日本の黒い夏 冤罪の紹介:2000年日本映画。1994年6月に起った松本サリン事件は、第一通報者である一般市民を犯人であるかの様に報道しました。警察がこの市民を犯人と決め付け、捜査状況を話したことをそのまま報道した結果でした。そんな中で地方テレビ局は冤罪の可能性のある報道を続けました。この報道の様子を女子高生のインタビューに答える形で回想する問題作です。ほぼ事実通りに再現されていますが、オウム真理教だけはカルト集団という名で伏せられています。
監督:熊井啓 出演者:中井貴一(笹野誠)、寺尾聰(神部俊夫)、細川直美(花沢圭子)、遠野なぎこ(島尾エミ)、北村有起哉(浅川浩司)、加藤隆之(野田太郎)、石橋蓮司(吉田警部)、北村和夫(永田威雄)、二木てるみ(神部の妻)ほか
映画「日本の黒い夏 冤罪」ネタバレあらすじ結末と感想
映画「日本の黒い夏 冤罪」のあらすじをネタバレ解説。予告動画、キャスト紹介、感想、レビューを掲載。ストーリーのラストまで簡単に解説します。
映画「日本の黒い夏 冤罪」解説
この解説記事には映画「日本の黒い夏 冤罪」のネタバレが含まれます。あらすじを結末まで解説していますので映画鑑賞前の方は閲覧をご遠慮ください。
日本の黒い夏 冤罪のネタバレあらすじ:起
平成6年(1994年)6月27日、長野県松本市で松本サリン事件が起こりました。この事件の第一通報者である、神部俊夫が犯人扱いされていることで、高校生のエミとヒロは、『松本サリン事件』の報道の在り方についてドキュメンタリー映画を作るため、地元のテレビ局ニュースエクスプレス社に取材に来ていました。笹野部長、花沢圭子、浅川浩司、野田太郎が別室で取材を受けました。
事件発生後、警察は第一通報者の神部宅から、薬品物が見つかったため、容疑者不詳のまま、神部宅を家宅捜索しました。死者7名、負傷者多数の中、神部も入院、神部の妻は意識不明の重体でした。神部を犯人と睨んだ警察は、神部が薬品扱いのプロだったことから、犯人は神部とする前提で捜査を続けていました。新聞や報道各社も、容疑者は神部であるかの様な報道をし、警察の捜査に習っていました。
捜査が進むうち、青酸カリが発見され、劇薬青酸カリが使われたらしいとの見解でしたが、入院患者を診た医師は、リン化合物に見られる症状だと、異論を唱え、ニュースエクスプレスも青酸カリは無関係との報道をしました。
日本の黒い夏 冤罪のネタバレあらすじ:承
7月4日、警察は犯行に使われた薬物をサリンと断定しました。野田は薬学の権威の藤村教授に話を聞きました。教授はサリンは素人でもバケツで簡単に作れる話をし、それを報道しました。退院した神部は、記者会見の場で自分が犯人扱いされていることで、弁護士の永田をつけていました。そして警察の捜査に協力すると言う気持ちから、事情聴取に応じました。
しかしこれは、警察署長以下、長野オリンピックを控え、早く解決したい気持ちから、神部に自白を強要させる取り調べでした。警察は目撃証拠をねつ造し、神部に自白させようとしました。しかし神部はかたくなに「やっていない」と通しました。更に神部の自宅には嫌がらせが続き、体調のすぐれない神部は、3人の子供に自分が死んだときの事を話していました。
やがて永田弁護士に呼ばれた笹野は、無実を証明するために、報道も協力してくれと頼みこまれました。そんな時、花沢が今までの報道を覆す情報を取って来ました。それはサリンは複数の人間で、外部に漏れない装置が無いと作れないという、研究者の証言でした。
日本の黒い夏 冤罪のネタバレあらすじ:転
研究者の証言をもとに、神部宅から押収された薬品を照合すると、該当する薬品はありませんでした。この証拠を元に、笹野は松本サリン事件の捜査に疑問を投げかける特番を企画しました。神部が犯人だと言いきる浅川だけは反対しましたが、笹野の事実を伝えるという話に納得しました。笹野は局の上層部の承認を伺いますが、全て反対でした。それでも、責任は自分が取ると言う笹野の言葉で、特番は放送されました。視聴率は上がったものの、局へ苦情の電話が相次ぎました。
局内で孤立した笹野は吉田警部に会いに行きました。かつて吉田警部は裏付けのない情報を笹野に流し、笹野も信用して放送したものの、結果はシロだったという苦い思い出がありました。笹野はオフレコにするから、本当の気持ちを話してくれと言いました。吉田は「上層部が神部を早く自白させて逮捕しろと言っている」と言いました。しかし別の捜査では、富士山麓のカルト集団がサリンを生成する薬品を大量に購入し、サリンも発見されていると話しました。それでも「逆らえない自分の事を分かってくれ」と言いました。その後警察は神部を逮捕できませんでした。
日本の黒い夏 冤罪の結末
翌年、地下鉄サリン事件が発生しました。死者12人負傷者多数という、松本の事件より規模の数倍大きいものでした。そして逮捕された犯人が松本サリン事件もやったと自供しました。新聞、報道各社は神部に謝罪しましたが、警察側は謝罪しませんでした。
エミは笹野にどうして私たちの取材を受けてくれたのかと聞きました。笹野はエミに若い人に真実の報道の重要さを知ってもらいたかったと言いました。野田、花沢、浅川の3人は富士山麓、裁判所前、神部宅の3地点からリレー中継を行いました。そしてカルト集団による、松本サリン事件の犯行の様子が流れました。
サリンを発生させ、送風機で外気に送りました。最初にサリンが届いたのが神部宅で神部の妻が倒れ、飼い犬が死に、神部が通報後に倒れました。やがて風に乗って、周辺の住宅に広がり、救急車と警察が集結しました。
笹野は花沢とエミ、ヒロを連れて神部宅を訪れました。吉田警部が神部宅から出てきました。無実が証明された独占インタビューが始まりました。神部は吉田部長が謝ってくれたと話しました。警察関係者で謝ったのは吉田警部だけでした。神部は車いすの妻を、庭の池の前で介護していました。
以上、映画「日本の黒い夏 冤罪」のあらすじと結末でした。
「日本の黒い夏 冤罪」感想・レビュー
-
この映画「日本の黒い夏 冤罪」は、ジャーナリスティックなテーマに果敢に挑み、重厚な社会派映画を得意とする熊井啓監督の秀作だと思います。
熊井啓監督は、1964年の彼のデビュー作となる「帝銀事件・死刑囚」でも昭和の事件史に残る帝銀事件を冤罪だったという立場から、ドキュメンタリー・タッチで撮っていて、この「日本の黒い夏 冤罪」は、彼のこの系譜に繋がる作品でもあると思います。
熊井啓監督の故郷でもある、長野県松本市でオウム真理教が起こした「松本サリン事件」の時、被害の第一通報者である一市民が警察によって犯人と疑われ、それをマスコミの多くが鵜呑みにして、人権侵害的な報道がセンセーショナルに長期間続きました。
この時、高校生の男女二人が、証拠もないのに犯人扱いのような報道はおかしいという疑問を持って、放送部のクラブ活動としての番組を作るために、地元のテレビ局に取材に来ます。そのテレビ局は例外的に、犯人扱いすることを極力抑えて、良心的な報道をしようと努力してきていました。
実は、そのテレビ局内でも、良心では視聴率は稼げないとして、センセーショナリズムに走ろうとする動きは大いにあったのですが、そこをじっと抑えて頑張っている報道部長がいたんですね。
この報道部長を演じる中井貴一が、実にいいんですね。この報道部長が、高校生たちの問いかけを正面から受け止めて、目下進行中のその報道を部下たちと、いちいち検証し、警察とマスコミの事件の取り組み方のどんなところに誤りが生じやすいかを考えつめていきます。
この映画の主役は、この報道部長と、冤罪になりかける市民を渾身の演技で表現する寺尾聡で、そして無実らしいと思いながらも上司の思い込みの圧力で、取り調べを続ける石橋蓮司の刑事などです。
いわばこの映画は、”大人たちの人間ドラマ”であり、高校生二人は問題提起役にすぎませんが、この青春真っ只中の二人が、真剣に疑問を突き付けていくところが、この作品を引き締めていると思います。この作品は、”正しい報道のあり方”を真面目に考えさせる映画で、一見の価値があると思います。
当時はインターネットすらなかった時代ですが、過剰報道や同調圧力で人の人生を狂わせることができました。
真実なのかデマなのか出どころがわからない情報が多い今のSNS時代にも、通じるものがある気がします。