つやのよる ある愛に関わった、女たちの物語の紹介:2012年日本映画。直木賞作家井上荒野の小説「つやのよる」を映画化した作品。奔放な妻艶の死に直面した夫松生春二は彼女と関わりの深かった男達に連絡を取ることを思いつきます。艶を巡る男と女達の様々な愛の形を官能的に描いた恋愛群像劇です。
監督:行定勲 出演者:阿部寛(松生春二)、小泉今日子(石田環希)、野波麻帆(橋本湊)、風吹ジュン(橋川サキ子)、真木よう子(池田百々子)、大竹しのぶ(山田早千子)、忽那汐里(山田麻千子)、荻野目慶子(伝馬愛子)、羽場裕一(石田行彦)、渡辺いっけい(常盤社長)、高橋ひとみ(常盤社長夫人)、渋川清彦(岩瀬)、岸谷五朗(太田)、水橋研二(橋川康太)、永山絢斗(茅原優)、藤本泉(萩原ゆかり)、奥田瑛二(安藤慎二)、田畑智子(芳泉杏子)、ほか
映画「つやのよる」ネタバレあらすじ結末と感想
映画「つやのよる」のあらすじをネタバレ解説。予告動画、キャスト紹介、感想、レビューを掲載。ストーリーのラストまで簡単に解説します。
「つやのよる ある愛に関わった、女たちの物語」の予告編 動画
映画「つやのよる」解説
この解説記事には映画「つやのよる」のネタバレが含まれます。あらすじを結末まで解説していますので映画鑑賞前の方は閲覧をご遠慮ください。
「つやのよる ある愛に関わった、女たちの物語」のネタバレあらすじ:起
伊豆大島で暮らす松生春二が妻の入院する病院にやってきます。癌に侵された妻の艶は極めて危険な状態が続いています。思い詰めた様子の松生は包丁で艶を殺そうとしますが、思いとどまります。看護師の杏子は医師から話があると松生に伝えますが、松生は聞きたくないと突っぱね、艶をまだ生かしてほしいと頼みます。松生は艶が瀕死の状態であることを伝えるため、彼女と関わりの深かった男達に連絡を取り始めます。始めに連絡したのが艶の従兄にあたる小説家の石田行彦です。行彦は当時12歳だった艶の処女を奪うという不義を働きながら、彼女を題材にした小説を書いており、今も艶に囚われ続けている男です。行彦には妻の環希とともに愛子という愛人がいます。行彦の小説の受賞パーティーに現れた愛子は環希を挑発しはじめ、やがて二人はワインをかけ合って喧嘩を始めます。夫の不貞に恨み言も漏らさず気丈に振舞い続ける環希ですが、小説の題材になるほどの艶が一体どんな女なのか気になりはじめます。
「つやのよる ある愛に関わった、女たちの物語」のネタバレあらすじ:承
小さな不動産会社に勤めている橋本湊は太田という家主が所有するアパートの契約を取ろうと必死です。会社の社長と不倫している湊は太田とも肉体関係を持っています。ある夜太田の家に一本の電話が掛かってきます。それは艶の危篤を知らせる電話でした。太田は20数年前に別れた艶の夫だったのです。湊は艶の話を聞いてからというものの、さほど好きでもなかった太田に関心を寄せるようになってきます。湊は艶を見舞うため大島へ行った太田の帰りを待ちます。松生は近所に住む少年に頼んで艶のパソコンのメールを開いてもらいます。メールボックスには橋川という男との卑猥なメールのやり取りが残されていました。どうやら艶と橋川は不倫関係にあったようです。松生は艶が危篤であることを知らせるメールを橋川宛に送ります。しかし橋川はすでにこの世を去っており、メールを受け取ったのは橋川の妻サキ子でした。サキ子は夫が不貞を働いていたことに衝撃をおぼえつつも、大島を訪れる決意をします。
「つやのよる ある愛に関わった、女たちの物語」のネタバレあらすじ:転
松生は港に辿り着いたサキ子を出迎えます。病院にやってくると、松生は昏睡状態の艶に向かって橋川の名前を連呼しはじめ、サキ子を辟易させます。松生は艶の男癖の悪さに振り回されてきたことや艶が度々男に会いに東京へ出かけていたことをサキ子に愚痴った挙句、橋川と艶の間で交わされた生々しいメールのやり取りを暗誦しはじめます。サキ子は耐えきれず泣き崩れてしまうのでした。艶の素行の悪さは島内でも有名でした。艶にストーキングされていたのが美容師の池田百々子の恋人、茅原優です。百々子は年甲斐もなく優を追いかけ回す艶を疎ましく思っていました。艶が病に倒れた今その心配から解放されていますが、今度は優の息子である光とその母親が島に現れ、百々子の心中は穏やかではありません。百々子がこの先自分と結婚をするつもりはあるのかと尋ねると、優は結婚など考えたことがなかったと答えます。百々子は優を追いかけまわす艶の後を付いて回っていた松生の姿を思い出します。奔放な妻を決して見捨てなかった松生、艶は松生のような男に愛され心底幸せな女だと思うのでした。
「つやのよる ある愛に関わった、女たちの物語」の結末
大学生の山田麻衣子は母の早千子と二人暮らしをしています。麻衣子の父は彼女が8歳の時に女を作って家を出てきました。早千子は夫と夫を奪った愛人が並んで写っている写真を壁にかけて時々眺めたりして、二人を恨んでいる様子もありません。大学教授の安藤に母の心理が理解できないと相談する麻衣子ですが、安藤にホテルに誘われると簡単に身体を許してしまいます。早千子の元に別れた夫の妻が危篤だという連絡が入ります。早千子の元夫とは松生のことであり、夫を奪い去った女こそあの艶なのでした。早千子と麻衣子は大島を訪れ、艶の入院する病院へやってきます。麻衣子を待たせ、早千子が艶の病室へやってくると松生は席を外していました。艶の上着を脱がせると、艶の乳房には無数の噛み跡が残されていました。それは松生が残した愛の傷痕のようにも見え、早千子は涙が止まらなくなってしまいます。麻衣子はベンチでタバコを吸う松生に気づき、隣に座りますが、松生のほうは自分の娘だと気づいていません。麻衣子が松生に幸せですかと尋ねると、難しい質問だと松生が返します。麻衣子の顔を見て松生はようやくに娘だと気づくものの、走って逃げ出だしてしまいます。麻衣子は戻ってきた母に松生のことを話しますが、早千子は会う必要はないと呟き、二人は帰っていきます。その後死んだ艶の通夜が行われますが、艶が愛した男達は誰も姿を現しませんでした。松生は棺の中の艶に結局お前を愛したのは俺だけだったと勝ち誇ったように呟きます。松生にパソコンを教えてくれた少年が看護師の杏子とともに弔問にやってきます。少年は杏子の息子だといいます。少年は棺の中を覗き込み、艶の死に顔きれいだねと無邪気に話します。松生は満足げに頷き、今度は三人で棺の中を覗き込むのでした。
過去に「艶」という一人の女性に関わった男たち、そしてその男たちと現在関わっている女たちを官能的に描いた、五つのエピソードが組み合わさった作りになっています。
いろんな人の目線、角度から艶という女性像が語られるのですが、作品内で最後まで艶の顔がはっきりと映らない、描写されない演出が新鮮でしたし、そこがむしろこの作品の「艶」のイメージにとても合っていると思いました。