嗤う伊右衛門(わらういえもん)の紹介:2003年日本映画。京極夏彦の同名小説を演劇界の重鎮蜷川幸雄が映画化した時代劇。東海道四谷怪談の主人公としてあまりにも有名な岩と夫の伊右衛門が実は相思相愛の夫婦だったという大胆な設定のもとで夫婦の悲恋が描かれていく異色の怪談映画です。
監督:蜷川幸雄 出演者:唐沢寿明(民谷伊右衛門 / 岩の夫)、小雪(民谷岩 / 伊右衛門の妻)、香川照之(又市 / 御行乞食)、池内博之(直助 / 伊右衛門の隣人)、椎名桔平(伊藤喜兵衛 / 筆頭与力)、ほか
映画「嗤う伊右衛門」ネタバレあらすじ結末と感想
映画「嗤う伊右衛門」のあらすじをネタバレ解説。予告動画、キャスト紹介、感想、レビューを掲載。ストーリーのラストまで簡単に解説します。
映画「嗤う伊右衛門」解説
この解説記事には映画「嗤う伊右衛門」のネタバレが含まれます。あらすじを結末まで解説していますので映画鑑賞前の方は閲覧をご遠慮ください。
嗤う伊右衛門のネタバレあらすじ:起
ある夜浪人の境野伊右衛門の家を直助が訪ねてきます。直助は伊右衛門に人を殺めたことがあるか、首吊りは苦しいものなのかと不可解な質問をします。なぜそんなことを聞くのかと問うと、直助は医者の下働きで病人ばかり見ているせいか気が滅入っているのだと愚痴ります。伊右衛門は人を殺めたことなどないと言ったものの、父の介錯をした時のことを今でも鮮明に覚えているのでした。御行の又市と灸閻魔の宅悦が御先手御鉄砲組筆頭与力の伊東喜兵衛の屋敷に乗り込んできます。娘が伊東に手込めにされたことを知った薬種問屋の主人から、傷物にされた娘をなんとか嫁として迎えるよう伊東を説得してほしいと依頼されたのです。しかし又市達の訴えに伊東は聞く耳を持つどころか、簡単に斬り捨てようとします。そこへ偶然にも居合わせ、両者の仲裁に入ったのが伊東の同心である民谷又左衛門でした。又左衛門が伊東を説得したおかげで娘は伊東の家に嫁として迎えられることとなり、又市は又左衛門に感謝します。民谷又左衛門には岩という年頃の一人娘がいます。疱瘡を患ったせいで醜くただれた顔を持つ岩には嫁の行き手がありません。娘の行く末を心配する又兵衛と家の存亡を願う岩のために、又市は婿を探してくることを約束します。その後直助の妹である袖が首吊り自殺をして発見され、直助は最愛の妹の死を深く悲しみます。岩の婿候補として名乗りを上げたのが伊右衛門でした。又左衛門は娘と結婚したいという者が現れたことが信じられない様子でしたが、伊右衛門は自分のような貧乏浪人とっては身に余る光栄な話だと言います。さらに岩が望まないならば、このまま顔を合わさずに祝言を挙げてもよいと言い切ります。又左衛門は民谷の家と岩を伊右衛門に託すことを決意し、その後伊右衛門と岩の祝言が華やかに行われます。
嗤う伊右衛門のネタバレあらすじ:承
新婚生活が始まりますが、伊右衛門は妻の顔を見るたびに詫びてしまい、岩はそんな夫をつい冷ややかに睨み返してしまいます。ギクシャクした夫婦関係が続く中で、又左衛門が倒れてしまいます。又左衛門は伊東喜兵衛が岩に執着を見せていたことを伊右衛門に話し、彼には十分に用心するように忠告してこの世を去ります。家督を継いだ伊右衛門は屋敷の修復などをしながらのんびりと暮らしていましたが、岩は暮らし向きをよくする努力を怠っていると夫につい小言を言ってしまいます。さらに自分の顔色ばかりを気にしている伊右衛門の女々しさを非難し始めます。気性の激しい妻の扱いに手を焼いていた伊右衛門は辛抱しかねて岩を強く叱りつけてしまいます。岩は醜い容姿を持ちながら結婚に踏み切るのにはどれほどの覚悟が必要だったか分かるまいと初めて自身の辛い心境を吐露します。妻の本心を知った伊右衛門は自分が見当違いをしていたことを詫びます。岩もまた伊右衛門に心を許すようになり、夫婦は次第に心を通い合わせていくようになります。伊東に呼び出された伊右衛門は岩との夫婦仲について詮索されますが、又左衛門の忠告を守り不要なことは喋りません。伊東は梅という若い女を伊右衛門に紹介します。梅は又左衛門の配慮により伊東家に嫁入りした薬種問屋の娘でしたが、実際には妾として囲われ不遇な日々を送っています。伊東の子供をお腹に宿している梅は伊右衛門に心惹かれていきます。その後伊右衛門は火盗の臨時の助役のため、長期間家を開けることになりました。ある日伊東から呼び出された岩は、伊右衛門の助役の話は嘘であり、女を囲って賭博に明け暮れていると聞かされます。さらにこの事が組頭に知られれば追放となるだろうと話し、岩に夫の放蕩を辞めさせるよう促します。しかし岩は毅然とした態度で生真面目な夫が女や賭博に走ったのならば、妻として未熟な自分のせいであり、夫に意見することなど到底できないと答えます。伊東は伊右衛門を更正させるには夫婦が離れて暮らすよりほかに道はないだろうと告げます。岩は自分が屋敷を出ていけば、伊右衛門の名に傷がつかず、お役目御免にもならずに済むのかと尋ねると、それならば問題ないと伊東が答えます。夫の行く末を案じる岩は伊右衛門と離縁し、みずから家を出ることを決意するのでした。
嗤う伊右衛門のネタバレあらすじ:転
半年後、川で夜釣りをしていた伊右衛門は妹の死後行方をくらましていた直助と再会します。伊右衛門の腕に抱えられた赤ん坊を見て驚く直助に、伊右衛門は自分の子供だと話します。直助は袖の仇討ちのため、医師の西田尾扇を殺してきたことを告白します。伊右衛門は行き場のない直助を哀れに思い、ひとまず自分の屋敷に来るよう告げます。屋敷へ帰ってくると、伊右衛門の後妻におさまった梅が二人を出迎えます。直助は尾扇の画策によって、袖を伊東に手込めにされたことを話します。伊右衛門は直助の次なる標的が伊東であることを知り、苦悩します。今も梅に会うため度々屋敷にやってくる伊東にこの事が知れれば只では済まないだろうと話すと、直助は小刀を自分の額に突き立て顔を切り裂き、あっという間に顔の皮を剥いでいきます。直助ではなく名無しの権兵衛として雇ってほしいと懇願された伊右衛門は彼の申し出を受け入れることにするのでした。半年後、岩は提灯張りの仕事をしながら、一人静かに暮らしていました。夫の将来を思い、家を飛び出してきた岩にとって、伊右衛門の幸せを願うことだけが心の支えとなっていました。そんな岩のもとを又市と宅悦が訪ねてきます。岩は伊右衛門が後妻を貰い、子をなしたことを聞くと自分のことのように喜びます。その後宅悦が今度は直助を連れて岩を訪ねてきます。直助はこれまで伊東がこれまで犯してきた悪業の数々を語りはじめます。伊右衛門が遊びに明け暮れていたというのもすべて伊東の作り話であり、邪魔になった梅と子供を伊右衛門に押し付けるために岩との仲を引き裂いたというのです。伊東に謀られたことを知った岩は何のために夫と家を捨てたのかと愕然とし、行き場のない怒りや憎しみを増幅させていきます。岩はなぜ知らせたと直助に凄むと、半狂乱になって暴れだし、止めようとする宅悦を叩きのめして殺してしまうのでした。伊右衛門が夜釣りをしているところへ岩が現れます。正気をすっかり失い、恨めしいとただ呟く岩を伊右衛門が強く抱きしめます。そして決して一人にはしないと岩に囁くと、静かに刀を抜くのでした。
嗤う伊右衛門の結末
伊右衛門が屋敷に戻ると、梅が子供を岩に奪われてしまったと訴えます。外へ飛び出していった伊右衛門は赤ん坊が雑木林の中で仰向けになって死んでいるのを発見してしまうのでした。赤ん坊の亡骸を抱きしめ泣き崩れる伊右衛門に、伊東は子供をさらった岩を見つけ出して殺せと命じますが、伊右衛門は子供の弔いが済んだら決着をつけるとだけ告げます。頼まれていた蒔絵の櫛を渡すため、伊右衛門の屋敷を又市が訪ねてきます。又市は蚊帳の中の桐箱の上で静かに正座する伊右衛門の姿を見てただならぬ雰囲気を感じ取ります。伊右衛門が梅にこの屋敷を去るよう説得しているところへ伊東が入ってきます。伊東はいつものごとく伊右衛門を愚弄しはじめますが、伊右衛門は伊東の挑発にもまったく乗ってきません。興ざめした伊東はひとまず引き上げようとしますが、そこへ入ってきた直助により腹を刺されます。伊東は素早く刀を抜くと直助を切り裂き、苦しみもがく直助をいたぶり始めます。直助は伊東に弄ばれた妹の身体を清めるためだと言って袖を抱いてしまったことを告白します。そして自分が死ぬこそ袖の仇討になると叫ぶと、伊東をあざ笑うかのように自害して果てるのでした。直助が絶命する様子を静かに見ていた伊右衛門でしたが、梅を呼びつけると子供を殺したなと問います。弁解を始めようとする梅をすばやく刺し殺したと思うと、蚊帳の外に出て今度は伊東の腹を切り裂きます。そして力尽きてその場に座り込む伊東の首を斬り落とします。返り血を浴びて佇む伊右衛門の名を呼ぶ又市でしたが、伊右衛門は亡き又左衛門に話しかけるように岩は俺の妻だ、誰にも渡さぬと呟くのでした。それから一年後すっかり朽ち果てた岩谷の屋敷を遠縁にあたる余茂七という男が訪ねてきます。庭の稲荷社で拝んでいた又市に何をしているのかと声を掛けると、又市は伊右衛門と岩を弔いに来たと告げます。その時どこからともなく男女の笑い声を聞こえてきます。余茂七と又市が奥の座敷に残された大きな木箱を空けてみると、中から無数の蛇やネズミが這い出してきます。おそるおそる中を除けば、伊右衛門が白骨化した岩を抱いたまま眠る様に息絶えていました。白い打掛けを着せられ、頭には美しい蒔絵の櫛を差した岩を大事そうに抱き寄せる伊右衛門、余茂七には二人が笑っているかのように見えるのでした。
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