ジョゼと虎と魚たちの紹介:2003年日本映画。親元を離れて一人暮らしをしながら大学に通う恒夫はアルバイトに女友達にと、大学生活を謳歌している。そんな彼がふとしたことで脚が不自由なジョゼに出会い、彼女と祖母の2人暮らしの生活に関わっていく。ジョゼと恒夫は惹かれ合っていくが、行く手はそうなだらかな道ではなかった。ほろ苦い青春ラブストーリー。
監督:犬童一心 出演:妻夫木聡(恒夫)、池脇千鶴(ジョゼ / くみ子)、新井浩文(幸治)、上野樹里(香苗)、江口徳子(ノリコ)、新屋英子(ジョゼの祖母)、藤沢大悟(隆司)、陰山泰(麻雀屋マスター)、板尾創路(現場主任)、ほか
映画「ジョゼと虎と魚たち」ネタバレあらすじ結末と感想
映画「ジョゼと虎と魚たち」のあらすじをネタバレ解説。予告動画、キャスト紹介、感想、レビューを掲載。ストーリーのラストまで簡単に解説します。
映画「ジョゼと虎と魚たち」解説
この解説記事には映画「ジョゼと虎と魚たち」のネタバレが含まれます。あらすじを結末まで解説していますので映画鑑賞前の方は閲覧をご遠慮ください。
ジョゼと虎と魚たちのネタバレあらすじ:起
大学生の恒夫(妻夫木聡)は雀荘でアルバイトをしている。そこの客たちの間で話題になっているのが近所で見かける乳母車を押したお婆さん。婆さんは運び屋で、乳母車には大金や麻薬が積まれているんじゃないか、という噂もある。雀荘のオーナー(陰山泰)の愛犬を早朝に散歩させに出た恒夫は、歩いていると坂道を転がってきた乳母車に出会う。乳母車はガードレールにぶつかって止まった。近づくと、毛布の下から粗い息が聞こえる。恒夫がそっと毛布をめくると、若い女性が恒夫を睨んでいる。包丁で恒夫を攻撃しようとしたが、恒夫は道路に伏せて無傷だった。そこにお婆さんがやっとのことで孫を「くみ子」と呼びながら追いついてきて、恒夫は2人を家まで送る。
それは雀荘の客の一人が、乳母車の中身見たさにお婆さんを襲ったことで起きた事故だったことがわかる。祖母(新屋英子)が朝食を食べて行かないか?と恒夫を誘い、恒夫は躊躇するが、「いやか?」と言われて、断れず家に上がる。貧しい暮らしながら、ごはん、味噌汁、ぬか漬け、卵焼きの朝食を食べ進めるごとに、そのおいしさに顔がほころぶ恒夫だった。卵焼きを作るのに、台所の台に乗っていたくみ子(池脇千鶴)は、作り終わると台から飛び降り、床を這いながら自分の部屋に行った。恒夫が「だし巻き、おいしいです」と話しかけると、「あたりまえだ、私がつくったんだから」と言った。くみ子の部屋は本であふれており、彼女はとても物知りだった。本は祖母がごみ捨て場から拾ってきたものばかりだった。
ジョゼと虎と魚たちのネタバレあらすじ:承
大学のカフェテリアで香苗(上野樹里)という同級生が恒夫に就職のことなどを相談している。香苗は恒夫に気があるのだった。恒夫には割り切った身体だけの関係の女友達ノリコ(江口徳子)がいた。香苗に就職の相談をされたことをノリコに話すと、香苗は恒夫に気があるんだろう、お嬢様でかわいいし乳もでかいし、付き合っちゃえば、とあっさりのノリコだった。恒夫と香苗はよくしゃべるようになり、恒夫は福祉を学んでいる香苗にくみ子のことを話す。家の中のいろんなところから床にダイブするという話もする。
恒夫は再びくみ子の家を訪ねてみた。すると、くみ子は顔に怪我をしていた。また誰かに襲われたのだと言う。恒夫はたびたび彼女と祖母の家を訪れるようになる。近くで一人暮らしをする恒夫の弟から、福岡の実家から送られてきた野菜や明太子を受け取り、それもくみ子の家に持っていき一緒に食べた。くみ子に名前を聞くと、「ジョゼ」だと言う。祖母からはくみ子と呼ばれているが、恒夫は彼女をジョゼと呼ぶようになる。
恒夫は乳母車にスケートボードを取り付け、祖母が昼寝をしていたときに、ジョゼを外に連れ出した。祖母は障害のある孫の存在を隠しているため、ジョゼの散歩は早朝と決まっていた。スケートボードを蹴りながら乳母車を押すことで、自転車に負けないくらいのスピードが出た。その散歩の途中で、自動車整備工場に立ち寄り、ジョゼは幸治(新井浩文)というガラの悪い幼馴染に会いに行き、恒夫と幸治の面識ができる。家に帰ると昼間にジョゼを連れ出したことがバレて、祖母は怒りをあらわにし、帰ってくれ、と言う。
ジョゼと虎と魚たちのネタバレあらすじ:転
ホームセンターで買い物をしていた恒夫は、ばったり幸治と出会い、ジョゼと幸治が同じ施設で育ったことを聞く。恒夫は市に申請すれば無料で障害者が暮らしやすいように工事をしてくれることを香苗に聞き、お婆さんに伝えに行く。そんなうまい話があるわけがないと取り合わないが、恒夫が申請に行き、工事業者がジョゼの家に入った。工事を請け負う会社の主任(板尾創路)に「大学生なのにボランティア精神にあふれて偉いな」と褒められた。そこに香苗も将来の仕事のために見学させてください、と無神経にやってくる。恒夫はジョゼを気にするが、ジョゼは傷つき、祖母は恒夫にもう来るなと言う。
ジョゼたちとの関わりがなくなり、香苗と付き合い始め、就職活動では例の工事業者を訪ねたとき、ジョゼの祖母が突然亡くなったことを知り、慌ててジョゼを訪ねる。ジョゼは最初「帰れ」と言うが、本当に帰ろうとする恒夫に泣きながらしがみつき、ずっとここにおって、と頼む。恒夫もうなずき、2人は愛し合う。動物園で虎を見る2人。ジョゼは好きな男の人が出来たら、世の中で一番怖いものを一緒に見に行きたかったと言う。恒夫がジョゼの家に引っ越し、2人の生活が始まる。
ジョゼと虎と魚たちの結末
近所の女の子が乳母車を押してジョゼを散歩させている。そこに香苗が現れ、恒夫を奪ったあなたの武器が羨ましいと言って、ジョゼの顔を叩く。自分の顔も差し出し、ジョゼも香苗を叩く。
一年後、恒夫は実家である法事にジョゼを連れて行こうと思っている。弟も後押ししてくれる。就職した恒夫は営業で上司と街を歩いていると、タバコの宣伝ガールをしている香苗にばったり会う。香苗がジョゼを憎らしく思い、殴ったことを打ち明ける。そして殴ったらどうでもよくなった、と。ジョゼが家に1人でいるときに幸治が車を貸しに来る。実家の法事に行くための車だ。親に会うということは結婚するんだろう、と言われるが、ジョゼはそんなことあるわけがないだろう、と言う。
翌朝、暴走族風の車で旅恒夫旅にとジョゼは旅に出る。生まれて初めての旅行を楽しみにしていたジョゼ。特に水族館を楽しみにしていたが、水族館が閉まっていて苛立つジョゼに手を焼いた恒夫は、実家に連れて行くことを躊躇しはじめる。車を降りると恒夫におんぶされないと移動できない。車いすを買おうと言うが、ジョゼはいらないと言う。ジョゼがトイレに入っている間、実家にいる弟に、仕事で法事に行けなくなったと電話をした。弟は、ひるんだのか、と訊く。その電話が聞こえていたジョゼは、落胆を払拭するように海に行きたいと言う。ジョゼをおぶって浜辺で波と戯れながら貝を拾う恒夫。その夜、海と魚をモチーフにしたホテルに泊まる二人。ジョゼは恒夫がいつかいなくなることを予見していた。
その後、数か月いっしょに暮らした後、恒夫はジョゼの家を出ていった。別れの理由は「僕が逃げた」と恒夫のモノローグ。家を出た直後に香苗と待ち合わせ、並んで歩きながら、嗚咽して泣き始めた恒夫。その後、電動車いすを手に入れ、さっそうと道を走り、淡々としたたかに日常を送っている少し寂しそうなジョゼの姿で物語は締めくくられるのだった。
以上、映画「ジョゼと虎と魚たち」のあらすじと結末でした。
ジョゼと虎と魚たちのレビュー・考察
この映画は、サガンの「一年ののち」という小説をモチーフにしており、ジョゼという名前もそこから取られているなど、強く影響が感じられる。詩的な台詞回しや、俳優たちの微妙な表情による演技、BGM等の演出が重なり作り出す雰囲気は素晴らしく。あったかいようで、どこか寂しげな空気が、初めから終わりまで淡々と続いていく作品である。
障害を持っている女性と、そんな女性が好きになった男性。障害があるにもかかわらずお互いのことを愛することになった二人の心と、愛しているからこそ出来る決心などがすごく心に響く映画でした。そして家に引きこもって生きてきたジョゼが外に出て、外の世界に興味を持ち、家から世界に出てくる過程もなんか美しくて、感動的でした。少し昔の映画だけど、綺麗な映像と静かで落ち着いている雰囲気の癒される映画です。
体が不自由な少女との恋物語ですが、主演である池脇千鶴の演技がとても素晴らしい。体の不自由さに関係なく、ひとりの大人の女性として自立していくさまは、悲しくもあり切なくもあるが実に感動的です。相手役の妻夫木聡もどこか甘く大人になり切れていない青年を好演しています。これは日本映画史に残る名作だと思います。