ファンシーの紹介:2019年日本映画。現実(エロス)と幻想(ポエム)の狭間で揺れる、奇妙な三角関係――。「レッド」で第14回文化庁メディア芸術祭優秀賞を受賞した山本直樹の同名短編漫画を永瀬正敏と窪田正孝のダブル主演で映画化した作品です。寂れた地方の温泉街を舞台に、表の顔は郵便局員・裏の顔は彫師の男、寡黙でロマンチストな詩人、詩人のファンだという若い女性の三角関係が地元ヤクザの抗争と絡めて描かれていきます。
監督:廣田正興 出演者:永瀬正敏(鷹巣明)、窪田正孝(南十字星ペンギン)、小西桜子(月夜の星)、深水元基(新田)、長谷川朝晴(国広)、坂田聡(梶原)、吉岡睦雄(浅野)、澤真希(浅野美紀/みく)、榊英雄(鷹巣の旧友)、佐藤江梨子(鷹巣の元妻)、外波山文明(篠田)、宇崎竜童(竜男)、田口トモロヲ(田中)ほか
映画「ファンシー」ネタバレあらすじ結末と感想
映画「ファンシー」のあらすじをネタバレ解説。予告動画、キャスト紹介、感想、レビューを掲載。ストーリーのラストまで簡単に解説します。
ファンシーの予告編 動画
映画「ファンシー」解説
この解説記事には映画「ファンシー」のネタバレが含まれます。あらすじを結末まで解説していますので映画鑑賞前の方は閲覧をご遠慮ください。
ファンシーのネタバレあらすじ:起
とある地方の寂れた温泉街。一日中かけているサングラスがトレードマークの鷹巣明(永瀬正敏)は、昼間は郵便配達員、夜は彫師稼業というふたつの顔を持つニヒルな男です。この日も鷹巣は顧客である裏社会の男、新田(深水元基)の背に刺青を入れ、何食わぬ顔で郵便配達の業務をしていました。
鷹巣が務める「こいしの湯郵便局」の局長・田中(田口トモロヲ)もまた夜に射的屋を開き、裏で風俗嬢を斡旋していました。同僚局員の浅野(吉岡睦雄)は郵政民営化で公務員ではなくなったことをいいことにダブルワークに勤しむ鷹巣と田中を快く思っていませんでした。
鷹巣はいつものようにスーパーカブで配達に出かけ、途中で立ち入り禁止の小高い山に登り、その奥にある小さな手作りの墓にタバコを手向けました。続いて鷹巣は町の外れにある詩人“南十字星ペンギン”(窪田正孝)の家に向かいました。「月刊ファンシーポエム」という雑誌に詩を寄稿しているペンギンは、そのペンネーム通りにペンギンのお面を被り、常に冷房を全開にしている変わり者なのですが、鷹巣は寒がりながらもしょっちゅう仕事をサボってはペンギンの家に入り浸っているのです。ペンギンの詩は若い女性を中心に人気を集めていましたが、鷹巣にとってはその詩の世界は全く理解できず、ペンギンは「解る人にだけ解ってもらえればいい」というスタンスでした。
ペンギンは鷹巣が届けてきたファンレターを見ては“感性の交流”を図っており、その中でも“月夜の星”と名乗る熱烈なファンとはよく文通を交わしていました。ところが、この日の月夜の星の手紙には「どうかわたしをいっしょう先生(ペンギン)のおそばにおいてください。そして先生の、身のまわりのお世話をさせてください」と書かれていました。ペンギンは突然のことに戸惑い、鷹巣は「危ねえ女だな。絶対ブサイク」と吐き捨てました。
この日の夜、鷹巣は新田から女を紹介してくれと頼まれ、射的屋の田中に手配を頼みました。次に鷹巣は町のスナックで自分のことを“先輩”と慕っている地元ヤクザの二代目組長・国広(長谷川朝晴)と飲みました。地元ビジネスホテルの社長も兼ねている国広は、最近自分の組の者がよそのシマからやってきた者(新田)に射殺されており、その対応に追われていました。国広は不本意ながらも跡目を継いでしまったことを後悔しており、鷹巣にだけは愚痴をこぼしていました。
スナックを出た鷹巣は、寺の住職・篠田(外波山文明)に声をかけられました。篠田は鷹巣に、行方不明になっている鷹巣の父・竜男(宇崎竜童)は見つかったのかと問うと、鷹巣は「まだ」と答えました。商魂逞しい篠田は「死んでるかもな」と言うと、早く墓を建てるよう勧めてきました。
鷹巣は「どいつもこいつも」と篠田の話には耳を貸さずにその場を去り、田中に“みく”(澤真希)という風俗嬢を斡旋してもらいました。鷹巣はラブホテルでみくの服を脱がし、その背中をじっと観察していましたが、どうも自分のイメージと違ったようで結局みくを抱くことなくホテルを去っていきました。翌日、田中と鷹巣はみくについて会話を交わしていましたが、この会話を浅野が盗み聞きしていました。
ファンシーのネタバレあらすじ:承
いつものように鷹巣はペンギンの家を訪れると、そこには何とあの月夜の星(小西桜子)本人が押しかけていました。本物の月夜の星は鷹巣の予想とは裏腹に清楚で可憐なメガネ女子であり、何が何でもペンギンの身の回りの世話をしたいと言って聞きませんでした。戸惑うペンギンは月夜の星に両親には連絡を入れるよう促し、月夜の星の両親は娘を連れ戻しにこの町にやってきました。鷹巣は「(月夜の星)はブスじゃないけどやっぱり危ない女だったな」と呟きながらも両親を説得する役を引き受け、月夜の星は何とかペンギン宅に居候してよいとの許可を得ることに成功しました。
ペンギンは月夜の星には全く関心がありませんでしたが、鷹巣からの知らせを聞いた月夜の夜は早速料理を作り、ペンギンがつかる冷水の風呂を準備し、洗濯などの家事をこなしていきました。鷹巣はペンギンの抱えている“秘密”を彼女に知られてもいいのかと忠告しておき、ペンギンは別の部屋で眠る月夜の星の元までは行ったものの特に何をすることなくすぐに立ち去りました。
翌日、鷹巣は荷物を届けに国広の経営するホテルを訪れました。社長室では国広が叔父で若頭の梶原(坂田聡)に痛めつけられているところでした。梶原はいつまでも縄張り争いを収められない国広を見下していました。その夜、鷹巣は新田の刺青を彫っていました。この町が気に入ったという新田は、しばらく置いてくれないかと鷹巣に頼みました。
同じ頃、田中の射的屋に浅野がみくを連れて上がり込んできました。みくは実は浅野の妻・美紀であり、怒り狂う浅野は包丁で田中の太腿を刺して帰っていきました。翌日、田中は太腿の痛みをこらえながら出勤し、浅野は笑いをこらえきれませんでした。
いつものように配達に出向いていた鷹巣は偶然にも買い物帰りの月夜の星と出くわし、彼女を喫茶店に連れ込んで休憩を取りました。鷹巣は月夜の星に「先生とセックスしたのか? まあ無理か、あれじゃ」と言うと、月夜の星はペンギンとは何回かキスは交わしたもののそれ以上の進展はなかったことを打ち明けました。鷹巣は「マジか」と笑い出すと、ペンギンが“性的不能”であることをポロっとバラしてしまい、「いつまで続けるつもりだよ。不能のペンギンをぬか喜びさせて引きずるのはかえって残酷だとは思わねえか?」と告げると仕事に戻っていきました。
その夜、ペンギン宅に戻った月夜の星は「郵便屋さんてあんまり好きになれない」とこぼすと。ペンギンは「彼(鷹巣)は僕の友達だ」と返しました。その後、月夜の夜は就寝中のペンギンの寝室を訪れ、首筋にキスだけして去っていきました。
翌日、篠田の寺に配達に出向いた鷹巣は、篠田から父・竜男の話を聞かされました。先日、篠田は田中の射的屋で女を指名したのですが、その女の背にはかつて腕の良い彫師だった竜男が彫った刺青があり、竜男は数年前まではこの女のヒモだったというのです。その話を聞いて、鷹巣は少年時代のことを思い出しました。竜男は家に愛人を連れ込んでは逢瀬を重ねており、愛人の背中に見事な刺青を彫っていました。鷹巣は篠田に「早く墓を建てろよ」と勧められますが、聞き入れることなく寺を後にしました。
ファンシーのネタバレあらすじ:転
夜の街を歩いていた鷹巣は浅野に飲みに誘われました。浅野は「俺の女房がお世話になってようで」と言うと、鷹巣の逃げた元妻が田中と寝たという噂話を振ってみましたが、鷹巣にあっさりと嘘だと見抜かれ、「あんたの悔しがってる顔が見たかったんだよね。俺、あんたも局長(田中)も嫌いだからさ」と心情を明かしました。鷹巣は引き留めようとする浅野に「てめえの腹の中に俺を引きずり込むな」と一喝してその場を後にしました。
ある日、ペンギンは月夜の星に、外出が苦手な自分の代わりに「月刊ファンシーポエム」編集部が主催する懇親パーティーに出席してくれないかと頼んできました。月夜の星は人と話すのは苦手であることを理由に断ろうとしましたが、色々な作家先生とも会えて良い気分転換になるというペンギンの助言もあって出席することにし、たまたまいつものように仕事をサボって入り浸っていた鷹巣が月夜の星のエスコートをすることになりました。
ペンギンと月夜の星の仲が上手くいっていないのではと感じた鷹巣は、気分転換にとペンギンを無理やり町のストリップ劇場に連れて行きました。生まれて初めて女性の裸を目にしたペンギンはストリッパーを“女神”と称えて食い入るように見つめていました。
鷹巣は月夜の星を伴い、懇親パーティーに参加すべく東京に向かいました。パーティー会場に着いた鷹巣は「俺、ちょっと用事あるから」と言ってその場を離れ、月夜の星は仕方なく鷹巣についていくことにしました。鷹巣が向かった先は旧友の彫師(榊英雄)の元でした。鷹巣の別れた元妻(佐藤江梨子)は今はこの彫師と付き合っており、店内には鷹巣の娘・きよみがいました。彫師は鷹巣に飲みに行かないかと誘いましたが、鷹巣は時間がないと断り、店を後にしました。父を見送るきよみは「お母さん、幸せになってもいい?」と尋ねると、鷹巣は「もちろんだよ」と答え、きよみを優しく抱き寄せました。そこに現れた元妻は鷹巣に「ごめんね」と言うと、鷹巣は「全部お前の時間だ。好きに使えばいい」と声をかけ、去り際に外で待っていた月夜の星の唇を唐突に奪いました。その頃、ペンギンは自宅でスケッチブックにクレパスで「びゅうびゅう」と殴り書きし、それを破り捨てていました。
懇親パーティーには大勢の詩人や関係者らが出席していました。月夜の星はワインをガブ飲みして泥酔し、鷹巣に「あなたがどんなにいやらしい目で私のことを見てようと、私と先生の愛には一片の曇りもないんだから」と突っかかってきました。やがてパーティーで“王様ゲーム”が始まり、クジで王様を引き当てた月夜の星は2番を引いた者とディープキスをすると宣言すると、いきなり鷹巣が月夜の星にキスをしてきました。その後、鷹巣と月夜の星はホテルに向かい、セックスをしました。
その夜、温泉街ではペンギンは夜空の月を見つめていました。町ではヤクザの抗争が激化していました。新田は梶原が雇った連中に追いつめられて射殺されましたが、その際に梶原も命を落としました。手下は新田らの死体を綺麗にしとけと子分に命じました。夜道を歩いていた浅野は田中に飲みに誘われました。
ファンシーの結末
翌日。鷹巣は温泉街に戻ってきましたが、浅野はいつまで経っても出勤してきませんでした。郵便局を訪れた篠田と会話をしていた田中はふらりとどこかへ出かけていきました。
鷹巣は配達のついでに国広のところに顔を出しました。後始末に追われる国広は「跡目なんか継ぐんじゃなかった。いくら金持っても人生は泥船のようですね」と愚痴をこぼしました。鷹巣は「泥船に乗っていようが、お前の人生の時間は全部てめえの時間だ。どうにでもできるんだよ」と告げると、山奥の墓へと向かいました。そこにはいつの間にか篠田が来ていました。この墓は実は竜男の墓であり、墓標代わりに墓に差されているのは鷹巣が東京を出て行く際に竜男からもらった刺青用の針でした。竜男はその際に「お前の乗る船がどんなに泥船だろうが、その泥船でどんな旅をするかだ。全部お前の時間だろ? お前の時間を刻め」との言葉をかけていました。篠田は相変わらず鷹巣に墓を買うよう勧めて去っていきました。
その頃、別の山中では浅野が田中に拉致されていました。田中は浅野を深く掘った穴に突き落としました。穴の中には昨晩の抗争で死んだ新田たちの死体も投げ込まれており、浅野は命乞いも虚しく田中によって生き埋めにされました。
その頃、ペンギンは月夜の星に、一緒にお風呂へ入らないかと珍しく誘っていました。しかし、ペンギンが好む氷水の風呂に入りたくない月夜の星は「ちょっと沸かしてもいいですか?」と申し出ました。
鷹巣はいつものようにペンギン宅に行くと、月夜の星はどこかに外出していました。最近、月夜の星は外出することが多くなったというのです。鷹巣は「その方がいいんじゃない? だってお前じゃどうしょうもないから」と告げると配達に戻っていきました。一人残されたペンギンは「早く冬にならないかな」と呟くと、意を決したかのように季節外れの黒いフード付きのコートをまとい、水泳用ゴーグルとマスクをつけて外に出ました。
鷹巣が帰宅すると、そこにはいつの間にか月夜の星が来ていました。「酷い女だな…」「酷いのは郵便屋さんのほうでしょ?」月夜の星は鷹巣に抱かれながら、「郵便屋さんは嫉妬してるのよ。先生を私に取られて、だから私と…」と呟きました。鷹巣は「嫉妬しているのはこの背中だ」と月夜の星の背中を見つめました。鷹巣は「俺もあんたもアイツ(ペンギン)も、結局みんなケダモノなんだよ」と言い、月夜の星に「私のこと見てよ」と言われて人前では決して外さないサングラスを外しました。
鷹巣と月夜の星が激しくセックスをしている時、ペンギンはフラフラになりながら月夜の星を捜し歩いていました。途中、ペンギンは山から引き上げる途中の田中の車とすれ違いました。空におぼろに浮かんだ月を見たペンギンはその場に倒れ込んでしまいました。
気が付くと、ペンギンは鷹巣に助けられ、自宅で看病を受けていました。どこへ行こうとしたのかと問う鷹巣に、ペンギンは「部屋にいたら、言葉が溢れて溺れそうになったんで泳いでみたんだ。けど、どこまで泳いでみても匂いのする岸辺はなかった。本気で、本気で泳いだんだ…」と語り、「もうすこし目を閉じるよ。もしかしたらまた違う物語が始まるのかもしてない」と言って再び眠りにつきました。
それから程なくして、月夜の星はペンギンの元を去っていきました。彼女が残した書き置きには、親から結婚を押し付けられて逃げてきたこと、でも働きたくないので仕方なく実家に戻ることなどがつづられていました。ペンギンにとってはそれが彼女の本当の真意なのか知る由もありませんでした。田中は何食わぬ顔で働き、国広は酒に溺れて自暴自棄となり、篠田は竜男が眠る山の方向を見つめていました。
ペンギンの家に入り浸る鷹巣は、「儚いねえ、詩人の恋…」と呟くと、ペンギンは「別に恋とかではないよ。最初から僕がわかっててクリエイトした世界だからね」と返しました。しかし、ペンギンは月夜の星と過ごした日々を詩にして発表しており、ペンギン宅にはその詩を読んだファンからのファンレターが大量に届いていました。ペンギンはそのうちの一人に「会ってみようかな」と呟くと、鷹巣は「またかよ。懲りないねえ、あんたも」と呆れました。
以上、映画「ファンシー」のあらすじと結末でした。
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