーのラストまで簡単に解説します。
野性の少年の予告編 動画
映画「野性の少年」解説
この解説記事には映画「野性の少年」のネタバレが含まれます。あらすじを結末まで解説していますので映画鑑賞前の方は閲覧をご遠慮ください。
野性の少年のネタバレあらすじ:起
1798年の夏の日。物語はフランス中部アヴェロンの森ではじまっていました。山菜採りにやって来た農婦が見たこともない獣に遭遇します。伸び放題の髪の毛。一糸まとわぬ素肌にしなやかな肢体。急こう配の崖を難なく進み、四肢を使って茂みを搔き分けて行きました。まさに野性の少年(ジャン・ピエール・カルゴル)です。
一目散で逃げ出した農婦は、すぐに村のハンターたちを連れて戻ってきます。さっそく2匹の猟犬が放たれます。少年は、木々を伝い、丘を越えて懸命に逃げますが、身を潜めた穴倉から松明で燻りだされてしまいました。ハンターは少年を珍奇な獣として捕獲し、農業用の納屋に押し込めたあとは、家畜以下の扱いで放置します。
やがて少年は「半獣人」として喧伝され、パリへ移送されることになりました。道中の村々では、少年をひと目みようと、馬車を囲んで老若男女が群がります。少年をパリで待っていたのは、イタール博士(フランソワ・トリュフォー)とピネル教授(ジャン・ダステ)です。少年の扱いに苦慮していたパリの聾唖(ろうあ)学校へ、ふたりの先生が赴いてきました。
野性の少年のネタバレあらすじ:承
少年を診察したピネル教授は、あくまで知的障害児として扱います。しかし少年の不適切な行動を、教育の場で改善可能だとみるイタール博士は、少年を自宅へ引き取り、少年と向き合うことで、少年の内に潜む知性を引き出そうと考えます。
少年の親(保護)権を得た博士は、少年との日々を克明に記録しはじめます。助手は家政婦のゲラン夫人(フランソワーズ・セニエ)です。夫人はまず少年の伸びすぎた髪の毛と爪を整え、長年にわたって染みついた少年の獣じみた臭いを熱い湯船に浸けて消し去ります。博士は、歪みがちな少年の肢体を二足歩行に適うよう繰り返し矯正します。
靴と服が与えられますが、着衣は窮屈すぎて少年にはストレスが大きいようです。火を見ると怖がります。自らのくしゃみに驚きます。温暖な地に育った彼はどちらも経験がないようです。外出は馬車で向かいます。郊外の木々や緑に出会うとたちまち興奮し、馬車を下りればすぐに這いまわります。博士の足並みを無視した子犬のような振る舞いです。
博士は、少年の欲求に適うように知恵を授けていきます。目のまえの食べ物を隠してその場所を探すことをさせ、鍵をかけた食器戸棚から牛乳を取りだす方法を教えます。しかし少年は知的好奇心よりも先に、人間社会の制約の多さに退屈を覚えるようになってきます。教育熱心な博士に逆らう気ではなく、窓の外の景色が無性に恋しくなっています。
野性の少年のネタバレあらすじ:転
すると・・。聾唖(ろうあ)かと思われた少年の耳が音に反応していることに博士とゲラン夫人が気づきます。とくに「O」の音に敏感だと気づいた博士が、いくつかの名まえと共に「ヴィクトール!」と声をかけます。少年はすぐに振り向きました。「耳が聞こえるなら話せますね?」とゲラン夫人が訊ねます。博士は頷き、音の鍛錬へと進みます。
3か月が経ちました。「もう3か月」と思うか「まだ3か月」と思うか。博士の思いは揺れ動いています。しかし音を聞き分け、目で判断する力がついてきた頃、ヴィクトールは脱走します。長年にわたって親しんだ自然の微かな動きが気になって仕方ありません。外へ飛びだすと、庭の菩提樹にのぼって見晴かす野原を飽かずに眺めていました。
博士はさらに忍耐強く知恵を授けていこうとします。しかしヴィクトールの神経がついてきません。授業中に彼は発作を起こし倒れてしまいました。人生経験豊かなゲラン夫人の忠告を聞き入れて、ヴィクトールの教育を郊外の散歩中心の生活に切り替えたところ、圧し塞がれていた彼の顔に生気が蘇ってきました。
野性の少年の結末
7か月が経過します。イタール博士の思いどおりに結果がついてきません。ゲラン夫人は「性急過ぎる」と博士の教育に反感を覚えはじめています。博士の報告を受けたピネル教授はヴィクトールを「知的障害児」だと断定します。少しずつ人間社会に馴染んではいるものの、知的な発達が認められないとの見解です。
博士のジレンマが続きます。しかし博士が思う以上にヴィクトールもまた博士と向き合っています。ヴィクトールの心の淵に分け入ろうとする博士に、彼は身ぶり手ぶりの愛情表現を示してきます。博士もそれに気づきながら、なぜ言葉を獲得できないのか、ヴィクトールに不満を覚えています。文明人の驕りに博士の思いが支配されてきています。
ヴィクトールはふたたび家を飛び出します。完全主義の教育者と、心を介して触れ合いを求める生徒との間に確執が芽生えています。無表情だったヴィクトールの目に涙がたまります。勉強の辛さを理解してもらおうと涙する生徒に対して、教師は体罰で屈させる教育を試みます。
家出したヴィクトールは自然の山谷に戯れます。近隣は森に囲まれた潤沢な地であることから、アヴェロンの森の景観にも近く、少年の心を揺さぶります。しかし少年に、森へ棲むことの違和感が芽生えます。仕方なく家へ戻りますが、微細な感情表現を身につけた生徒は、心温かなゲラン夫人に寄り添うことでイエール博士への反感を露わにします。
以上、映画「野性の少年」のあらすじと結末でした。
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