FLEE フリーの紹介:2021年デンマーク, スウェーデン, ノルウェー, フランス映画。“FLEE”とは安全な場所へ逃げるという意味。本作は祖国アフガニスタン、受け入れ先のソ連(ロシア)からの脱出を語る青年アミンの姿をアニメーションで描いたドキュメンタリーだ。名を変え、アニメにすることで当事者の安全を確保した作品で、20年の時を経てようやく語れるようになったことからもその壮絶さがうかがえる。アカデミー賞で3部門にノミネートされたほか、アヌシー国際アニメーション映画祭では最高賞となるクリスタル賞ほか3部門を受賞した。
監督:ヨナス・ポヘール・ラスムセン 脚本:ヨナス・ポヘール・ラスムセン、アミン・ナワビ
映画「FLEE フリー」ネタバレあらすじ結末と感想
映画「FLEE フリー」のあらすじをネタバレ解説。予告動画、キャスト紹介、感想、レビューを掲載。ストーリーのラストまで簡単に解説します。
映画「FLEE フリー」解説
この解説記事には映画「FLEE フリー」のネタバレが含まれます。あらすじを結末まで解説していますので映画鑑賞前の方は閲覧をご遠慮ください。
FLEE フリーのネタバレあらすじ:起
コペンハーゲンに住む青年アミンは初めて、友人である映画監督ヨナスに自身の過去を語り始めます。
1984年アフガニスタンの首都カブール。3、4歳だったアミンは姉の服や母の下着を着て走り回るちょっと変わった男の子でした。母はいつも家にいて、アミンは夜、母に髪をなでてもらうのが大好きでした。彼には兄や姉がおり、今はいない父の話をしてくれる姉に嫉妬していた幼いころ…。
いったんインタビューを止め、アミンがデンマークに来たころの話に。ふたりは高校生だったそのころに出会いました。ダリー語で書かれた当時のノートを開きますが、アミンは自分の筆跡がわからないと苦笑します。そして“姉は誘拐され、両親と兄は殺された…”という過去を、恋人のキャスパーにも話せていないといいます。
そのキャスパーはふたりで住む家を探し中で見つかったら結婚するとうれしそうに語ります。しかしアミンにはアメリカのプリンストン大学から研究生になるよう依頼が来ており、そのことをまだキャスパーに打ち明けられていません。
1979年、新しいアフガニスタンの共産主義政権は脅威とみなした人々を連行していきました。その数3,000人。アミンの父もそのひとりです。指輪と時計を妻に託し、すぐ戻れると言っていましたが3ヶ月後、こつ然と姿が見えなくなってしまいました。
そのころ5~6歳のアミンは、自分がゲイだと気づいていました。しかし同性愛者のいないアフガニスタンでそれは家族の恥とみなされます。男らしいすぐ上の兄と行動を共にしながらも、アミンは姉たちの髪をとかしている方が落ち着くのでした。
FLEE フリーのネタバレあらすじ:承
1989年、国内のテロリスト“ムジャヒディン”はアメリカから武器供与を受け、アフガニスタンは“第2のベトナム”と呼ばれ始めていました。10代の男性にまで兵役が課せられ、アミンの兄や近所の少年たちは皆逃げ回っていました。ソ連が撤退すると、今度はアフガニスタン人同士で殺し合いが始まりました。それまでカブールは戦闘地域ではありませんでしたが、身の危険を感じたアミンの母は急いで荷造りして家族揃って祖国を出ました。
飛行機が着いたのはモスクワです。ソ連崩壊後ロシアとなったその国だけが、彼らに観光ビザを出してくれたのです。しかしそこは犯罪が横行し、店には商品もほとんどありません。スウェーデンに住んでいる長兄が部屋を借りてくれて、金銭的に支援をしてくれました。
いずれ自分の国に密入国させるつもりですが、それには多額の金がかかりすぐに全員を脱出させることはできません。あっという間にビザは切れ、汚職警官たちは難民を見つけては不法滞在者として逮捕する代わりに金をとっていくのでした。外に出ることもままならず、一日中家でテレビを見る生活が一年ほど続いたあるとき、先に姉ふたりが脱出できることになりました。
無事に着いたら電話をするという約束をしてふたりは出発しましたが、狭いコンテナに押し込められ、巨大貨物船の船倉に積み込まれました。人々は空気を求めてもがき、アミンのふたりの姉は精神的なショックを受け口もきけない状態だと長兄から電話がかかってきました。
ヨナスが確認すると、姉ふたりは存命だとアミン。彼は、大学に入ってようやく他人に心を開くことができましたが、はじめてできた彼氏に自分のことを話したところ、ケンカしたときにすべてをバラす、と脅されたそうです。別れたあと何年も怯えて暮らし、それ以来アミンは他人に自分の話、真実を話せなくなってしまったのです。
キャスパーと新しい物件を見に行ってもアミンはどこかうわの空、「いっしょに住むよね?別の計画はないよね」とキャスパーは不安になってたずねるのでした。
FLEE フリーのネタバレあらすじ:転
再びモスクワ時代の話。アミンはどうやって脱出したのかよくおぼえていないと言いながら、凍てつく森で何時間も待たされた夜のことは忘れないといいます。早く歩け、と密入国業者に急かされながら、年老いた母を連れていくために布に乗せて運ぶ男たち。底の光る靴を履いていたため脱げと言われる男の子。アミンの兄はその子をおぶって歩きます。そうしなければ銃で殺されかねないからです。
ようやく海岸につくと、人々は無線もない船の甲板の下に押し込められました。ひどく揺れる船にほどなく人々は吐き始め、そのうち嵐のため浸水してきました。バケツで水を汲み出すもラチがあきません。二日で着くはずがもう何日も漂流し、食料も水も底をついてしまいました。
そんな折、目の前に大きな客船が現れたのです。人々は歓喜の声をあげますが、アミンは居心地悪くうつむいていました。はるか上方にいる乗客たちがもの珍しそうに写真や動画を撮っていたからです。そしてノルウェーのその船は救助することなく、エストニアの沿岸警備隊に通報しました。人々は迷彩服・覆面の男たちに捕らえられ、大人の男たちの恐怖の表情を初めて見たとアミンは回想します。
彼らはその後エストニア・ハルクの廃墟で半年間監禁されます。そして2つの選択肢が提示されました。このまま一生ここで暮らすか、モスクワに送還されるか。モスクワに戻ったら逮捕されてアフガニスタンに送り返されてしまうかもしれません。でもアミンたちは何でも金で解決する腐ったモスクワの警察に望みをつなぎ、モスクワに戻ることを選びました。
キャスパーにアメリカ行きを打ち明けたアミンは彼とケンカをしてしまい、この夜はヨナスの家に泊まらせてもらうことに。アミンは、今の自分があるのは兄たちや母のおかげだと口にします。だから自分は彼らに大きな責任があるのだと。兄には10年付き合った恋人がいたが、ロシアを出るために金が必要だったし子どもをつくることもできなかったため彼女は去っていってしまいました。
自分だけが幸せになることへの抵抗感、そしてキャスパーの求める田舎暮らしの風景が、あの絶望的なハルクの収容所を思い起こさせることなどが次のステップへ踏み出せない原因のようでした。
再びモスクワの話を始めるアミン。それはロシアに初めてマクドナルドがオープンしたときのことです。アミンと兄はそれを見物するために出かけますが、そこで警官につかまってしまいます。アミンは大切な父の時計を奪われましたがそれで彼らは解放されます。
しかし先につかまっていた少女は金もなく、おそらく警察車両の中で性的に暴行されたのでしょう。彼女を見捨てたことは最も苦しい記憶のひとつだとアミンはポツリと言うのでした。
FLEE フリーの結末
その後、もっと安全な出国のため、今までより高額な業者と契約した兄はアミンをひとりで出国させることにしました。母と兄に見送られ車に乗ると、少し年上の男性がやはりひとりで乗っていました。業者は彼らに偽造パスポートを渡し、それを完璧におぼえること、そして自分は家族をみんな殺されてアフガニスタンからは自力で逃げてきたと言うことを約束させられます。
道中ふたりは仲良くなり、いっしょに音楽を聞いたりおしゃべりをしたりしました。アミンはその彼にほのかな恋心を抱きます。彼のしていた金のネックレスをほめると、彼はそれをアミンにつけてくれました。
翌朝空港に着き、彼はチューリッヒに、アミンはコペンハーゲンに行くのだと言われ、ここからは完全にひとりです。「幸運を祈る」とふたりは別れ、アミンはコペンハーゲンに降り立ちます。約束どおりパスポートを捨て、そこで難民申請をするとイラン人の通訳がつきました。言葉がよくわからず意思疎通に苦労しましたが、アミンは業者のいった物語を忠実に話すのでした。
スキを見てようやくスウェーデンの長兄に電話しますが、そこからアミンがストックホルムに行くまでさらに数年がかかりました。アミンは送還を恐れ、細心の注意を払ってボロを出さないように生活していたそうです。“脱出”の影響がどれほど心を壊してしまうか、彼は苦しそうに語ります。
そのころの彼はカウンセラーに同性愛者だと打ち明けていました。治るのではないかと思い薬を所望しますが、そう簡単ではない、治るものではないと言われたそうです。
その後ようやくスウェーデンにやってきたアミンを、長兄や姉たちは大歓迎してくれました。しかし共に暮らすうち、アミンに彼女ができないことを心配して彼らはいろいろと世話を焼こうとしてきました。
ある日、とうとう決心してアミンは同性愛者だと告白します。すると長兄は黙って彼を町に連れ出します。イヤな予感しかしなかったアミンが連れて行かれたのはゲイの集まるクラブでした。「心配するな。知ってたよ」と長兄はアミンに金を渡すと、そこへ送り出してくれたのです。アミンは感謝しながら、初めてのゲイクラブをひと晩満喫したのでした。
アメリカ・ニューヨーク。研究者として成功していたアミンはその地で研究発表の講演をしています。その地でヨナスは最後のインタビューをしています。
その後コペンハーゲンの空港に戻ってきたアミンを迎えたのは、穏やかな表情のキャスパーでした。ふたりは静かに抱き合います。
4ヶ月後。晴れてふたりは結婚し、美しい水辺の家で暮らし始めました。モスクワに残してきた母と兄も無事出国し、家族はそれぞれ欧州各地で暮らしています。しかし父の行方だけはいまもわかっていません。アミンは兄たちに感謝し、今回この話を聞き取ってくれたヨナスに感謝し、そしてなんといっても4年も待ってくれた最愛の人キャスパーに感謝するのでした。
以上、映画「FLEE フリー」のあらすじと結末でした。
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