とべない風船の紹介:2022年日本映画。瀬戸内海のある島を舞台に、「平成30年7月豪雨」で妻子を失い心に傷を負った島の漁師と、過去にトラウマを抱えて島に来た元教師の女性のふれあいを、女性の父や島民たちとの交流を交えて描いたドラマです。
監督:宮川博至 出演者:東出昌大(村田憲二)、三浦透子(小島凛子)、小林薫(小島繁三)、浅田美代子(平野マキ)、原日出子(小島さわ)、堀部圭亮(中村宇壱)、笠原秀幸(高野潤)、有香(大島咲)、中川晴樹(鉄平)、柿辰丸(宮坂悟)、根矢涼香(大島涼香)、遠山雄(デク)、なかむらさち(村田幸)ほか
映画「とべない風船」ネタバレあらすじ結末と感想
映画「とべない風船」のあらすじをネタバレ解説。予告動画、キャスト紹介、感想、レビューを掲載。ストーリーのラストまで簡単に解説します。
映画「とべない風船」解説
この解説記事には映画「とべない風船」のネタバレが含まれます。あらすじを結末まで解説していますので映画鑑賞前の方は閲覧をご遠慮ください。
とべない風船のネタバレあらすじ:起
2021年9月。瀬戸内海に浮かぶ広島県・下蒲刈島にひとりの女性・小島凛子がフェリーで降り立ちました。凛子は島に住む父・繁三に出迎えられ、繁三の住む家へと向かいました。
以前に教師をしていた凛子はうつ病が元で辞め、その後は派遣の仕事をしていたものの契約が切れたことを機に繁三のもとで療養しようと考えたのです。元教師で現在は定年退職している身の繁三はかつて一家で別の土地に住んでいましたが、凛子が独り立ちしてから妻・さわと二人でこの島に移り住んだのです。さわは数年前に病で亡くなっており、凛子がこの島を訪れるのは今回が初めてでした。
繁三の家に着いた凛子が仏壇のさわの遺影に手を合わせていると、突然玄関に島の漁師・村田憲二がやってきました。憲二は無言のまま繁三に釣ったばかりの魚を届けると、そのまま立ち去っていきました。
翌日、凛子は繁三に連れられて島の各地を回りました。凛子は小学生の少女・大島咲と出会い、繁三から漁業組合長の宮坂悟、繁三の行きつけの居酒屋「ひらの」を営む女将・平野マキを紹介されました。漁師の高野潤は凛子が独身と知るや彼女に好意を抱きました。帰り道、凛子は友人が教師の仕事を紹介するという電話をくれたことを繁三に告げました。繁三はどうやら体調がすぐれない様子でした。
その夜、凛子は「ひらの」を訪れました。「ひらの」では宮坂が高野、鉄平、デクら漁師たちと飲んでいましたが、憲二は漁師仲間の輪には入らずひとりで飲んでいました。高野は凛子を口説こうとしましたが、マキは凛子と二人で話がしたいと引き離しました。
憲二は3年前の「平成30年7月豪雨」で妻・幸と息子・コウタを失っていました。帰宅した憲二は家で待ち構えていた養父(幸の父)・中村宇壱から幸とコウタが死んだのは憲二のせいだと責め立てられました。
とべない風船のネタバレあらすじ:承
翌日。凛子は繁三の家の近くに今なお生々しく土砂崩れの痕が残っている山肌を見つけました。そこには百合の花が供えられていました。そのまま散歩をしていた凛子は憲二の家を通りがかりました。家の庭の物干しざおには黄色い風船がくくりつけられていました。
その夜、凛子は繁三に、さわをもっと早く病院へ連れて行っていたら助かったのではないかと責めていました。続けて凛子は憲二の家の風船の話をし、ろくに挨拶もしない憲二は不気味な男だと感想を言いました。
「ひらの」を訪れた凛子はマキに今後について迷っていると相談しました。マキは焦らずにのんびり決めればいいと助言し、生前よく繁三とこの店を訪れていたさわは余命が過ぎても生きていたということを明かしました。凛子は初めてさわが病を抱えていたことを知りました。帰宅した凛子は繁三にそのことを問い質すと、繁三はさわの病が発覚した時に凛子に連絡を取ろうとしたところ、さわ自ら凛子の仕事を邪魔したくないと繁三を止めていたことを明かしました。
その時、島の放送で少女が行方不明になったとの知らせが入りました。その少女とは凛子が先日知り合った咲であり、凛子と繁三が心配して漁業組合へ駆け付けたところ、憲二が無事に咲を発見して戻ってきました。島民たちは憲二に感謝し、咲は憲二を描いた絵をお礼としてプレゼントしました。
その後、繁三と凛子は咲とその母・涼香に会いました。涼香は憲二のことを「昔はあんなんじゃなかった」と発言したことから、凛子は繁三に憲二のことを尋ねたところ、繁三は3年前に憲二が妻子を失った時の経緯を語りました―――。
―――かつて憲二はこの島で幸やコウタと幸せな家庭を築いていました。3年前の豪雨の日、幸は宇壱の様子を確認すると言い出し、コウタと共に出かけていきました。しかし、なかなか二人が戻らず、宇壱に電話をすると二人はもうすでに帰路についたことを知らされた憲二は二人を探しに行きました。幸とコウタは山肌の土砂崩れに巻き込まれて命を落としており、二人を助けようとした憲二も再度の土砂崩れに巻き込まれて足を負傷したのです。それ以来、憲二は未だに心の傷から立ち直れていないままだったのです―――。
とべない風船のネタバレあらすじ:転
咲は釣りをしている憲二の様子を見守っていました。その夜、憲二は何も言わずに凛子のもとに釣った魚を届け、そのまま去っていきました。帰宅した憲二は幸とコウタの夢を見ながら涙を流していました。
鉄平は漁師を辞めて大阪に行くと言い出しました。燃料費の高騰が原因でした。その後、憲二のもとに宇壱が訪れ、憲二を見る度に幸を思い出してしまうので墓に幸とコウタの遺骨を入れて島から出ろと告げました。憲二は鉄平からも島を出ようと持ちかけられました。
憲二のもとに高野がやってきました。高野は浜遊びに凛子を誘ってほしいと頼み、憲二は面倒くさそうに「判った」とだけ答えました。その後、高野と入れ替わるかのように凛子が魚を届けてくれたお礼を言いに憲二のもとを訪れました。憲二は車で凛子を送っていきましたが、その様子を見ていたデクから伝えられた高野は抜け駆けされたと勘違いしてしまいました。
凛子は心に今なお深い傷を抱える憲二に対して少しずつ親近感を持つようになっていました。一方、高野から凛子とのことを問われた憲二はすっかり浜遊びの誘いをすっぽかしていたことを思い出し、凛子の家に行ったところ、繁三が倒れて苦しんでいました。島には病院も診療所もなく、医者もいないため、憲二は漁師仲間たちの助けを借り、繁三と凛子を車に乗せると船で近くの病院に担ぎ込みました。
凛子は何とか一命を取り留めた繁三に、今まで言えなかった自分の悩みを打ち明けました。教師時代に教え子のなかの問題児に悩まされていた凛子は保護者からの理解の得られず、その結果うつ病になって辞めたのでした。繁三は凛子に「適度にサボれ」と助言しました。
繁三は憲二に電話を入れ、助けてくれたことに感謝の意を示しました。続けて繁三は夢の中でさわが憲二を心配していたこと、生きている人間を大切にしなさいと言っていたことを告げ、凛子と一緒に東京にいくつもりであることを打ち明けました。繁三は東京で手術を受け、凛子は友人に紹介してもらった教職に就く決意を固めていました。
憲二が漁から帰宅すると、家の中では宇壱が幸とコウタの遺骨の前で泣いていました。宇壱は本当は憲二に自分の幸せについて考えてほしかったのです。
とべない風船の結末
憲二の家では咲が遊んでいました。咲は物干しざおの風船を飛ばそうとして憲二に止められました。その夜、憲二はコウタの生前を収めたビデオを見ていました。コウタの誕生会に繁三がさわと共に訪れた時、部屋には黄色い風船がありました。この風船は映画『幸福の黄色いハンカチ』で登場人物が大切な人に戻ってきてほしいとの願いを込めて黄色いハンカチを飾ったことになぞらえ、コウタが憲二に無事に漁から戻ってくることを願って掲げたものでした。憲二は思わず涙を流しました。その後、憲二は宇壱にこの島に居続けることを伝えました。宇壱は「好きにしろ」と答えました。
憲二は凛子を車に乗せ、高野とデクと一緒に浜遊びをしました。その際、憲二は妻子を失った後にさわから言われていたことを思い出していました。さわはもし自分が死んだら憲二の妻子に会いに行くから憲二はちゃんと生き続けろと言っていたのです。それを聞いた凛子は自分も強く生きると誓いました。
憲二たちは楽しい時間を過ごしていましたが、突然急な雨が降り出しました。あの時のトラウマが蘇った憲二はその場から走り去り、凛子が後を追うと、憲二は土砂崩れが起きた場所で「あの時止めておけばよかった」と後悔していました。その翌日、憲二は漁に出ず自宅に引きこもっていました。凛子は憲二の家を訪れ、外から「いつかでいいので、また心配してくれている人たちと向き合ってください」と呼びかけました。
凛子と繁三が島を離れる日。島民たちは港まで見送りに来てくれましたが、憲二は家から出ようとはしませんでした。見かねた咲はなぜ別れを告げないのか問うと、憲二はあの時妻子にさよならすら告げることができなかったことを思い出しました。
憲二は咲と共にふたつの黄色い風船を空に飛ばしました。凛子は船の中からそれを見つめ、嬉しそうに笑いました。このふたつの風船は憲二と咲が凛子と繁三のために飛ばしたものでした。続けて憲二と咲は物干しざおの黄色い風船も空へ飛ばしました。憲二は飛んでいく風船をいつまでも見続けていました。
以上、映画「とべない風船」のあらすじと結末でした。
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