ニンゲン合格の紹介:1999年日本映画。「心温まる、現代の寓話。」というキャッチコピーで、10年間昏睡状態だった青年が奇跡的に目覚めたことで、崩壊していた家族が新たな展開を見せる情景をリアルに描写した人間ドラマです。映画初主演の西島秀俊は、この作品で第9回日本映画プロフェッショナル大賞主演男優賞しました。
監督:黒沢清 出演者:西島秀俊(吉井豊)、役所広司(藤森岩雄)、菅田俊(吉井真一郎)、りりィ(岩谷幸子)、麻生久美子(吉井千鶴)、哀川翔(加崎)、大杉漣(室田)、洞口依子(ミキ)、鈴木ヒロミツ(久留米)、豊原功補(医師)、ほか
映画「ニンゲン合格」ネタバレあらすじ結末と感想
映画「ニンゲン合格」のあらすじをネタバレ解説。予告動画、キャスト紹介、感想、レビューを掲載。ストーリーのラストまで簡単に解説します。
映画「ニンゲン合格」解説
この解説記事には映画「ニンゲン合格」のネタバレが含まれます。あらすじを結末まで解説していますので映画鑑賞前の方は閲覧をご遠慮ください。
ニンゲン合格のネタバレあらすじ:1.目覚め
14歳の時に交通事故に遭い、昏睡状態が続いていた吉井豊が、奇跡的に10年の眠りから突如目覚めました。豊は24歳になっていました。「ぐっすり眠りましたから。10年間」と言う豊に、健康診断に来た医師は「これは一種の奇跡だね。…大丈夫、失ったものは直ぐに取り戻せる。これからの新しい人生を大切にしなさい」と言いました。この奇跡的な一報を聞き、一番に駆けつけてきたのは、10年前に豊を轢いた室田でした。当時の交通事故の状況を申し訳なさそうに話す室田に、豊は「もういいですよ。その時のこと覚えてないし」と答えました。豊の入院費を10年間払い続けていた室田は、「私だって辛い10年だった。10年を失ったのは君だけじゃないってことだ」と言い、50万円が入った封筒を出し、「これで終わりにしてくれ」と言い、立ち去って行きました。
ニンゲン合格のネタバレあらすじ:2.失くしたもの
次にやって来たのは懐かしい家族ではなく、藤森岩雄という風変わりな中年男でした。藤森は豊の父・吉井真一郎の友人で、産廃処理業をしていました。リハビリ中の豊のため、藤森は豊が昏睡していた10年間、世間で起こった出来事を知らせようと、見舞いの度に撮り貯めしていたビデオや雑誌を大量に持ってきました。「もういいですよ」と言う豊に、藤森は「困るぞ。外出たら。一応、取り戻せるだけ取り戻したほうがいい」と言いますが、豊は「困ってもいい。何、取り戻すの?10年?10年間の何?失くしたもの?俺、何失くしたの?」と訊きました。藤森は何も答えられませんでした。
そして、順調にリハビリが進み、普通に歩けるようになった豊は、遂に退院の日が来ました。豊は藤森に「やっぱ家、帰らなきゃマズいよね?」と尋ねました。そんな豊に藤森は「嫌か?帰るの…。これ以上、病院にいるわけにもいかんだろう」と言い、怖がる豊を家に連れて帰りました。藤森は豊の離散した家族に代わって、東京郊外にある豊の家に独りで暮らしていました。広大な庭には産廃物が山となって積まれており、家の一部は釣り堀に改造されていました。藤森は不法投棄の手伝いと、その釣り堀で生計を立てていました。かつて、その庭はポニー牧場でしたが、その跡形もなく、すっかり変わり果てた家を見て、豊は呆然としました。心の整理がつかずに部屋に閉じこもる豊に、藤森は「俺はお前の親父でもお袋でもないんだぞ。自分の決めろよ!全部!」と言い放ちました。
それから豊は独りで街を散歩しながら、藤森の仕事を手伝うようになりました。そして、豊は失われた過去を取り戻すように、かつての友人・上田明に会いに行きました。「こうして見ると普通だな。ちょっと会わなかっただけみたいだ」と言う上田に、豊は「10年って長かった?」と訊くと、上田は「あっという間だったけど、人それぞれだな」と答えました。そこに上田の母が来ました。上田の母は豊に彼の両親が離婚した当時のことを告げ、「誰だって一度は違う人生歩みたいと思うものよ」と諭すように豊に言うのでした。豊は10年間の心の溝を埋めようと、同窓会をしようと計画しました。早速翌日、豊は同窓会の案内状を作りましたが、それを見た藤森は「そんなもん、辞めとけ」と言い、その夜、強引に豊をソープランドに連れていきました。戻ってきた豊に藤森は「どうだった?楽しかったかろ」と訊くと、豊は「そこそこね。でももういい」とそっけなく答えました。
ニンゲン合格のネタバレあらすじ:3.再会
そして数日後、どこから来たのか、庭に一頭の馬が迷い込んできました。馬主が馬を取り返しに来ましたが、豊は「俺、稼いで絶対に返すから」と藤森に頼み込んで、藤森にその馬を買い取ってもらいました。豊はポニー牧場を作ろうと思い立ったのでした。そんなある日、突然、オランダから父・真一郎が家に帰ってきました。久しぶりに再会した二人の間には、大きな心の溝がありました。父は豊と何とかその溝を埋めようとしますが、豊はそっけなく、なかなかうまくいきませんでした。悩みぬいた真一郎は、藤森に託そうとしました。そんな真一郎に藤森は「俺は子供は嫌いだ!だから、つくらなかった。良かったと思ってるよ。今のお前を見ていると!お前の息子だろうが!」と激怒しました。
翌朝、父・真一郎は再び、出ていきました。今度は北海道、そしてアフリカでした。父は豊に母・岩谷幸子の住所を書き置きして、旅立って行きました。豊は住所をたどり、母に会いに行きましたが、そこに母は住んでいませんでした。その帰り道、豊はニューヨークで歌手を目指しているミキと出会いました。豊はミキが歌っているライブハウスに行きました。そこでミキから、豊は1枚の絵ハガキを貰いました。それにはニューヨークの写真が写っていました。
数日後、スポーツカーに乗ったカップルが、豊のもとにやって来ました。その女性は藤森に「ここに吉井って人、いますか?」と訊いてきました。その女性は豊の妹・吉井千鶴でした。男性のほうは千鶴の彼氏で、加崎という青年でした。千鶴はアメリカに行ったはずでしたが、直ぐに帰国し、東京で加崎と同棲していたのでした。千鶴にとっては実家。千鶴は加崎と当分、家に住むことにしました。一文無しと言う加崎は、藤森の仕事の手伝いをしました。豊は千鶴に、母の居場所を訊きました。母の居場所を知っていた千鶴は豊に住所を教えました。しかし、千鶴は母とは会いたくないと言い張りました。千鶴の真の目的は、この実家を豊と二人で相続して売り飛ばしてお金を得ることでした。そのために千鶴は父に会いに来たのでした。そんな千鶴に豊は「どうすんの?ポニー牧場?」と訊くと、「何言ってんの。やめてよ」と笑い飛ばしました。牧場を再建して離散した家族を何とかしようと思っていた豊は、激怒し、千鶴と加崎を追い出しました。
ニンゲン合格のネタバレあらすじ:4.奇妙な暮らし
早速、千鶴が教えてくれた住所をたどり、母・岩谷幸子に会いに行きました。母・幸子は豊を歓迎してくれました。10年ぶりに会っても変わらない母の愛情を受け、豊は嬉しく思いました。家に戻った豊は、昔やっていた本格的に吉井牧場の建設に取り掛かりました。そして、何とか昔の姿に戻すことができました。その日、最高のタイミングで、父が北海道から帰っていました。豊は父と藤森と仲間たちとで、再建した家の姿を感慨深く眺めました。豊はまたここで父と牧場が経営できると喜びましたが、翌日、せわしなく父はアフリカへと旅立っていきました。父は豊に家と土地の権利書、銀行の通帳と実印を渡し、「千鶴と二人で、自由にしていい」と豊に託しました。豊のささやかな希望は打ち砕かれました。
そして、豊が計画した同窓会の日が来ました。集まったのは20数名でしたが、豊は満足でした。その帰り道、かつての二人の悪友たちとよく万引きをしていた古書店に、豊は行きました。深夜で古書店のシャッターには鍵がかかっていましたが、ふと豊は「俺、覚えてる。ここの鍵の番号」と言い、鍵を開けました。豊たちは古書店からマンガなどを盗み出し、道の途中で昔のように、三人でそれを読みふけりました。もやもやしていた気持ちが少し晴れた豊は、悪友たちに「ありがとな。付き合ってくれて」と言い、家に帰りました。
その翌日、環境保全課の男たちが家に来ました。産廃の不法投棄をしている藤森を探しに来たのでした。下手をすると警察沙汰になる事件でしたが、その頃、藤森はどこかに雲隠れしていました。男たちは「この件はくれぐれも内密でお願いします。悪質で常習とくればマスコミがうるさいんで」と豊に言い残して去って行きました。
独りになった豊はポニー牧場を営みながら、何とか生計を立てていました。そんなある日、突然、母・幸子が家にやって来ました。豊の様子を見に来たのでした。豊は喜び、母を家に迎え入れました。ばつが悪そうにする母に、豊は「俺は俺のやりたいようにやっているだけ。だから母さんも自由にしてよ。それできっとうまくいく」と言いました。それから豊と母の二人だけの自由気ままな生活が始まりました。
程なくして、妹の千鶴と加崎が再び、やって来ました。千鶴は母の顔を見て驚きました。一度は喧嘩して追い出した豊でしたが、家賃も払えず行くところがない千鶴を、豊は温かく迎え入れました。加崎も含めた4人の奇妙だが、温かい生活が始まりました。次第に牧場は大きくなり、ミルクバーを開店させました。そんなある日、ふと豊は母に言いました。「ほんの一瞬でいいからさ。もう一度みんながそろうことがあるのかな。…俺はあると思う」と。母は「そうね。昔みたいにはいかないけど、あるかもね」と豊に答えました。
依然として藤森は戻って来ませんでした。4人での生活が慣れてきた頃、豊は藤森が残して行った釣り堀を、加崎に独立採算で任せようとしました。しかし、加崎は「俺って目障りだもんね。ここに俺がいるって変だもんね」と拒みました。豊は「ここにいるのは全然、構わないんですよ」と言いましたが、加崎は「いや。いやいや、近いうち出ていくから。何とかなるから」と答えてきました。
ニンゲン合格のネタバレあらすじ:5.夢と現実
その夜、ふと見ていたテレビで、宗教団体が乗っていたアフリカ行きの船が沈没したというニュースが流れてきました。その行方不明の乗客リストに、なんと父・真一郎の名前がありました。豊も母・幸子も妹・千鶴も驚き、父の安否を心配しました。すると外務省から連絡がきました。外務省も調査中とのことでした。半ば父の死を覚悟しつつ豊たちは、テレビを観続けました。すると、父の姿がテレビに映りました。父は間一髪のところを脱出したのでした。インタビューを受ける無事な父の姿を観て、豊たち家族は安堵しました。
その数日後、加崎は出て行きました。千鶴も彼と共に出ていきました。そして、母・幸子も家を出ていきました。再び、豊は独りになりました。豊の牧場とミルクバーは盛況で、豊は一人で何とか切り盛りしていました。そんなある日、一人の客がやって来ました。それは室田でした。偶々、室田は近くの工事現場で働いていたのでした。室田は自分の店を持ち、幸せそうな豊に強烈な嫉妬心を持ちました。その夜、室田はチェーンソーを持って、豊の家に忍び込んで来ました。室田はチェーンソーで店や、牧場の柵を次々にぶった切り、壊していきました。止めようとする豊に、室田は「私は君の人生を無茶苦茶にした。君も私の人生を無茶苦茶にした。フィフティ、フィフティだ。世の中、そういうもんだろう。私はそれで納得した。だから、君だけ幸せになるのは無しだ。それは許せんだろ。あのまま君は病院で寝たっきりの生活をするはずだったんだ」と言い放ちました。憤る室田に豊は「たぶん、そのほうが良かった」と答えました。10年前の幸せな生活を取り戻すことが出来ず、それが幻想だと思い始めていた豊は、室田のチェーンソーを奪い取りました。豊に殺さると慄く室田に、「俺はどこからか来た。そしてどこかへ行く。あっ、そろそろ目、覚まさないと」と呟くと、チェーンソーを唸らせ、自ら牧場を無茶苦茶に破壊し尽くしました。
暫くして、藤森がトラックに大量の産廃となった冷蔵庫を積み、帰ってきました。豊は何事もなかったかのように振舞いました。藤森は「このスクラップなんだけど。捨てるとこなくて困ってるんだ。使わせてくれないか、お前んとこの庭」と飄々と言いました。何も変わらぬ藤森に豊は快く応じました。藤森はスクラップとなった冷蔵庫を庭に山積みにしました。そしてまた、家から出ていこうとしました。一人になることが嫌になった豊は、藤森と一緒に行こうとしました。その時、ふと馬のことを思い出しました。豊は馬を荷台に積み、藤森と家を跡にしようとしました。しかし、馬がなかなかいう事をきかず、荷台に乗ってくれませんでした。豊は忘れた手袋を取りに、スクラップの山のほうに行きました。すると、突然、その高く積まれたスクラップの山が崩れ、豊はその下敷きになってしまいました。藤森が駆け寄って来ました。立ち上がることが出来ず意識朦朧となる豊は、藤森に「どこか遠くへ行きたい。…これ、夢なの?…俺、存在した?…ちゃんと存在した?」と尋ねました。藤森は「夢じゃない。全部、ほんとの事だ。お前は確実に存在した」と答えました。豊はそのまま、静かに永遠の眠りにつきました。
ニンゲン合格の結末:6.永遠の想い
皮肉にも、豊の家族が一同にそろったのは、豊の葬儀の日でした。豊の暮らした家の庭は、綺麗に片付けられていました。豊の想いを胸に抱きながら、家族はまたバラバラに立ち去って行きました。家に残ったのは、藤森、ただ一人でした。藤森は豊の遺品を整理しました。その中に1枚の絵ハガキを見つけました。それは宛先が書かれていないニューヨークの絵ハガキでした。
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