座頭市物語の紹介:1962年日本映画。人気シリーズの記念すべき第1作目。それまで不遇だった勝新太郎が映画スターとしての地位を確立。生涯を通じての代表作となった。子母沢寛の短編をもとに脚本家の犬塚稔がキャラクターをふくらませ、ほとんどオリジナルのような脚本を書き上げている。
監督:三隅研次 出演:勝新太郎(座頭市)、天知茂(平手造酒)、万里昌代(おたね)、柳永二郎(飯岡助五郎)、島田竜三(笹川繁造)
映画「座頭市物語」ネタバレあらすじ結末と感想
映画「座頭市物語」のあらすじをネタバレ解説。予告動画、キャスト紹介、感想、レビューを掲載。ストーリーのラストまで簡単に解説します。
映画「座頭市物語」解説
この解説記事には映画「座頭市物語」のネタバレが含まれます。あらすじを結末まで解説していますので映画鑑賞前の方は閲覧をご遠慮ください。
座頭市物語のネタバレあらすじ:起
荷馬車に揺られて、ある男が大きな商家前までやってきます。彼の名前は市。3年前まで按摩を生業としていましたが、その傍ら居合斬りの修行も積み、なまじな使い手では太刀打ちできないほどの腕前になっていました。いまはその技倆を頼りに、やくざとして関八州を足の向くままに彷徨っています。偶々日光への旅で顔見知りになった助五郎親分のシマ・飯岡まで来たため、しばらく彼の家に草鞋を脱ごうというのです。助五郎はちょうど勢力を増してきた笹川の繁造との縄張り争いの最中です。笹川側では、飯岡の鉄火場へ入り込んで目ぼしい客を奪ってしまうという行為を繰り返していました。市はやって来るなりイカサマ博打で助五郎の子分たちから金子を巻き上げ、彼らを怒らせます。しかし帰ってきた親分が出入り間近と見て市を歓迎するため、子分たちもしぶしぶ客分として丁寧に対応します。
座頭市物語のネタバレあらすじ:承
その中で世話役に命じられたのが蓼吉でした。彼の妹おたねは蓼吉の兄貴分である清助に嫁いでいたのですが、その野卑な性格に愛想をつかして実家に戻っていました。おまけに兄が宮大工の娘おさきと懇ろになり、腹を大きくしてしまったことに怒りを隠せません。市はその事情を知り、おたねが父親と営むおでんの店を訪ねたりします。その後も市は何かとおたねを気にかけるため、彼女の方でも市を慕いはじめます。いよいよ助五郎と繁造の仲は険悪となり、出入りとなるのも時間の問題です。市は自分が利用されることもお見通しで、助五郎からうまく前金3両を巻き上げた上、毎日呑気に魚釣りに出かけます。そこで知り合ったのが平手造酒という労咳を患う浪人。実は彼は繁造に雇われており、出入りになれば市とは敵味方として戦わなければならない立場です。しかし、彼らはそんな境遇も忘れて一緒に酒を呑み、剣の達人同士、心を通わせます。
座頭市物語のネタバレあらすじ:転
その酒の場にやってきた繁造とその子分たちは出入りの話をし、そのまま市を送り出します。ところが彼が助五郎の厄介になっていると聞いて狼狽。子分が市のあとを追って始末しようとするのですが、逆に仕込みのドスで斬られて大けがを負ってしまいます。これの仕返しとして助五郎の子分の1人が殺され、飯岡側が怒り立ったところに、平手造酒が血を吐いて倒れたという報が届きます。これを機に一気に笹岡勢を叩き潰そうと気勢を上げた助五郎。市に加勢を頼みますが、彼はのらりくらりと屁理屈をこね、うまく出入りへの手助けから逃れます。助五郎たちは身支度すると、船に乗って笹川のシマへ。寝付いていた平手ですが、出入りが始まると聞き、てっきり市がそこに加勢するものと勘違いします。そして繁造が鉄砲で市を撃ち殺す計略だと知り、それをやめさせる代わりに病身をおして出入りに参加。平手は飯岡勢を切りまくり、おかげで笹岡勢が優位に。
座頭市物語の結末
一方、平手を見舞いに行った市はその事情を知り、自らも出入りの場所へ。2人は人払いすると橋の上へゆき、一対一の決闘を行います。数度太刀を合わせた後、市のドスが平手の腹に。常々彼に斬られることを望んでいた平手は満足して死んでいきます。これによって士気の高まった飯岡側は劣勢を挽回。寄ってたかって繁造を殺し、勝利を得るのです。飯岡も大盤石となり、助五郎はご機嫌。蓼吉も代貸になる予定です。しかし、酒を振る舞おうとする助五郎に対し、市は樽を斬り、その増上慢に牙をむきます。市は寺へゆくと、平手の供養の金とドスを小坊主に渡し、町を去ろうとします。その様子を見ていた蓼吉はドスを持たない市を侮って彼を殺そうとするのですが、市は彼に打ち身を食らわし、田んぼへ落とします。水をかぶった蓼吉はそのまま溺死。一緒に旅に出ようと待っているおたねを避けて山道を登ると、市はそのまま去っていきます。
「座頭市物語」感想・レビュー
-
この映画「座頭市物語」は、勝新太郎の人気を決定づけた大ロング・シリーズで、1962年から1989年までの間に、合計26本製作され、この作品が記念すべき第1作目の作品だ。
勝新太郎は初めの頃は、大映で白塗りの二枚目の時代劇スターとして売り出されたが、同時期にデビューした市川雷蔵の端正で、きちんとした芸風にかなわず、差を付けられるばかりだった。
それが「不知火検校」という作品で、目の見えない非情な金貸しという悪役を演じて、やりたいことを思いっきり奔放に豪快に、そして悪どく楽しんでやるという演技の新境地を開拓して、端正な市川雷蔵とは対照的なキャラクターを演じる、面白い役者になったと思う。
そんな時期に、子母澤寛の随筆集「ふところ手帖」の中にほんの数行、盲人で居合抜きの達人の座頭の市というやくざがいたということが書かれていたのにヒントを得て、ツボ振りも居合抜きも目明き以上で女好きという、ヒーローというより、アウトローに近いキャラクター設定のもと、犬塚稔脚色、三隅研次監督、勝新太郎主演で映画化した、この大ヒットシリーズの第1作目が作られたのだ。
第1作から3作目までは、まだアウトロー然としていた座頭市の出生に関する様々なしがらみが描かれているが、第4作目以降は、正式なシリーズとなり、座頭市が逗留する宿場の悪親分や悪代官をやっつけ、最後に三船敏郎、仲代達矢、近衛十四郎などの大物スターが扮した用心棒と対決するというパターンが出来上がった。
この盲目の按摩でやくざの居合抜きの達人の座頭市は、目が見えないから自分から進んで悪党どものところへ乗り込んで行ってやっつけるというのではなくて、いつも彼をやっつけようとしてやって来る悪人どもを、自衛のために斬りまくるのだ。それも、敵の気配や斬り込んで来る刀の風を察知して、反撃するという神業のような、いわば、”社会的な弱者の抵抗”になっているのが、人気の秘密になっているのだと思う。
劇場用の映画としては26本製作され、監督には三隅研次を初め、森一生、田中徳三、安田公義、池広一夫などの大映の一流の職人監督が、入れ変わり立ち変わり担当し、やがては勝新太郎自身も監督に乗り出している。
この映画「座頭市物語」には、古典的な股旅ものの味があり、渋く、侘しく旅の哀愁が豊かに色濃く漂っている。
座頭市は、下総の飯岡助五郎の客分となるが、釣りで知り合った肺病病みの浪人・平手造酒(天知茂)に友情を感じるが、この平手造酒は飯岡助五郎と犬猿の仲の笹川繁造の食客だったのだ。
やがて、運命の糸は座頭市と平手造酒を対決へと導くことになる。後にはスーパーマンになってしまう座頭市だが、この作品では冒頭、市が丸木橋をへっぴり腰で渡るシーンに代表されるように、盲目という致命的なハンデが随所に描かれていて、市の世をすねて生きているアウトロー性が強調されていて、三隅研次監督の淡々とした中にもメリハリの効いた演出が、見事に成功していると思う。
座頭市を演じた勝新太郎の好演は言うまでもないが、斬られて死ぬ平手造酒を演じた天知茂も、これまた素晴らしく、新東宝時代に培ってきたニヒルな持ち味を十二分に発揮して、用心棒稼業の空しさが、利根川の川面を吹きすさぶ空っ風のように、観ている私の心の中を吹き抜けていくように感じさせてくれたのだ。
記念すべき第一作目、余計な描写がなく、かなり見ごたえがありました。