風とライオンの紹介:1975年アメリカ映画。20世紀初頭のアフリカ・モロッコを舞台に、イスラムの守護者を自認する盗賊の首領が辿る数奇な運命を、当時モロッコを蹂躙していた欧米列強の思惑も含めて描いた歴史スペクタクル作品です。
監督:ジョン・ミリアス 出演者:ショーン・コネリー(ムレー・アーメッド・ムハメッド・ライズリ)、キャンディス・バーゲン(イーデン・ペデカリス)、ブライアン・キース(セオドア・ルーズベルト)、ジョン・ヒューストン(ジョン・ヘイ)、ジェフリー・ルイス(サミュエル・グメール)ほか
映画「風とライオン」ネタバレあらすじ結末と感想
映画「風とライオン」のあらすじをネタバレ解説。予告動画、キャスト紹介、感想、レビューを掲載。ストーリーのラストまで簡単に解説します。
映画「風とライオン」解説
この解説記事には映画「風とライオン」のネタバレが含まれます。あらすじを結末まで解説していますので映画鑑賞前の方は閲覧をご遠慮ください。
風とライオンのネタバレあらすじ:起
1904年、欧米列強に支配されていた時代のアフリカ・モロッコの港町タンジール。白昼堂々と街を駆け回った馬賊の群れは高台にあるアメリカ人富豪のペデカリス家の豪邸に押し入り、次々と家人を皆殺しにした後、女主人イーデン・ペデカリス(キャンディス・バーゲン)とその12歳の長男ウィリアム(サイモン・ハリソン)と9歳の娘ジェニファー(ポリー・ゴッテスマン)の3人を誘拐して去っていきました。盗賊一味の首領は預言者ムハンマドの血を引く砂漠の王者を自認するムレー・アーメッド・ムハメッド・ライズリ(ショーン・コネリー)です。
風とライオンのネタバレあらすじ:承
ライズリ一味がイーデンらを誘拐した目的は、列強の言いなりになるライズリの甥でモロッコ太守のサルタン・アブデルアズィーズ(マーク・ズーバー)をけしかけて武力紛争を起こし、列強を撃ち払うためでした。一方、イーデス親子誘拐の知らせはアメリカ国防長官ジョン・ヘイ(ジョン・ヒューストン)を通じてセオドア・ルーズベルト大統領(ブライアン・キース)にもたらされ、ルーズベルトはこの事件を国威の昂揚に利用すべくイーデス親子の救出を宣言します。その頃、ライズリ一味はイーデン親子と共に砂漠と海が見える台地を進んでいました。やがてイーデンは男らしく誇り高いライズリに惹かれていき、二人の子供も一味と仲良くなっていきました。
風とライオンのネタバレあらすじ:転
その頃、アメリカのタンジール領事ガマーリ(ジェフリー・ルイス)はサルタンと交渉に臨みますが決裂、モロッコに展開していたアメリカ大西洋艦隊は海兵隊を差し向けてサルタンを拘束、ライズリに対してイーデン親子を解放すれば自由を保障すると取引を持ち掛けます。これは罠だと主張する地元の首長とイーデンの警告にも関わらず、ライズリは取引に応じてイーデン親子の身柄を海兵隊に引き渡しますが、罠にかかったライズリはドイツ軍に捕らえられてしまい、砦に収監されます。あまりにも汚い取引に怒りを覚えたイーデンは海兵隊に協力を要請、ライズリ奪還のためドイツ軍の砦に乗り込んでいきました。
風とライオンの結末
激戦の末にライズリは救出され、混乱に紛れてアメリカ軍はドイツ軍やフランス軍相手に武力行使を開始、ライズリの手下たちも加わって壮絶な死闘へと発展していきました。戦いはアメリカの勝利に終わり、ライズリ一味はイーデン親子に見送られて荒野へと去っていきました。後日、ホワイトハウスのルーズベルトの元にライズリから手紙が届きました。手紙には「あなたは風のごとく、私はライオンのごとし。あなたは嵐を巻き起こし、砂塵は私の眼を刺し、大地は乾き切っている。私はライオンのごとく己の場所に留まるしかないが、あなたは風のごとく己の場所に留まることを知らない」と書かれており、読み終えたルーズベルトは何かを考え込むように立ち尽くしていました。
「風とライオン」感想・レビュー
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ライズリーは確かに魅力的だ。ショーンコネリーが大スターだということがますます印象付けられる。それに対してルーズベルトは戯画的に表現されている。風とライオンという題名もなかなか詩的だ。
この映画「風とライオン」は、現代人の心を少年の素直さに引き戻す、郷愁とロマンティシズムにあふれた見事な男のドラマだ。
映画という虚構の中で描かれる男については、人間的な弱さや脆さを持ったダメ男が好きだ。
この現代において、ダメでない男のどこに魅力があるだろう。
だから、私は、そういうダメ男を主人公にした映画に魅かれてしまう。
だが、このジョン・ミリアス監督、ショーン・コネリー主演の「風とライオン」は違う。
この映画に登場するのは、ダメさのかけらもない、まぎれもなきヒーローなのです。
男の強さと、男の美しさと、男の優しさと、その全てを併せ持った”立派な男”の、なんと惚れ惚れする魅力なのだろう。
忘れていた”真の男”への夢が、いま鮮やかによみがえるのです。
限りない憧れをかきたてられ、慕情をうずかせて、この大スケールの映画のダイナミックな迫力に匂い立つ、途方もないロマンティシズムに、私はのめりこんでしまうのです。
この映画は、1904年のモロッコが舞台。
その資源と利権を狙って、世界の列強が介入してきて、しのぎを削る中、一つの誘拐事件が起きます。
タンジールに住むアメリカ人一家の邸宅を、騎馬の一隊が襲ってきて、未亡人のペデカリス(キャンディス・バーゲン)と、幼い息子と娘を誘拐していくのです。
この騎馬の一隊を率いるのは、黒装束に身をまとったリフ族の首長ライズリ(ショーン・コネリー)だ。
半白のヒゲとシワと、黒々と射る瞳の鋭さ。
初老の精悍さに、王者の風格と威厳が漂っているようだ。
そう、彼こそが、この映画の主人公であり、ヒーローなのです。
演じるショーン・コネリーが、かつての007シリーズでのジェームズ・ボンドのイメージを完全に払拭し、”見直す”というくらいじゃ追いつかないほど、男の私から見ても、本当に震えがくるほどに惚れ惚れしてしまうのです。
誘拐という行為は野蛮だけれども、それは列国の圧力からモロッコを救う、民族の栄光を賭けた狼煙だったのです。
この狼煙に乗じてアメリカ側は、一気に国力の拡大を図ろうとするのです。
第26代アメリカ合衆国大統領セオドア・ルーズヴェルト(ブライアン・キース)は、次期大統領選への思惑も絡んで、大西洋艦隊をモロッコへ派遣し、人質を生きたまま返すか、ライズリの首を渡すかと、派手なパフォーマンス的な宣言で、合衆国民の喝采を浴びるのです。
こうして、ライズリ対ルーズヴェルトの虚々実々の戦いが繰り広げられていくことになるのです。
囚われの身となった未亡人のペデカリスは、息子と娘をしっかり両脇に”蛮族”どもと砂漠の旅を続けるのですが、気丈にたじろがぬ彼女の威厳と激しさに、キャンディス・バーゲンの魅惑が輝いて、実に素晴らしい。
その彼女にとって、異教の徒のライズリは、その全てが謎だったのです。
誘拐を企んだ野蛮さを許せず、盗人を斬首する残酷さに吐き気をもよおすのですが、しかし、自分たち母子三人には紳士の礼をつくし、部下を叱咤する威風は辺りを払い、敬虔な祈りの姿を厳しさが包み、優しい微笑にぬくもりが広がるのです。
この砂漠に生きる男、そうしたライズリとは、なんであろうか? ——-。
父を持たぬ子供たちは、いつか彼に、父親への畏敬にも似た憧れを抱き、未亡人もまた心を開いていくのです。
ロマンの英雄ライズリが、その雄々しさで観ている私の魂を奪うのは、脱走した未亡人と子供たちが、手引きした男の手で不気味な山賊たちに引き渡され、あわや危難が迫る時、轟く銃声とともに馬上疾駆のライズリが、長剣を振るって敵をなぎ倒す場面だ。
ジョン・ミリアス監督は、心酔する黒澤明監督の「七人の侍」に魅入られて、このような戦闘シーンを撮りたかったのだと言う。
そして、ラストの30分にもわたる、今度は独仏の軍隊に捕らわれたライズリを、アメリカ海兵隊とリフ族が救出する一大戦闘シーンもまた見ものだ。
大砲とライフルと剣が入り乱れる。馬蹄の高鳴り。
ジェリー・ゴールドスミスの音楽が、ドラマティックな陶酔を呼ぶのです。
そして、その最後の一瞬に、私がこの映画の中で最も感動した、素晴らしい場面がきらめくのです。
未亡人の息子の少年と、馬上のライズリとのすれ違いざまの別れのシーンです。
少年は、リフ族のターバンを被り、ライズリ愛用の銃を捧げ持ち、再び、黒装束のヒーローとの瞬間の接触に、哀切の余韻が私の心の琴線を震わします。
この映画の題名の”風”とは、ルーズヴェルトを讃え、”ライオン”とは、自らをなぞらえた、ライズリの大統領宛ての書簡から取っているのです。
この映画は、現代人の心を少年の素直さに引き戻す、郷愁とロマンティシズムにあふれた見事な男のドラマだと思います。