君の心に刻んだ名前の紹介:2020年台湾映画。誰にとっても初恋は特別なものだ。厳戒令が解除された直後の台湾、男子高校生のアハンとバーディはブラスバンド部で出会った。二人が友情以上の絆で結ばれるまで時間はかからなかった。しかし女子学生を受け入れることになった高校で、二人の関係は崩れていく。同性愛が許されない時代を舞台に、罪悪感や恐怖心とともに燃え上がる想いを監督自身の実体験をもとに映画化。2020年、台湾映画で興行収入1位を記録し、台湾の映画賞である金馬奨に5部門にノミネート、2部門を受賞した作品です。日本ではNetflixで公開されています。原題は、刻在你心底的名字(Your Name Engraved Herein)
監督:リウ・クァンフイ 出演:エドワード・チェン(アハン)、ツェン・ジンホア(バーディ)、ファビオ・グランジョン(オリバー神父)、ミミ・シャオ(バンバン)、レオン・ダイ、ワン・シーシェン、ほか
映画「君の心に刻んだ名前」ネタバレあらすじ結末と感想
映画「君の心に刻んだ名前」のあらすじをネタバレ解説。予告動画、キャスト紹介、感想、レビューを掲載。ストーリーのラストまで簡単に解説します。
君の心に刻んだ名前の予告編 動画
映画「君の心に刻んだ名前」解説
この解説記事には映画「君の心に刻んだ名前」のネタバレが含まれます。あらすじを結末まで解説していますので映画鑑賞前の方は閲覧をご遠慮ください。
君の心に刻んだ名前のネタバレあらすじ:起
(バーディとのケンカで顔に傷を負ったアハンは、部活の顧問であるオリバー神父に事情を聞かれています。「恋愛のためのケンカか?どの女子だ」と聞かれるアハン。しかしアハンは沈黙します。)
1987年、40年に渡る厳戒令解除後の台湾・台中。カトリック系男子高校に通う3年生のアハン(エドワード・チェン)とバーディ(ツェン・ジンホア)。同じブラスバンド部に入っていた2人でしたが、顔を合わせるのは今日の練習が初めてでした。バーディは8組の文系クラス、アハンは1組の理系クラスです。
寮では今夜も舎監による荷物検査が行われていました。アハンのいる4人部屋でも検査が行われ、そこに来た舎監の後ろにはバーディがふざけた様子でくっついてきています。何しに来たんだと問うアハンに、バーディは石鹸を借りに来たと言って、出ていきました。アハンと同部屋のクラスメートたちはその後寮を抜け出し、女の子たちとの乱交を楽しんでいました。しかしアハンだけは全然乗り気ではない様子。
ある日、アハンが部屋に戻ろうとすると、バーディが食べ物を買うため無断外出したことがバレて、むち打ちの罰を受けていました。その後バーディがシャワーを浴びていると、アハンがやってきて「ケツの腫れに効くんだ」と言って石鹸を渡します。するとそこに、アハンと同じクラスのダーバー達がゲイの男子生徒を連れてきてイジメを始めました。とっさにバーディのシャワー室に逃げ込んだアハンでしたが、ドアの音で存在がバレてしまいます。仕方なくアハンが出ていくとバットを渡され、「変態は懲らしめないといけない、ホモが周りにうつる」と言い、殴るように言われます。やむなくバットを振りかざしたところにバーディが出てきて、男子生徒を助けて去っていきました。ダーバー達に「お前バーディと同じ個室から出てこなかったか?」と聞かれたアハンでしたが、俺は2番目のところだったと言って逃れます。
深夜、バーディがアハンのベッドに忍び込んできました。舎監の部屋から盗んできたというナッツを2人で仲良く食べるのでした。その後、舎監の車にやってきたアハンとバーディ。すると窓の隙間から罰の仕返しとばかりに車内に小便をするバーディ。二人はふざけ合いながら友情を育んでいきました。
ある日、アハンは母親と共に教官のもとを訪れます。どうやらアハンは成績が振るわず、新学期から文系クラスへ移ることになりました。そして、学校は新学期から教育部の政策により女子生徒が入学するとのこと、そして校則で交際禁止にするということでした。その話を植込みの傍でバーディが聞いていました。
ブラスバンドの練習をしていると校長がやってきて、蒋経国総統が昨日亡くなったことを知らせます。そして台北で行われる追悼式に参加する生徒には休みを与えると言い、黙とうを始めます。それを聞いたバーディはアハンの顔を見て一緒に行こうと合図を送ります。
2人は電車で台北へと向かいました。蒋経国総統の追悼式に参加したあと、2人は台北の街に繰り出します。すると街中で「同性愛は病気じゃない」とゲイへの抑圧に抗議する同性愛者の男性を見かけます。しかしすぐに私服警官が現れ、造反行為だと警告を受けて連行されて行きます。その様子に黙っていられない様子のバーディでしたがアハンが制止しました。
その夜、飲食店の個室でご飯を食べて眠りに落ちたバーディ。彼に顔を近づけるアハンでしたが、その様子を見ていた店員が入ってきて「テーブルをかたずけます。ああいうのは困る」と言って制します。
ある日のアハンの自宅。アハンの家庭は父が厳しく、文系クラスになってしまったことを咎められます。バイクを買ってくれたら勉強を頑張ると言うアハンですが受け入れてもらえません。そんなアハンに母親は優しく諭し、バイクは母さんが買ってあげると言います。
後日、バーディからの電話を待ち望んでいたアハンは、買ってもらったバイクに2人乗りして出かけます。映画を楽しみ、ポスターを盗み、無人の映写室に忍び込みます。映画監督になりたいと言うバーディ。アハンはその映画に曲を作ってやると話します。一緒に映画を撮ろうとバーディは夢を語ります。
アハンの自宅。アハンが眠っているとそこにバーディが静かに覆いかぶさってきます。そしてアハンの手を取り、寝顔を見つめます。それは夢か現実か、目覚めたアハンは夢精していることに気づきます。
(アハンはオリバー神父に訊ねます「神父様に欲望はないんですか?」神父は「神が挙げた罪は7つ。傲慢、強欲、嫉妬、色欲、暴食、憤怒、怠惰だ。中でも色欲を罪悪の根源と見なした。」、アハン「僕の言う愛は肉体への欲望とは違います。心で受け入れてもらいたいだけ。神は信じる者に永遠の命を与えるはず。」、神父「君は神を誤解している」、アハン「門をたたく者には開かれるのでは?俺のたたく音が聞こえない?愛を知らないあなたには分からない!」と言い放ちます。)
君の心に刻んだ名前のネタバレあらすじ:承
ある朝、アハンのベッドでバーディと一緒に眠っているところを母親が見かけます。そして優しい表情で部屋を出ていきます。
今日から新学期です。女子生徒も入学し男子の長髪も解禁されました。しかし校内は女子棟との間がフェンスで区切られています。今日から文系クラスになったアハンは、ダーバー達理系のクラスメートから「変態」と揶揄されるバーディと共に仲良く去っていきます。
ブラスバンド部が練習をしていると、教官がやってきて男女の席を離すよう注意します。なぜかと問うオリバー神父に「若い男はみんな性欲の塊だ。受験勉強に支障が出る。これは学校の決まりだ」と言う教官。教官が「乱れた男女関係を作るのがあんたのやり方か?」とオリバー神父に問うと、女子生徒のバンバン(ミミ・シャオ)が立ち上がって「言い方がひどすぎます。大声を出さないで話し合いましょう」と反論します。それを見ていたバーディも加勢し「分ければ乱れた関係を防げると?では外の世界も2つに分けてください。女子の後輩を指導するなという校則があるんですか?」と声を荒げます。
この出来事をきっかけにバーディとバンバンは近づいていきます。アハンはバーディに、女子には近づかないほうがいいと忠告しますが、バーディは、お前も教官と同じか?と言って去っていきます。するとそのやり取りを見ていたゲイの男子生徒とアハンは目が合います。その後、その男子生徒にアハンは問います。「いつから男を好きになった?病院へは行ったか?女と付き合おうとしたことは?」。すると男子生徒は「子供の頃からずっとです。今までもこれからも。」と言って去っていきました。
ある日、バーディがダーバー達と喧嘩をしていました。ダーバーは「アハンに近づくな。」と言っています。すぐに止めに入ったアハンでしたが、バーディは女子棟に逃げ込み去っていきました。どういうつもりだとダーバー達に怒るアハンに「あいつといたらお前も同性愛者だと思われるぞ」と言います。
ある日、軍歌のコンテストでアハンが歌います。それに続けてバーディも歌を披露しますが、それは軍歌ではなく歌謡曲「この世界(這個世界 / 蔡藍欽)」でした。審査員はけしからんと苛立ち、失格を言い渡します。バーディは怒りでアハンの声に耳を傾けようとしません。しかしそこに現れたバンバンが「落ち着いて、怒る必要ないよ。私はちゃんとわかってるから。」と言うと、バーディはバンバンの頭をなでて親しげな様子をアハンに見せつけます。アハンは耐えられず叫びながら走り去っていくのでした。その後3人でご飯を食べに行った際も、バーディはバンバンとの仲の良い様子をアハンに見せます。
(アハンは、世界の中心は自分たちだと思っていたのに突然のけ者にされたと、オリバー神父に泣いて語ります。)
アハンが教会でお祈りをしているとバーディがやってきます。「どうか愛すべき彼女を彼に与えてください」と祈るバーディに、アハンは「俺をバカにしてるのか?ふざけるな。」と言って立ち去ろうとすると、バーディは「もう俺とばかりつるむのはやめろ、いい友達でいよう。女の子を紹介してやるよ。バンバンの友達だ。今夜出かけるからバイクを貸せ」と言います。アハンは何も言わず怒って出ていきます。
女の子とデートすることになったアハン、その表情に楽しさは全くありません。そこで女の子からポケベルのメッセージの送り方を教えてもらいます。「おやすみ(WAN AN)」にはもう一つの意味があると言い、Wo Ai Ni(私はあなたを愛してる)だと言います。アハンは早速「おやすみ」とバーディに送ります。
しかし翌日、バーディはそのメッセージの意味が分からずアハンに尋ねます。しかしアハンは意味を答えず「お前に話したいことがある」と言います。するとバーディは「付き合ってほしい所がある」と言って、その夜2人は出かけます。着いた先は鉄塔。その先には小さな気球が付いていて、それを盗みにやってきたのです。
翌日、ブラスバンドの練習としている途中にバーディは抜け出し、盗んだ気球をこっそり掲げます。そこには「おやすみ。マイラブ」と、バンバンにあてたメッセージが書かれていました。アハンに「メッセージの意味を答えないから自分で調べた」と言うバーディ。それは「私はあなたを愛してる」というバンバンへの愛の告白でした。
公園でひとり寂しげに佇むアハンに、一人の老人男性が声を掛けてきます。何も考えられないほどに落ち込んでいたアハンに優しくしてくれる老人に、アハンは自分の体を許してしまいます。激しく体をむさぼる老人に耐えられなくなったアハンは「俺はあんたとは違う、消えろ!」と突き放して去っていきます。
(アハンはオリバー神父に「”今を生きろ”と言いましたよね?あなたと違い、男を好きで悪いですか? 俺の愛のほうが少ないと? 教えてほしい、あなたの愛と俺の愛に何の違いがある?」、神父「すまない、男が好きだとは知らなかった。愛されなかったら? 愛を求めないのも今を生きることだ」、アハン「ありえない。彼は俺を想っている」、神父「それが愛とは限らない。 聖書は欲望を抑えよと説いている。人を罪に陥れるなと。」、アハン「俺を地獄に落とせ、そのほうが楽だ。同性愛者は地獄行きだろ? 大勢仲間がいるはずだ。俺を地獄に落としてくれよ。神父様。あんたは天国に行けよ」と言ってオリバー神父を突き飛ばします。)
君の心に刻んだ名前のネタバレあらすじ:転
ある日、タクシーでバーディのもとに駆け付けたアハン。アハンが貸したバイクで事故を起こして怪我をしたバーディは、アハンの心配をよそに、バイクは弁償するからとしか言いません。その後、寮で松葉づえをつきながらシャワーを浴びに来たバーディ。自分のことをアハンに心配させたくないバーディは、相変わらずバイクを修理に出したから心配するなとしか言いません。「俺がいつバイクの心配をした?」と怒るアハン。
アハンはバーディの痛々しい姿を見ていられず、一緒に個室に入り無理やり彼の体を洗ってやります。背中を向けるバーディにこっちを向けと言うものの、言うことを聞かないバーディ。そのまま後ろから抱くように彼の前側を洗い始めたアハンは、彼の下腹部に手を伸ばすとしごき始めます。そして無理やり向き合わせ、そのままバーディをいかせたアハン。バーディはアハンにキスをして「ごめん」と泣いて何度も謝ります。2人はしっかりと抱き合い、報われない愛を嘆き悲しむのでした。
アハンはバーディとの愛を確信するものの、それ以降もバーディの態度は相変わらず冷たいままでした。避けられて落ち込むアハンは、遠くからバーディを見ていることしか出来ません。
後日、気球を掲げた件の処分が掲示されていました。バーディは訓告処分。一方バンバンは退学処分でした。バーディの父親は保護者会長をしており、学校へやってきて教官の静止もきかずバーディを殴り倒します。アハンが駆けつけて止めようとしますが、バーディは「関係ないだろ」と言ってアハンを殴り倒します。「俺を何だと思ってる!」とアハンは怒りバーディと殴り合いのケンカになります。オリバー神父が止めに入り、バーディは去っていきました。
アハンがオリバー神父に傷の手当てをしてもらっていると、ダーバーから「アハンのお母さんから電話があって、帰るように」とのこと。アハンが家に帰ると、そこにはバーディの姿がありました。
父は学校での出来事にあきれた様子。アハンはバーディに何しに来たのか聞きますが、バーディは「もうすぐ入試だから勉強に専念したい。おまえのご両親にも学校で起きたことを知らせないと。バンバンと交際したのは俺だ。お前には関係ない。」と言います。母は親友同士仲良くするよう促します。帰ろうとするバーディをアハンは引き止め「お前の望みは何だ?俺たちはただの友達か?」と問います。「全部お前のためだ」と言うバーディ。感情が抑えられなくなったアハンはついにカミングアウトしようと「分かった。父さん母さん、好きなのはバンバンじゃない。俺は…」と話し始めると咄嗟に「アハン!もうやめてくれよ!」とバーディが止めます。しかしアハンは「俺は好きな奴を言える!だがお前は?」と訴えます。「お前はどうかしてるんだよ。変態になんかなるな」とバーディは言いますが、「変態がなんだ。気持ち悪いか?だったら俺の前ではっきりそう言え」と言って、アハンは家を飛び出していきます。バーディもすぐにその後を追います。
そのままアハンは電車と船を乗り継いでどこかへ行きます。バーディは何も話してくれないアハンに黙ってついていきます。しかし、辛抱しきれなくなったバーディは「もう構ってやらない!本気だぞ」と言います。するとアハンは「いつお前が俺を構った?いつだよ言ってみろ。俺はお前のいないところへ行くんだ!」。そして2人は海にたどり着きます。
バーディが「このまま先へ進んでみろよ。俺が見届けてやる」と言うと、アハンは叫び狂います。砂浜で寝ころび「どこへ行きたいんだ?」と聞くバーディ。アハンは「行きたいところへ行く」と言いますが、バーディは「無理だな。どこにも行けない。」と言います。するとアハンは「行けるさ」と言って服をすべて脱ぎ捨て、海へと入っていきます。バーディも追いかけ、二人は海で感情を発散させます。
バーディの裸体を枕にして砂浜に寝ころぶアハンとバーディ。アハンはバーディの体についた砂を払うと、バーディにキスをしました。その日を最後にバーディは受験勉強に入り、二人は二度と会うことはありませんでした…。
君の心に刻んだ名前の結末
1年ほどが経ち、アハンはバーディに電話を掛けます。少し前にバーディからの連絡があったのです。バーディは2度目の受験をしようとしていました。バンバンとの交際は順調かと問うアハンにバーディは「言われたよ、俺といるとまるでチョンヤオ作品の映画みたいでウソくさいと。」と言います。アハンは「何が悪い。初恋はどれも映画みたいにすばらしい。そうだろ? 歌があるんだ。俺が…。俺の先輩が作った。聞かせてみてもいいかな。」と言って、受話器越しにバーディにテープを聞かせます。
「♪君を捜してる。人混みの中でも君を思い出すよ。どれだけ忘れようとしても思い出が僕を過去へ呼び戻す。僕の心に刻んだ名前。知らぬ間に時が過ぎていく。一生愛し抜く。そう決めたんだ。世界の時間が止まってしまえば君をいつまでも想えるだろう。再び出会ってもまた恋に落ちるよ。僕の心に刻んだ名前。君への想いを封印し、僕はこの日々を生きていくよ。君との思い出の街で空へと向かうキーを握りしめる。君は飛び続けて、僕はここにいるよ。♪」
アハンのバーディへの想いを綴った歌を、2人は涙をこらえながら聴いていましたが、耐えられず泣き崩れるのでした。
それから30年が経ちました。
ブラスバンド部の同窓会に初めて参加したアハン。そこにバーディの姿はありませんでしたが、同窓会名簿をもらいアハンに電話をかけてみます。電話に出たのはバンバンでした。後日バンバンと会ったアハンは、バーディは元気にしているかと問いますが、バンバンは「知らない」と答えます。バーディとは離婚していて、子供を預けたりはするけど要件以外は話さないと言います。
しばらくしてオリバー神父が亡くなり、アハンはカナダにある彼の自宅を訪ねます。晩年は教会を離れ、パートナーの男性と幸せな最期を過ごしたというオリバー神父。彼も同性愛者でした。そしてそのパートナーの男性は言います。「教え子が訪ねてくると喜んでいた。思い出をたくさん聞いたよ。君のことも。何度も来てくれた教え子がいたな、女子学生を最初に受け入れた頃の生徒で、学校中が大騒ぎだったと話してたよ。君たちはよく似てる。その笑い方や好きなものも。」。アハンは男性に訊ねます「彼はなぜ教会を離れようと?」。男性は「彼は、罪人だから天国には行けないと言っていた。私さえいなければ天国へ行けた。」と話します。アハンは「彼は善人だから天国に召されたはず。あなたが彼を愛したように、彼もあなたを愛してました。」と慰めます。そして男性はオリバー神父とよく行っていたバーを紹介します。
アハンはそのバーへ行ってみることにします。一人でカウンターに座っていると、後方のテーブル席でバーディがひとりで仕事をしているのに気づきます。しかし彼に声を掛ける勇気はありませんでした。
数日後に再びバーへ行ってみたアハン。閉店までいたものの、その日はバーディが訪れる様子はありませんでした。仕方なくホテルへ帰ろうとすると、アハンの肩をたたく男性が現れます、それはバーディでした。驚きの表情をみせるアハンに、バーディは「店から出てくるのを見かけた。なぜここにいるのが分かった?」と言います。アハンは「おととい、あの店で見かけた」と言います。なぜ声を掛けなかったのかと聞かれたアハンは「こんなところで会うと思わなかったから。」と言います。一緒に歩き始めた2人は、オリバー神父がかつてアハンに教えたことを振り返ります。
アハン「オリバー神父は自分と同じ苦痛を俺に与えたくなくて、君への想いを止めたんだ。」
バーディ「俺はお前を諦めさせたかったんだ。俺へのその…」
アハン「お前への想いだろ?俺が諦めるとでも思ったか?」
バーディ「30年後の世界を誰が想像しただろうな。当時は同性愛を認めたら終わりだった。」
アハンは「今はどうだ?大声で言えるのか?」とあおります。
するとバーディは「俺はお前を愛してた!」と言い、アハンは感情がこみ上げてきました。
バーディは「ひどい結末になると分かってた。だからバンバンの友達にお前を誘惑してもらおうとしてたんだ。矯正できるか確かめようとした。」と話します。
ホテルに着いたアハン。バーディは少し離れた別のホテルに宿泊しているようです。「一杯飲んでいかないか?」と誘うアハンでしたが、バーディは「やめておく、また今度な。おやすみ」と言います。
「おやすみ」
それはかつてアハンがバーディに送ったポケベルのメッセージ(私はあなたを愛しています)を意味していました。別れを惜しみながら何度も”おやすみ”を言い合う2人。
バーディがひとり帰っていこうとすると、アハンが追いかけてきました。バーディ「どうした?」アハン「そこまで送る」と言って一緒に歩き出します。
声が聞こえて振り返る2人。そこには若かりし頃のアハンとバーディがいました。
「♪君を忘れよう。何度も自分に言い聞かせてきた。つかまえようとすればするほど光はこの手をすり抜けていく。それだけだ。君を愛してる。僕だけの心に刻まれた想い。勇気を出してようやく伝えたけど、返ってきたのは優しい沈黙。僕の心に刻んだ名前。知らぬ間に時が過ぎていく。一度のウソが僕の人生を縛る。かたくなに世界と向き合い、息すらもできなかったあの頃。再び出会ってもまた恋に落ちるよ。僕の心に刻んだ名前。君への想いを封印し、僕はこの日々を生きていくよ。虹色に染まる街で天国へ向かう地図を握りしめる。君は飛べるけど僕は動けないまま。♪」
以上、映画「君の心に刻んだ名前」のあらすじと結末でした。
とても切ない気持ちになる作品でした。日本でも同じような経験をしたことがある人は多いのではないでしょうか。同性だから好きなのに好きとは言えない、もしかしたら一瞬の気の迷いかもしれないから女性を好きになる努力をしよう。情報が少ない時代だったからなおさらでしょう。この時代の台湾のような同性愛者への抑圧は日本には無かったかもしれませんが、今のようにネットや携帯が普及していなかった時代を知る人たちには特に共感できる映画ではないでしょうか。