影裏の紹介:2020年日本映画。2017年、デビュー作が芥川賞受賞となった沼田真佑の短編小説「影裏」。作者自身が住む盛岡を舞台にしたこの作品は、主人公の青年が失踪した親友を探すうちにその本当の姿に近づき、やがてその喪失から立ち直っていく物語である。監督は「るろうに剣心」シリーズなどヒット作を多数手掛ける大友啓史。大友自身も盛岡出身であり、開局50周年記念作品を検討していたテレビ岩手のオファーを受け映画化が実現した。その大友が出演を熱望したという綾野剛と松田龍平が主演をつとめ、監督の期待にこたえている。
監督:大友啓史 出演:綾野剛(今野秋一)、松田龍平(日浅典博)、國村隼(日浅征吾)、筒井真理子(西山)、中村倫也(副島和哉)、永島暎子(鈴村早苗)、安田顕(日浅馨)、平埜生成(清人)
映画「影裏」ネタバレあらすじ結末と感想
映画「影裏」のあらすじをネタバレ解説。予告動画、キャスト紹介、感想、レビューを掲載。ストーリーのラストまで簡単に解説します。
影裏の予告編 動画
映画「影裏」解説
この解説記事には映画「影裏」のネタバレが含まれます。あらすじを結末まで解説していますので映画鑑賞前の方は閲覧をご遠慮ください。
影裏のネタバレあらすじ:起
2009年夏。医薬品を扱う会社で営業の仕事をしている今野秋一(綾野剛)は、ひと月前にこの盛岡へ出向してきたばかり。まだ職場にも地域にも慣れていない今野に声を掛けてきたのは、同じ会社の物流課で働く日浅典博(松田龍平)でした。珍しい銘柄のタバコを吸っている日浅は今野と同じ年で、二人はよく会話をするようになっていきます。
ある日突然、今野の住むアパートに日浅が日本酒の一升瓶を持って訪ねてきました。お互い酒が好きで、夜遅くまで飲んでいるうちに寝てしまった二人。「泊まっていけば?」と言う今野に、日浅は「帰る」と言い、運転代行を呼ぶから携帯電話を貸してくれと頼みます。日浅は自前の携帯電話を持っていないのです。帰り際、「今度釣り行こ」と日浅は誘い、「連絡は会社で顔を合わせたときに」と告げるのでした。
ほどなくして二人は一緒に釣りに行くようになります。慣れない今野に代わって餌を針につけてあげる日浅。ビギナーズラックで大きなニジマスを釣り上げる今野でしたが、うまく取り上げることができず逃げられてしまいます。どうして珍しいニジマスがここにいたのか、今野は帰ったら調べてみると言いますが、日浅が「知らないままでいるのも悪くない」とつぶやいたので調べるのはやめようと思うのでした。
職場での日浅はパートの女性たちから“(段ボール)課長”と呼ばれていました。段ボールをたたむのが人一倍早いからです。夏の盛岡は、さんさ祭り一色で、今野たちの職場でも皆踊りの練習に余念がありません。そんな中、今野と日浅は釣りだけでなく、映画を観に行ったりジャズ喫茶に行ったり、どんどん仲良くなっていきました。さんさ祭り当日は二人で町へ繰り出し、缶ビール片手に楽しそうに歩き回るのでした。
影裏のネタバレあらすじ:承
ある冬の寒い朝。出勤途中の今野に年長の社員が話しかけてきました。「物流課の日浅、辞めたって」。今野が用もないのに物流課を訪れると、パートの西山(筒井真理子)が、仲の良かった今野さえ日浅の退職を知らなかったことに驚いていました。
その日以来、今野の生活は色あせたものになってしまいました。日浅の姿を思い浮かべては考え込む今野。
季節はめぐり再び夏。ある日、自室のソファで今野が本を読んでいると、ベランダの窓をたたく音がしました。おそるおそる見に行くと、そこには髪を切りワイシャツにネクタイ姿の日浅が立っていました。2月に会社を辞めたあと、訪問型営業の仕事に就いたという日浅は「近くまで来たから寄ってみた」と言い、名刺を渡して帰っていきました。
数日後、以前のように日浅が酒を持ってやってきました。飲みながら今野は、ひとりで釣りを続けていて、新たな釣り場を開拓したと話します。久しぶりに釣りの話で盛り上がる二人は、そのうち酔って眠ってしまいました。
深夜、目を覚ました日浅は、床で寝ている今野の胸の上に蛇がいるのを見つけ、それを外に放り出すと呆然とする今野を気遣います。すると突然、今野は日浅にキスして彼を押し倒します。それを拒否した日浅に今野は謝り、二人は別の部屋で眠りました。
朝、今野が目を覚ますと日浅は外でタバコを吸っていました。今野の釣り場に連れていくよう日浅は言い、二人はそこへ向かいます。途中で日浅は大きな水楢の倒木に興味を示しますが、今野はそんな日浅を促し自慢の釣り場へと連れてきました。雑魚のウグイしか釣れず、今野は申し訳ない気持ちになりますが、日浅は「楽しんでるよ」と返事するのでした。
数日後。今野の部屋の前に日浅が座り込んでいました。あと一件契約を取らないとクビになると泣きついてきた日浅を今野は、「契約しようと考えていたんだ」と部屋に招き入れます。契約書を持って急いで帰っていく日浅を見送った今野は、そこに日浅の吸ったタバコの吸い殻がたくさん落ちているのを見つけ、そっと片付けるのでした。
影裏のネタバレあらすじ:転
ある日、今野に携帯電話にかつての同僚、副島和哉(中村倫也)からメールが入っていました。そのメールを確認しないうちに今度は日浅から電話があり、その日の夜に“ガラ掛け”をやるから身一つで来いよと誘われました。
仕事が終わってからいろいろとグッズや食材を買い込んで、指定された川原にやってきた今野に、日浅はなぜか不機嫌そうにきつくあたります。今野は初めてのガラ掛けを体験したのち、日浅とたき火の炎を並んで見つめています。日浅の出してきたとっておきの田酒を今野は「明日仕事になったから」と断り、二人の間には不穏な空気が漂います。
離れたまま無言で鮎を食べる二人。日浅は今野に、「人を見る時はその裏側、いちばん影の濃いとこを見んだよ」と言い放ちます。その後、そこに地主の老人が現れ合流します。二人きりだと思っていた今野は居心地の悪さを感じ、ひとり帰宅するのでした。
帰ってから副島のメールを確認すると、出張で盛岡に来ているので連絡してみたとのこと。今野は副島の宿泊しているホテルへと会いにやってきました。ロビーで待っていた副島は、長い髪をゆるく束ねた優しい印象の女性でした。かつて今野とつき合っていた副島は性別適合手術を受けると公言しており、今はすっかり女性になっているようでした。
ホテルの部屋まで副島を送り、ドアの前でハグする二人。今いい人はいないと今野は答え、ドアは閉まりました。ホテルの廊下で今野はため息をつき、あの川原でのたき火を思い出していました。
影裏の結末
2011年3月11日以降、今野の会社では暗い中、昼夜を問わず支援物資の出荷に追われる日々が続いています。疲れ切った今野が車で帰ろうとすると、パートの西山が飛び出してきました。「話がある」と喫茶店に連れてこられた今野に西山は、「“課長”に会ったか?」とたずねます。実は、西山のところにも日浅は訪れており、家族三人分の契約をした挙げ句、現金30万円も貸してしまったと言います。しかし震災以降連絡が取れなくなり、会社に電話すると、震災当日釜石に行っており、それ以来行方不明だというのです。
後日、今野はガラ掛けをした川原を訪れますが、そこにいた地主の老人はボケてしまったのか記憶があいまいで、ただ日浅が契約した互助会は家族に反対されて解約したとだけ話してくれました。
その後、今野は日浅の実家を訪ねます。日浅の父(國村隼)は、捜索願を出すべきだという今野に、家族の縁を切ったと告げます。日浅は大学の学位記を偽造しており、東京での大学4年間が全くの嘘だったというのです。父親は息子の行いを許すつもりはなく、そんな人間のために人様の手を煩わせるわけにはいかない、と捜索願を出すことを頑なに拒否するのでした。
続いて日浅の兄(安田顕)にも会いに行きましたが、返事は同じでした。ただ兄は別れ際に、「あいつは生きていると思う。どこでも生きていけるやつだ」と言うのでした。
帰宅した今野は、郵便受けに日浅の勤めていた互助会の会社からの封書があるのを見つけました。それは、掛け金増額の検討を促す書類でした。ハッとした今野は、ため込んだ郵便物を引っ張り出し、同じ会社の郵便物を探しました。見つかった封書の中には増額の書類と、そこに記された日浅の直筆の署名がありました。
穏やかな休日。今野はあの水楢の倒木のある釣り場を訪れていました。川の向こう岸でタバコをくゆらせながら無表情でこちらを見ている日浅…。それは今野の見た幻。
「だーれだ?」と今野の目を背後から隠すのは、現在の恋人である清人(平埜生成)でした。釣りには興味のないらしい彼は川原で寝そべり、今野はひとり釣りを楽しむのでした。
以上、映画「影裏」のあらすじと結末でした。
「影裏」感想・レビュー
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結局なんなん?どないなん?はい?…だった。
俳優さんたちの演技力の高さが見どころです。人間を見るときは裏を見なければならない、そういうメッセージを受け止められる作品です。しかし同時に女装姿・男のパンツ姿とギャグ要素もあり、終始飽きずに見られる良作と言えます。