稲妻草紙の紹介:1951年日本映画。デビュー間もない三國連太郎がすれっからしの用心棒として登場してきます。松竹映画は当時、売り出し中の三國を阪妻主演の映画に参加させました。しかし完成後の試写を観た阪妻が嘆きます。「三國の演技がなあ・・」。阪妻は三國の演技が大いに不満だったといわれています。しかし阪妻のひと言に奮起した三國がのちに演技派として大成する経緯は衆目の知るところです。主な出演陣に阪東妻三郎、田中絹代、小暮実千代。いずれ劣らぬ名優ですが、そこへ新人の三國連太郎が加わっています。超大物級の俳優が居並ぶなかで、屈折した侍の心理をぎこちなく演じる若き三國連太郎こそ、いまではこの映画の見どころのひとつになっています。
監督:稲垣浩 出演者:阪東妻三郎(有馬又十郎)、田中絹代(お雪)、木暮実千代(おうた)、三國連太郎(船木源三郎)、上田吉二郎(亀屋六蔵)、山路義人(弁慶の丑)、進藤英太郎(四郎兵衛)ほか
映画「稲妻草紙」ネタバレあらすじ結末と感想
映画「稲妻草紙」のあらすじをネタバレ解説。予告動画、キャスト紹介、感想、レビューを掲載。ストーリーのラストまで簡単に解説します。
稲妻草紙の予告編 動画
映画「稲妻草紙」解説
この解説記事には映画「稲妻草紙」のネタバレが含まれます。あらすじを結末まで解説していますので映画鑑賞前の方は閲覧をご遠慮ください。
稲妻草紙のネタバレあらすじ:起
どれくらいの数の石段が積み上げられているのでしょうか。お雪(田中絹代)は、八幡宮の社へ向かう急な斜面を上って行きます。石段をゆっくりと下りてきたのは有馬又十郎(阪東妻三郎)です。お雪と又十郎は知らない者どうしながらお互いを意識して、ずいぶん手前から先を譲り合っています。お雪は町人の娘風、又十郎は脚絆に三度笠を手にした侍です。すれ違うふたりは見つめ合い、見送ったあとでもう一度名残惜しく振り返って行きました。
旅籠屋の行灯に灯が入ります。多くの使用人たちが板の間と土間の炊事場とを行き来しています。宿の主は四郎兵衛です。「キビキビと働けよ、慌てるなよ、慌てると粗相をするよ」。四郎兵衛は自ら陣頭指揮をとりますが、「旦那こそ落ち着いてくださいよ」と古株の女中に半畳を入れられます。客を迎えて活気を呈す炊事場にお雪がやって来ます。お雪は旅籠屋の軒先を借りて一杯飲み屋を営んでいます。
旅籠屋に泊まる客のひとりが八幡宮の階段を下りてきた又十郎です。「おひとり様」の又十郎は窓のない布団部屋をあてがわれ、ひとりしょんぼりと徳利を傾けています。別の部屋ではお雪のかつての恋人、船木源三郎(三國連太郎)が酒を酌み交わしています。お雪と3年前に別れて町を出た源三郎が、博徒の用心棒になって舞い戻っています。お雪の友だちで女中のおうた(木暮実千代)がお雪にそう言って耳打ちします。一体どういうことなのか、お雪は怪訝な面持ちです。
源三郎は、近隣の烏山藩に奉公が決まった折、お雪を連れて所帯を持つことを希望していました。しかしお雪の家には博奕打ちの父親と生まれつき身体の弱い弟がいます。そんな境遇にあの人を巻き込んではいけないと、お雪は愛する人の誘いを袖にした経緯がありました。ところが、出仕していったはずの源三郎が町へ舞い戻っています。
お雪は小さなおでん屋を営んでいます。そこへ八幡宮の階段で昼間すれ違った又十郎が顔を覗かせます。ふたりして「あれっ?」と思ったのも束の間、さっそく打ち解けてしまいます。お雪の笑顔に惹かれたのか、又十郎が飄々と打ち明けます。「人を探している、探し出したら斬らねばならないかもしれない」と。物騒な話にお雪は顔を曇らせますが、又十郎はなおも続けます。「侍にとって殿さまの言うことは絶対なのだよ」と。
稲妻草紙のネタバレあらすじ:承
「だから、そいつとは遭わないのが一番だ」。そう言ったあとで又十郎は「お雪さんの前では何でも喋ってしまう」と照れます。言われたお雪も照れます。そのふたりの会話にチンピラ3人が割って入ってきます。又十郎はひょいと立ち上がり、ひねってしまいます。強い侍です。その夜はしこたま酒を飲んで宿へ戻ります。又十郎は明け方、夢を見ました。侍を一太刀で斬り倒してしまいました。目が覚めた途端、相手が船木源三郎だったと知って驚きます。
お雪の友だちで女中のおうたは、長逗留中の客、又十郎へ思いを寄せています。惹かれた先からおうたは又十郎付きの女中となり、仕事の手を休めては用を訊ねに行き、酌をし、問われるままに訳知り顔で話し相手になっています。船木源三郎を幼い頃から知るおうたは、その生い立ちから、お雪との間にあった過去、最近見かけた様子まで踏み込んで又十郎に解説します。
博徒の亀屋六蔵(上田吉次郎)こと亀六の家に草鞋を脱ぐ船木源三郎に、亀六の子分たちが注意を促しています。見たことのない侍が辺りを窺っている、背の高い腰の据わった侍だと手下のひとりが口にします。源三郎も剣術に長けた侍ですが、いまは見えない侍の影に怯えています。「なあに、おれの目が黒いうちは大丈夫だ、大船に乗ったつもりでいなさい」と亀六が動揺を隠せない源三郎に、親分らしい態度で振る舞います。
八幡宮では御祭礼の準備に追われています。お雪が長い階段を下りてきます。下からは深く三度笠を被った又十郎がやってきて、「おやっ?」と知った者同士の挨拶が交わされます。
「毎日かならずお宮へ?何の願いごとをしに行くのかな?」と又十郎は気安く、しかも興味深げに訊ねます。
「願いごとだなんて。あたしね、毎日一度お参りに行くだけで気持ちが清々するんですよ、ただそれだけ」とお雪が笑みで応じます。
そして突然の驟雨です。ふたりは雨を避けて山門の下へ駈けこみます。
他愛のないお喋りのあとで又十郎が呟きます。「生きているっていうのはいいものだな」と。お雪もまったくおなじ思いです。男女がささやかな一時を共有し合うこと、これに勝る幸せはないと言いたげです。
稲妻草紙のネタバレあらすじ:転
そしてとうとう四郎兵衛の旅籠屋で源三郎と又十郎が対峙します。ゆえあって烏山藩から追われる身となった源三郎。藩主から源三郎を仕留めるよう命ぜられた又十郎。ふたりは烏山藩の朋輩です。又十郎は源三郎に「逃げろ」と言います。しかし源三郎は刀を抜きます。しかたなく又十郎も刀を抜きますが、襖が開いてお雪が現れます。
お雪が又十郎に刀を収めるよう必死にすがりつくと、「なるほど」と早合点した源三郎が唇をゆがめます。「なるほど、逃げろか・・有馬」。女をものにするために、俺がいては邪魔になるらしいな。源三郎は、お雪と又十郎を交互に見比べ、侮蔑するような、落胆するような、奇妙に先を急ぐような、ふてくされた態度でふたりの前から去って行きました。
又十郎はその夜、旅籠屋を発つ決意をしています。すると帳場へ六人の侍が宿を求めてやって来ます。烏山藩から源三郎を討ちに来た六人の刺客です。源三郎は、藩政を手玉に取る家老を殴って脱藩した侍です。又十郎は、六人の朋輩に訊ねます。「船木を斬ることが侍の忠義だと言うが、真の忠義とは船木のしたことではないのか」と。
世の中に愛想をつかした源三郎ですが、親への忠義だけは忘れず、父親の命日に墓参りにやって来ます。「今日こそはかならずここへ来ると思っていました」と、木蔭からお雪が現れます。お雪は爪に火を灯して貯めた有り金すべてを源三郎に差し出します。「これを持って逃げて」。しかし源三郎はお雪を愚弄します。「又十郎とのあいだにおれがいては都合が悪いのか」。情けなさにお雪は泣き出します。
お雪が店へ戻って飲めない酒をあおり、おうたと酒を酌み交わしているところへ又十郎がやって来ます。すでに酔っている又十郎におうたは目に入らず、お雪の姿しか目に止まりません。酔ったお雪を介抱する又十郎を見かね、おうたは店を出て行きます。又十郎はお雪へ思いを打ち明けます。けれども、お雪は源三郎のことで頭がいっぱいです。おうたにつれない又十郎、又十郎につれないお雪、そしてお雪につれない源三郎。しかし源三郎はすでに追手六人の手中に入っています。
稲妻草紙の結末
博徒の亀六のもとへ烏山藩の追手六人が現れます。亀六は最初こそ威勢のいい啖呵を切っていましたが、烏山藩十二万石が貴様の相手だと言われて意気阻喪します。あとは言うがまま、源三郎を引き渡す密約を交わしたかと思うと、喫緊の避難だと偽って源三郎を出立させようと急かします。追手の六人が闇討ちを仕掛けやすいよう八幡宮の長い階段を上って街道へ抜けるよう策謀します。
源三郎がワナにはまったことを知った又十郎はさっそく八幡宮へ向かいます。気配を殺していますが、夜陰には間違いなく追手六人が潜んでいます。そこへ一閃の稲妻です。男たちの姿が闇夜に現れます。なおも稲妻がつづくなか、追手たちの刃が又十郎に向って間を詰めてきます。
その時、又十郎の被っていた三度笠が闇に放られます。又十郎だと気づいた男たちはざわつきます。しかし又十郎は冷静です。まずは国元で幼い子が待つ侍を逃がします。残りの侍は五人です。烏山藩でも腕の立つ五人と一度に闘います。苦戦を強いられ又十郎は傷を負いますが、朋輩五人を情け容赦なく片付けます。
そこへ源三郎が駆け込んできます。稲光のなか、階段に倒れる侍の数を知った源三郎が又十郎に駆け寄ります。精根尽きた又十郎が源三郎を促します。「逃げろ船木、お雪さんと逃げろ。そしていつまでもお雪さんを可愛がってやれ」。今度は源三郎も素直に頷きます。
しかし、殿さまの命令に背いた又十郎は藩全体を敵に回すことになりました。自らが刺客に狙われる身となった又十郎、前途をどこへ見出すのか。強い侍だけに見ものです。
以上、映画「稲妻草紙」のあらすじと結末でした。
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