ナインスゲートの紹介:1999年フランス,スペイン映画。スペインの人気作家アルトゥーロ・ペレス=レベルテの小説「呪のデュマ倶楽部」をアレンジして映像化したもの。ポランスキーとしては名作「ローズマリーの赤ちゃん」以来のオカルティックな題材となった。
監督:ロマン・ポランスキー 出演:ジョニー・デップ(ディーン・コルソ)、フランク・ランジェラ(ボリス・バルカン)、ウィリー・ホルト(アンドリュー・テルファー)、レナ・オリン(リアナ・テルファー)、ほか
映画「ナインスゲート」ネタバレあらすじ結末と感想
映画「ナインスゲート」のあらすじをネタバレ解説。予告動画、キャスト紹介、感想、レビューを掲載。ストーリーのラストまで簡単に解説します。
ナインスゲートの予告編 動画
映画「ナインスゲート」解説
この解説記事には映画「ナインスゲート」のネタバレが含まれます。あらすじを結末まで解説していますので映画鑑賞前の方は閲覧をご遠慮ください。
ナインスゲートのネタバレあらすじ:起
邸宅の中らしい豪華な書斎。手紙を書き終わった老人が立ち上がると、そのままシャンデリアにかけた縄で首を吊って自殺。すぐに場所が変わり、現在のニューヨーク・マンハッタンへ。稀覯本の悪徳ディーラーであるコルソは今日も古書の山を買い叩き、儲けを得ます。後日、金持ちの古書収集家バルカンから声をかけられたコルソ。書庫を見せられた後、ある仕事を持ちかけられます。それはバルカンが手に入れた稀覯本「影の王国への九つの扉」についてでした。この本は悪魔自身が書いたものとされ、悪魔を呼び出す方法が記されている、と言われています。世界に3冊しかなく、バルカン自身は自分が手に入れたものがオリジナルだと信じていました。しかし疑問も残るので、残り2冊についてもどれがオリジナルでどれがコピーなのか調べた上で、「もし本物があったら、どんな方法を使ってでもいいから手に入れてほしい」というのです。多額の報酬をもらえると知ったコルソは、ほくほく顔で引き受けます。
ナインスゲートのネタバレあらすじ:承
バルカンの所有本を借り受け、まずその本の前の所有者の家へ。対応に出たのはその夫人リアナで、驚いたことにその夫の老人は首吊り自殺を遂げていました。コルソがアパートへ戻ると、部屋が荒らされており、危険を覚えた彼は、知り合いの古書店主にバルカンの本を預けます。やがてリアナがコルソの部屋を訪問。色仕掛けでバルカンの所有本を取り返そうとします。不安を覚えたコルソは古書店主のもとへ。店主は殺されていました。
ナインスゲートのネタバレあらすじ:転
陰謀めいた背景があると感じたコルソはスペインへ。そこで製本家で古書に詳しい双子のセニサ兄弟にバルカンの本を調べてもらった彼は、挿絵の一部に”LCF”(ルシファー)という署名があることを知ります。コルソは次に別の「影の王国への九つの扉」の持ち主ファーガスに会い、本を見せてもらいますが、バルカンの本とは別の場所に”LCF”の印がついていました。翌日、コルソが再び彼に会いにゆくと、ファーガスは殺害され、その”LCF”の印のページは切り取られています。どうやら犯人の目的は本そのものではなく、”LCF”のある挿絵らしいのです。
ナインスゲートの結末
コルソは今度はドイツへ飛び、残りの本の持ち主ケスラー男爵夫人に会いますが、結局は彼女も殺され、挿絵は盗まれてしまいます。やがてその犯人はリアナであることが分かり、彼女はバルカンの本の挿絵を手に入れます。その後を追ったコルソは、ある城でリアナが悪魔を呼び出す儀式を行おうとするところを目撃。そこに突然バルカンが現れ、リアナを殺した上で、自分自身がその儀式を続行します。しかし、バルカンの行為は失敗に終わり、彼は炎に焼かれてしまうのです。その後、これまで度々コルソを助けてきた謎の女が「バルカンが失敗したのは挿絵が偽物だったからだ」とコルソに告げます。そして彼に正しい挿絵の場所を教唆。コルソはその挿絵を持つと再び儀式を行うために城へ向かいます。
「ナインスゲート」感想・レビュー
-
「ナインスゲート」を語る上でどうしても外せないのが、ロマン・ポランスキーの「出自」と「アイデンティティ」についてである。ロマン・ポランスキーはユダヤ系フランス人であり、ポーランドに独自の「コネクション」と「アイデンティティ」がある映画界の巨匠である。映画監督としてはこれまでに、89年の生涯と60年にも及ぶその映画人生において「全29作品」を撮った。そして彼はポーランドの映画俳優として自らのキャリアをスタートさせている。更には非凡なパフォーマーとして舞台に立つこともあった。舞台化されたカフカの「変身」(2004年のパリ公演)では、或る日突然に「毒虫」に変身してしまった主人公(グレゴール・ザムザ)の苦悩を熱演して話題をさらっている。「変身」は近代における「不条理文学」の傑作の一つであるが、原作者のカフカがユダヤ人であることや、「不条理」というテーマがポランスキーと通底しているのである。私はかつて、スーザン・ターベンフェルド(当時は大学生でアマチュアの画家)やピーター・フィッシャー(パラマウント映画のスタッフ)といった、米国系のユダヤ人と一緒に仕事をしたことがある。彼等彼女らと接してみて解ったことがある。それは、ユダヤ人がどれだけ陽気に振る舞って見せても、何処かしら仄暗い「陰翳」を漂わせていて、「寂寞とした孤独感」を滲ませていたことである。ユダヤ人は西洋人でもなければ東洋人でもない。彼らのルーツは荒涼たる砂漠を彷徨う「流浪の民」であり、人種的にも文化的にも「孤立無援」の「孤高の存在」なのである。きっとユダヤ人たちの「DNA」には、或る種の「違和感」や「疎外感」なども刻まれているに違いない。多くの「事故死」や「殺人事件」を誘発し?呪われた映画として、つとに有名な「ローズマリーの赤ちゃん」もまた、「疎外感」や「孤立化」と言ったテーマがその底辺に流れていた。これらの作品にはポランスキーの、ユダヤ人として決して逃れられない「宿命」や「因果」を想起させられるのである。 さて「ナインスゲート」であるが、この作品も「ローズマリーの赤ちゃん」と同様に欧米における「悪魔信仰」を取り上げている。我々東洋人の多くが多神教の文化圏に安住しているので、西欧の一神教で言うところの「善と悪の二元論」は馴染が薄い。だから「悪魔」とか「魔物」が「絶対悪」であると言うような概念がそもそもないのである。多神教は精霊信仰でありペイガニズムとも通底しているので、魔物も精霊の一種と看做していて信仰の対象でもあるのだ。なので秘密結社だの悪魔信仰などと言っても日本人には余りリアリティがないのである。また米国の大学の心理実験では、欧米人は「幽霊」よりも「悪魔」を異常に怖れるという結果が報告されている。と言うことは、「ナインスゲート」は日本よりも欧米の方が遥かに評価が高いということになる。日常に潜んでいる「一抹の狂気と異常性」は、突如として不条理なかたちで牙を剥いて襲い掛かってくる。「ざわざわ」と闇に蠢く魔物の正体こそがこれらの「不条理」な現象の数々なのである。この映画の佳境では古城での乱交や様々な儀式を匂わすエロティックな演出がなされている。そして秘密結社絡みの「全裸での乱交パーティー」と言えば、キューブリックの遺作となった「アイズ ワイド シャット」が真っ先に思い浮かぶ。乱交ではないが全裸での「性交儀式」と言えば北欧の「精霊信仰」や「ペイガニズム」を描いた傑作映画の「ミッドサマー」が圧巻であった。「ナインスゲート」で悪魔信仰に身を投じた、ボリス・バルカン役のフランク・ランジェラが重厚で圧倒的な存在感を放っていた。そしてこの作品には二人の「魔性の女」が登場して、大人の「シネマギーク」の欲求を大いに満たしてくれるのである。そのひとりがポランスキーの細君である「謎の女」ことエマニュエル・セ二エであり、自殺したアンドリューの未亡人役を見事に演じたレナ・オリンである。稀覯本(秘宝)の探偵を演じた主役のジョニー・デップも素晴らしいが、この映画の脇役(或いは準主役)こそが最高であった。そういう意味において「ナインスゲート」は、「二重三重に」秀でた「稀代の傑作映画」であると思う。まだまだ語り尽くせないがここまでに。
見終わった後、デジャヴ感があったけどわかった
「インディ・ジョーンズ最後の聖戦」にお話の構成がなんとなく似てるんだわ
コルソがインディ、バルカンがドノヴァンに置き換えるとわかる