パピヨンの紹介:1973年フランス映画。1931年に無実の罪で終身刑となりながらも脱獄に成功、後にベネズエラ市民権を取得して自由の身となったアンリ・シャリエールの自伝小説を映画化した作品です。無実の罪を着せられ、孤島刑務所に収監された主人公が、仲間と協力して脱獄に成功するまでの13年間を描きます。2019年には『ボヘミアン・ラプソディ』でアカデミー主演男優賞を獲得したラミ・マレックも出演するリメイク版が公開される予定です。
監督:フランクリン・J・シャフナー 出演者:スティーブ・マックイーン(パピヨン)、ダスティン・ホフマン(ルイ・ドガ)、ウッドロー・パーフリー(ヨーハン・クルジオ)、ロバート・デマン(アンドレ・マチュレット)、ドン・ゴードン(ジュロ)、アンソニー・ザーブ(トゥーサン)ほか
映画「パピヨン(1973年)」ネタバレあらすじ結末と感想
映画「パピヨン(1973年)」のあらすじをネタバレ解説。予告動画、キャスト紹介、感想、レビューを掲載。ストーリーのラストまで簡単に解説します。
パピヨンの予告編 動画
映画「パピヨン(1973年)」解説
この解説記事には映画「パピヨン(1973年)」のネタバレが含まれます。あらすじを結末まで解説していますので映画鑑賞前の方は閲覧をご遠慮ください。
パピヨンのネタバレあらすじ:起
1930年。金庫破りで逮捕されたひとりの男(スティーブ・マックイーン)は仲間に裏切られ、強盗殺人などいくつもの罪を着せられて終身刑の判決を受けてしまいます。男は胸に蝶のタトゥーがあったことから“パピヨン(蝶)”と呼ばれていました。
パピヨンは、二度と生きては戻れないと言われる、フランスの植民地である南米ギニアのサン・ローラン刑務所に送られ、死ぬまで続く過酷な強制労働を課せられることになりました。移送される囚人の中にはパピヨンの他にも、国債偽造の罪で逮捕された偽札作りのプロ、ルイ・ドガ(ダスティン・ホフマン)がいました。
脱獄を決意したパピヨンは囚人ジュロ(ドン・ゴードン)を通じてルイに交渉を持ち掛け、用心棒を買って出る代わりに、偽金で看守を買収して過酷な労働から逃れようとしましたが、看守の一人に偽国債事件で大損をしたものがおり、パピヨンとルイは密林地帯での非常に過酷な労働に従事されることになりました。
パピヨンとルイはボートの運転ができる囚人クルジオ(ウッドロー・パーフリー)に接触、月に数度、島の貴重な蝶を買いに来る商人(ドン・ハンマー)に大金を提示して1週間後にボートを手に入れる約束を取り付けました。
パピヨンのネタバレあらすじ:承
脱走を試みた者たちが無残にも処刑されていることから、最初は脱獄に躊躇していたルイも、過酷な日々に耐えかねてパピヨンの脱獄計画に乗る決意を固めました。そんな時、パピヨンとルイは囚人の死体を運ぶ仕事を命じられますが、それが処刑されたジュロであることを知ったルイは嘔吐して看守から暴行を受け、パピヨンはルイを庇って看守と揉み合い、そのまま脱走しました。しかし、パピヨンは商人の裏切りもあり、ハンターに捕まって独房に収監されてしまいます。
ルイは密かにパピヨンの独房に食べ物を差し入れていましたが発覚してしまい、差し入れした人物の名を吐くよう命じられたパピヨンはそれを拒み、食糧を減らされて死の危機に瀕してしまいます。半年後、独房での刑期が満了となったパピヨンはサン・ローラン刑務所に移され、そこで所長を買収していたルイと再会しました。ルイはパピヨンの行動に恩義を示し、ルイからまともな食べ物を与えられたパピヨンは体力を取り戻していきました。
ルイの妻は弁護士と共にルイを釈放させるよう動いており、ルイはパピヨンの減刑も依頼していることを明かしました。その後、グルジオの情報により、刑務所の医師の知人がボートを調達してくれることになり、パピヨンは、見回り役の囚人に絡まれそうになっていた同性愛者の若い囚人マチュレット(ロバート・デマン)を脱獄計画の仲間に引き入れました。
パピヨンのネタバレあらすじ:転
脱獄は外部からの来客が招かれる音楽会の日に決行することにし、パピヨンはルイを脱獄に誘いますが、ルイは妻の釈放運動を信じてここに残ると告げました。パピヨンはクルジオとマチュレットと協力して見回り囚人を殴り倒し、看守の警備を掻い潜って脱走しようとしましたがクルジオが捕まってしまい、パピヨンは看守に銃を向けられますが、危機を救ったのはルイでした。ルイもパピヨンやマチュレットと共に塀を乗り越えましたが、その際に足をくじいてしまいます。
パピヨンたちは密林を潜り抜け、医者の協力者に金を渡してボートを手に入れましたが、それは全く使い物にならないオンボロであり、しかもルイの足は骨折していました。そこに顔中にタトゥーを入れ、銃を構えた男が現れ、見張りのハンターを始末しておいたことを告げると、ボートを入手するためハンセン病患者の住むピジョン島に行くようパピヨンたちに助言しました。パピヨンたちはイカダを作ってピジョン島に向かい、パピヨンは集落の酋リーダーに協力を求めました。リーダーはパピヨンに度胸試しとして自分の吸っている葉巻を吸うよう勧め、パピヨンはそれに応じてボートを譲ってもらえることになりました。こうしてパピヨンら3人はピジョン島を離れて本土に向かいましたが、足の怪我が悪化して壊死状態に陥っていたルイはその片足を切断することになりました。
パピヨンの結末
パピヨンらはホンジュラス島に辿り着きましたが、たまたま囚人を護送していた地元に警察に見つかってしまいます。動けないルイを残し、パピヨンとマチュレットは二手に分かれて林に逃げ込みますが、パピヨンは吹き矢にあたって川に転落してしまいます。
パピヨンは地元原住民の集落に拾われ、そこで集落の女性と愛を育むと共に、殺害された商人の死体に自分と同じ蝶のタトゥーを掘らせて自らの死を偽装しようとしました。しかし、原住民たちはいつの間にか姿を消し、取り残されたパピヨンは残されていた真珠を売り、服を買ってバスで内陸に向かいました。しかしバスは途中で検問所に引っ掛かり、パピヨンは修道院の馬車に真珠を掴ませて乗せてもらい、残りの真珠を修道院長に渡すと自らの境遇を打ち明けました。しかし、修道院長は警察に通報してしまい、パピヨンは再び囚われの身となってしまいます。
5年後、すっかり老け込んでしまったパピヨンは独房から出され、周囲を激流とサメに囲まれた絶海の孤島“デビルズ島”へと送られることになりました。デビルズ島は監視も懲罰もありませんでしたが、脱出は絶対に不可能なことから囚人たちはこの島で大人しく死を待つしかなかったです。時を同じくしてマチュレットも独房から出されますが、既に衰弱しきっていたマチュレットは間もなく死亡、その死体は水葬でサメに食われていきました。
パピヨンはデビルズ島でルイと再会しますが、ルイは弁護士と再婚した妻に見捨てられており、すっかり絶望しきっていました。
パピヨンは激流を見つめているうち、ヤシの実を袋に詰めて浮き袋を作り、潮に乗っかって脱出する方法を思いつきました。数度も実験を重ねた末、パピヨンはタイミングを見計らってルイと共に脱出しようとしましたが、決行直前になってルイは行けないと言い出し、パピヨンと今生の別れの抱擁を交わしました。ルイは涙を流しながら見守るなか、浮き袋につかまったパピヨンは見事に流れを掴んで島から脱出、「俺は生きているぞ!」と大声で叫びました。その後、パピヨンは残りの人生を自由人として生き、ギアナの刑務所はその後間もなく廃止されました。
“人生の浪費という、大罪を犯させた権力に対する、執拗な抵抗と、自由への不屈の執念を描いた「パピヨン」”
1931年にアンリ・シャリエール(パピヨン)は、無実の殺人罪のため、南米フランス領ギアナへ流刑になりました。
それから13年にも及ぶ過酷な監獄生活の中で、何度も脱獄を試み、失敗した後、懲治監でのまるで地獄のような想像を絶する極限の生活に耐え抜き、最後に絶海の悪魔島からベネズエラへの脱出に成功して、遂に自由を勝ち得たのです。
彼(パピヨン)の異常で、過酷な体験をもとにした実録物は、1969年にフランスで出版されるや、今世紀最大の冒険ロマンとして読者の大きな感動を呼び、1973年までに世界17カ国で1,000万部以上の超ベストセラーになりました。
そのあまりの反響の凄さは、フランス政府を動かして、1970年に彼は特赦を受け、40年ぶりに晴れて母国フランスの土を踏みましたが、その喜びも束の間、1973年7月喉頭癌のため65歳でこの世を去りました。
彼のその生涯は、まさに無実に対する、絶える事のない苦闘と抵抗で費やされた一生でもありました。
この映画「パピヨン」の最も核となる重要なテーマを暗示するシーンである、かつて独房で見た悪夢の中で、パピヨンは、「自分の本当の有罪は人生の浪費である」と嘆きましたが、”ひとりの人間に人生の浪費という、大罪を犯させた権力に対する、執拗な抵抗と、自由への不屈の執念”が、まさにこの映画の基調であり、底流を流れる不変のテーマなのです。
この映画の脚本は、かつてアメリカでマッカーシズム(赤狩り)の嵐が吹き荒れていた、1947年の上院非米活動委員会から赤のレッテルを貼られて、アメリカ映画界から追放されたドルトン・トランボで、彼は証言拒否で1年の刑を科せられました。
その疑惑が晴れて、映画に関する活動を復活させたのは、1960年であり、その間、変名で不朽の名作「ローマの休日」(ウィリアム・ワイラー監督)のシナリオを書いたりと、つらい忍従の生活を強いられたのは有名な話です。
つまり、ドルトン・トランボ自身がパピヨンことアンリ・シャリエールと同様の無実の罪に泣いたのであり、”人間としての尊厳と誇りを奪った権力に対する、執拗な抵抗と、自由への不屈の執念”をこの映画に仮託して描いたのです。
ドルトン・トランボは、映画のファースト・シーンで敢えて刑務所長という役で出演して、自らの無念の思いを皮肉を込めて演じているのです。
主演のパピヨン役のスティーヴ・マックイーンは、「大脱走」(ジョン・スタージェス監督)や「ゲッタウェイ」(サム・ペキンパー監督)等の脱走物が得意な俳優ですが、彼自身も不遇な少年時代に感化院から4回の脱走を図っているそうで、彼のいつも何か憂いを含んだ哀しい瞳の奥に彼の過酷だった幼少期の人生をいつも感じてしまいます。
そして、彼のこの映画に賭ける凄まじい執念の演技は、観る者の魂を揺さぶり、感動させる素晴らしいものでした。
相手役の債券偽造のプロのドガ役のダスティン・ホフマンは、一見、気弱に見えますが、芯の強い個性に満ち溢れていて、「わらの犬」(サム・ペキンパー監督)ではあくどい不条理な暴力に対して、徹底的に反撃する物静かな数学者を演じて、オールラウンド的な彼の演技の幅の広さ、凄みを見せつけられました。
当時の大スターのスティーヴ・マックイーンと一流の演技派のダスティン・ホフマンという、二大俳優の初顔合わせとその演技のアンサンブルを観るというのが、この映画の大きな魅力になっているのも映画ファンとしては見逃せません。
監督はフランクリン・J・シャフナーで、彼は極限状態に追い込まれた人間が、全力で戦い抜くというテーマを追求し続け、「猿の惑星」や彼の代表作とも言える1970年度のアカデミー賞の最優秀監督賞を受賞した「パットン大戦車軍団」では、偏屈で政治性はありませんが、人間味と剛直さに溢れたパットン将軍という、カリスマ性に溢れた執念の男を、実に見事に描いていました。
音楽は、「猿の惑星」や「パットン大戦車軍団」でもフランクリン・J・シャフナー監督とコンビを組んでいる、ハリウッドを代表する映画音楽家のジェリー・ゴールドスミスで、彼のリリカルで哀愁を帯びた、心の琴線を震わす、この「パピヨン」のテーマ曲は、映画の感動と共にいつまでも心に残り、映画を思い出す度に鮮烈に甦ってくる永遠の名曲です。
この「パピヨン」のような、いわゆる”エスケイプ映画”は、”拘束からの解放をテーマとして束縛の苦しみ、自由への渇望、脱出への闘い、そして最後に手にする、限りなき自由の喜び”を描くものですが、この自由と不自由との落差が大きければ大きいほど、脱出のハラハラ・ドキドキのスリルと迫力が強烈になってきて、我々、映画ファンをスクリーンにくぎ付けにしてくれます。
フランスのような自由社会において、この映画で描かれたような悲惨な流刑制度が、最近まであったという事実は驚きでもありますが、社会体制が違っていても、人間の自由へのあくなき渇望の強さに変わりがない事は、ソルジェニーツィンの代表作の「収容所群島」を読んだ時にも感じた事であり、また彼の処女作でもある「イワン・デニーソヴィチの一日」の映画化作品を観ても、映画が描く”人間の、人間による拘禁の過酷さ、激烈さ、非情さ”は、我々現代人が忘れかけ、失いかけている自由への勇気と情熱をかき立ててくれます。