草の響きの紹介:2021年日本映画。東出昌大3年ぶりの主演作である『草の響き』。心を病んで故郷に戻った男が、治療のため函館の街を淡々と走り続ける。そこで知り合った若者との交流、友人や妻との関係…。この映画は彼らの日常をゆったりと追い続ける。原作は「そこのみにて光輝く」「きみの鳥はうたえる」などの映画化作品で知られる佐藤泰志の小説で、映画館・函館シネマアイリスの25周年記念作品となっている。監督の斎藤久志は原作にはなかった妻を登場させ、夫婦の崩壊と再スタートという映画オリジナルの要素を追加したと語る。
監督: 斎藤久志 キャスト:東出昌大(工藤和雄)、奈緒(工藤純子)、大東駿介(佐久間研二)、Kaya(小泉彰)、林裕太(高田弘斗)、三根有葵(高田恵美)、室井滋(宇野正子)ほか
映画「草の響き」ネタバレあらすじ結末と感想
映画「草の響き」のあらすじをネタバレ解説。予告動画、キャスト紹介、感想、レビューを掲載。ストーリーのラストまで簡単に解説します。
草の響きの予告編 動画
映画「草の響き」解説
この解説記事には映画「草の響き」のネタバレが含まれます。あらすじを結末まで解説していますので映画鑑賞前の方は閲覧をご遠慮ください。
草の響きのネタバレあらすじ:起
東京で編集者として働いていた工藤和雄(東出昌大)は、心を病んで故郷の函館に妻・純子(奈緒)と戻ってきました。そこでの仕事もうまくいかず、和雄は紹介された病院で医師・宇野(室井滋)の診察を受けています。病院に連れてきてくれた高校時代の友人・佐久間研二(大東駿介)に、自律神経失調症という診断だったこと、運動療法として今日から走るように言われたことを伝えます。
迎えにきた純子の運転する車で帰宅する途中、彼女はキタキツネが見たいと言いますが和雄は寝てしまったのか返事をしませんでした。
その日から熱心に走るようになった和雄に、純子はランニングウォッチをプレゼントします。犬のニコの散歩は純子が担当し、和雄は徐々に走る距離をのばしていきます。
函館のとある高校に札幌から転校してきた小泉彰(Kaya)。成績優秀でスケートボードの得意な彼は、バスケ部のチームメイトから夏休みに海の岩場から飛び下りる度胸試しをしようと誘われます。泳げない彰は密かに市民プールへ練習しに行き、そこで知り合った高田弘斗(林裕太)に泳ぎを教えてもらう代わりにスケボーを教える約束をします。
弘斗は、彰の高校にいる中学時代の同級生のせいで不登校になったと言い、姉の恵美(三根有葵)は仲良くしてやってと彰に頼みます。彰と弘斗は林から丸太を運び出し、人工島の駐車場で日々スケボーの練習をして過ごします。恵美もそこに加わり、彰との間に淡い恋心が芽生え始めていました。
草の響きのネタバレあらすじ:承
調子のよくなってきた和雄は薬をやめたいと訴えますが、宇野医師は少し減らしただけでした。それを不満に感じている和雄は、前にも増してたくさん走るようになっていました。せっかく研二がやってきても走りに行ってしまう和雄。
和雄が走る人工島には彰たちがいました。恵美は町に来ているサーカスを見に行きたいと言い、彰と一緒に行く約束をします。
ある日、犬の散歩から帰ってきた純子は、家の前で恵美に話しかけられます。犬をなでながら恵美は家を出たいと話し、でもおばあちゃんを置いてはいけないと続けます。そして純子に、「東京の人ですよね」と聞くのでした。
夜。人工島で彰と弘斗は、走っていた和雄を見かけ追いかけ始めます。毎日走っている和雄についていけず弘斗はリタイヤ。彰が「バスケの練習サボってるから」と言うと、和雄は「オレも仕事サボってる」と返します。
学校で久しぶりにバスケ部のチームメイトに会った彰は、練習に来ないことで責められます。ヤリマンな女と遊んでる、と恵美のことまで悪く言われて殴られた彰は、今から岩に行こうと言い出し自転車で海岸へ向かいます。興味のないチームメイトたちは、彰が岩に向かうとさっさといなくなってしまいました。ひとりで下りていく彰は、危険を知らせる看板のところで係員に見とがめられてすごすごと戻ってきます。
和雄は大学の学食で洗い場の仕事に就いていました。家に飲みに来た研二に、調子がいいと言って腹筋を見せつけます。和雄がトイレに行っている間に純子は、研二くんといるときが一番楽しそうだと話します。「私から逃げたかったのかな」という純子をなだめつつ、高校時代の和雄はワガママで皮肉屋で嫌な奴だったと研二は言います。そして、今は幸せそうだと。
草の響きのネタバレあらすじ:転
いつもの駐車場で、弘斗は彰に高校をやめようかと思っていると告げます。やりたいこともないし、彰みたいに頭よくないし、でも家から出られないし…。愚痴を言う弘斗に彰は、「何か言ってほしいの?」と冷たい対応をします。そうだよ!と弘斗は怒り出し、立ち去る彰に「勝手にしろ!」と叫んでいました。
彰はひとり、スケボーで海へと向かいます。あの岩までやってきた彰は、服を脱いで岩の上にのぼり、海に飛び込みました。
工藤家では、純子が妊娠したらしく、来週病院に行くことになりました。反応の薄い和雄に「うれしくない?」とたずねる純子。否定しつつタバコに火をつける和雄。純子は無言でそれを奪い水道水で火を消すと、ゴシゴシ手を洗って「生まない方がいいの?」と声を荒げます。オロオロして言い訳する和雄を拒絶した純子は、散歩に行くと言って出ていきます。
ニコと走りながら純子は、「いっしょに東京帰ろうか」と話しかけていました。
その夜。走る和雄を弘斗が追ってきました。並走する弘斗に「あいつは来ないの?」とたずねますが返事はありません。駐車場に戻った弘斗は、打ち上げ花火を並べると次々と火をつけていきます。少し離れた場所からそれを見ていた和雄はやがて走っていってしまいます。駐車場に残った弘斗は恵美を肩車すると、「いいから、泣くな」と言うのでした。
和雄と純子は、久しぶりに和雄の両親と外食をしています。妊婦の純子は、和雄が家のことをやってくれると言い、和雄も今の仕事が性に合っていると話しますが、父親(利重剛)は子どもが生まれるのにアルバイトみたいな仕事してどうする!と不満そうです。公務員の試験を受けるようすすめる父に反発した和雄は、自分の子どもには自分のようになってほしくないと語ります。
人工島を走る和雄を見かけ、弘斗が追いかけてきました。がんばって走った弘斗をほめ、あいつは?とたずねる和雄。「死んだ」と弘斗は答えます。
丸太で話すふたり。彰が海に飛び込んで死んだこと、それを知った弘斗は心の余裕がなくなり誰とも口をききたくなかったこと、そしていくら考えてもなぜ彰が死んだのかわからないことなど…。和雄はタバコに火をつけると弘斗に渡します。一口吸ってそれを返す弘斗。彰の死によって、もう自分は子どもじゃいられない、と弘斗は感じていました。
和雄が居たたまれなくなって家を飛び出したあの日。研二に病院に連れて行ってほしいと頼んだ和雄は、この土手の道を歩いていました。歩いてはうずくまり、入院したら家族に知らせてほしいと泣きながら懇願する和雄。研二は買ってきた菓子パンを渡し、和雄はなんとか落ち着きを取り戻していきました。
その道をいまは元気に走っている和雄。そこへ研二も走ってやってきます。あの日のことを思い出して話すふたり。そして研二は、春休みになったらスペインに行ってくると告げます。オレがいなくても泣くなよ、と笑う研二。
草の響きの結末
研二とふたりで帰宅した和雄。2階のベランダには、純子が洗濯した赤ちゃんの服が干してあります。3人と一匹はおだやかな午後の風景をそこから眺めていました。
その夜、さんざん飲んで酔いつぶれていた男ふたりは目を覚まし、研二は家族がいてうらやましいと和雄に言います。和雄は「オレは研二がうらやましいよ」と言い、そして研二は帰っていきます。2階に上がって純子の寝顔を見た和雄。階下に戻ると、眠剤を1シート分全部取り出し、口に入れてボリボリとかみ砕くと飲み込んでしまいました。
翌朝。起きてきた純子は、ソファに横たわっている和雄に声をかけます。全く反応しない和雄。テーブルの上を見て事態を察した純子は、大声で名前を呼びながら顔をたたきますが…。
和雄が目を覚ますと、鉄格子のはまった窓の病室でベッドに拘束されていました。事態の飲み込めていない彼に宇野医師は、「何したかわかってる?」と問いかけます。
数日後、拘束を解かれた和雄は、他の患者とタバコを吸うことを許されるくらいには回復していました。
純子が差し入れに持ってきたコーラに喜び、おなかの赤ちゃんのエコー写真を見せてもらう和雄。子どもとの明るい未来に向かって進もうとする純子に対し、和雄は「ごめん」と謝ります。「私が重荷だった?」と問う純子。和雄はそれを否定しますが、純子はポツリと、「なんでこうなっちゃったんだろう」とつぶやきます。目に涙を浮かべて純子の手を握る和雄。
純子は車に荷物を乗せ、自宅の玄関に鍵をかけます。そこへ恵美とその祖母が通りかかり、ニコをなでに近づいてきます。純子がフェリーで東京に帰ることを知ると、「町の人の顔になりましたね」と恵美は言います。大きなおなかを見て祖母は、「おめでとうございます」と声をかけてきました。
ふたりが立ち去ったあと、「行こう」と言って純子とニコは出発しました。しばらく走り、開けた場所に差しかかった純子の目に先に、キタキツネが姿を現しました。涙ぐむ純子。しかし、そのときスマホに和雄から着信があったことには気づきませんでした。
看護師に張り付かれたまま電話をかける和雄。純子に対する感謝や謝罪の気持ちを留守番電話に吹き込んで切りました。その後、担当の看護師が別の職員と話しているすきに、すーっと和雄は外に出ていきます。海に誘われるように上着を脱ぐと、柵を乗り越え裸足で走り出します。職員たちがあわてて追いかけてきますが、和雄は清々しいほどの笑顔で走っていくのでした。
以上、映画「草の響き」のあらすじと結末でした。
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