はたらく一家の紹介:1939年日本映画。主演の徳川夢声は、サイレント(無声)映画の活動弁士として活躍したあとに映画俳優になった人です。映画館のスクリーンに映る俳優の演技は、すでに弁士の仕事の一貫として批評の対象であったに違いありません。それだけに「演技とは何か」をよく心得ていた人です。この映画でも、じつに情感細やかな父親を好演します。映画の中で幼い子役たちがすっかり父親に馴染んでいる様子なども、成瀬巳喜男というよりは、徳川夢声その人の人柄の反映なのかもしれません。
監督: 成瀬巳喜男 出演者:徳川夢声(父親・石村)、本間 敦子(母親・ツエ)、生方明(長男・希一)、伊東薫(次男・源二)、南青吉(三男・昇)、平田武(四男・栄作)、阪東精一郎(五男・幸吉)、若葉喜世子(長女・ヒデ)、大日方傳(小川先生)、椿澄枝(喫茶店の娘・光子)ほか
映画「はたらく一家」ネタバレあらすじ結末と感想
映画「はたらく一家」のあらすじをネタバレ解説。予告動画、キャスト紹介、感想、レビューを掲載。ストーリーのラストまで簡単に解説します。
はたらく一家の予告編 動画
映画「はたらく一家」解説
この解説記事には映画「はたらく一家」のネタバレが含まれます。あらすじを結末まで解説していますので映画鑑賞前の方は閲覧をご遠慮ください。
はたらく一家のネタバレあらすじ:起
東京の町場に暮らしている11人の家族がいます。1939年(昭和14年)。まだ戦禍に巻き込まれていないこの時代の日本は平和な時代だったとのちに回顧されます。しかし、この映画に出てくる職工の家族は、食べていくのがやっとの生活を余儀なくされています。石村家では22歳の希一を筆頭に、生まれて間もない赤子を含め、大小7人の子どもたちが狭い家の中でひしめいています。
工場へ働きに出る上の兄たち3人と父親がまず朝食をとります。小さな卓袱台がひとつだけのこの家では、家族全員揃って食事することはできません。あんちゃんたちが食事をしている間、下の子どもたちは茶の間に入ることを止められ、布団に包まって食事の番が来るのを待っています。敷居ひとつ隔てたこちら側の部屋が小さな子どもたちの寝室になっています。
次に小学校へ通う四男の栄作と五男の幸吉、長女のヒデが箸をとります。祖父母も食事を一緒にするせいか、丼飯をかき込むように出かけていったあんちゃんたちよりも食事の時間はゆったりと流れます。母親のツエは、敷居のこちら側で赤子に乳を与えています。ツエは下町のかあちゃんそのもの。子どもたちひとりひとりと対話をしている余裕などはありません。
はたらく一家のネタバレあらすじ:承
家を出た父親と3人の息子たちは、揃って市電の駅へ向かいます。駅へ行く途中にある喫茶店の娘、光子がちょうどこの時間、店を開けて一家を見送ります。光子は、次男、源二の小学校の同級生です。最近、急に娘らしくなった光子は、品をつくって長男の希一に挨拶します。同い年の源二の知己を利用して希一に近づくのが光子の魂胆です。
希一は、将来のことでいま悩んでいます。工場では優秀な職工だと言われ、評価を得ていますが、組長が認めてくれるだけでは、給料に反映されることはありません。このままでは、結婚しても妻子や両親を養うことができないと将来を悲観しています。希一の望みは、仕事を辞めて5年間学校へ通い、電気技師の資格を取ることです。
とはいえ、いま希一が仕事を辞めてしまっては、一家の暮らしが立ち行かなくなってしまいます。石村家では、男4人が働きに出ることで何とか生活を維持しています。その家族をいまあっさりと見捨てるわけにはいきません。自分の将来を考えるか、家族をとるか。年齢的には、いまが思案のしどころだと希一は考えています。
はたらく一家のネタバレあらすじ:転
親にとって頭が痛いのは、子どもたちの考えが親を越えて、勝手に先へ走って行こうとすることです。石村家では、子どもには早く学校を終えてもらい、稼ぎ手になってほしいのです。しかし、四男の栄作も、来年小学校を出たあと、商家へ小僧に入りたくないと言い出します。栄作も希一に負けず成績のいい子です。ふたりとも親が考える以上に将来を夢見ています。
光子は、ごく普通の家の娘なので、希一の悩みをうまく理解できません。希一も、光子が相談相手にはふさわしくないと知っています。最近、店へ来ても押し黙ってばかりいる希一を見て、光子は元気づけようとしますが、希一はわずらわしさを募らせています。光子には希一が分からず、かといって即物的な源二では、あまりに分かり過ぎて交際相手としておもしろ味がないのです。
次男の源二は兵隊になるのが望みです。親にとっても、源二のような子どもばかりなら分かりやすくて助かります。大勢の家族の食い扶持がひとり減るだけで、どのくらい楽になるか知れません。軍隊に入れば職工のいまよりも収入が増え、仕送りを期待できます。生活の糧や暮らしに直結することならば、石村の夫婦にも良し悪しを判断できるのですが。
しかし、学問のこととなると、学問に縁のなかった親には判断のしようがありません。ところで、石村の偉いところは、そんな自分の生い立ちをよく心得ていて、学問のことは学問の専門屋に任せようと頭を切り替えたことです。熟練工として工場の仕事に携わってきた石村は、「餅は餅屋」という言葉の意味をよく理解しています。
はたらく一家の結末
鷲尾先生は、石村が住む地域の小学校の先生をしています。長男の希一から、次男の源二、三男の昇まで、3人の子どもたちは皆、小学校で鷲尾先生の世話になっています。石村も、鷲尾先生の誠実でほがらかな人柄に親しみを持っています。鷲尾先生はさらにいま石村家から小学校へ通っている四男の栄作を指導し、栄作の進学を希望しています。
石村は、希一の進路について助言してくれるように鷲尾先生に相談します。しかし、石村家の家庭の事情をよく知る先生は、そうやすやすと答えを口にしません。先生の回答は「みんなで意見を出し合いましょう」ということで、石村家全員が揃う時間を選んで家族会議を開くことになりました。
会議当日、石村家の親兄弟全員が聞き入るなか、鷲尾先生は茶の間に正座した兄弟たちにそれぞれの抱負を訊ねます。次男の源二を抜かした他の子どもたちは、学問への志を高く持っています。三男の昇も、たくさん勉強して弁護士になりたいと抱負を語ります。鷲尾先生の教えもあるのか、石村家の息子たちは皆向学心の高い青年に育っています。
希一は「自分ばかり勝手なことを言って済まない」と心では思ってます。石村も「自分の考えを持つのは悪いことじゃない」と考えています。「親の意見と違うからといって、必ずしも親不孝だとは限らない」と兄弟たちは皆、心の内で知っています。この家族は、皆まっとうです。鷲尾先生が辛いのは、「この家族の悩みは貧しさだ」と、最初から分かっている点です。
鷲尾先生は、希一に切りだします。「世の中って、そんな狭いもんじゃないから」と。諦めることはないと先生は言います。先生に答えて希一が口にします。「先生、何だかさっぱりしたような気がします」。鷲尾先生の立場では、「話し合い」という手段で、親子関係に角が立たないよう気遣う以外、他に方法はありませんでした。
以上、映画「はたらく一家」のあらすじと結末でした。
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