あんの紹介:2015年日本映画。「やり残したことはありませんか」。訳ありの過去を持つどら焼きやの雇われ店長が、美味しいあんの作り方を知っている老女や訳ありの女子中学生との出会いを通じて生きる意味を見出していきますが、老女には壮絶な過去がありました・・・。ドリアン助川の同名小説を『萌の朱雀』『殯の森』などの河瀬直美監督が映画化、差別や偏見にも屈せず、己の信念を貫いた元ハンセン病患者の老女と周囲の人々の心のふれあいを丁寧に描きあげたヒューマン・ドラマです。主演の樹木希林は孫である内田伽羅と二度目の共演を果たしています。
監督:河瀬直美 出演者:樹木希林(吉井徳江)、永瀬正敏(千太郎)、内田伽羅(ワカナ)、市原悦子(佳子)、浅田美代子(どら春のオーナー)、水野美紀(ワカナの母)、仲野太賀(陽平)、兼松若人(若人)ほか
映画「あん」ネタバレあらすじ結末と感想
映画「あん」のあらすじをネタバレ解説。予告動画、キャスト紹介、感想、レビューを掲載。ストーリーのラストまで簡単に解説します。
あんの予告編 動画
映画「あん」解説
この解説記事には映画「あん」のネタバレが含まれます。あらすじを結末まで解説していますので映画鑑賞前の方は閲覧をご遠慮ください。
あんのネタバレあらすじ:起
満開の桜の季節。どら焼き屋「どら春」の雇われ店長である千太郎(永瀬正敏)は、毎日黙々とどら焼き屋を焼き続けていましたが、店はあまり評判が良くなく客もまばらでした。そんなある日、 吉井徳江(樹木希林)と名乗るひとりの老女がアルバイト募集の張り紙を見て「どら春」にやってきました。
徳江は時給300円でいいから雇ってほしいと頼み込んできました。困惑した千太郎は徳江を追い払いましたが、徳江はまた来ると告げて引き上げました。「どら春」には徳江の他にも、出来損ないのどら焼きの皮をもらいに来る女子中学生のワカナ(内田伽羅)が訪れていました。
やがて徳江は再び「どら春」を訪ねてきました。徳江は50年もの間あんを作り続けてきたと語り、これを食べてみてほしいと告げて自作のつぶあんを置いて去っていきました。あんを食べた千太郎はいたくその味に感激し、夜の居酒屋でワカナと会った際にこれまでのあんよりも味も香りも格段に優れていることを酔いながら興奮気味に語りました。
あんのネタバレあらすじ:承
桜の花が散った頃、千太郎は久しぶりに訪れた徳江を雇い入れることにしました。徳江はどら焼きはあんが命だと説き、二人はまだ日の昇る前から仕込み作業を始めました。徳江はまるで小豆一粒一粒の声を聴くかのように丹精込めてあんを作り、やがて甘党ではなかった千太郎をも虜にしてしまうようなどら焼きが完成しました。それからというもの、「どら春」のどら焼きは近所で評判となり、店には行列ができるようになっていきました。
一方、ワカナはシングルマザーの母(水野美紀)と暮らしていましたが、決して関係は良いものではありませんでした。ワカナは黄色いカナリアの“マーヴィー”を飼っていました。そんなワカナの心の拠り所は「どら春」と徳江でした。
しかしある日、「どら春」のオーナー(浅田美代子)が血相を変えて千太郎のもとにやってきました。
あんのネタバレあらすじ:転
オーナーは知り合いから聞いた噂話として、徳江は実はハンセン病患者なのではないかとの疑いを抱いていました。徳江は身体が少し不自由であり、何より徳江が住所としていたのは実はハンセン病患者を隔離する療養所だったのです。治療法が確立した現在でも患者は偏見の目に遭っており、オーナーは世間の目を気にして直ちに徳江を解雇するよう千太郎に迫りました。
千太郎は少し時間がほしいと告げ、引き続き徳江を雇い続けることにしました。そして千太郎は徳江に接客も任せるようになっていきましたが、ある時、客に指が曲がっていることを見抜かれてしまいました。
噂は広がり、「どら春」からは客足がバタリと消えてしまいました。徳江は責任を背負って店を辞め、彼女を守れなかった千太郎は自分を責めました。千太郎は自力であんを作ろうとしましたがどうしても上手くいかず、やりきれない気持ちで仕事をしていると徳江から手紙が届きました。
そこには「あんを炊いている時の私は、いつも小豆の言葉に耳を傾けていました。ヒイラギが店長さんに声をかけろと言うんです。迷惑かけてごめんなさい」と書かれてありました。
そんなある日、家出してきたワカナが千太郎の元を訪れてきました。
あんの結末
ワカナは以前に徳江にカナリアのマーヴィーを譲る約束をしていました。千太郎はワカナの提案で徳江の住む療養所に向かい、久しぶりに彼女と再会しました。体調の衰えていた徳江はかつてこの施設に入った時のことを悲しげに語り、「店長さん、楽しかったです」と感謝の言葉を伝えました。
「どら春」のオーナーはかねてから可愛がってきた甥(兼松若人)に店を継がせる決意をしており、オーナーから借金をしていた千太郎はどうすることもできないでいました。千太郎は徳江に手紙を書き、自分はかつて酒場で喧嘩をして相手に重度の障害を負わせてしまい、服役していた過去を打ち明けました。
千太郎とワカナは再び徳江の元に向かいましたが、時すでに遅く、徳江は3日前にこの世を去っていました。千太郎は徳江の施設での友人である佳子(市原悦子)から遺言の入ったカセットテープとあん作りの道具を託されました。
遺言にはカナリアを放していたこと、もし自分に子供がいたら千太郎と同じくらいになっていたであろうこと、そして「私たちには生きる意味がある」と綴られていました。
徳江はソメイヨシノの木のそばに葬られました。そして桜の花が咲く季節、千太郎は今日も必死に前を向いてどら焼きを売り続けていました。
以上、映画「あん」のあらすじと結末でした。
全編を通して桜が効果的に使われています。どら焼きに花びらが落ちかかるシーン、花に包まれた徳江のシーン、満開の桜に埋め尽くされたラストシーンなど。桜に始まり桜に終わる一本です。原作者は実際に料理教室に通って作り方を習得したというどら焼きの餡は、じつに美しく映像化されています。樹木希林さんの演技も見どころです。