望みの紹介:2020年日本映画。「犯人に次ぐ」「検察側の罪人」などで知られる雫井脩介。その渾身の同名ベストセラー小説を、「人魚の眠る家」「十二人の死にたい子どもたち」などで知られるヒット請負人の堤幸彦監督が映画化。家族を演じる4人の演技が見どころで、憔悴していく父・堤真一、息子に対する愛情から覚悟を決める母・石田ゆり子、複雑な感情の変化を求められる妹・清原果耶、そして少ないセリフながら存在感を示す岡田健史。絵に描いたような幸せな家庭に訪れる悲劇と、そこに射し込む希望の光。心洗われるような極上のエンターテイメント作品となっている。
監督:堤幸彦 原作:雫井脩介 脚本:奥寺佐渡子 キャスト:堤真一(石川一登)、石田ゆり子(石川貴代美)、岡田健史(石川規士)、清原果耶(石川雅)、加藤雅也(警部補・寺沼俊嗣)、市毛良枝(貴代美の母・織田扶美子)、松田翔太(週刊ジャパン記者・内藤重彦)、竜雷太(高山建設社長・高山毅)ほか
映画「望み」ネタバレあらすじ結末と感想
映画「望み」のあらすじをネタバレ解説。予告動画、キャスト紹介、感想、レビューを掲載。ストーリーのラストまで簡単に解説します。
望みの予告編 動画
映画「望み」解説
この解説記事には映画「望み」のネタバレが含まれます。あらすじを結末まで解説していますので映画鑑賞前の方は閲覧をご遠慮ください。
望みのネタバレあらすじ:起
12月17日(火)
一級建築士の石川一登(堤真一)は商談中の顧客を、事務所に隣接する自宅へと案内します。編集の仕事をしている妻の貴代美(石田ゆり子)が作業の手を止めて出迎え、その後は2階の子供たちの部屋を開けて見せます。ベッドに寝転がっていた高校生の規士(岡田健史)は迷惑そうに起き上がり、妹の雅(清原果耶)は対照的に愛想よく振舞います。
その夜、一登はケガでサッカーをやめて以来ゴロゴロしている規士に向かって説教をします。「何もしなかったら何もできない大人になる」と。バン!とテーブルをたたいて規士は自分の部屋にこもってしまいます。
12月19日(木)
規士の部屋で小刀を発見した一登は規士にその用途を質問します。規士は顔のアザとは関係ないと断言しますが、一登はそれを預かり事務所の工具箱にしまいました。
1月5日(日)
昨日から帰ってきていない規士を心配して貴代美はスマホにメッセージを送ります。すぐ既読にはなりますが電話は留守電になってしまい、そのうち「心配しないで」とメッセージが送られてきました。
高校受験を控えた雅が塾から帰宅し、3人で宅配ピザを食べていると、パトカーが慌ただしく通り過ぎていきます。
夜遅く、近くで起こった若い男性の遺体が発見された事件のニュースがテレビで流れ、不安になった一登は警察に電話をいれるのでした。
望みのネタバレあらすじ:承
1月6日(月)
石川家に戸沢署の警部補・寺沼(加藤雅也)たちがやってきました。おとといの夜、「ちょっと」とだけ言って出て行ったことを説明すると、被害者との関係などを聞かれ、持っている携帯電話の番号や機種などを尋ねられました。早く見つけるために行方不明届を出してはどうか?と言われ、貴代美はまるで犯人であるかのような扱いに抗議します。しかし一登は「警察に探してもらおう」と届けを出すことにしました。
一登は雅を塾へ送るために出かけ、ひとりになった貴代美のもとへ週刊誌の記者・内藤(松田翔太)が現れます。不躾に規士のことを聞いてくる内藤を警戒していると、「警察は何も話してくれませんよ。僕なら情報を教えてあげます」とささやき、逃げている少年が2人いることを話してくれました。
一方、一登は作業中の建築現場に向かい、取引先である高山工務店の社長・高山(竜雷太)から殺人事件の被害者が長年つきあいがある左官職人(渡辺哲)の孫だと聞かされました。事件について憤る高山に一登は話しを合わせるしかありませんでした。
貴代美は近くのショッピングセンターへ出向き、規士と同じ高校の生徒たちに話しを聞いてまわるのですが収穫はありませんでした。
一登が帰宅すると家の前にはマスコミが押しかけてきていました。部屋の中には貴代美がいて、なにも教えてくれない警察に対する不満を口にします。被害者が懇意にしている左官職人の孫だと知り、貴代美はその職人に塗ってもらった自宅の壁を見つめるのでした。
隣人から苦情が入り、一登は仕方なくマスコミの取材を受けることに。その後、一登は通りかかった規士の同級生の飯塚杏奈(松風理咲)に話しを聞くことができました。杏奈によると、規士のケガは先輩による故意だったこと、その後その先輩は何者かに襲われて足を折られたそうです。まさか?という顔をした一登に杏奈は「石川君はそんなことしない」と言い切りました。
一登が受けた取材の映像がテレビで流れ、顔こそ映っていませんが知っている人が見ればすぐに一登だとわかるものでした。逃げている2人とは別にもう1人死んでいるらしいと雅が言い、一登も貴代美もそれぞれ様々な誹謗中傷が溢れるネットをチェックします。
1月7日(火)
朝、一登が玄関から出ると割れた生卵が散乱していました。見知らぬ少年たちが一登をスマホのカメラで撮影して走り去っていきます。危険を感じた一登は警察を呼びますが、情報は公表できないと寺沼たちは譲りません。彼らが帰ったあと、一登と貴代美は規士をめぐって対立します。犯罪者じゃないと主張する一登と生きていてほしいと願う貴代美。
マスコミをかき分けて雅を塾へ連れていく途中、これからどうなるの?と雅は不安げにたずねます。「雅は関係ない。雅は雅だ」と一登が言うと雅は「お兄ちゃん、犯人じゃない方がいい。犯人だと困る」とつぶやきます。
そんな中、石川家には貴代美の母・扶美子(市毛良枝)が差し入れを持ってやってきました。毅然と「とにかく食べなさい」という母の態度に貴代美は「どうしたらいいかわからない」と泣き出します。そんな貴代美に扶美子は、どんな結果でも受け止める覚悟をしなさい、と助言するのでした。
一方、建築現場にやってきた一登は、彼が事件の関係者だと知った高山から「もう先生の仕事は受けられない」と突き放されてしまいます。事務所にいる従業員からはメールや電話がひっきりなしで、とりあえずホームページを閉鎖しますと連絡がきました。
帰宅した一登は義母の存在に戸惑いながら、奥の洗面所で貴代美と向き合います。被害者だという可能性もある、という一登に貴代美は「どうして死んでもいいって思えるの?」と激昂し、今までとちがう人生を生きていく覚悟が必要だと告げるのでした。
その夜、塾から帰ってきた雅は友だちから、家族に犯罪者がいたら第一志望の私立は受からないと言われた、と話します。なだめようとする一登を尻目に貴代美は「今までどおりにはいかない」と言い放ちます。家族なんだから覚悟するように、という貴代美に雅は「なんでお兄ちゃんの犠牲にならなきゃいけないの?」と声を荒げ、「お母さんはお兄ちゃんの方が私より大事なんだ!」と叫びます。
「いつそんな差をつけた!?」貴代美は瞬間的に反論しますが、雅は2階の自分の部屋に入ってしまいます。そこに一登がやってくると、雅は規士からもらった合格祈願のお守りを握りしめて泣いていました。一登は幼いころの規士のエピソードを思い出し、やさしいやつだと雅に話すのでした。
貴代美には、家の外にいる記者の内藤から電話がかかってきていました。内藤は情報を教えるかわりに、結果がわかったあと貴代美に心境をインタビューさせてほしいと持ちかけてきました。規士が加害者でも被害者でも、それを貴代美がどう受け止めるのか興味があるのだといいます。貴代美はそれを承諾し、主犯格の少年は高校を中退していること、犯行に使われた車は先輩から借りたものであること、行方不明の少年たちは背格好が似ているため警察は慎重になっていることなどを聞くことができました。貴代美は内藤に、正直言って規士のことをどう思うかたずねると、彼の答えは「被害者というよりは…」「加害者」貴代美はそう口に出します。刑期はおそらく10~15年、被害者からの損害賠償は億単位になると言い、「それでも生きててほしい?」との問い貴代美はきっぱりと「生きていてほしいです」と答えるのでした。
望みのネタバレあらすじ:転
1月8日(水)
石川家の門にはスプレーで“人殺し”などと落書きがされ、生卵もぶつけられていました。顧客からのキャンセルの電話を切ったあと、事務所に入った一登が工具箱を開けると小刀がありません。従業員によると、4日前に規士が持ち出したそうです。そこへ、ひとり捕まったとのニュースが飛び込んできました。それは規士ではなく主犯格の少年でした。
貴代美は、もし規士も捕まったときのために差し入れをしたいと考え買い物へでかけます。好物を食べさせてあげたい一心で買い物をして店をでると、杏奈たち女子高生が話しかけてきました。石川君は犯人じゃないって警察に言いに行こうと話してたという杏奈に、返そうとした言葉を飲み込み貴代美は立ち去ります。
自転車に乗ろうとして、最後に見た規士の姿を思い出し貴代美は泣きました。
テレビでは、その日営まれた被害者の通夜のニュースが流れています。貴代美は料理作りに没頭しています。そんな妻を見つめる一登。
1月9日(木)
主犯格の犯人が、もう1人の殺害をほのめかしているというニュースが流れます。
学校から早々帰ってきた雅は「明日休む!」とだけ言って2階へと駆け上がっていきます。一登が後を追いますが「はいんないで!」と拒否。一登は何気なく規士の部屋に入ります。リュックの中には“戸沢病院”とシールの貼られたリハビリテーションの本が入っていました。中をパラパラみているとメモ用紙がはさまっていて、それをあけると「何もしなければ何もできない大人になる」と書かれていました。それは以前、一登が規士に言って聞かせた言葉でした。
ハッとして一登は小刀を見つけた引き出しを開けますが、そこにそれはありませんでした。でも、引き出しの奥に緑色の小箱があり、それを取り出して開けてみるとそこに小刀が入っていました。まるで覚悟を決めるかのようにしまわれた小刀を発見し一登は座り込みます。
そして意を決して喪服に着替え、一登は被害者の告別式へと向かいます。案の定入口で止められ、騒ぎを聞きつけてやってきた高山によって一登は外に出され、マスコミのカメラの前で殴られてしまいます。「規士は犯人じゃない。やってない」という一登に高山は「失せろ!」と吐き捨てますが、一登はあいつはやってない、やってないとくり返し訴えます。
すると一登の携帯電話が鳴りました。一登は走り出します。
そのころ、妻の貴代美は寺沼らの警察車両に乗っていました。
やがて二人がたどり着いたのは、警察の遺体安置所でした。顔にかけられた白い布が取り払われると、そこには冷たくなった規士の姿がありました。
「ただし…」貴代美は声に出して何度もその名を呼び、一登は声を出さずに嗚咽するのでした。
望みの結末
寺沼警部補によると、被害者の倉橋君はもともと規士のチームメイトで、規士にケガを負わせた先輩に対して義憤を感じ、少年AとBと3人で懲らしめようとしたのだといいます。ただしAとBは不良で、ついでにその先輩から金を巻き上げようとしていたようです。でもその場で怒りが抑えられなくなってしまった倉橋君が先輩に暴行し、病院送りにしてしまいました。今度は逆に先輩の方が悪い仲間に泣きつき、AとBに金を要求してきました。AとBは倉橋君に盗みをしてでも金を作れと詰めより、困った倉橋君が規士に相談してきたのです。金を払う必要はない、と規士はAとBに話しに行きますがその際殴られ顔にアザができてしまいました。その後再び4人は話し合いの場を持ちますが、AとBは倉橋君から金を奪うことしか考えていません。金を払わなければ自分たちがやられてしまうからです。小競り合いが起こり、倉橋君が持っていたナイフを取り出してしまいます。規士は丸腰でしたが武器を持っていると思われて殺されてしまったのです。土曜の夜に家を出ていった規士は1月5日、日曜の明け方には亡くなっていたそうです。母へのメッセージはAが偽装のために返信したものでした。
寺沼は規士を心のやさしいお子さんだと評し、しっかりした子ほど親に心配をかけまいと自分で解決しようとしてしまう、と語ります。そして、「少年犯罪で一番心痛むのは、お子さんの思いを知ったときです」と静かに、やさしく話すのでした。
規士の葬儀会場で、妹の雅は兄からもらったお守りを握りしめて泣いています。その雅に母・貴代美がそっと寄り添っています。
一登のもとには高山らがやってきました。「許してくれ。どうか、許してくれ」と何度も言いながら高山は土下座します。「顔を上げてください、高山さん」と一登は答えました。
雅は無事第一志望の私立高校に合格し、親子3人で記念写真を撮りました。
貴代美が家で仕事をしながら、飾られた規士の写真を見てほほえみます。するとそこへ内藤から電話が。ついにインタビューのときが、と貴代美が身構えると内藤はもうその必要はなくなったと言います。内藤は、加害者の親としての貴代美に興味があったといい、加害者であることを望んでいたと感じたと話しました。貴代美はずっと苦しかったと言い、犯罪者であるはずがない自分の息子が生きているために加害者だと思い込もうとしていた、と言います。でも、もし規士が犯罪者として生きていたら、その後の人生はたぶん苦しみに押しつぶされていただろう、と。
「私たち家族は規士に救われました」
菜の花と桜が咲き乱れる4月9日。
一登は戸沢病院を訪れていました。規士が借りていた本を返すためです。リハビリテーション科の青年(三浦貴大)は規士の膝のリハビリを担当し、治ってからも規士はそこに通っていました。将来はリハビリの専門家になって、自分と同じような思いをした選手の力になりたいと規士は語っていたそうです。そして、何もしなければ何もできない大人になると親父に言われたから新しい目標に向けてがんばるんだと笑顔で話していた、と。
一登は広場でサッカーをする少年たちを見ながら、「何を見ても規士を思い出すんです」と寂しそうに微笑みます。
帰宅した一登は元通りきれいになった門の前から、規士の部屋のあった2階を見上げるのでした。
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