麦の穂をゆらす風の紹介:2006年イギリス,アイルランド,ドイツ,イタリア,スペイン映画。1920年代のアイルランドを舞台に、英国からの独立戦争とその後の内戦によって敵味方に分かれることになった兄弟の姿を描いた戦争映画です。カンヌ国際映画祭で最高賞のパルムドールを受賞しています。
監督:ケン・ローチ 出演者:キリアン・マーフィー(デミアン・オドノヴァン)、ポードリック・ディレーニー(テディ・オドノヴァン)、リアム・カニンガム(ダン)、オーラ・フィッツジェラルド(シネード・ニ・スーラウォーン)、メアリー・リオドン(ペギー)ほか
映画「麦の穂をゆらす風」ネタバレあらすじ結末と感想
映画「麦の穂をゆらす風」のあらすじをネタバレ解説。予告動画、キャスト紹介、感想、レビューを掲載。ストーリーのラストまで簡単に解説します。
映画「麦の穂をゆらす風」解説
この解説記事には映画「麦の穂をゆらす風」のネタバレが含まれます。あらすじを結末まで解説していますので映画鑑賞前の方は閲覧をご遠慮ください。
麦の穂をゆらす風のネタバレあらすじ:起
1920年。英国からの独立運動に揺れるアイルランド。ロンドンで医師の職に就くことが決まっていた青年デミアン(キリアン・マーフィー)は、仲間たちと共にアイルランドの国技ともいえるスポーツ「ハーリング」に興じていました。しかし、英国から送り込まれた武装警察隊はこのスポーツにすら「お前ら、集会を開いていただろう」と言いがかりをつけ、それに反抗的な態度を見せた一人の青年が殴る蹴るの暴行を受けて殺されてしまいます。その葬式で青年の祖母は、700年に渡って英国に支配されてきたアイルランドの悲劇を綴った歌「麦の穂をゆらす風」を歌いました。それでもロンドンへ行く決心をしたデミアンは、旅立ちの駅で、英国兵による理不尽な暴力と、それに屈しない人々の姿を目の当たりにし、自分の本当にすべき事を見出します。
麦の穂をゆらす風のネタバレあらすじ:承
ロンドン行きを取りやめたデミアンは、兄テディ(ポードリック・ディレーニー)が主要メンバーとして参加しているIRA(アイルランド共和軍)に合流し、独立闘争に身を投じていきます。英国人を殺戮し、ゲリラ戦に明け暮れていたある日、デミアンやテディらはアジトを英国軍に突き止められ身柄を拘束されてしまいます。そこでデミアンは、かつて駅で英国兵に屈しなかった元運転手のダン(リアム・カニンガム)と再会します。ダンは1916年の「イースターの蜂起」と呼ばれる反乱にも参加していました。部隊のリーダー格であるテディは英国兵に凄惨な拷問を受け、仲間たちの情報を吐けと強要されましたが決して屈しませんでした。翌日には全員処刑されることが決まった矢先、幸いにも英国軍の中に協力者がおり、その手引きで脱走に成功します。
麦の穂をゆらす風のネタバレあらすじ:転
脱走したデミアンやテディらは、デミアンの恋人シネード(オーラ・フィッツジェラルド)からの情報で、英国軍にIRAの情報を売った裏切り者がいることを知ります。裏切り者とは英国人農場主ハミルトン(ロジャー・アラム)と、デミアンの幼馴染であったクリス(ジョン・クリーン)でした。裏切り者の処刑命令を受けたデミアンらの部隊はまずハミルトンを処刑、そしてデミアンは断腸の思いでクリスに向けて銃の引き金を引きます。程なくしてシネードはIRAメンバーを匿ったとして英国兵に暴行され、家を焼かれたあげく髪の毛を切り刻まれてしまいます。デミアンは心に深い傷を負ってしまいます。そして1921年12月、遂に英国は停戦を申し入れ、両国の間に「英愛条約」が結ばれます。しかしその内容は、アイルランドの形式上の独立は認めるものの、北アイルランドの放棄と英国への忠誠を誓わせるという不平等なものでした。
麦の穂をゆらす風の結末
アイルランド国内は条約賛成派と反対派に分裂し、同胞同士が殺し合う壮絶な内戦に突入していきます。完全な独立と自由を求めるデミアンは条約反対派のIRA側につき、これ以上の流血は避けるべきだと条約に賛成したテディは新設されたアイルランド自由国側につき、ここに兄弟は敵味方に分かれて戦うことになってしまったのです。デミアンは引き続きゲリラ活動に身を投じていましたが、ある日遂にデミアンは自由国軍に捕らえられてしまいます。テディはデミアンに仲間の居場所などの情報を明かすよう求めますが、デミアンは頑なに味方を売ることを拒み、死を覚悟して遺書をしたためます。翌日、デミアンは自由国への反逆罪で銃殺刑が決まり、テディは涙をのんで部隊に銃撃の指示を出します。そしてテディはデミアンの遺書を携えてシネードの元を訪れますが、彼女はもう二度と顔を見せるなと絶叫してテディを追い返しました。
「麦の穂をゆらす風」感想・レビュー
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この映画「麦の穂をゆらす風」のタイトルは、英国からの支配への抵抗のシンボルとして、アイルランドに伝わる同名の歌からきているという。
「外国の鎖に縛られることは—つらい屈辱」という歌詞が、映画の多くを物語っている。
1920年代、英国統治下のアイルランド。独自のスポーツ、ハーリングさえ咎められる時代。
緑の丘が広がる静かな土地で、独立を求める男たちは、ハーリングのスティックで戦う訓練をしている。
医者の道を捨てて戦いに加わったデミアン(キリアン・マーフィー)もその一人。
英国の武装警察隊の暴力で、普通の暮らしをしていたデミアンが、戦う男に変わっていく過程が、冷徹な視線で抑制的に描かれる。停戦の後、アイルランドは、英連邦の自治領となったが、デミアンはともに独立を求め戦ってきた兄(ポードリック・ディレーニー)とも、袂を分かつのだった——-。
社会派で知られるケン・ローチ監督は、拷問で爪を剥がされる男の痛み、家を焼かれ髪を短く切られる女の悲しみを、観る者にそのまま体感させる。
アイルランドの歴史を通して綴られるのは、戦う相手が別にいたはずなのに、いつしか同郷の者同士が争い始めるという万国共通の構図だ。
アイルランドの歴史をあまり知らないで観ていたが、みるみるうちに、その普遍性に引き込まれてしまった。
老婦人が歌う「麦の穂をゆらす風」が、実に印象的だ。
どんな目に遭っても、自分の土地から離れようとしない老婦人の強さが、かすかな希望を感じさせてくれる。世界のどこかで繰り返されてきた悲劇と、普通の人々の痛みを思い起こさせて、この映画は、カンヌ国際映画祭で最高賞のパルムドールを受賞した。
大好きなキリアン・マーフィー主演の映画。舞台は1920年代のアイルランド。イギリスからの独立をめぐる戦いを、アイルランド側から描いている。映画だからといって大げさな演出や感動的な結末があるわけではない。いや、そうしてほしいと願ったほど悲しい話が連続する作品である。こんなことが実際に現実に起こっていた、その事実が胸に刺さる。淡々と歴史の事実の残酷さを描いた映画だったからこそ、評価も高かったのではないだろうか。