勇気ある追跡の紹介:1969年アメリカ映画。チャールズ・ポーティスの小説『True Grit』を原作として製作された西部劇です。大酒飲みながらも腕は確かな連邦保安官と、父親を殺され復讐を誓う少女の闘いを描きます。主演のジョン・ウェインはこの作品で念願のアカデミー主演男優賞を受賞しました。か
監督:ヘンリー・ハサウェイ 出演者:ジョン・ウェイン(ルーベン・J・”ルースター”・コグバーン)、グレン・キャンベル(ラ・ブーフ)、キム・ダービー(マティ・ロス)、ロバート・デュバル(ラッキー・ネッド・ペッパー)、デニス・ホッパー(ムーン)、ジェフ・コーリー(トム・チェイニー)ほか
映画「勇気ある追跡」ネタバレあらすじ結末と感想
映画「勇気ある追跡」のあらすじをネタバレ解説。予告動画、キャスト紹介、感想、レビューを掲載。ストーリーのラストまで簡単に解説します。
映画「勇気ある追跡」解説
この解説記事には映画「勇気ある追跡」のネタバレが含まれます。あらすじを結末まで解説していますので映画鑑賞前の方は閲覧をご遠慮ください。
勇気ある追跡のネタバレあらすじ:起
1880年代のアメリカ・アーカンソー州。馬の買い付けに出かけたフランク・ロス(ジョン・ピッカード)が雇い人のトム・チェイニー(ジェフ・コーリー)に殺害される事件が発生しました。まだ14歳のフランクの娘マティ(キム・ダービー)はフォートスミスの町に父の遺体を引き取りに行き、逃げたチェイニーへの復讐を誓って腕の立つ者たちを探そうと思い立ちました。マティは保安官(ジョン・ドーセット)に相談してみると、大酒飲みで命知らずな連邦保安官ルーベン・J・“ルースター”コグバーン(ジョン・ウェイン)を紹介されました。マティは使用人に父の遺体を託すと、その足でコグバーンの元に向かいましたが、この日は会えずに宿に引き上げました。マティはそこで若きテキサス・レンジャーのラ・ブーフ(グレン・キャンベル)に声をかけられましたが無視して部屋に戻り、父の形見の拳銃を前に涙を流しました。
勇気ある追跡のネタバレあらすじ:承
翌日、マティはコグバーンと対面、50ドルの報酬でチェイニーへの復讐を依頼しました。コグバーンは、チェイニーが悪党のラッキー・ネッド・ペッパー(ロバート・デュバル)と組んでいると知り、倍額の報酬を要求したことから交渉は決裂しました。しかし、マティはラ・ブーフが別件でチェイニーを追っていると知り、父の馬を売って金を作ると再びコグバーンと交渉、自分が同行するという条件で契約は成立しました。しかし、コグバーンがラ・ブーフと手を組もうとしていることを知ったマティは激怒しますが、結局はコグバーンもマティの強引さに折れ、マティ、コグバーン、ラ・ブーフは行動を共にすることとなりました。
ネッド・ペッパー一味のアジトを突き止めたコグバーンらは早速一味のムーン(デニス・ホッパー)らを捕らえて情報を吐かせようとしましたが、一味は仲間割れを起こし、致命傷を負ったムーンは夜にペッパー一味が現れると告げて息絶えました。
勇気ある追跡のネタバレあらすじ:転
その夜、コグバーンらはペッパー一味が現れる予定の場所で待ち伏せしました。やがて予定通りにペッパー一味がやってきましたが、今度はラ・ブーフの失態により一味を取り逃がしてしまいました。彼らを尋問して情報を得ようとするが、彼らは仲間割れをして死んでしまう。マティが捜索の邪魔になると考えたコグバーンは彼女を知人に預けようとしましたが、マティのどうしてもついて行くという気持ちに変わりはありませんでした。
インディアンの縄張りに入った三人でしたが、偶然にもチェイニーを目撃したマティはペッパー一味に捕まってしまいました。しかし、駆け付けたラ・ブーフがマティを助け出し、コグバーンは馬の手綱を握りながら銃を乱射、ペッパー一味と勇敢に渡り合いました。その光景にマティはいたく感激しました。
勇気ある追跡の結末
ペッパーに馬を撃たれ、その下敷きとなったコグバーンを助けるためにラ・ブーフはペッパーを倒しましたが、その直後にラ・ブーフはチェイニーに襲われて瀕死の重傷を負ってしまいました。マティは父の形見の拳銃でチェイニーを撃とうとしましたが慣れない拳銃さばきに苦戦し、撃った反動で岩穴に転落してしまいました。コグバーンはチェイニーを射殺、ラ・ブーフの助けを借りてマティを岩穴から助け出しましたが、その時既にマティは毒蛇に腕を噛まれてしまっており、ラ・ブーフも命を落としてしまいました。
コグバーンは毒が回り始めたマティを抱え、何頭もの馬を乗りつぶし、時には馬車を奪い、時には徒歩で、必死の思いでマティを医者のところまで連れていきました。その甲斐あってマティは一命を取り留め、弁護士を通じて上積みした報酬を手渡しました。マティはコグバーンに故郷に残ってほしいと頼みましたがコグバーンは断り、マティから友情の証として父の形見の拳銃を受け取ると、馬にまたがっていずこへと旅立っていきました。
“西部劇の大スター、ジョン・ウェインがアカデミー主演男優賞を受賞した記念すべき映画「勇気ある追跡」”
この映画「勇気ある追跡」は、西部劇の大スター、ジョン・ウェインに初のアカデミー主演男優賞をもたらした記念すべき映画です。
「ネバダ・スミス」、「エルダー兄弟」などの娯楽映画のベテラン職人監督のヘンリー・ハサウェイがメガホンを撮ったこの映画は、ジョン・ウェインの数ある西部劇の出演作の中でも異色の西部劇といえると思います。
黒いアイパッチをつけ、粗野で大酒飲みの保安官というキャラクターで、珍しく汚れ役を演じています。
ジョン・ウェインは1959年の「リオ・ブラボー」(ハワード・ホークス監督)以降、それまでの精悍で立派なイメージに執着する事をやめて、実際の自分の実年齢と体型にふさわしい役柄を演じるようになっていたため、この映画のような汚れ役は初めてだと思います。
彼は1964年頃から、癌と闘いながらタフでたくましい西部の男を演じ続けて来ましたが、今回の1969年の「勇気ある追跡」で初の汚れ役に挑戦して、それを見事に演じきり、今まで過少評価されていた演技力を広く認めさせる事になったと思います。
原作はチャールズ・ポーティスが1968年に発表して、米国で大ベストセラーになった「トゥルー・グリット」で、アメリカ現代文学史に残る名作として現在も長く読み継がれている小説です。
14歳の時、父親を悪党に殺された女性の一人称形式の小説で、成長した彼女の視点から振り返られた過去の物語という設定で、少女時代のキム・ダービー演じるマティに復讐の助っ人として雇われるのが、ジョン・ウェイン演じるルースター・コグバーン保安官で、彼は元南軍の無法ゲリラ部隊の一員で銀行強盗も働いた事もあるという、複雑な過去を持つ、クセのある人物像になっています。
ジョン・ウェインが画面に登場すると、彼の映画の中での過去の異常でダーティな体験が、そのまま彼の体全体からにじみ出ているような男を、勝気で向こう見ずな少女マティが助っ人として雇う映画の最初のシーンに我々観る者は映画的なワクワク感と共に、魅力的な映画の世界にスーッと引き込まれてしまいます。
まるで、”少女マティの紡ぎだす夢の世界のような、非現実的で、心躍る展開”になって来ます。
助っ人としてもう一人、テキサス・レンジャーの若者のカントリーミュージックのスターのグレン・キャンベルが演じるラ・ビーフの三人で、父親殺しの犯人のトムの追跡の旅に出るというスリリングな物語が展開していきます。
この映画の白眉はなんといっても、映画ファンの間で伝説的な名場面として語り草になっている、クライマックスの馬上のコグバーンが、口に手綱をくわえ、ライフルと拳銃で応戦しながら、悪党一味の中に突っ込んで行く場面ですが、しかし映画ファンの大向こうをうならせる、その死闘の場面だけではなく、そこに至るまでの三人の追跡の旅の過程も味わい深く、興味深いものがありました。
三人三様に向こう意気が強く、最初は互いに罵り合っていましたが、旅を続け、共に闘ううちに、お互いの心を開き、やがて本当の親子のような関係になるというエピソードには、ヘンリー・ハサウェイ監督、なかなかやるなという印象を強く持ちました。
原作の小説を先に読んでから、この映画化作品を観ましたが、原作の小説がそうであるように、この映画のこのようなデリケートな味わいのエピソードというものは、結局、少女マティの見た夢のような印象を与えます。
原作者のチャールズ・ポーティスも、父親を亡くした少女マティの”無意識的な願望が生んだファンタジー”として構想されていたような気がしてなりません。
そう言えば、後年の2010年にこの映画のリメイク作品である「トゥルー・グリット」(ジョエル&イーサン・コーエン監督)も一種のファンタジーである事を強調して映画化されていましたが、イーサン・コーエン監督も「トゥルー・グリット」の製作意図として、「現代人には非常にエキゾチックに感じられる世界に、14歳の少女が入り込んでゆくという点で”不思議の国のアリス”のような作品でもある」といみじくも語っていたのが、この事を象徴的に言い表わしていると思います。