ペルセポリスの紹介:2007年フランス映画。サトラピの自伝的作品をアニメ映画化。激動のイランで自分らしくあろうとした少女の生き様を描く。モノクロの回想はいっそ鮮やかだ。
監督:マルジャン・サトラピ、ヴァンサン・パロノー 声優:キアラ・マストロヤンニ(マルジ)、カトリーヌ・ドヌーヴ(マルジの母、タージ)、ダニエル・ダリュー(マルジの祖母)、シモン・アブカリアン(マルジの父、エビ)、ガブリエル・ロペス(少女時代のマルジ)、フランソワ・ジェローム(アヌーシュおじさん)、ほか
映画「ペルセポリス」ネタバレあらすじ結末と感想
映画「ペルセポリス」のあらすじをネタバレ解説。予告動画、キャスト紹介、感想、レビューを掲載。ストーリーのラストまで簡単に解説します。
ペルセポリスの予告編 動画
映画「ペルセポリス」解説
この解説記事には映画「ペルセポリス」のネタバレが含まれます。あらすじを結末まで解説していますので映画鑑賞前の方は閲覧をご遠慮ください。
ペルセポリスのネタバレあらすじ:起・空港で思う故郷
パリのオルリー空港でテヘラン行きの飛行機に乗ろうとして、チケットもパスポートないとある女性は、自分の半生について語り始める。マルジはテヘランに暮らす普通の少女。スニーカーを履きブルースリーが好き。しかし1978年、国王を倒せとデモ行進が行われていた。父親に尋ねると、学校で国王は神様に選ばれたと教えられているのは、でたらめなのだと知る。町にはガスマスクの兵と戦車、若者が一人、撃たれて亡くなった。国王による放送なされ。街の像は倒された。革命のヒーロー、シアーマクが解放されて、マルジの家を訪ねてきた。彼から拷問の話をすると、マルジは近所の子供と拷問ごっこをしようと言って、秘密警察の息子のミランをいじめようとして、叱られた。その夜見た夢に現れた神様にラミンは悪くない。マルジがやることは裁く事ではなく、許す事だと諭される。同じく解放されたアヌーシャ叔父さんは、若かりし頃の事をマルジに話し、刑務所で作った白鳥を渡した。新しい共和国政府は、以前にもまして恐怖政治を行った。アヌーシャは再び逮捕され、一度の面会にマルジを呼び、鳥をもう一つ渡した。夜、夢の中で神様に、どうして見殺しにしたのか怒るマルジは、神様に出て行けと言いった。
ペルセポリスのネタバレあらすじ:承・イランイラク戦争勃発
革命の一年後イランイラク戦争勃発。国力の衰退し政治は抑圧的になった。授業中にも警報鳴り、スーパーは品切れ状態で少ない商品の奪い合いが起きた。マルジはアイアンメイデンのカセットを買うにも一苦労。マルジの両親は、かりそめの天国の鍵と引き換えに長男を取られそうになる女性から、その子を預かり助けた。戦争の中で市民は生き唯一の息抜きはパーティーで、密造酒を飲んでいた。マルジの父は隣人のタヘルがイギリスで手術を受けられるように、パスポートを偽造しようとするが、偽造屋は政府に追われ、タヘルは亡くなり、戦争は激化した。
ペルセポリスのネタバレあらすじ:転・マルジの外国生活が始まる
マルジの反抗的な態度を学校から注意された両親は、運動家のニルーファルがどんな辱め受けて処刑されたか分かるかと彼女を叱るも、マルジを守るために母親の親友のいるウィーンのフランス語学校へやることにした。マルジは大好きな祖母に、公明正大であれと言われ、旅立った。しかし、ウィーンでは母の親友の家ではなくシスターのいる寮へ入れられる。学校で何とか居場所ができたと思ったけれど、バカンスになると学校の友達は故郷へ帰ってしまった。クリスマスを一人で過ごすマルジはシスターに暴言を吐いてしまい、友人の家を泊まり歩く放浪生活が始まり。やがて彼女はシュロス教授の家へ落ち着いた。マルジはヨーロッパに馴染もうと勉強して教養を付けた。けれど頭をよぎるのは、戦火の中にいる家族の事ばかり。 とあるパーティー自分のルーツを偽ってしまった彼女に祖母の、公明正大であれという言葉が思い出される。失恋をし、下宿先ではブローチ泥棒と疑われ、野宿を余儀なくされた彼女は革命も戦争も生き延びたのに、失恋で死ぬ羽目になりかけた。そして両親に電話をし、何も聞かないでと言い帰国した。
ペルセポリスの結末:再び故郷の地を踏んだマルジ
停戦直前に爆撃に会ったテヘランの町は様子を変えていた。皆がウィーンにいたマルジに会いに来て、大学受験も勧められたけれど引きこもり。会いたかった幼馴染が、戦争で片手片脚をなくしても笑っていることが、マルジにはショックでならなかった。ウィーンでもここでも異邦人と嘆く彼女はうつ病と診断され、服薬自殺を計る。しかし死ぬのはまだ早い、少しは自分で行動を起こしなさいと神様に叱咤される。大学に通い始めたマルジは、ディスコで、大学で見かけた男の子と再び出会い故意に落ちた。けれど、女性への不自由は厳しくなり、恋人と外で会うこともままならず、結婚の道を選ぶ。教養を付けて自立した女性になってほしかった母は泣いた。 しかし一年後、夫をもう愛していないと泣くマルジに、祖母は、結婚に失敗したから泣くんだと指摘。マルジは夫と別れフランスへ渡る前に祖母と旅行をし、亡くなった祖父の墓と叔父の刑務所跡地訪れた。今のイランはあなたのいるべき場所じゃないとフランスへ送り出され、祖母はまもなく亡くなった。オルリー空港を出たマルジはタクシーに乗り、行き先を聞かれるとイランへと言った。
以上、映画ペルセポリスのあらすじと結末でした。
ペルセポリスのレビュー・考察
作中、回想シーンはすべてモノクロなのだが、黒が印象的に使われている。ヨーロッパにとって黒髪は異邦人の象徴であり、女性たちの被るベールが次第に目深になり、黒い塊のように見える。マルジはベールを被りながらもその事に疑問を持ち続けている。彼女のように他の女性たちもベールの下に熱い信念を持っていないとどうして言えようか。
ペルセポリスの詳しい解説
「70年代に起きた革命前まで、私たちイラン人はどこの国に旅行に行っても大歓迎されたの。自然資源が豊富なイランの人間は裕福だったもの。イランのパスポートを持っているのは凄い強みだったのよ。革命前のテヘランはそれはモダンでお洒落な街だったの。ミニスカートを履いて、ディスコに踊りに繰り出していたわ」。知り合いのイラン人の年老いた女性から、このような話を聞いたことがあります。イランのことを何も知らなくても、これだけは分かっていないとこのアニメーション映画を理解できないかもしれません。「イラン革命までは首都のテヘランはこの上もないハイカラな大都会だった」という事実です。では「ペルセポリス」の内容について入っていきたいと思います。
【原作者は上流階級の娘】
「ペルセポリス」のストーリーは「西ベイルート」の映画(1998年)に似ています。あちらはレバノンの首都ベイルートに暮らすインテリ家族の一人息子が、戦争を体験する・・・こちらのペルセポリスではイランのテヘランの裕福な家庭の一人娘が革命、戦争を体験・・・この映画原作の漫画は日本語版でも出版されていますが(バジリコ出版)、絵の素晴らしさといい、内容の構成とその深みに驚嘆した読者も大勢いるのではないでしょうか。翻訳された英語版でしたが、流石オリジナルはフランス語で書かれたというせいもあるのか、選び抜かれた詩的かつ的確な台詞の数々。多感な10代で読めば、もっと感動するであろうと思います。漫画家のMarjane Satrapiマルジャン・サトラピの、自伝的要素が強い「ペルセポリス」1巻がまずフランスで出版されたのは2000年らしいです。マルジャンはカージャール朝最後のシャーであるアフマド・シャーの曽孫であるため、漫画を読んでいてもアニメを見ていても分かるのですが、相当の上流階級です。しかし祖母も両親も非常に先進的な考えを持っていたため、とてもリベラルな教育を家庭で受けます。(14で親元から離れ外国に渡ったので、それまでの家族との思い出は多少美化しているかも?)
【イラン革命、そしてイラン・イラク戦争】
イラン革命が勃発したすぐ一年後にイラン・イラク戦争が始まります。両親は娘を助けるために、つてがあったウィーンに単身で渡航させます。マルジャン、14歳の時でした。
両親はテヘランに残りました。これも「西ベイルート」の映画の中で、パパがママに言った台詞と同じで、マルジャンのパパも「亡命してどうする?僕はタクシー運転手で、君は家政婦になるのかい?」とママに言います・・・マルジャンはフランス語を元々勉強していたので、ウィーンのフランス語学校に入学します。しかしドイツ語はまったく知らなかったので、学校の外では一切言葉が通じない上、何よりも西洋の文化にうまく溶け込めません。そこで西洋文学、哲学の本など一生懸命、たくさん読みます。そして外に出て頑張ってお友達も作ります。だけども、上流階級の家庭の一人娘として生まれ、祖母や両親、叔父に溺愛されて育ち、しかも革命戦争という大きな体験もしているのです。崇拝していた身内の死も体験し、昨日と違い今日は全てがひっくり返った社会、という普通ではありえない凄い体験をしているのです。そして思春期の14歳までイランで育っているのです。
複雑な状況にいた年頃の女の子が、価値観が全く異なるヨーロッパの世界に突然ぽいっと、一人で投げ込まれました。ただの留学ではなく、亡命のようなものです。戦争をしている祖国には簡単に帰れません。ところがウィーンでは、少女がどれだけ素晴らしい家庭で育ったのか、誰も知らない上、革命戦争、イスラム教のことも何一つ分かっていません。少女がどのように複雑な心境なのか全く気づきません。マルジャンはイラン人、ということで多くの人に馬鹿にされ蔑まれ、傷つきます。さらに「祖国では戦争で大勢の人が苦しんでいるのに、自分だけぬくぬくと平和に呑気に暮らしていていいのか、と心の中の葛藤で苦しみます。
【ヨーロッパ社会に溶け込めずイランへ戻る】
自我が崩壊しかかったマルジャンは、イランに帰国しテヘランにあるIslamic Azad大学に入学します。大学在学中にBFが出来ます。結婚をする気は特になかったのですが、異性とはまともにデートも許されないお国柄になってしまっているため、その彼と21歳の時に結婚します。しかしこの結婚生活はすぐに破たんし、二人は離婚します。結局全然合わなかったのです。女友達の「なぜ!?結婚する前は本当に愛し合って仲が良かったのにどうして!?」という問いに対し、マルジャンの返事・・・「当たり前よ、結婚前は週に3時間しか会えなかったんだもん」。その後、マルジャンはパリに渡り、そこでアートを本格的に学びそして今のスウェーデン人の夫に出逢ったそうです。彼女が現在話す言語はフランス語、ペルシャ語、ドイツ語、英語、イタリア語、スウェーデン語だそうです・・・
【原作漫画がアニメ映画に】
漫画は聡明で反抗心が強く、一方では繊細な一人の少女の成長の物語として見事でした。イランの政治や宗教問題を伝えたいということよりも、何が起ころうとも自分の信念を曲げてはいけないんだ、ということを親から教育され、それを貫くこととは一体どういうことであったのか、というのを丁寧に描いてありました。またヨーロッパで自分は「浮いて」、イランに戻ってもまた「浮いた」・・・どこにも属さない根無草のようになってしまい、内面の混乱をどのように克服していったのか・・・本当に漫画ではそのあたりを見事に描いていました。アニメ映画は内容が漫画とは若干異なっていました。しかし画風は原作漫画そのままで、雰囲気も変えないでいました。声優が豪華で、流石フランス・・・マルジャンの声優を務めたのは、キアラ・マストロヤンニで、マルジャンのママの声は、キアラの母親のカトリーヌ・ドヌーブ・・・アニメの内容が素晴らしく、さらに娘との共演ということで大女優の彼女はこのオファーを受けたのでしょうか。革命や戦争について分かりやすく描き、子ども向けというよりむしろ15歳以上から大人向けの、芸術性の高い上質なアニメに仕上がっています。しかしちょっとイランの国や人々の描き方がステレオタイプ過ぎていたように感じました。かつ原作の漫画ではじっくり描かれていたマルジャンの祖国に対する複雑な思いと、ウィーンに渡った後、アジアのイランとヨーロッパの両極端の文化の狭間に落とされアイディンティティーがめちゃめちゃになって苦しむ・・・そこの部分が、アニメ版だと物足りなかったと思います。冒頭に書いた通り、非イスラムの国では数多くの賞を受賞しましたが、案の定といいますか、英語版のウィキペディア によりますとイスラムの国々ではさんざん叩かれたらしいです。2011年にチュニジアのテレビでこのアニメ映画が放送された時、翌日にはそのテレビ局にデモ団体が抗議に現れたそうです。テレビ局の社長は罰金まで支払いをさせられたとか・・・レバノンでは上映が禁止され、2007年にバンコク国際映画祭にこの作品がラインアップされた時は、イラン大使館が映画祭責任者を大使館に呼び、遠回しに「映画を公開したら、両国の間で別の問題が起きるかもしれない」と言ってきたそうです。イランでも無論、大問題になりましたが結局性的描写のシーンは検閲でカットされた上で、テヘランで上映された、とのこと。
【イスラムに興味がなくとも見る価値あり!】
小難しいことはさておいて、ひとつの青春物語としても十分楽しめる、大人向けの上質なアニメーション映画です。子ども時代のヒロインがとにかくかわいいこと!動きがちょこちょこしており、まさに「ちびまる子」ちゃんそっくり!フランスらしい芸術的な画像美も楽しめ、ついでにイランの現代史も学べてしまう・・・まさに一石二鳥の作品です。ジブリやディズニーもいいけれども、たまにはヨーロッパが製作したイラン舞台のアニメーション映画というのも観てみるのも面白いかもしれません。
第60回カンヌ国際映画祭で審査員賞を受賞したフランス製作の長編アニメ作品ということで、見たことがあります。アニメーションながらも、全編モノクロというのも印象的であったり、時代背景もイラン革命前後の激動時代を描いており、中東についてあまり知られていない部分など、ブルースリー好きなマルジという女の子を通してわかりやすく、ブラックコメディー風に展開していくといった内容でした。起承転結あり、喜怒哀楽もはっきりしていて、異文化をアニメ映画を通して知るという点では、当時、衝撃ながらも新発見でした。