噂の女の紹介:1954年日本映画。溝口健二が、数々の名作を共に作った田中絹代を主演に迎えて放った現代劇。京都の色街を舞台に遊郭の女将とその娘の間の葛藤を、そこに働く女たちの生死を交えて描き出す。
監督:溝口健二 出演者:田中絹代(初子)、久我美子(雪子)、大谷友右衛門(的場)、進藤英太郎(原田)、ほか
映画「噂の女」ネタバレあらすじ結末と感想
映画「噂の女」のあらすじをネタバレ解説。予告動画、キャスト紹介、感想、レビューを掲載。ストーリーのラストまで簡単に解説します。
映画「噂の女」解説
この解説記事には映画「噂の女」のネタバレが含まれます。あらすじを結末まで解説していますので映画鑑賞前の方は閲覧をご遠慮ください。
噂の女のネタバレあらすじ:起・帰ってきた娘
京都島原の井筒屋の前に一台のタクシーが停まる。降りたのは女将初子とその一人娘、雪子だった。雪子は東京でピアノの勉強を続けていたが睡眠薬で自殺を図ったため、初子が連れ戻したのだった。きらびやかな着物に身をつつむものの、夜ごと客と寝るのが仕事であり、皆貧しさゆえにこの仕事を選んだ井筒屋の太夫たちの中には、自分たちを搾取して得た金で何不自由なく暮らし教育を受ける雪子へ反感をもつ者もあった。初子は遊郭の組合の診療所の若い医師である的場を呼び、雪子を診察させるが、的場が初子の愛人であることは娘に気づかれないように頼む。親の言いなりに結婚し娘を生んで未亡人になっていた初子にとってこれが生れて初めての恋だった。その夜遅く、太夫の一人薄雲が体調を崩して仕事先から戻ってくる。的場は胃痙攣と診察して手当をする。その後で彼と二人切りになった雪子は、結婚を約束した相手が雪子の母の仕事を知って破談にしたことが自殺未遂の原因であることを話す。また、日頃娼妓たちを診察している的場の話を聞いて彼女たちに同情的になった雪子は翌朝、朝食に降りてこない薄雲のために、自分のための膳をもっていき、牛乳を飲ませゆで卵を食べさせる。その親切に感心した太夫たちと仲良くなっていく。
噂の女のネタバレあらすじ:承・母の夢
かねてから的場の開業を世話しようと思っていた初子は、鼓の先生の紹介する家を的場と見に行く。素晴らしい場所だが、250万円するという。でも、的場の妻になってこんな土地で暮らすことを夢見る初子だった。初子は自己資金で150万は出せる。残りの100万円の借金を組合役員の原田に相談する。井筒屋を抵当に入れて借りようという考えである。しかし、昔から初子のことが好きだった原田は、自分と結婚すれば話は簡単だと提案する。一方、薄雲は入院し、胃がんだったことがわかり、結局亡くなる。彼女が毎月5000円を仕送りしていた妹は、病気の父を抱えて困っており、自分も太夫にしてほしいと頼むが断られる。
噂の女のネタバレあらすじ:転・母への同情
的場は何度か井筒屋を訪れるうちに雪子と親しくなっていった。鼓の先生からチケット購入を頼まれて初子は、井筒屋の常連客や的場、そして雪子を連れて能の公演を見に行く。的場と雪子が桟敷を抜け出しているのに気づいた初子はロビーに出て、二人の会話を立ち聞きする。雪子は東京に出てピアノの勉強を再開し、的場も彼女と共に東京に出て再び勉強するという計画を語っているのだった。幕間の後の、鼓の先生のお勧めの演目は、老婆の恋をからかう内容。雪子を含めて観客は笑っているが、初子はいたたまれなくなってロビーに出てしまう。やはり能を見に来ていた原田も彼女を追って出てくる。初子は例の100万円をすぐに用意してくれるように原田に依頼する。原田は初子が金を必要とする理由は知っているが、直ちに金をかき集める。初子は井筒屋で100万円を的場に渡し、娘と別れさせようとする。しかし、初子の自分への真剣な気持ちに鈍感な的場は、雪子と自分の結婚によって初子も幸せになれると話す。二人の会話を聞いてついに雪子も的場と母の関係を知る。東京で恋に破れた自分と母が今同じ立場にあることに気づき、雪子は身勝手な的場と別れることにする。しかし、的場が去った後、初子はめまいを起こして倒れる。
噂の女の結末:若女将
寝込んでしまった初子に代わり、雪子は臨時に女将として井筒屋をてきぱきと切り回し、頼もしい女将ぶりを示す。初子はお腹に雪子がいた時も働いていたことを話す。雪子は生まれる前から井筒屋の帳場にいたのだった。しかし、薄雲の妹が来て太夫にしてくれと再び頼み、雪子は彼女を待たせておく。仕事に出かける太夫たちは玄関で薄雲の妹に会って、自分たちのような不幸な女がいなくなるのはいつのことだろうかと考える。
「噂の女」感想・レビュー
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「このコロナ禍で素人女性が風俗に流れてくるのが楽しみだ」とラジオで言った岡村某みたいなクXみたいな男は今もいます。
しかし、そうしなければ生活できない女性もいます。立川の風俗嬢が殺されて、実名まで出た事件では、二重の殺人だと言われました。溝口は「夜の女たち」で戦後すぐこれらの問題を提起していますね。この結末はいろいろと考えさせるものがありました。
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仕事に出かける太夫たちは玄関で薄雲の妹に会って、自分たちのような不幸な女がいなくなるのはいつのことだろうかと考える。
作者の心=登場人物の心=映画を観る人の心
であるならば、『と考える』のは、あなたです.
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男女平等
娘
娘は学校を出て、もう自分の力で生きて行ける人間だった.
彼女は、母親の仕事を、女が身体を売ったお金で生きて行くことを嫌っていた.
少し言い方を変えれば、身体を売ったお金に頼って生きて行くことを嫌っていた、とも言える.
母親
母親は、店の女の子たちに慕われ、頼りにされていた.
少し言い方を変えると、身体を売らなければ生きて行けない女性達から、慕われ頼りにされていた.
娘が考えるように、自分の力で生きて行くことが出来る人間が、身体を売って稼いだお金に頼って生きて行くのは、間違っている.
けれども、身体を売らなければ生きて行くことが出来ない女性たちから、慕われ頼りにされている母親の仕事は、間違っているのだろうか?.娘は、母親の後を継ぐことにした.
(母親の仕事に対する理解であって、同情ではありません)
溝口健二らしい、見事な作品です.
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売春禁止法が声高に叫ばれていた頃の作品です.
『売春婦は日本の恥だ』
『売春宿を廃止しろ』
と、皆は言うけれど、
身体を売らなければ生きて行くことが出来ない女性が存在する世の中では、母親の仕事は必要な仕事だった.....