夜ごとの夢の紹介:1933年日本映画。伝説の女優、栗島すみ子主演、成瀬巳喜男監督作品。当時、おなじ松竹蒲田撮影所でメガホンをとっていた小津安二郎監督の初期作品と酷似したテーマ、作風に仕上がっています。小津とおなじ撮影所で働いていたことは、成瀬を語るうえでは欠かせません。成瀬はのちに東宝の前身である映画会社PCLに移籍しますが、移籍の経緯はともかく、この映画を観る限り小津の影響は小さくありません。松竹蒲田の若き才能が小津の向こうを張る意気込みによって芽吹いています。
監督: 成瀬巳喜男 出演者:栗島すみ子(おみつ)、小島照子(子・文坊)、齋藤達雄(男)、新井淳(隣の人)、吉川満子(その妻)、坂本武(船長)、大山健二(船員)、小倉繁(船員)、飯田蝶子(女将)、沢蘭子(おみつの友達)ほか
映画「夜ごとの夢」ネタバレあらすじ結末と感想
映画「夜ごとの夢」のあらすじをネタバレ解説。予告動画、キャスト紹介、感想、レビューを掲載。ストーリーのラストまで簡単に解説します。
夜ごとの夢の予告編 動画
映画「夜ごとの夢」解説
この解説記事には映画「夜ごとの夢」のネタバレが含まれます。あらすじを結末まで解説していますので映画鑑賞前の方は閲覧をご遠慮ください。
夜ごとの夢のネタバレあらすじ:起
一見して玄人だと分かる酒場の女、おみつ(栗島すみ子)が旅先から帰ってきました。着くずした和服姿が当世風のイイ女です。背後には海が広がり、船が行き交っています。桟橋を所在無げに歩いてくるおみつを見かけた船員ふたり(大山健二、小倉繁)がおみつに声をかけてきます。
「ひさしぶりだな、おみつ」。「元気だったか」。船員たちは、口々に挨拶をしておみつをひき止めます。「タバコを1本おくれな」。おみつがねだると、船員たちは競ってタバコをさし出します。女に従順な男におみつはご満悦です。「船で遊んでいかないか?」と誘われますが、「今晩お店へおいでよ」とおみつは商売っ気たっぷりです。下卑た視線を迎え、そして突き放すように、おみつは立ち去って行きました。
桟橋には乗合船が停泊中です。定期航路の渡船に乗りこむおみつに周囲の視線が注がれます。目を惹く女ですが、「身持ちの悪い女だよ」と周囲からはあからさまな目で見られます。「なんだよ」とおみつは気にしません。渡船は、いまでいう循環バスのような乗物です。おみつが船を下りたのは、労働者や職人たちが暮らす集合住宅の立ち並んだ一角です。
夜ごとの夢のネタバレあらすじ:承
おみつがアパートの一室を開けると、小さな子どもが飛びついてきました。おみつの子、文坊(小島照子)です。おみつが旅に出ていた10日余りの間、文坊を自室で預かってくれたのが、隣の部屋のおばさん(吉川満子)です。母子は10日ぶりの再会です。おばさんも抱き合うふたりを見て満面の笑みをたたえています。近所に身寄りのないおみつにとって、おばさんはかけがえのない隣人です。
おみつが留守の間に二度、見知らぬ男が訪ねてきたとおばさんが教えてくれます。心当たりがあるのかないのか、おみつは不審な顔つきです。おばさんは、夜の勤めを続けるおみつが気掛かりです。文坊のためにも堅気の生きかたをしてほしいとおばさんは願っています。しかし、どこで染みついたのか、おみつには、浮草的な生き方を好む性癖があるようです。
夜の店で働くおみつはナンバーワンのホステスです。日頃の憂さを忘れていたいのか、店ではにぎやかに客と騒ぎます。昼間、桟橋にいた船員たちもおみつ目当てに酒場へ来ています。そのおみつが真顔で店の女将(飯田蝶子)に借金を請います。女将には、はねつけられますが、話を聞いていた船長(坂本武)が懐から金を差し出します。このネタでおみつを自分の女にしようとするズルい魂胆です。
夜ごとの夢のネタバレあらすじ:転
おみつは、船長から借りた金でその夜、文坊へおみやげを買い、隣室の夫婦へ日頃の感謝の意を表します。夫婦は頑として断りますが、文坊を女手ひとつで育てることの困難をおみつは知っています。文坊のことになると、すれっからしのおみつにも血の通った母親らしい情が湧いてきます。そこへ留守の間に二度おみつを訪ねてきたという、文坊の父親が現れます。
男(齋藤達雄)は、以前おみつと関係を持ちながら、性根のなさを理由におみつのもとを去った男です。おみつは自分を置いて去った男が許せません。しかし、男のみすぼらしい恰好や芯の弱さにしだいに情が移って行きました。かつては愛した男でした。いまでも嫌いなわけではありません。男の言うことが「真心ならば」と、もとの鞘に収まることになりました。
「俺は仕事には不仕合せな男だからなあ」と、働き口の決まらない男は、運気をわざわざ下げることを口にします。おみつも文坊も一家の主の誕生に気を良くしていますが、主そのひとが家族の幸せにちょっかいを出すようなことを口にします。幸い文坊への接し方には人一倍心を注ぎ、文坊もよくなついています。しかしおみつには男の生活能力のなさが気掛かりです。
夜ごとの夢の結末
船長は、おみつをものにしようと、毎晩店へ通ってきます。それを知った男は、これからは自分が働くからと、おみつに店を辞めるよう勧めます。しかし、望みを託した面接先では不採用になってしまいました。さらに追い打ちをかけるように文坊が交通事故に遭ってしまいます。
幸いに文坊は大事にいたらず、ケガも打撲程度で済みますが、一家には文坊の治療費を捻出する力がありません。金策に出かけようとするおみつをひき止め、男は金の工面に出かけます。とはいえ、頼るアテはありません。街が寝静まるのを待って、とあるビルへ強盗に押し入ります。金は手に入れましたが、巡回中の警備員に見つかり、警備員から警察へ、そして刑事へと捜査網が敷かれ、追われる身となりました。
刑事の拳銃の弾を腕に受けた男がアパートへ帰ってきます。ただならぬ気配を察したおみつが自首を勧めます。おみつは盗んだ金を手にしません。母子を想う必死の金策でしたが、あえなく拒絶され、男は捜査網の敷かれた街へ再び出て行くことになりました。完全に道をふさがれた思いにいたったのでしょう、翌朝早く、近くの川の淵から溺死体となった男が発見されました。
以上、映画「夜ごとの夢」のあらすじと結末でした。
素晴らしい「成瀬ワールドの「やるせなさ」に「哀しみ」が増しました「成瀬マジックの「子供の「自動車事故」は「限りなき舗道」ラスト遺作「乱れ雲の「加山雄三」に引き継がれました!
成瀬ワールドの「原点」にサイレントながら、引き込まれました!