誘拐の紹介:1997年日本映画。映画脚本コンクール「城戸賞」を受賞した脚本家・森下直によるオリジナルストーリーを『ゴジラ』シリーズの大河原孝夫監督が映画化したサスペンス作品です。ある企業の常務が誘拐され、犯人は東京のど真ん中で身代金受け取りを要求。テレビで生中継される中、身代金を運ぶ刑事たちの顛末とは…。そして事件の裏に隠された真相とは…。
監督:大河原孝夫 出演者:渡哲也(津波浩)、永瀬正敏(藤一郎)、酒井美紀(米崎マヨ)、磯部勉(安藤刑事)、岡野進一郎(佐々木刑事)、渕野直幸(田畑刑事)、西川忠志(中本刑事)、木村栄(門田刑事)山本清(山根伸一)、西沢利明(神崎守)、江藤漢(狭間兼人)、大木史郎(権藤吉次郎)、石濱朗(跡宮壮一郎)、新克利(折田英正)、柄本明(橘警視)ほか
映画「誘拐(1997年)」ネタバレあらすじ結末と感想
映画「誘拐(1997年)」のあらすじをネタバレ解説。予告動画、キャスト紹介、感想、レビューを掲載。ストーリーのラストまで簡単に解説します。
誘拐の予告編 動画
映画「誘拐(1997年)」解説
この解説記事には映画「誘拐(1997年)」のネタバレが含まれます。あらすじを結末まで解説していますので映画鑑賞前の方は閲覧をご遠慮ください。
誘拐のネタバレあらすじ:起
ある日曜日の早朝、「東昭物産」常務の跡宮壮一郎(石濱朗)が何者かに誘拐されるという事件が発生しました。翌日、犯人は「東昭物産」に対して身代金3億円を要求、更には受け渡しの様子を何とテレビで生中継するよう要求してきました。東京上空には何機もの報道ヘリが飛び交い、何十台ものテレビカメラと数百人の報道陣、無数の野次馬が押し寄せるなか、運び役に指名された「東昭物産」関連会社の「東昭開発」監査役・神崎守(西沢利明)は3億円の入った計3個、総重量30kgものアタッシュケースを担いで東京の街中を指定場所へと走っていきました…。
…事件前日。ロス市警殺人課に勤務していた若き刑事・藤一郎(永瀬正敏)は日本の警視庁へ異動となり帰国してきました。警視庁の橘警視(柄本明)は藤を捜査一課に配属し、ベテラン刑事の津波浩(渡哲也)とコンビを組ませることにしました。津波は米崎マヨ(酒井美紀)という若い女性と同棲していました。
事件当日の朝。津波は藤のプロファイル能力を試しているところに、跡宮が誘拐されたとの無線連絡が入ってきました。犯人はボイスチェンジャーで声を変えて警察とマスコミに犯行声明を送り、犯人から「東昭物産」本社ビルの役員室で待機するよう要求された警察側は役員室に捜査本部を設けました。目撃者の証言によると、箱根でのゴルフコンペに参加していた跡宮はお抱え運転手の狭間兼人(江藤漢)と一緒に連れ去られたとのことでした。それから間もなく、犯人から身代金要求と神崎を運び役に指名する内容のメッセージが送られてきました。犯人は全てのテレビ局に身代金の受け渡しの生中継を要求、藤はこれが犯人側が神崎の身代わりを使えなくさせるのが目的だと推測、犯人像は自意識過剰な人物なのだろうと考えました。
誘拐のネタバレあらすじ:承
かくして事件発生翌日、沿道に民間人に変装した刑事たちが配置される中、神崎は白バイの先導のもと、指定された都庁第1庁舎前の公衆電話までアタッシュケースを車で運ぶことになりました。沢山の報道陣に囲まれながら神崎は指定場所に辿り着きましたが、今度は犯人は「予定より3分遅れだ」として徒歩で新宿・歌舞伎町の新宿プラザ前まで運ぶよう指示してきました。神崎はカメラに向かって「警察はここまでだ」と言わされ、アタッシュケースを担いで何とか新宿プラザまで辿り着きました。犯人は公衆電話を通じ、今度は国立競技場まで運ぶよう命じてきました。
国立競技場まで到着した神崎は青山5丁目まで運ぶよう命じられしたが、犯人が公衆電話の下に隠していた1枚の紙を見た瞬間に心筋梗塞の発作を起こして倒れてしまいました。報道陣に扮していた津波と藤が神崎の元に駆け寄るなか、犯人は対策本部の橘警視に電話をかけて「ゲームオーバーだ」と告げました。
国立競技場で見つかった紙は何かの名簿らしきものであり、藤は科捜研に名簿の解析を依頼することにしました。間もなく犯人から次の指示があり、次の運び役には「東昭銀行」専務の山根伸一(山本清)が指名されました。山根は断固として要求を断るつもりでしたが、「東昭物産」会長は人命を優先して犯人の要求を受け入れました。その夜、藤はマヨから津波との過去の話を聞かされました。マヨは兄と共に麻薬の密売に手を染めていたのですが、兄は1年前に津波に射殺され、マヨは兄の復讐のために津波の腹をナイフで刺したのです。津波はあえてマヨの刃を受け、仲間の刑事にはマヨを庇ってこのことを一切告げませんでした。それから津波はマヨの身元引受人となったのですが、代償として痛み止めを欠かせない体になっていました。
翌日、山根は犯人から名簿のコピーを送り付けられて驚愕しました。山根は神崎と同様に3億円の入ったアタッシュケースを担ぎ、マスコミに取り囲まれながら東京都内を走り回りました。山根は増上寺まで金を運ぶよう命じられ、公衆電話近くのゴミ箱に用意されていたバッグに金を詰め替えるよう要求されました。増上寺に着いた山根は次は新橋のガード下まで行くよう命じられ、藤は犯人像はわざわざ社会的地位のある人間をゲーム感覚で走らせる愉快犯なのではと推測しました。しかし、津波は「お前の考えは捜査を混乱させるだけだ!」と藤に掴みかかりました。その時、山根は力尽きて倒れてしまい、津波は「俺が運んでやる!」と山根の代わりにバッグを担いで走り出しました。
誘拐のネタバレあらすじ:転
津波はマスコミに取り囲まれながら新橋に向かって走り始め、藤もその後を追いました。犯人は運び役交代を許可したうえで津波に金を都営地下鉄浅草線新橋駅まで運ぶよう命じました。続いて津波は新橋駅近くの老夫婦が営む喫茶店へ向かわされ、店の電話を取ったところ、犯人から「あんた、刑事だろう? 取り引きを中止したくなければ盗聴器を外せ。どうして山根の行き先を知っていたのだ?」と見破られてしまいます。津波はテレビカメラの前で盗聴器を壊し、店の庭先に隠されていた地図から次は日比谷公園に向かうよう指示されました。そして津波も途中で力尽きて倒れてしまい、報道陣に紛れて捜査本部と連絡を取り合っていた藤が「これはゲームじゃないんだよ!」と駆け寄り、自ら津波の代わりにバッグを担いで日比谷へ走り出しました。予定時間に間に合わせるため、藤は自転車を借りて全速力でマスコミを振り切りながら日比谷へ急ぎました。
日比谷公園に着いた藤は、公衆電話の近くにあった携帯電話から「今度は若造のデカか」と言われ、所持している携帯電話とトランシーバーを捨てるよう命じられました。犯人は藤に「電話を切るな」と告げて車を奪わせ、捜査本部には「ショーは終わりだ。中継を中止しろ」と要求してきました。
藤は首都高へ向かわされ、警察は藤の行方を見失ってしまいました。警察の要請で生中継は全て中断されるなか、藤は非常駐車帯にバッグを置いてすぐに立ち去るよう命じられました。藤は要求に従いましたが、犯人は「人質を解放するのはブツを確認してからだ」と告げると電話を切りました。藤の要請ですぐさま津波や警官たちが非常駐車帯を見張りましたが、いつまで経っても犯人は姿を現しませんでした。不審に思った藤たちはバッグを確認してみると、中身はいつの間にか古新聞の紙切れにすり替えられており、中には「東昭物産」宛ての領収書が入れられていました。
警視庁は改めて情報を精査しましたが、誘拐された跡宮と運び役に指名された神崎・山根は同じ「東昭グループ」という共通点があること以外は特に有力な手掛かりは見つかりませんでした。津波と藤は、犯人の真の目的は金ではなくあくまでも神崎と山根を何が何でも走らせるためだったと推理しました。藤はどうしても犯人が名簿のコピーを送り付けてきたことが気になっていました。科捜研の調査により名簿は「下」と「佐」の文字がある地名に関係することまでは判明しましたが、当てはまる地名は日本中のどこにも見当たりませんでした。
その夜、津波の自宅に招かれた藤は、津波の亡き妻と子の写真を見せられました。津波は、幼くして亡くなった息子は生きていれば藤と同じ26歳になっていたと語りました。
その後、津波と藤は、跡宮は誘拐の前日に都内の高級ホテルである人物と会っていたという情報を得ました。津波と藤はその人物を特定しようとしましたが、その矢先に津波は突然体調を崩してしまいました。津波は病院で診察を受け、付き添ったマヨは医師から呼び止められました。
誘拐の結末
誘拐前日に跡宮と会っていたのは元弁護士の折田英正(新克利)であることが判明しました。折田は4年前に依頼者の女性を乱暴したとして逮捕され、無実を主張するも有罪となり弁護士資格を剥奪されていました。折田は26年前に山梨県の「下加佐村」で発生、地下水汚染で多数の死者を出した「アキワ公害訴訟」に関わっており、藤は名簿が下加佐村と関係しているのではと睨みました。跡宮は26年前、下加佐村にあった「アキワ廃棄物最終処分場」に技術指導員として出向していました。津波は部下に4年前の折田の事件を再調査するよう命じ、自らは藤と共に山梨へ向かうことにしました。
山梨県甲府市に着いた津波と藤は当時の訴訟の資料を入手しました。下加佐村の地下水汚染は「アキワ」の主導による産業廃棄物の不法投棄が招いたものであり、下加佐村出身の折田は「被害者の会」を結成した地元住民側の弁護を請け負ったのですが、裁判は住民側の敗訴に終わり、「アキワ」は何の責任も問われることはなかったのです。犯人が送り付けてきた名簿のコピーは被害者の会の参加者や公害の犠牲者の名簿だったのです。そして下加佐村は今ではダムの底に沈んでいました。
その後の捜査で、「アキワ」は「東昭グループ」の子会社であり、山根は「アキワ」の関係者、神崎は「アキワ」の産廃処理場の建設を請け負った下請け建設会社の担当者であったことも明らかになりました。そして折田の4年前の事件も「東昭グループ」と繋がりのある暴力団が、当時の証人を探している折田を貶めるために仕組んだことも判明しました。そして折田が追っていた証人も既に他界していました。藤は、犯人の目的は下加佐村の悲劇を後世に伝えることだったのではないかと考えました。津波は折田こそが跡宮誘拐の主犯だとして逮捕状を請求しようとしましたが、その矢先に血を吐いて倒れてしまいました。マヨは医師から、津波は末期の胃ガンであることを宣告されていたのです。
被害者の会の名簿を調べた藤や同僚刑事たちは改めて関係者を洗い直し、その結果、跡宮の運転手である狭間、跡宮誘拐の目撃者、津波が立ち寄った新橋の喫茶店のマスター夫婦らがいずれも「アキワ」の公害で家族を亡くした下加佐村の元住民だったことを突き止めました。新橋の喫茶店は既に店じまいしており、関係者は全員行方をくらましていました。藤は改めて犯人が指示した山根・津波・自分の足取りを振り返り、3億円をすり替えることができる唯一の機会はあの喫茶店だったのではないかと考えました。ところが、藤は通行人に絡まれてトラブルを起こし、自宅謹慎にされてしまいました。
それでも藤は、津波を胃ガンに追いやったことで自責の念に駆られるマヨの涙に奮起し、改めて病床の津波に助言を求めました。藤は、犯人は複数犯であること、そして下加佐村の住民たちから絶大な信頼を受けている人物こそが犯人グループのリーダー格だと分析しました。津波は「証拠を集めて逮捕する。これが俺たちの使命だ」と告げました。藤は独自に捜査を続行しました。
事件から1週間が過ぎ、「東昭グループ」が関与する収賄疑惑で特捜部が動くことになりました。その直後、跡宮は甲府市内で無事解放されたとの知らせが入り、藤は津波の入院する病院に向かいましたが既に津波の姿はありませんでした。病室には警察手帳と手錠が置かれていました。
藤は名簿の中から「村瀬浩」という人物の名前を見つけていました。村瀬家に婿入りしたこの人物の妻子はいずれも公害の犠牲となっており、この人物こそが津波浩その人であること、そして山梨県出身の津波は下加佐村の駐在だったことを突き止めました。
藤は下加佐村が沈んでいるダムに向かい、湖畔に佇む津波を見つけました。藤は喫茶店で3億円をすり替えたのはマスター夫婦の協力を得た津波本人であることを見抜いており、目撃者の証言も狭間が拉致されたというのもでっち上げであり、実は跡宮を拉致したのは折田と共謀した津波であることも見破っていました。藤は状況証拠として、津波が跡宮を拉致したホテルで落としたYシャツのボタンを提示しました。津波は「よくやった」と全ての罪を認め、今回の犯罪を起こしたのは妻子の復讐のためであり、自らの胃ガンは公害に起因するものであることを打ち明けました。藤は津波が跡宮たちに強い憎しみを抱きながらも殺さなかったことに触れると、津波は共犯者たちの罪をできるだけ軽くするために自ら全ての罪を背負って警察を辞めたことを指摘しました。折田、狭間、喫茶店のマスター夫婦、目撃者ら共犯者全員は奪った3億円を持って出頭していました。
津波は跡宮たちを殺さなかったのは死んだ息子から「もういい。穏やかに生きてくれ」との声を聞いたからだと語り、「主犯は俺だ」と藤に自分を逮捕するよう命じました。藤は津波の死んだ息子が自分と同い年であることに何か因縁めいたものを感じ取り、泣きながら津波の両手に手錠をかけました。時は流れ、山根はマスコミに26年前の事件の真相を全て暴露し、「アキワ」側は住民に謝罪して和解案を提示しました。藤とマヨは下加佐村が沈む湖畔に行きました。既に津波はこの世を去っており、マヨは故郷には戻らず東京で頑張るとの決意を藤に語りました。藤は事件解決の功績でエリートばかりの部署への栄転が決まっていましたが、藤は津波の遺志を継いでもう少し捜査一課で頑張ると語りました。
以上、映画「誘拐」のあらすじと結末でした。
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