二重生活の紹介:2016年日本映画。大学院で哲学を学ぶ平凡な学生・珠。同棲しているゲームデザイナーの恋人・卓也との日々は、穏やかなものでした。ところがそんな毎日は、担当教授から修士論文の題材に“哲学的尾行”の実践を持ちかけられたことで一変します。それは、無作為に選んだ対象を追ういわば“理由なき尾行”。半信半疑ではじめた、隣人・石坂への尾行でしたが、彼の秘密が明らかになっていくにつれ、珠は異常なほどの胸の高鳴りを感じ、やがてその禁断の行為にのめり込んでいくのでした。まるで観客自ら尾行をしているかのようなリアルなカメラワークが伝える高揚感と胸騒ぎ、そして、その果てに浮かび上がるそれぞれの二重生活の向こう側にある孤独に、気づけば日常と内面までも侵蝕されていきます。これは、ひとりの女性の心の成長物語です。これまでの日本映画にはない、全く新しい心理エンターテイメント映画の誕生です。
映画「二重生活」ネタバレあらすじ結末と感想
映画「二重生活」のあらすじをネタバレ解説。予告動画、キャスト紹介、感想、レビューを掲載。ストーリーのラストまで簡単に解説します。
二重生活の予告編 動画
映画「二重生活」解説
この解説記事には映画「二重生活」のネタバレが含まれます。あらすじを結末まで解説していますので映画鑑賞前の方は閲覧をご遠慮ください。
二重生活のネタバレあらすじ:修士論文の為の“理由なき尾行”
冒頭。暗い部屋で一人の男性がパソコンのコードをドアノブにかけ、自殺をしようとする場面が映されます。珠と卓也の部屋。二人で起き、愛し合い、夕御飯の待ち合わせを決め、一緒に家を出る穏やかな日々。家を出るとご近所の春日さんがごみ捨て場に監視カメラを設置したという話をしてきて、軽く話を聞き、二人はそれぞれ会社と大学へと出掛けていきます。珠は修士論文のテーマを決めかねていて、担当の篠原教授に相談をします。すると教授から「“哲学的尾行”、つまり対象者を一人に絞り、理由のない尾行をし人間とは?を探る」というテーマを提案されます。唯一のルールは「対象者と接触してはならない」ということ。
珠は思っても見なかった提案に「少し考えさせてください。」と言い、部屋を後にします。その帰り道、本屋で尾行とは?どういうものかと本を立ち読みしていると、隣人の石坂が、作家のサイン会に仕事として同行している場面に遭遇します。石坂は出版社に勤める編集者です。試しに石坂を尾けてみることにした珠。石坂の後を追うと、カフェで不倫相手の女性と落ち合い、親密な雰囲気の後、建物の陰で愛し合う場面を目撃してしまいます。思わず自分の目を疑い、何度も二人の間を行き来してしまう珠。そんな珠に気付くことなく石坂と女性は時間に追われるように愛し合い、石坂は「また連絡する。」と言い、タクシーでその場を後にするのでした。石坂がタクシーで去ってしまった為、珠は女性の後をつけます。珠は、女性が澤村デザイン事務所の澤村しのぶという女性だということを突き止め、その日の尾行を終了します。珠は篠原教授に“理由なき尾行”を論文テーマにすることを告げ、本格的に石坂を対象者Aとして尾行を開始します。
二重生活のネタバレあらすじ:尾行にのめり込んでいく珠
石坂はしのぶとホテルで会い、高級レストランで食事をする一方で、一人娘と妻との生活も大切にし、家族で水族館に行くなどの日々を送っているのでした。石坂と口論になったしのぶとホテルのトイレで一緒になってしまった珠は、しのぶから「ホテルにもレストランにもあなたいたわよね?尾けてるの?奥さんに雇われているの?」と詰問されてしまいます。焦った珠が逆切れして「あなたに何か迷惑かけました!?」と言うと、しのぶは「そうね。私の勘違いだったらごめんなさい。」と渋々納得してくれましたが、珠のドキドキは治まらないのでした。そんな石坂やしのぶに振り回されながらも尾行を続ける珠でしたが、尾行にのめり込む余り、恋人の卓也とのすれ違っていきます。尾行で朝帰りになり、卓也の眠るベッドに着替えることもなく倒れ込む珠。そんな珠を卓也は物憂げに見つめます。ゲームデザイナーとしての仕事の愚痴や二人の関係性について話したい卓也ですが、珠は同じ部屋にいる時もイヤホンをし、論文に没頭していて、そんな卓也の様子に気が付きません。
二重生活のネタバレあらすじ:壊れていく石坂家
ある日、いつものように家のベランダから石坂が自宅で車を洗車している様子を記録している珠。石坂の携帯に電話がかかっていて、わざわざ車の中に入ってから電話に出る石坂。そんな夫の様子をにらみつけるように見つめる石坂の妻。別の日。レストランで口論になった石坂としのぶ。レストランを飛び出していくしのぶを追う石坂でしたが、外に出てみると目の前には妻と娘がいました。動揺する石坂。石坂の妻は、娘を石坂に任せしのぶの後を追いかけます。しのぶにはタクシーに乗って逃げられてしまい、号泣しその場に座り込む石坂の妻。珠は予想外の修羅場を前に激しく動揺しますが、石坂の妻の後を明け方までつけます。明け方帰宅する姿をご近所の春日さんに見られてしまい、怪しまれてしまいます。
次の日。珠と卓也が部屋の中で互いの仕事と論文に没頭していると救急車のサイレンが近づいてくる音がします。そのサイレンの音に慌てて外へ飛び出していく珠。珠のただならぬ様子を不審に思う卓也。珠が外に出てみると春日さんが近寄ってきて「石坂の妻が自殺未遂をしたらしい。」と教えてくれます。担架で運ばれる意識のない石坂の妻。石坂が救急車に乗ろうとすると春日が「娘さんを預かりましょう。」と声をかけ、隣にいた珠は石坂に認識されてしまいます。
二重生活のネタバレあらすじ:対象者と接触してしまう珠
あくる日、石坂の会社近くで珠は石坂に「白石さん!僕のことわかりますよね!?何故つけているのですか?」と詰問され、その場は何とか逃げたものの、珠の携帯電話に石坂から電話がかかってきます。「逃げたって無駄なことわかってますよね?」という石坂に観念しカフェで会う約束をする珠。珠は激しく動揺し、篠原教授と連絡を取ろうとするが、連絡がつきません。カフェで石坂と向き合う珠。「妻に頼まれて尾行しているのではないか?」という石坂に対し「修士論文のテーマで石坂を尾行していること」を正直に話し、書き途中の論文を見せる珠。場所を飲み屋に移し、怒りを露わにする石坂と対峙する珠。酒を半ば無理やりに飲まされ、「尾行したことを論文に使うな。」と言われた珠は「それだけは勘弁してください。論文を書かせてください。」と酔いすがり、そのまま倒れてしまいます。
二重生活のネタバレあらすじ:珠の過去
仕方なく珠を運び、タクシーを捕まえようとする石坂。「大丈夫か?」という石坂に対し、無理やり石坂にキスをする珠。初めは「やめろ。」と拒否していた石坂でしたが、何度もキスをしてくる珠に対し、スイッチが入ってしまい、二人でホテルになだれ込んでしまいます。酔いに任せて行為に及ぶ寸前に石坂の携帯に娘からメールが入り、我に返る石坂。我に返り服を着て帰ろうとする石坂に珠は、自分の過去の話をします。「幼い頃に父を亡くし、父の親友に育ててもらったこと。しかし、その親友を父のようには思えず、好きだったこと。初めての相手が父の親友だったこと。自分の根っこの部分が空っぽでいつもモヤモヤしていたこと。石坂への尾行を通して、自分の中の空っぽの部分が埋まっていくような感じがしたこと。このまま論文を書けば、自分のモヤモヤが何かわかるかもしれないこと。」をぽつぽつと話します。そんな珠の話を「陳腐だな。どこにでもある話だ。」と一蹴する石坂。しかし、泣きじゃくる珠を見ているうちに石坂は「論文に俺の話を使っていい。」と言います。
二重生活のネタバレあらすじ:卓也との別れ
以前から珠が尾行に没頭していくにつれ、「俺たち一緒にいる意味あるのか?」と卓也に言われていた珠。石坂の生活と自分の生活がごっちゃになり「わかんないよ。」と泣きじゃくっていた珠。さらに、ホテルを後にする石坂と珠の姿を卓也に目撃されてしまいます。珠が帰宅するとカップラーメンを用意し待っている卓也。二人でカップラーメンをすすりながら、卓也は「出ていく。デザイナーの賞をもらった。」と言います。珠は泣くのをこらえながら「賞おめでとう。すごいね。」と久々に向き合って会話します。
二重生活のネタバレあらすじ:対象者Bへ変更
石坂と接触してしまったことを篠原教授に報告する珠。篠原教授は対象者を変えてでもこの論文は完成させてほしいと言います。そこで珠は、対象者を石坂から篠原教授に変えます。篠原教授と妻の様子を記録していく珠。
二重生活のネタバレあらすじ:論文の完成
卓也のいなくなった部屋で論文の完成に向けて没頭する珠。季節は夏から冬になり、論文が完成します。完成した論文を篠原教授に見せる珠。すると篠原教授は「素晴らしい論文だと思います。しかし、一つだけ間違った部分があるので、それを直す為にこれをあげます。」と珠にある劇団のチケットをくれます。珠はそのチケットを持って、劇団の公演を見に行きます。すると、篠原教授の妻だと思っていた女性が舞台に立っていました。珠が篠原教授の妻だと思っていた女性は、代行会社から派遣され妻役を演じていただけだったのです。
二重生活のネタバレあらすじ:篠原教授の事情
実は篠原教授には余命2か月の母親がいて、その母の為を安心させるために、代行会社から妻役の女性を派遣してもらい、2か月の間妻を演じてもらっていたのです。その女性は劇団に所属していて、普段から妻を演じられるようにと篠原教授のお昼ご飯を毎日作って渡します。それを携帯で写真に撮り続ける篠原教授。母の前で、理想の妻を演じてくれ、母が亡くなった時も、号泣してくれる女性にいつしか心惹かれていく篠原教授。母が亡くなり、契約が終了する時、「またいつか会えますか?」という教授に対し、微笑むだけにとどめる女性。再び一人になった篠原教授は大学院の教授室でパソコンのコードをドアノブにかけ、自殺を図ります。そこに珠が尋ねていき、ドアをノックしますが、返答がありません。
二重生活の結末:成長した珠が歩き出すラスト
引っ越しをしようと部屋を整理していると一枚の絵を発見する珠。それは卓也が眠っている珠を描いた愛のこもったスケッチでした。渋谷のスクランブル交差点。珠と卓也がすれ違います。珠がふと振り返ると、指輪をはめた篠原教授の腕が見えます。珠はそれを見て微笑み、振り返り歩き出します。「あなたは私をどう思っていたのか 私をどうしたかったのか 私は永遠に知らない」という文字が浮かび上がった後、エンドロールが流れます。
以上、映画「二重生活」のあらすじと結末でした。
(文 / Yuri.O)
二重生活の出演者・監督
監督:岸善幸
出演者:門脇麦(白石珠)、長谷川博己(石坂史郎)、菅田将暉(鈴木卓也)、リリー・フランキー(篠原弘)、河井青葉(石坂の妻)、篠原ゆき子(澤村しのぶ)、宇野祥平(珠の大学院の先輩)、岸野ゆきの(珠の大学院の同級生)、西田尚美(篠原が頼んだ代行会社から派遣された女性)、烏丸せつこ(春日春恵)ほか
私はこの映画を映画館で観ました。尾行が論文のテーマになるとはと、主人公と同じ様に驚きました。映画館というスクリーンで見たせいもありますが、尾行するシーンは自分が尾行する感覚になり、ストーリーに引き込まれました。気づけば、主人公の目となり、他の登場人物に対し、興味を持った自分がいました。自分は映画を観ているはずだったのに、こんな気持ちになるとは思いもしませんでした。
同棲中の恋人との別れがあり、教授の身辺に関しても短いながらも役者の演技は上手く、教授の死には切ないものを感じました。他人を尾行して、得られたものは、何だったのか?その気持ちを辿る糸口は、主人公を尾行した観客が分かることなのかもしれません。
私はこの作品を見たあとに、原作が気になり、小池真理子さんが着想を得た、ソフィ・カルの「本当の話」を読みました。本作が主人公が尾行することをメインにしていることに対し、ソフィ・カルは自分を尾行させて「本当の話」を描きました。
最初この映画を観て、分かったような気になっていましたが、原作と併せて観た結果、しっくりと理解できた気がします。不思議な感覚の映画でした。