かあちゃんの紹介:2001年日本映画。山本周五郎原作の同名小説をもとに、巨匠・市川崑が監督した心温まる人情時代劇映画です。「信じてる。」というキャッチコピーで、人を信じ愛する事を信条とする母親が、5人の子供たちを育てる心温かい姿を通じて、「人を信じること」の尊さを、泣き笑いを交えて描きだした作品です。
監督:市川崑 出演:岸恵子(おかつ)、原田龍二(勇吉)、うじきつよし(市太)、石倉三郎(熊五郎)、中村梅雀(印半纏の男)、勝野雅奈恵(おさん)、山崎裕太(三之助)、飯泉征貴(次郎)、紺野紘矢(七之助)、宇崎竜童(同心)、春風亭柳昇(禿げ老人)、コロッケ(左官風の男)、江戸家小猫(商人風の男)、仁科貴(岡っ引)、尾藤イサオ(源さん)、常田富士男(易者)、小沢昭一(大家)、ほか
映画「かあちゃん」ネタバレあらすじ結末と感想
映画「かあちゃん」のあらすじをネタバレ解説。予告動画、キャスト紹介、感想、レビューを掲載。ストーリーのラストまで簡単に解説します。
映画「かあちゃん」解説
この解説記事には映画「かあちゃん」のネタバレが含まれます。あらすじを結末まで解説していますので映画鑑賞前の方は閲覧をご遠慮ください。
かあちゃんのネタバレあらすじ:起・ひどい世の中
時は天保末期、老中・水野忠邦の改革の効き目なく、飢饉によって米価は騰貴、浮浪者は増加し、江戸下層階級の窮乏はさらに激化していました。そんなある日、あるあばら家に若い勇吉は、泥棒に入りました。しかし、その汚い家には盗るものなど全くありませんでした。勇吉が家探ししていると、そこに家の主の大工・熊五郎が帰ってきました。慌てて勇吉は床下に隠れました。熊五郎は床に大きな足跡を見つけ、泥棒が入ったと気づきました。ちょうどそこへ大家が店賃を取りに来ました。熊五郎は大家に泥棒が入り、家財道具を全部盗まれたと嘘をつきした。熊五郎は大家から店賃を免除してもらうどころか、お上に報告して何か一つでもお金になるものがもらえないかと企みました。
それを床下で聞いていた勇吉はこそっり外に出ると、一人の同心が見回っていました。物陰に隠れた勇吉は「それにしても太い野郎がいるもんだ。どっちが泥棒なんだかわかりゃしねえ。ひどい世の中になったもんだ」とため息交じりに呟きました。
かあちゃんのネタバレあらすじ:承・出会い
さて場所は変わって、貧乏長屋の一軒の居酒屋に、いつものように禿げ老人、印半纏の男、左官風の男、商人風の男、4人が徳利1本で愚痴っていました。長屋の会長をしていた印半纏の男は、左官風の男の隣に住んでいるおかつの家の話をし出しました。その男によると、おかつ一家は6人総出で働き詰め、しこたま金を貯め込んでいるようでした。それも長屋でちょっとした不幸があっても、みんなと同じ額だけ払っておしまいというドケチぶりで、近所づきあいも悪く、4人の男たちは憤っていました。奇しくもその日は三十日の日でした。この日、おかつは決まって銭勘定をする日でした。
偶然、その居酒屋に入った勇吉は、そんな4人の噂話を聞き、今夜、おかつの家に泥棒に入る決意をしました。その夜、おかつたちは稼いできたお金を勘定していました。それは約5両の大金になっていました。足かけ3年間かけた大金に、おかつたちは喜びました。しかし、この大金を貯めたのには訳がありました。それはちょうど3年前の事でした。おかつの長男・市太の大工仲間である源さんが、暮らしに困窮した挙げ句、ちょっとした出来心で仕事の帳場から盗みをしてしまったのでした。源さんはそれで牢屋行きになりました。おかつたちは源さんを不憫に思い、牢屋から出て来た時に、新しい金物屋の仕事ができるようその元手となるお金を、一家総出で貯めていたのでした。ようやくその元手となる額が貯まったのでした。それも質素・倹約を徹底して行い、近所の人たちから「ケチんぼ一家」と詰られようと、黙った貯め続けたお金でした。
そんな事を知らない勇吉は、深夜、おかつの家に泥棒に入りました。するとおかつとばったり遭遇、若い勇吉は驚きながらも、おかつに「金を出せ」と脅しました。しかし、気丈なおかつは冷静に振舞い、震える勇吉を座らせ、貯めたお金を見せ、そして、この金の事情を全て語り明かしました。それを聞いた心根の優しい勇吉は、この困窮した時勢の中で他人のためにそこまでするおかつたちの心に感動し、何も盗らずに立ち去ろうとしました。しかし、行くあてもない勇吉を、おかつは引き留め、自分の遠い親戚と偽り、自分の5人の子供たちと共に暮らさせました。
源さんが刑期を終え、牢屋から出てくる日が来ました。おかつは源さんがこれから肩身が狭い思いをしないように、言葉に注意するよう子供たちに言いつけました。そして、源さんの出所祝いの席の準備をしました。勇吉もそれを手伝い、準備が終わると、勇吉は家からこっそり逃げ出しました。しかし、いつもの居酒屋で例の4人が、また愚痴っていました。また、おかつさんの家のことでした。その話を耳にした勇吉は激怒し、おかつの家に怒鳴り込もうとする4人の前に立ちはだかりました。勇吉は「おかつさんたちは立派な一家だ」と一喝し、自分をおかつの親戚だと思わず言ってしまいました。勇吉はまた逃亡に失敗してしまいました。
源さんが牢屋から出てきました。源さんとその妻はおかつ一家の手厚いおもてなしと、5両もの大金をもらい、源さん夫婦は感動のあまり、泣き崩れました。そうしたおかつたち一家の優しさに触れた勇吉は、益々あまりに自分が恥ずかしくなり、何度も逃亡を図りましたが、すべて失敗に終わってしまい、肩身が狭い思いをしながら暮らしていました。しかし、そんな勇吉を、おかつ一家は本当の家族のように思い、勇吉の仕事まで心配してくれました。
かあちゃんのネタバレあらすじ:転・疑惑と信頼
そんなある日、長屋の大家が4人から勇吉の話を聞き、おかつの家を訪ねました。大家はお上がうるさいから、勇吉の身元の証をたてる書付を用意してほしいと言ってきました。幼い頃に両親を亡くした勇吉の身元書付など得ることができないのに、おかつはそれを受諾しました。その夜、おかつは子供たちに嘘を言い、道端の易者に20文払い、嘘の書付を書いてもらいました。これで勇吉は身元がはっきりした人間になりました。勇吉は驚き、感激しました。
ちょうどその時、1人の「末吉」という脱獄者を追っていた同心が、おかつの家に訪ねてきました。同心は昼間、偶々立ち寄った居酒屋で、印半纏の男たちからその脱獄者はあの勇吉ではないか言われ、それを確認しに来たのでした。その脱獄者は勇吉とちょうど同じ年頃の男でした。おかつは、偽の身元書付を同心に見せ、断じて勇吉ではないと主張しました。するとそこに、岡っ引が駆け込んで来ました。どうやら、探していた「末吉」が番屋へ出頭してきたそうでした。同心は岡っ引から末吉の事情を聞くと、直ぐに番屋へ戻って行きました。
ほっと一安心したおかつたちは、子供たちや勇吉に寝るように言いました。みんなが寝床へ行くと、三之助と次郎がこっそり母・おかつの耳元で「書付、易者に20文取られて痛かっただろ」と囁きました。2人は密かにおかつの後をつけ、すべて知っていたのでした。おかつは驚きながらも、自分の子供たちの優しさに笑みをこぼしました。
その翌日、おかつと娘・おさんが2人で針仕事をしていると、長男・市太が息せき切って駆け込んできました。大工仲間の熊五郎が事故で脚の骨を折ってしまい、追廻の仕事人が急遽、必要になったのでした。おさんは喜んで、すぐに勇吉を呼びに行きました。おかつは喜びながらも、「人の不幸を喜んじゃいけないね」と言い、脚の骨を折った熊五郎の見舞いに行きました。
そして数日が経ち、勇吉はすっかりおかつの家族の一員のようになり、市太たちと一緒に仕事場に向かうようになりました。勇吉は大工としての筋がよいようで、紹介した市太も鼻高々でした。
かあちゃんの結末
勇吉はこうして正職にも就くことができました。そんなある日、勇吉はおかつに昼のお弁当が、市太たちより飯も具も多いと、申し訳なさそうに告げました。それを聞いたおかつは、弁当を毎日作っているおさんが、勇吉にほのかに恋心を抱いていることに気づきました。おかつは言葉巧みに、勇吉に弁当のことを諭しました。すると感激した勇吉は目に涙をためながら、「俺ぁ、生みの親にも、こんなにされたことがなかった」とおかつに感謝の気持ちを伝えました。しかし、その言葉を聞いたおかつは、勇吉に親の情について説き、「子として、親を悪く言うような人間は、大嫌いだよ!」と怒鳴りました。そんなおかつの姿に勇吉はより一層、人を心から愛し信じているおかつの心根を知りました。勇吉はおかつに心の中でそっと呟きました。「かあちゃん」と…。
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