アンモナイトの目覚めの紹介:2020年イギリス,オーストラリア,アメリカ映画。1840年代、イギリス南西部の海岸に面した町ライム・レジス。人間嫌いで世間とのつながりを断って暮らすメアリー・アニング。13歳で発掘したイクチオサウルスの化石は、世界初の全身化石として一世を風靡し、大英博物館に展示されているが、女性であるメアリーの名前はすぐ世間から忘れ去られ、今は観光客の土産物用アンモナイトを探しては細々と生計を立てていた。そんなある日、裕福な化石収集家の妻シャーロットを数週間預かることになる。次第にシャーロットの存在は、メアリーの心を溶かしていき、やがて彼女自身も知らなかった本当の想いを露わにさせていく。主人公は現代の恐竜ブームにもつながる化石を掘り起こした、実在の古生物学者メアリー・アニング。
監督:フランシス・リー 出演:ケイト・ウィンスレット(メアリー・アニング)、シアーシャ・ローナン(シャーロット・マーチソン)、フィオナ・ショウ(エリザベス・フィルポット)、ジェマ・ジョーンズ(モリー・アニング)、アレック・セカレアヌ(ドクター・リーバ-ソン)、ジェームズ・マッカードル(ロデリック・マーチソン)ほか
映画「アンモナイトの目覚め」ネタバレあらすじ結末と感想
映画「アンモナイトの目覚め」のあらすじをネタバレ解説。予告動画、キャスト紹介、感想、レビューを掲載。ストーリーのラストまで簡単に解説します。
アンモナイトの目覚めの予告編 動画
映画「アンモナイトの目覚め」解説
この解説記事には映画「アンモナイトの目覚め」のネタバレが含まれます。あらすじを結末まで解説していますので映画鑑賞前の方は閲覧をご遠慮ください。
アンモナイトの目覚めのネタバレあらすじ:起
1840年代、イギリス南西部の海辺の町ライム・レジスに母親と二人で暮らす古生物学者メアリー(ケイト・ウィンスレット)は、かつて世界初の魚竜の全身化石を発掘しその名を残しましたが、栄光も遠い過去となり、今となっては観光客の土産物用アンモナイトを探しては売り、細々と生計を立てていました。
そんなある日、メアリーの店に、ロンドンから化石収集家のロデリック・マーチソン(ジェームズ・マッカードル)が、妻のシャーロット(シアーシャ・ローナン)を伴ってやってきました。裕福なロデリックはアンモナイトを購入し、採集に同行させてほしいと頼んできました。人嫌いで他人に心を開かないメアリーは迷惑そうな顔をしましたが、謝礼を弾むと言われ、しぶしぶ承諾しました。
その後ロデリックが町を去る日、メアリーはさらに迷惑な依頼をされます。
流産のショックから立ち直れず鬱を患ったシャーロットをこの地で療養させる目的で、数週間預かることになったのです。
翌日、シャーロットはメアリーの採掘についていきますが、メアリーは不機嫌そうに黙ったまま。しまいには、話しかけるシャーロットに「口出ししないで」と冷たく言い放ちました。そんなメアリーに憤慨したシャーロットはその場を離れ、海に入りました。
アンモナイトの目覚めのネタバレあらすじ:承
翌日になり、メアリーの店に転げ込むように入ってきたシャーロットは、高熱を出して倒れてしまいました。
往診にきたリーバーソン医師(アレック・セクレアヌ)より、24時間の看護が必要だと告げられ、メアリーは「冗談じゃない」と拒否しましたが、苦しそうなシャーロットを放っておくわけにもいかず献身的に介抱をしました。
その甲斐あってシャーロットは完全に回復。2人の間に、特別な感情が芽生え始めました。
アンモナイトの目覚めのネタバレあらすじ:転
ある日のこと。メアリーはリーバーソン医師より自宅で開かれる音楽会に招待されました。メアリーはシャーロットと共に出かけましたが、かつてメアリーと親密だったエリザベス(フィオナ・ショウ)を紹介します。
すると、すぐにシャーロットは上流階級の輪の中に溶け込み、生き生きと楽しんでいる様子を見せました。そんなシャーロットに嫉妬しショックを受けたメアリーは一人で先に帰ってしまいます。
遅れて帰ってきたシャーロットは「なんで置き去りにしたの!」と怒りながらも、メアリーの深い想いを知ると「あなたは一番輝いていた」と励ましメアリーの手を握りました。
その夜、ふたりは結ばれました。
シャーロットに笑顔が戻ってきました。
ふたりは孤独から解放され、互いへの想いに満たされ幸せを感じていました。
しかし、喜びの日々はあっという間に過ぎ、シャーロットがロンドンへ戻る日がやってきます。メアリーとシャーロットは再び、孤独と向かい合わなくてはなりませんでした。
アンモナイトの目覚めの結末
その後、メアリーの母が亡くなり、シャーロットからお悔やみとともにロンドンへの招待状が届きます。
はやる心を抑えてロンドンに着いたメアリーを、喜びいっぱいに迎えるシャーロットは、メアリーのために服を仕立て、部屋を用意したことを意気揚々に伝えました。砂浜で泥だらけになりながら発掘をする生活を脱出し、研究ができる環境までそろえて一緒に暮らそうと言うのです。
ところがメアリーの表情は一変しました。
何にも縛られず自由に発掘することを選んで生きてきたメアリーにとって、ここまでの環境を揃えられることは、金の籠に閉じ込められたのと同じ。追い詰められたように感じたメアリーは部屋を出ていきました。
メアリーが向かったのは大英博物館でした。
様々な展示物を足早に通り過ぎ、たどり着いたのはかつて自分が発掘したイクチオサウルスの展示でした。メアリーの発掘に対しての想いはすべてここに集約されていました。
そしてふと顔をあげると、目の前にシャーロットの姿がありました。
言葉を交わすわけでもなく、見つめ合うふたりでした。
以上、映画「アンモナイトの目覚め」のあらすじと結末でした。
とても丁寧にそして緻密に作り込まれた美しい物語に私はどんどんと引き込まれてしまった。冒頭のシーンからエンディングに至るまでの時代考証がしっかりとしていて、リアルで臨場感に満ちた空間はまるでタイムスリップしたかのようであった。そして劇中のケイト・ウインスレット(メアリー・アニング)の眼差しが誠に素晴らしい。このメアリーの眼差しを見ていてふと或る曲を想い出していた。メアリーの物憂げな視線はリアダが作曲した「アイルランドの女」と言う素朴で幻想的なケルト音楽を彷彿とさせるのである。メアリーのじっと見据える視線のその先は悲惨な過去なのか過酷な現実なのかはたまた不透明な未来なのであろうか。神経質で過敏なサラブレッドや女鹿のように奔放で美しい新妻のシャーロット(シアーシャ・ローナン)。そして思春期の少女の繊細さと陶器の白肌を具有するシャーロットと出逢った時のメアリーの驚きと喜びは察するに余りある。何千年も待ち侘びて漸く手に入れた宝物を扱うかのように慎重にシャーロットの看病をするメアリー。そのメアリーがシャーロットの肢体を撫でまわす指先の感覚が堪らない。それは決してエロスではなくて若さへの羨望と敬愛、更には慈愛と純粋なる賛美をメアリーから受け取ったのである。メアリーのその一途な想いをシャーロットが受け止めると、その後は燃え盛る烈火の炎へと昇華してゆくのである。メアリーとシャーロットの度重なる逢瀬も肉体の交わりも思春期の恋人たちのように汚れを知らず純粋で美しい。時に過激で露骨すぎる性愛シーンに対しても私は決してエロティックな感情は抱かなかった。それもひとえにこの作品が純粋で誠実な愛の本質を体現していることの証左ではないだろうか。蛇足ではあるがこの辺の描写(同性愛とベッドシーン:濡れ場)の受け止め方や評価に関しては、鑑賞者の経験や成熟度が問われるのだと思う。それにしてもケイト・ウインスレットの演技は誠に素晴らしく私は甚く感銘を受けた。演技派の彼女の新境地を見る思いがしたのである。またシアーシャ・ローナンの美少年のような無垢の美しさには鳥肌が立つほど感動した。そして何とも粋で含蓄のある美しいラストシーンが忘れられない。大英博物館を訪れて展示物のイクチオサウルスの化石を凝視するメアリー。イクチオサウルスの化石はメアリーにとって生涯で唯一無二の最愛の作品なのである。その作品に込められたものはメアリーのアイデンティティであり自身の原点そのものでもある。自分の人生の道のりをふり返り、自身の立ち位置を確認するメアリーの目には再びシャーロットの姿が。大英博物館で再会を果たしショーケースのガラス越しに見つめ合う二人。初めて出逢った恋人同士のように熱っぽい視線を交わす二人の女。二人の前途にはこの先にいったい何が待ち受けているのだろうか。全く新たな化学反応を起こして予想外の人生の扉が開くのだろうか。そういう期待感と想像の余韻を残しつつ「アンモナイト」は幕を下ろす。何と美しい映画なのだろうか、こんなにも美しい映画がかつてあったろうか。「アンモナイトの目覚め」を観たことで私は純粋であること・究極の愛のかたち・永遠なるもの・など、人生における多くの価値観を学ぶことができた。つまり「アンモナイトの目覚め」は、メアリーも含めてこの作品に関わった全ての人々にとっての「発掘の物語」なのである。私は藝術を心から愛する人間の端くれとして、この作品によって男女の宿命や性差を超えた美を見極めた気がする。「アンモナイトの目覚め」は文芸作品のような品格と慈愛に満ちた珠玉の大傑作であり、歴史に永遠に名を刻む名作映画なのである。