新聞記者の紹介:2019年日本映画。東京新聞で働く女性記者・望月衣塑子の著書を原案とするサスペンス。国家の闇を追う新聞記者と、エリート官僚が、それぞれの立場で正義を貫く。映画やテレビドラマでの主演作が続き、今ノリに乗っている松坂桃李。そして彼とW主演を務めるのは韓国の実力派女優シム・ウンギョン。この春、日本で舞台にも挑戦した彼女は、日本人の父と韓国人の母の間に生まれ、アメリカで育ったというヒロインの役に見事にハマっている。衝撃的な内容ゆえに、日本国内の女優はみな出演を見送ったというこの役は、彼女によってよりリアルなものとなった。また、悪役として不気味な存在感を放つ田中哲司の怪演も見どころのひとつだ。
監督:藤井道人 キャスト:松坂桃李(杉原拓海)、シム・ウンギョン(吉岡エリカ)、本田翼(杉原奈津美)、岡山天音(倉持大輔)、郭智博(保関戸)、長田成哉(河合真人)、宮野陽名(神崎千佳)、高橋努(都築亮一)、西田尚美(神崎伸子)、高橋和也(神崎俊尚)、北村有起哉(陣野和正)、田中哲司(多田智也)ほか
映画「新聞記者」ネタバレあらすじ結末と感想
映画「新聞記者」のあらすじをネタバレ解説。予告動画、キャスト紹介、感想、レビューを掲載。ストーリーのラストまで簡単に解説します。
新聞記者の予告編 動画
映画「新聞記者」解説
この解説記事には映画「新聞記者」のネタバレが含まれます。あらすじを結末まで解説していますので映画鑑賞前の方は閲覧をご遠慮ください。
新聞記者のネタバレあらすじ:起
深夜の東都新聞社会部にFAXが送られてきました。サングラスをした羊のイラストで始まるその文書は、ある大学の新設に関わる極秘情報を暴露するものでした。
夜が明けて社会部は、上からの圧力で差し替えられたと思われる一面記事の話題で持ち切りです。その記事は、文部科学省の大学教育局長が、大学の不正入学に関与していたというものでした。
社会部記者の吉岡エリカ(シム・ウンギョン)は、上司の陣野(北村有起哉)に呼ばれ、FAXの調査を任されます。その情報によると、通常文部科学省が管轄する大学の新設を、なぜか内閣府が主導していて、しかも経営を民間に委託するというのです。
同じ日、内閣府の中にある内閣情報調査室(通称:内調)。杉原拓海(松坂桃李)は、公安が深夜につかんだ大学教育局長のスキャンダルをマスコミに流し、あっという間に局長は世間の批判にさらされることに。杉原たちは、現政権に都合の悪い人物に対して、マイナスのイメージがつく情報を探し出し(捏造し)、広く世間に拡散させているのです。
外務省からの出向である杉原は、上司の多田(田中哲司)に呼び止められ、「外務省時代の知人から連絡があったら報告するように」と言われました。
ある日、レイプ被害の会見を開いた女性に対し、ハニートラップだったことを裏付ける相関図をつくるように指示された杉原は、自分たちのしている仕事に迷いを感じ始めます。
そんなとき、外務省時代の尊敬する上司、神崎(宮野陽名)から食事の誘いの電話が入ります。日を改めて会食する二人。『国民に尽くすこと』がモットーの神崎は、実は杉原と一緒に働いていた北京大使館時代、無実であるにも関わらず、不正の責任をひとりで被った過去があったのです。
“国のため、家族のため”と自分に言い聞かせたと遠い目をする神崎は、「俺みたいになるなよ」と杉原に言います。
新聞記者のネタバレあらすじ:承
記者の吉岡は、大学教育局長を取材しています。大学新設の件は、目的が不明だったため断ったと言いますが、それ以上を聞き出すことはできませんでした。
杉原は、かつての同僚・都築(高橋努)に偶然会いますが、彼が神崎の後任であること、その仕事が大学新設関連だったこと、そして自分の部署内調が神崎を追い詰めていたことを初めて知ります。
神崎を心配し電話するも通じず、自宅にも誰もいません。すると神崎から電話が…。その電話を最後に、神崎はビルの屋上から身を投じてしまいました。
杉原は上司の多田に詰め寄りますが、逆に、「お前、子供が生まれるそうじゃないか」と切り返されてしまいます。
神崎の通夜の日、杉原は残された妻と娘に寄り添い、群がるマスコミから守ろうとします。その様子を見ていた吉岡は、不躾な質問をした記者に対して「自分がその質問をされたらどう思いますか?」とマスコミ側を止めに入りました。
妻子を乗せたタクシーが去り、立ち去る吉岡を杉原が呼び止めます。「そっち(マスコミ)側だろ」。吉岡が「本当のことが知りたい」と言うと杉原は一言、「君には関係のないことだ」と言います。
杉原の妻(本田翼)は自宅で破水し危険な状態に。杉原が病院に駆けつけると、緊急で帝王切開し出産が終わったあとでした。妻と赤ちゃんが無事で、杉原はほっとするのでした。
内閣府付近に取材に来ていた吉岡は、杉原を見かけ声をかけます。例のFAXの羊を見せますが反応はなし。吉岡は無理矢理名刺を渡しました。
後日、帰宅する杉原を追っている吉岡。地下鉄を下り、周囲を警戒し顔を向けないまま杉原は話しかけます。神崎の自殺を止めたかったと言う杉原。吉岡は、新聞記者だった自分の父が、スクープを誤報とされ、失意のまま自死したことを語ります。その誤報が真実だったのか、そして今回のことも、なぜ神崎が家族を残して死ななければならなかったのか、それを明らかにしたいと伝えるのでした。
新聞記者のネタバレあらすじ:転
吉岡は神崎の自宅を訪れます。取材は断っている神崎の妻でしたが、吉岡が羊の絵を見せたことで家に入れてくれました。そして、娘が幼い頃に神崎が描いたという羊の絵を見せてくれました。サングラスはしていませんが、それはまさしくあのFAXに書かれていた羊と同じものでした。
神崎の妻は吉岡に、書斎の机の引き出しの鍵を託します。「家族には見られたくないと思う」と席をはずし、吉岡はひとりで引き出しを開けると、そこにはあのFAXの原本がありました。
吉岡は杉原を呼び出し、ついに新設大学が生物兵器の研究施設を兼ねているという事実を突き止めます。そこに置かれていた『DUGWAY INCIDENT』という本には、アメリカの軍事施設ダグウェイで生物兵器が開発されており、周辺で羊の大量死があったという内容が書かれていました。
翌日、吉岡は、上司の陣野をホテルの一室に呼び出します。そこには杉原の姿がありました。大学新設が生物兵器研究のためだとする事実を記事にしたいと二人は言います。そのためには根拠となる資料が必要だと陣野は言い、杉原は証拠を手に入れると約束し、必要なら自分の実名を出してもかまわない、と決意を語りました。
杉原は妻子のいる病院へ向かい、二人を抱きしめ、「ごめん、ごめん」とただ涙を流すのでした。
新聞記者の結末
杉原は、都築の事務室に忍び込み、引き出しにあった大学新設に関するファイルを写真におさめます。それを吉岡に渡すと、彼女は「ありがとうございます!絶対にムダにしません」と感謝してもしきれない様子で応えるのでした。
ついにその記事が一面に載った新聞が世にでました。その日、杉原は妻子の退院に付き添っていました。彼のスマホには上司多田からの着信が…。
そのころ東都新聞社会部には、この記事を捏造だとする週刊誌のゲラが早くも届けられていました。が、他の一般紙もこの報道に追随するという報告もあり、続報に向けて吉岡は動き始めます。
杉原に電話をかける吉岡。でも杉原は電話に出ません。
すると吉岡に、知らない番号から電話がかかってきました。電話の主は名乗らずに、吉岡の父親の記事は誤報じゃありませんでしたよ、とだけ告げ切れました。長年の疑問にひとつの答えが得られた満足感を感じながらも、得体の知れない不気味さをおぼえる吉岡は、その後も杉原に電話をかけ続けます。
杉原はそのとき、多田の前にいました。吉岡に電話をかけたのは多田でした。それを聞かせた上で、多田は「お前じゃないよな」と言ってきました。そして「外務省に戻してやる」という条件を出してきたのです。杉原は無言で部屋を出ました。
放心状態で廊下を歩く杉原。そのまま建物を出ると、道の向こうに電話をかけ続けている吉岡の姿がありました。ただならぬ杉原の様子に不安顔の吉岡。放心とも苦悩ともとれる表情の杉原。
やがて杉原は、ひとり言のように小さく言葉を発するのでした。
以上、映画「新聞記者」のあらすじと結末でした。
この話は決して権力とジャーナリズムの対立を描いているのではなく、政府サイドの若き官僚が日々の業務の中で沸き起こった疑問や、俺のようになるなよ、という言葉を残した元上司神崎の謎の死を経て、せめて自分は矜恃を保ちたいと願った所が1つのポイント。
一方、同じ新聞記者の父が幼い頃自死した女性記者のほうも、圧力に弱く事なかれ主義の現場でひとり孤立しています。ジャーナリストとしてのプライドと父への思いから、官僚神崎の死に疑問を持つようになったのが2つ目のポイント。この2つのポイントが重なり合い、立場をこえて神崎の葬儀の場で出会った2人が、中国地方の大学新設問題に興味を持ち、調査に協力し合うようになります。
ストーリーに挟み込まれるジャーナリストのレイプ事件と裁判の模様も実際にあった事件を彷彿とさせ、非常に入り組んだ重いテーマでありながらもスピーディーで臨場感のある展開に、見ているこちらも始終ハラハラドキドキ、手に汗を握りっぱなしになります。
建前と保身の為に生きるか、あるいは良心とプライドを持ち続けて生きるか、また生きられるか。ラストの解釈共々、そこが問われている気がしました。どんな立場にせよ、時に心が潰れそうになりつつも、生活や目先の事だけに手一杯になりがちな、私たちみんなの問題。松坂桃李の揺れる胸中を吐露したかのような唇の動き、シム・ウンギョンのまっすぐな強い眼差し、田中哲司の常に自らを抑制しているような態度がとても印象的です。