消えた声が、その名を呼ぶの紹介:2014年ドイツ,フランス,イタリア,ロシア,ポーランド,トルコ映画。原題は「The Cut」で、第71回ヴェネツィア国際映画祭でヤング審査員賞を受賞した。オスマン帝国による、1915年のアルメニア人大虐殺。奇跡的に生き残った若き父親が、離ればなれになった双子の娘達を探し求める。8年という歳月をかけ、故郷マルディンからレバノン、キューバ、アメリカへと旅する父親と、行く先々で出会うさまざまな人間達とのふれあいをドラマティックに描く歴史大作。父親役を熱演するのは、黒沢清監督の「ダゲレオタイプの女」(2016)で主演を務めたタハール・ラヒム。
監督:ファティ・アキン 出演者:タハール・ラヒム(ナザレット・マヌギアン)、ヒンディー・ザーラ(ラケル)、ララ・ヘラー(ルシネ)、マクラム・J・フーリ(オマル・ナスレディン)、シモン・アブカリアン(クリコル)、トリーヌ・ディルホム(孤児院の院長)、アルシネ・カンジアン(ナカシアン夫人)ほか
映画「消えた声が、その名を呼ぶ」ネタバレあらすじ結末と感想
映画「消えた声が、その名を呼ぶ」のあらすじをネタバレ解説。予告動画、キャスト紹介、感想、レビューを掲載。ストーリーのラストまで簡単に解説します。
消えた声が、その名を呼ぶの予告編 動画
映画「消えた声が、その名を呼ぶ」解説
この解説記事には映画「消えた声が、その名を呼ぶ」のネタバレが含まれます。あらすじを結末まで解説していますので映画鑑賞前の方は閲覧をご遠慮ください。
消えた声が、その名を呼ぶのネタバレあらすじ:起
第一次世界大戦下の1915年、オスマン帝国の都市マルディンに暮らす、アルメニア人の鍛冶職人ナザレット。裕福ではないけれど、妻ラケルと双子の娘ルシネとアルシネ、そして両親や兄夫婦も一緒に平穏な生活を送っていました。ある晩、憲兵隊が家に押しかけてナザレットを連れ去ります。大勢のアルメニア人男性が、砂漠での強制労働に送られていたのです。食事もろくに与えられず、朝から晩まで働き続ける日々。政府はイスラム教に改宗すれば解放するという条件を提示しますが、敬虔なキリスト教信者のナザレットは改宗を拒否します。ある時、憲兵隊が労働者達を岩壁に並ばせ、剣で喉を切り裂き処刑していきます。ただ1人、ナザレットだけが生き残ります。ナザレットに剣を突き立てた男、メフメトが怖気づいて断念したのです。それでも喉の傷は深く、ナザレットは声を失くしていました。メフメトはナザレットを介抱し、一緒に逃亡を図ります。砂漠をさまようナザレットとメフメトは、脱走兵グループに助けられます。しかし家族の安否が気になるナザレットは、メフメト達と別れてマルディンの町へ戻ることにします。メフメトはナザレットを気遣い、自分のブーツを渡してやります。
消えた声が、その名を呼ぶのネタバレあらすじ:承
マルディンの町は遠く、砂漠をひたすら歩き続けるナザレットは、アルメニア人達の避難キャンプで義姉と再会を果たします。瀕死の義姉は、家族全員が死んでしまったと告げ、ナザレットは大きなショックを受けます。苦しむ義姉は「私を楽にしてほしい」と懇願し、ナザレットは悩み抜いた末、彼女の首に手をかけます。義姉の遺体を残し、とぼとぼと歩き出したナザレット。義姉は、「神は慈悲深くなんかない」と言っていました。ナザレットは手首にある十字の刺青を見つめ、石でこすりつけて傷つけます。自暴自棄のまま貨物列車に飛び乗り、ひたすら砂漠をさまよっていたナザレットをオマルという老人が助けます。オマルはアレッポで石鹸工場を経営しており、ナザレットを住み込み従業員として受け入れます。1918年。イギリスの勝利で、オスマン帝国は終わりを告げます。人々に笑顔が戻り、町で生まれて初めて“映画”というものを見たナザレット。チャップリンの「キッド」に大笑いしますが、娘達のことを思い出すと涙をこぼします。
消えた声が、その名を呼ぶのネタバレあらすじ:転
路上で偶然に再会した弟子のレヴォンから、ナザレットの娘達が生きていて、砂漠のどこかにいるという情報がもたらされます。希望を抱いたナザレットは、尋ね人告知や聞き込みで情報を集めます。1922年。どこかの孤児院にいるとの噂を聞き、ナザレットは孤児院を渡り歩きます。ある孤児院で娘達の写真を発見しますが、1年前にキューバへ行ったと言われます。さらにルシネが、骨折が原因で足をひきずっていることも聞かされました。諦めきれないナザレットは、甲板掃除の仕事をしながら船でキューバへ渡ります。孤児院で聞いていた住所は床屋で、主人のハゴブによると、娘達は半年前にミネアポリスの工場へ行ったとのこと。失意にくれるナザレットを気の毒に思ったハゴブ。家に同居させ、ナザレットがアメリカ行きの密輸ボートに乗る資金作りに手を貸します。アメリカへ発つ日、ボートに乗り込むナザレットを、ハゴブが父親のような目で見送ります。ボートはフロリダに到着。一軒の家に迷い込んだナザレットは、住人の男達に追われて乱闘になり、命からがら逃げ出します。汽車に乗り込み、辿り着いたミネアポリスでハゴブから聞いた工場を訪ねますが、娘達のことを知っている人間は1人もいませんでした。
消えた声が、その名を呼ぶの結末
1923年、ノースダコタ。娘達の手がかりが途絶えたナザレットは、鉄道労働者として働いていました。しかし同僚の男達とトラブルになり、アルメニア人労働者のコミュニティに身を寄せます。娘達のことを聞いたアルメニア人達は、30マイル先にアルメニア人の町があると言います。夜が明け、一縷の望みをかけてナザレットは歩き出します。そこはラソという寂しげな町で、ひと気はほとんどありません。とぼとぼと歩き続けるナザレットは、1人の若い女性の後ろ姿を目にします。女性はかすかに足を引きずっているように見えます。ナザレットは声にならない声で「ルシネ」とつぶやきます。女性がゆっくりと振り向きます。やはりルシネでした。2人はかたく抱き合います。ナザレットの「アルシネは?」という問いかけに、ルシネは悲しげに目を伏せます。去年のクリスマス、アルシネは感染症がもとで亡くなっていました。ナザレットとルシネは、アルシネの墓の前に佇みます。娘の死を悲しむナザレットの手を握るルシネ。2人は肩を寄せ合い歩き出します。
回教徒のトルコ人とキリスト教のアルメニア人の対立、前者による後者の虐殺の歴史(殊に第一次大戦後の)を漠然と知っていたが、この映画で理解が深まった。祖国を失い世界中に散らばったアルメニア人の連帯の深さも。