オデッサ・ファイルの紹介:1974年イギリス,西ドイツ映画。フレデリック・フォーサイスが「ジャッカルの日」に続いて書き下ろしたサスペンス・スリラーを「ポセイドン・アドベンチャー」で知られたロナルド・ニームが映画化。音楽を「キャッツ」などのミュージカルで有名なアンドリュー・ロイド・ウェバーが担当している。
監督:ロナルド・ニーム 出演:ジョン・ヴォイト(ミラー)、マクシミリアン・シェル(ロシュマン)、マリア・シェル、マリー・タム、ノエル・ウィルマン、ほか
映画「オデッサ・ファイル」ネタバレあらすじ結末と感想
映画「オデッサ・ファイル」のあらすじをネタバレ解説。予告動画、キャスト紹介、感想、レビューを掲載。ストーリーのラストまで簡単に解説します。
オデッサ・ファイルの予告編 動画
映画「オデッサ・ファイル」解説
この解説記事には映画「オデッサ・ファイル」のネタバレが含まれます。あらすじを結末まで解説していますので映画鑑賞前の方は閲覧をご遠慮ください。
オデッサ・ファイルのネタバレあらすじ:起
1963年9月、イスラエル軍が砂漠で演習中です。軍の司令官がモサドの人間と話していて、エジプト軍の財政支援に西ドイツのオデッサという組織が関わっている事が明かされます。そして舞台はハンブルグへ。同じ年の11月22日、ケネディ大統領暗殺の日でした。ジャーナリストのミラーは救急車のあとを追ってあるアパートへ。そこでは貧しい老人が自殺していました。翌日、友人の刑事からその老人の日記を貸してもらったミラーは、老人がユダヤ人であり、戦時中ナチスの強制収容所にいたことを知ります。日記には、収容所長であるSS大尉ロシュマンの指揮による残虐行為が詳細に記録されていました。老人は彼に復讐を誓ったのですがそれも果たせず、貧窮に耐えかねて自殺したのです。
オデッサ・ファイルのネタバレあらすじ:承
ミラーはその日から取り憑かれたようにロシュマン探索の調査を始めます。まず老人の友人を訪問。そこでドイツ国内にオデッサという組織があること、それはナチスの残党たちが作ったもので、戦後のドイツの政治経済界に強い影響を持っていることを知らされます。やがて地下鉄の駅で命を狙われるミラー。それでも怯むことなく調査を続けていると、あるグループが近づいてきます。彼らはナチスの残党に法の裁きを受けさせようと活動しているのです。
オデッサ・ファイルのネタバレあらすじ:転
彼らの協力で、ミラーは自分もナチスの残党だと偽り、オデッサに入会することにします。元SS軍曹で病死した男の出身証明書を手に入れ、あるオデッサの会員に接近。その紹介で幹部に会うことになります。色々と質問をされますが、どうやらテストには合格。組織に潜り込んだミラーですが早々と身分は暴かれ、間一髪殺し屋の手を逃れます。
オデッサ・ファイルの結末
オデッサの会員が隠し持っていた秘密ファイルから、ロシュマンの消息を知ったミラーは、ロシュマンが出席するホテルでの催しから尾行を開始し、その邸宅へ。ようやく元収容所長と対決した彼は、この調査が個人的な理由によるものだったことを告げます。自殺した老人の日記には、自分の父がロシュマンに殺された事実が書かれていたのです。抵抗するロシュマンを拳銃で処刑するミラー。しかし、オデッサの組織自体はまだまだ揺らぎもしません。
以上、映画「オデッサ・ファイル」のあらすじと結末でした。
“フレデリック・フォーサイス原作のオデッサの謎を追って展開するポリティカル・スリラーの傑作”
この映画「オデッサ・ファイル」の題名のオデッサとは、Organization der Ehemaligen SS-Angehorigenのイニシャルから1文字づつとった略語ですが、それはSS(ナチス親衛隊)の逃亡を図るための秘密組織で、その実情については多くの謎のベールに包まれていて、アウシュヴィッツのユダヤ人大虐殺(ホロコースト)の実行者であるアイヒマンを追って、遂に南米アルゼンチンで捕らえたイスラエルのユダヤ人本部では、その組織について、「初めナチスの残党は、米軍発行の新聞紙”星条旗”の運搬トラックの運転手を買収し、アイヒマン以下をその荷の中に隠して検問所を突破し、40マイルごとに作られた秘密の連絡所でシリア人のパスポートを受け取ってスイスの国境を越え、ジュネーブを経てアルゼンチンへ亡命させた。
そして、この組織はあらゆる階層の人々によって忠実に支えられ、膨大な資金源などもその民族的背景の奥深くに隠されている」とその驚くべき事実を語っています。
原作はイギリスのジャーナリスト出身のフレデリック・フォーサイスで、彼はドゴールフランス大統領の暗殺未遂を描いた「ジャッカルの日」の世界的な大ベストセラーによって、一躍、ポリティカル・スリラー小説の第一人者となり、その後、立て続けに「オデッサ・ファイル」、「戦争の犬たち」を発表し、その地位を不動のものにしました。
当然の事ながら、これら3作の原作を読破した上で、この映画「オデッサ・ファイル」をじっくりと楽しみながら鑑賞しました。
製作は「ジャッカルの日」の敏腕プロデューサーのジョン・ウルフ、監督は当時「ポセイドン・アドベンチャー」の大ヒットでそのキャリアの絶頂期を迎えていたロナルド・ニーム、脚色は「ジャッカルの日」、「ブラック・サンデー」などポリティカル・サスペンスを得意とするケネス・ロス、撮影は「寒い国から帰ったスパイ」の名手オズワルド・モリス、音楽は「エビータ」のアンドリュー・ロイド・ウェバーという一流の豪華なスタッフが集結していて、映画ファンとしてはもう観る前からワクワクしてきます。
この映画は”オデッサ”という恐るべき組織に単身挑む一人のルポライターのジョン・ヴォイト演じるペーター・ミラーが、その謎を追って展開するサスペンスフルなポリティカル・スリラーです。
映画は1963年11月下旬、みぞれ降りしきる西ドイツのハンブルクで、ミラーは、突然アメリカで起こったケネディ大統領暗殺のニュースを耳にします。
彼はその時、自家用車内にいて、たまたまその脇を1台の救急車がすり抜けていくのをルポライターとしての好奇心から尾行し、貧しい一人のユダヤ老人が自殺した事を知ります。
この老人は戦時中、アウシュビッツの強制収容所に入れられドイツ人から忍びがたい屈辱を与えられ、その事実を丹念に日記に残していて、その日記を読んだ事がミラーにオデッサ調査の気持ちを起こさせます。
オデッサという組織が、ただナチスの戦犯者を国外へ逃亡させるだけなら、それほど恐れる必要もありませんが、しかし、この組織が旧ナチス勢力による第三帝国の夢よもう一度とその復興を企てているところに戦慄すべき問題を孕んでいます。
現実問題として、フレデリック・フォーサイスが、この小説の執筆計画を発表したところ、おびただしい数の脅迫の手紙が届いたとの事で、今なお、ナチスの思想的な残党が世界の隅々に根強く息づいているのかと思うと底知れぬ恐怖を覚えます。
ユダヤ老人の日記には、収容所で悪魔のように冷酷無比の名優マクシミリアン・シェル演じるロシュマン大尉に関する内容が事細かに記されていて、ミラーはこの未知の男を探し出さずにはいられない”強い衝動”に襲われ、行動を開始しますが、すると彼は次々と不可解な事件に遭遇する事になります。
ある日突然、地下鉄のホームから誰かに突き落とされたり、三人組のイスラエルの諜報機関に拉致され、猛烈な特訓を強制されてSS機関へ送り込まれたり、彼と新星メアリー・タム演じる恋人ジギーとの会話が警察を通じてSS側に洩れたり、彼がSS機関の名簿である”オデッサ・ファイル”を盗み出そうとして、SS機関の人間と激しい死闘を強いられたりと—-まさに次から次へと展開する息詰まるサスペンスの連続で映画的緊張感に酔いしれてしまいます。
ミラーは次第に抜き差しならぬ”戦慄と恐怖と陰謀”の大きな渦の中に巻き込まれていきますが、ミラーは直接には戦争を知らない世代で「居酒屋」のドイツの名女優でマクシミリアン・シェルの実姉でもあるマリア・シェル演じる母親から過去の”驚愕の事実”を聞かされます。
そして、映画のクライマックスとも言うべきラストシーンになります。
この”驚愕の事実”を知ったミラーは、どんな事があろうともロシュマン大尉を許す事が出来ず、遂にその姿なき宿敵ロシュマンとの対決の時が来ます。
「真夜中のカーボーイ」で夢と現実の中に彷徨う現代人の無力感・焦燥感を絶妙に演じたジョン・ヴォイトと、冷徹水の如き尊大さでナチス復興の野望を打ち出してやまぬ男ロシュマンの粘着質の人間像を、凄みを効かせて演じたマクシミリアン・シェルの対決シーンは、新旧二大演技派俳優の火花を散らす演技合戦でもあり、本当に見応え十分でこの二人の壮絶な演技の背後から、新しい時代が必ずしも古い時代をそう易々と乗り越えてはいない事をある種の重量感をもって訴えかけてくる迫力を感じました。
ヨーロッパにとって、ナチスの不気味な残影はいつまでも人々の心の中に消える事なく残っていて、「マラソンマン」(ジョン・シュレシンジャー監督)、「ブラジルから来た少年」(フランクリン・J・シャフナー監督)などの映画でもこの事は繰り返し描かれ、あらたなるナチス的なものへの恐怖と憎悪の感情が悪夢として残っている事をこの「オデッサ・ファイル」もポリティカル・スリラーという形に仮託して、訴えかけて来ていると思います。