ゆれるの紹介:2006年日本映画。この作品は、西川美監督・原案・脚本の映画で、キャチコピーは「あの橋を渡るまでは、兄弟でした」、キャッチフレーズは「兄と僕は、どこかでつながっている、思っていました、これまでは。」という旧知の女性の転落死から裁判になる兄弟の姿を描いたヒューマン・サスペンスドラマです。第28回ヨコハマ映画祭作品賞、第49回朝日ベストテン映画祭日本映画1位、第61回毎日映画コンクール日本映画大賞など、数多くの賞を受賞した作品です。この作品で主演のオダギリジョーは、第30回日本アカデミー賞優秀主演男優賞を、香川照之は優秀助演男優賞を受賞しました。
監督:西川美和 出演:オダギリジョー(早川 猛)、香川照之(早川 稔)、伊武雅刀(早川 勇)、新井浩文(岡島洋平)、真木よう子(川端智恵子)、ほか
映画「ゆれる」ネタバレあらすじ結末と感想
映画「ゆれる」のあらすじをネタバレ解説。予告動画、キャスト紹介、感想、レビューを掲載。ストーリーのラストまで簡単に解説します。
「ゆれる」の予告編 動画
映画「ゆれる」解説
この解説記事には映画「ゆれる」のネタバレが含まれます。あらすじを結末まで解説していますので映画鑑賞前の方は閲覧をご遠慮ください。
詳細解説
「ゆれる」のネタバレあらすじ:プロローグ:兄弟の絆
東京で売れっ子写真家として活躍している早川猛は、母が亡くなり、その葬儀のために久しぶりに実家に帰省しました。彼の実家は田舎町にありました。クラシックな愛車で帰省する途中、猛は実家が経営するガソリンスタンドで給油をしました。そこで偶然にも幼馴染の川端智恵子に再会するが、お互いそのときは、知らぬふりをしました。自由奔放に生き好きな仕事についた猛と違い、兄・稔は真面目に実家のガソリンスタンドを継いで働いていました。彼らはお互い立場は変わっても、兄弟としての絆は昔のままでした。
「ゆれる」のネタバレあらすじ:「兄ちゃんに今日、呼んでもらってよかった」
母の葬儀で久しぶりに再会した兄弟は、母の遺品を整理していると、幼い頃よく家族で遊びに行った霞渓流の8ミリカメラの映像を発見しました。稔は猛に、久しぶりに幼馴染みの智恵子も誘って、そこに行こうと提案しました。翌日、稔は実家のガソリンスタンドで働く、稔と智恵子見て、稔が彼女に気があることを察しました。その夜、猛は智恵子を車で家まで送ることになりました。2人はとりとめのない世間話をしながら、智恵子は東京ですっかりあか抜けした猛に心を惹かれました。猛は彼女から好意を感じ、彼女の家に上がり込みました。猛と智恵子はその夜、体を重ね合いました。智恵子は幼い頃のことを思い出しましたが、猛はすぐに彼女の家を出ていき、実家に帰りました。家に帰ると、稔は起きて家事をしていました。猛は稔に彼女と居酒屋で飲んでいたと嘘をつきました。稔は彼女がお酒を飲めないことを知りながら、猛の話にうまく合わせました。家事をしている兄・稔の背中を見つめながら、猛は「兄ちゃんに今日、呼んでもらってよかった。お母さんにも手を合わせられたし…」と言うと、風呂に入り、寝床につきました。
「ゆれる」のネタバレあらすじ:事件
翌日、猛と稔は智恵子も誘って、三人で渓流へ出かけました。子供のようにはしゃぐ稔とは対照的に、猛は久しぶりに来た渓流の自然の美しさをカメラに収めることに夢中でした。そんな猛に智恵子は「こんなとこ、やっぱり何もよくなかったよ。…あの頃、私、いろんなことが恐かったんだわ。失敗しちゃいけないと思っているうちに、何もない人生になってしまった。…いいな、東京。なんであの時、猛くんと一緒に出ていかなかったのか」と秘めていた気持ちを吐露しました。猛はそんな智恵子に「思った程じゃないよ。疲れるばっかりだぜ。所詮、田舎者には水が合わないんだ」と答えました。智恵子は「私、もう今までみたいにいられないと思う。恐いよ。あの人、もう気付いているんじゃないかな」と猛に言いました。猛は智恵子の言葉を無視して、被写体を探して、一人渓流の奥に入り、歩き回りました。稔は智恵子に、猛が高い吊り橋を歩く姿を見て、「子供の頃、よく連れてきてもらったんだ。…」と幼い頃の話をしました。智恵子は稔の危ないよという注意を無視して「私も渡ってみようかな。…ここで待っていて」と言うと、猛を追ってその吊り橋を渡って行こうとしました。智恵子は吊り橋の途中で、渓流で写真を撮る猛の姿を見て、「猛く~ん」と手を振りましたが、その声は彼には届かず、猛は林の中に消えていきました。するとそのとき、彼女の跡を追ってきた稔が、危ないから渡らない方がいいと彼女の服を握り、制しました。智恵子はそんな稔に思わず「もう止めてよ!触らないでよ!」と一喝しました。稔と智恵子は口論となり、稔は彼女を橋の下へ落下させてしまいました。猛は遠くからその様子を見てしまいました。しかし、稔と智恵子の会話の内容までは、渓流の流れに紛れ、聞こえませんでした。猛は無我夢中で、兄・稔のもとに駆けつけました。稔は跪き、渓流の下を覗き込んでいました。猛は何も見ていなかった素振りで、稔に声をかけました。「知恵ちゃんを…」と呟くパニック状態の稔に、猛は「落ちたのか?…警察を呼ぼう」と言って慰めました。
「ゆれる」のネタバレあらすじ:兄・稔の自供
猛は到着した船木警部補に、智恵子が吊り橋を渡ったことに気付かなかったことなどの、偽りの証言をしました。その夜、家での夕食時、父・勇は無言で黙々と食べる兄を激しく叱咤しました。猛は稔を庇いました。翌日、猛は稔に付き添い警察に行きました。すると偶然、智恵子の親族に出くわしました。稔は彼らに涙を流しながら、土下座をして謝りました。いつも温厚だった兄・稔は、あの事件以来、職場でトラブルを起こすようになりました。そしてついに、稔は「智恵子は自分が殺した」と警察に出頭・自供しました。猛は兄を無罪にしようと、伯父の早川修弁護士に相談に行き、あまり乗り気でない伯父を何とか説得しました。現場検証に言った伯父は、猛がいた場所から吊り橋が見えることを発見し、猛に「本当にその様子を見ていなかったのか」と問い質しましたが、猛は見えなかったと言い張りました。猛は拘置中の稔と面会し、裁判の切り抜け方を一緒に考えようとしました。しかし、稔は「俺が有罪になったらどうなるんだろう。…俺、自白して良かったと思っている。この狭い町の中で幼馴染みの女、死なせたレッテル貼られて生きていくって、どういうことか分かる?…まあ、あのスタンドで一生生きていくのも、檻の中で生きていくのもそう大差ないな。バカな客に頭下げなくていいだけ、こっちのほうが楽だ」と言うと、猛の「兄ちゃんは立派だよ」という慰めの言葉も聞かず、「所詮、つまらない人生だよ」と言い、自由奔放に生きている弟と実家を出られず雁字搦めの自分の人生を比較し「なんで自分ばっかり…」と自責し、あげくの果てに「俺がここから出してやるから」という猛に唾を吐くという、猛の今まで思っていた兄とは別人のようになっていました。
「ゆれる」のネタバレあらすじ:崩れゆく兄弟の絆
裁判が始まりました。丸尾明人検察官は起訴状を淡々と読み上げました。稔はその起訴状に対して「嘘を言いました。でも僕があそこにいなければ、あの人、今でも生きているんですよ。…あとで冷静に考えたら、あの時起こった本当のことと、みなさんに僕が話したことは全然違うことがはっきり分かったんです」と全面的に否認しました。後日の裁判で、早川弁護士は、必死で稔が智恵子を助けようと手を出したが、落下するのを捕まえられなかったという無罪の証明をしようとしました。しかし、丸尾検察官はその証言を真っ向から否定し、稔を有罪にしようと問いつめました。ある日、猛は父から智恵子が体質的に酒をまったく飲めないことを知らされました。猛の脳裡にあの夜、猛が智恵子と体を合わせ帰ったときについて嘘に対する稔の対応が蘇りました。猛は自分と智恵子の関係を、稔は見抜いていたことに気付きました。裁判で稔は智恵子を助け出そう手を出したとき、「やめてよ!触らないでよ!」と言われ、「僕のことを生理的にというか…よっぽどイヤなんだろうなと、惨めに思いました」と証言しました。丸尾検察官は稔から、智恵子に異性として好意を抱いていたことを証言させました。そして、検察官は智恵子の検死から前夜に他の異性と交渉していたことを告げ、稔はその事は知らなかったと言い、傍聴席に頭を下げました。猛は稔に面会に行きました。稔は以前の面会とうって変わって、明るい話題を始めました。猛は橋の上の出来事の核心に迫る部分の問いを、稔にしました。稔は「お前は俺の無実を、事実と思っているか?違うでしょ。自分が人殺しの弟になるのがイヤなだけだよ。…始めから人の言うことを疑って、最後まで一度も信じたりしない。そういうのが、俺の知っているお前だよ」と猛に言うと、猛は激昂し、椅子を投げ飛ばし、部屋を出ていきました。次の裁判で、猛は証言台に立ちました。猛は「兄はとても真面目で、優しくて、とても正直な人間でした。僕は…兄のことだけは信じられたし、兄とだけは繋がっていたんです。それがすっかり変わってしまった。あんな巧妙な嘘をつく人間じゃなかった。…法廷での兄の発言です。今まで僕は何も知らないふりをしてきました。兄を庇いたいと思って…でももうイヤになりました。これを離すことで僕と兄が引き裂かれて、2人とも惨めな人生を送ることになったとしても、僕は元の僕の兄貴を取り戻すために、本当のことを話さそうと思います」と発言すると、吊り橋の上で稔が智恵子を突き落したと正直に言ってしまいました。
「ゆれる」の結末:エピローグ:「兄ちゃん!家に帰ろうよ」
7年後、兄・稔が刑務所から出所してくる時が訪れました。猛は兄・稔と絶縁したと思い、迎えに行く気はありませんでした。ある日、突然、実家のスタンドで当時バイトをしていた岡島洋平が猛の家に訪ねてきました。岡島は猛に兄・稔を迎えに行ってくれないかと頼みにきました。家に戻った猛は、片づけをしていた時に見つけた母の残した昔の8ミリテープを見ました。そこには、父と母、幼い頃の稔、猛、家族4人が、あの渓流で楽しそうにはしゃぐ姿が映し出されていました。猛の手を握り上にあげる兄・稔の姿を見て、猛は法廷で自分が取り返しのつかない過ちを犯してしまったことに気付きました。猛が目撃したのは、兄・稔が智恵子を最期まで助けようとして、手を伸ばしたが、智恵子が落下してしまった光景でした。猛は自責の念から泣き崩れました。猛はすでに遅すぎるかもしれないが、兄との絆はまだ残り修復できるだろうかと念じつつ、刑務所に急行しました。しかし既に、兄は刑務所を出た後で行方は分かりませんでした。猛は刑務所から帰る途中で、兄・稔が歩いている姿を目にしました。猛は目に涙をため、必死で「兄ちゃん!家に帰ろうよ」と何度も呼び掛けました。その声に気付き猛を見た稔は、一瞬微笑みを浮かべると、バスに乗り、どこかへ去っていきました。
「ゆれる」感想・レビュー
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序盤の軽快さ。抜群にセンスのいい映像と音楽、洒落ている一人のカメラマンの日常。ここから全く想像できない方向へと物語は進み、更に結末も思わぬ方向へハンドルを切られる。見ている者は何度裏切られ戸惑い、動揺させられることか。。序盤、中盤、終盤の対比が見事。
人間の持つ美さと対極的な部分にある心理状況が次々に映し出され、見ている者を嫌悪にまみれた世界へと誘っていく。。
登場人物の一瞬一瞬の微妙な感情の流れを、少しも漏らさずに共に感じたくて、何度も見てしまう映画だ。。その度に、画面の中で語る人物を真剣に疑い、本気で騙され、共に狂乱しそうになる自分に気づいてぞっとする。
是非、この映画でしか体感できない体験を貴方も…! -
証言台にたった猛の言葉は個人的にですが、猛が稔に嫉妬してしまって出来た脳内イメージが記憶になり証言してしまっかと
映画の最初から最後まで、香川照之さんの善とも悪ともとれる絶妙な表情に本当の演技力を感じます。この人の演技力は本当に怖い。
映像の質感や音楽もかっこよく、出てくる田舎の風景も、「引き込まれる」という言葉がぴったり合う映画です。
裁判での弟の証言に対して兄は何を思ったのか、その後兄は弟を許せるのか、など映画を見終わった後もいろいろと考えてしまう映画です。