大鹿村騒動記(おおしかむらそうどうき)の紹介:2011年日本映画。延江浩の『いつか晴れるかな』を原案に、南アルプスを望む美しい光景に囲まれた長野県下伊那郡の大鹿村で、300年以上続いている大鹿歌舞伎をテーマに、笑いあり涙ありの人々の様子を描いた人情群像喜劇映画です。第35回日本アカデミー賞優秀作品賞、優秀監督賞、優秀脚本賞などを受賞し、主演した原田芳雄はアカデミー賞最優秀主演男優賞、会長特別賞を受賞、岸部一徳は同賞優秀助演男優賞を受賞。主演の原田はこの作品の公開3日後に死去したため、本作品が彼の遺作となってしまいました。
監督:阪本順治 出演:風祭善・景清(原田芳雄)、風祭貴子(大楠道代)、能村治(岸部一徳)、越田一平(佐藤浩市)、織井美江(松たか子)、大地雷音(冨浦智嗣)、柴山寛治・黒衣(瑛太)、重田権三・畠山重忠(石橋蓮司)、津田義一(三國連太郎)、ほか
映画「大鹿村騒動記」ネタバレあらすじ結末と感想
映画「大鹿村騒動記」のあらすじをネタバレ解説。予告動画、キャスト紹介、感想、レビューを掲載。ストーリーのラストまで簡単に解説します。
大鹿村騒動記の予告編 動画
映画「大鹿村騒動記」解説
この解説記事には映画「大鹿村騒動記」のネタバレが含まれます。あらすじを結末まで解説していますので映画鑑賞前の方は閲覧をご遠慮ください。
大鹿村騒動記のネタバレあらすじ:1.プロローグ:長野県無形民俗文化財「大鹿歌舞伎」とは
舞台は南アルプスを望む美しい光景に囲まれた長野県下伊那郡の大鹿村、そこでは300年以上伝承されている地芝居「大鹿歌舞伎」がありました。役者はそこの村民たちで、秋の定期公演は毎年10月第3日曜日、鹿塩の市場神社の舞台で行われていました。この大鹿歌舞伎は長野県無形民俗文化財に指定されており、公演には毎年、大勢の客が詰めかけ、好きな役者が登場すると、かけ声をあげ、お捻りを投げたりして、庶民の娯楽として根付いていました。
大鹿村騒動記のネタバレあらすじ:2.帰って来た治と貴子
季節は秋、大鹿歌舞伎も間近に迫っていた頃、大鹿村に乗り合いバスが到着しました。若い茶髪の若者に続き、既に老年に達した男と女がサングラスをかけ、顔を隠すように降りてきました。バスの運転手・越田一平は、その二人連れに見覚えがあり、「この村の人ですよね」と声をかけると、男はそうでないという仕草をして、村の方に女を連れて歩いていきました。その姿を見て、一平は「貴子さん?治さん?」と呟きました。二人は何年かぶりにこの村に帰って来たようで、ある川の橋の上で「子供の頃、よく遊んだな」と男・能村治が女・風祭貴子に声をかけると、貴子は「分かってるよ。善さん」と言いました。治は「俺、治だって」と言い、彼女の後についていきました。
大鹿村騒動記のネタバレあらすじ:3.アルバイトに来た大地雷音
「ディアイーター」とでっかい看板の鹿肉料理の食堂の店主・風祭善の所に、あの茶髪の若者がやって来ました。善は子鹿に餌をやりながら、歌舞伎の練習をしていました。その姿を見た若者は「バカじゃないの」と言うと、善は「バカじゃねえよ。鹿だよ」と言い返しました。若者は善が店主であると知り、「♪テレビもねえ、ラジオもねえ、オラこんな村イヤだ~♪」と鼻歌を歌う善に、「こんな村がいいんです」と言い、住み込みで働かせて欲しいとお願いしました。その若者の名はその華奢で風貌と繊細そうな物腰とは違い、大地雷音という凄みのある名でした。善は大鹿歌舞伎の演目「景清」の主役・影清役で、歌舞伎、大好き男でした。その公演のため、「10月23日から29日までは昼のみ営業、30、31日は臨時休業」と看板を出していました。善は雷音に歌舞伎の魅力を説明しました。目をキラキラさせ聞き入る雷音を、善はバイトで雇うことにしました。
大鹿村騒動記のネタバレあらすじ:4.「来ちゃった」
その日の午後5時半から、リニアモーター中央新幹線の建設意見交換会を役場で開くことになり、村役場総務課・織井美江は、放送で関係者に集合を呼びかけました。治と貴子は子供の頃から入っている山谷一夫が経営する旅館の温泉に入りました。その姿を見た小野は、役場での意見交換会に来た善に告げようとしましたが、傍にいた越田に止められました。意見交換会では、土木業の重田権三は賛成の意を説きますが、白菜農家の柴山満は反対の意を唱えました。重田は満に歌舞伎の役柄と強引に関連付けて、彼を批判しました。山谷は「全線開業は2045年だろ。生きてねえよ」と茶化しました。村長は「民間のやることなので、環境に配慮してくれれば、皆さんの意見を聞いて、じっくりじっくりと考えます」と宣言しました。早く歌舞伎の稽古に行きたい善は、村長のその言葉に拍手し、さっさと稽古に行き、交換会は何の進展もなく終わりました。歌舞伎の舞台稽古が始まり、皆、真剣に稽古に励みました。重田は源頼朝役の朝川玄一郎が台詞をとちった事や、三保ノ谷役の満の演技に腰がきまってない事に憤り、善が間に入り宥めようとしますが、稽古をやめて帰ろうとしました。その時、景清の妻・阿古屋役の越田が「来ちゃった」と呟きました。
大鹿村騒動記のネタバレあらすじ:5.「返す」と言う治に怒る善
舞台上の皆の視線は、二人の男女に向き、驚きました。一番驚いたのは、善でした。そこにはなんと、18年前に東京へ駆け落ちした善の幼馴染みの親友・治と善の妻・貴子がいました。治は貴子を置いて、逃げようとしました。善は怒り「おい!どういうことだ!」と治に駆け寄りました。治は善に「ごめん。どうしようもなくて。返す。駆け落ちしたことも忘れてんだ。俺のこと“善さん”って呼ぶんだ。だから、返す」と言ってきました。善は泊まる所もない二人を、家に連れて帰りました。貴子は家に入ると懐かしむように、家中を歩き回りました。その頃、家の外では善は治の胸ぐらをつかみ、「18年も過ぎて、今さら何を返すだ!返すのなら、元のまんまの貴子にして返してくれ!」と治を押し倒して、言い放ちました。治は「死にたい」と言い始め、それを聞いた善は「死にたいのは俺の方だ!いっぺんに二人もいなくなったんだぞ。俺とあいつ(貴子)が喧嘩したとき、間に入ってたのお前じゃないかよ!…愚痴でもこぼそうと思ったら、お前はいない」と涙ながらに言うと、また治に飛びかかっていきました。善は、妻の貴子と治と3人でディアイーターを営業しようとしたときに、二人は駆け落ちしたので、なおさら悔しくて悲しかったのでした。そこに貴子が現れ、二人にバケツで水をぶっかけ、二人の取っ組み合いを止めさせました。貴子が二階で布団を敷いている間、善は治と一階の店で酒を飲みながら、貴子の状態を聞くと、彼女は認知症で、粗暴になったり、何でも口に入れたりするようになっていたのでした。治は一杯、酒を飲むと帰ると言い出しました。善は「貴子は状況をわかってないんだから、治がいないと困るよ」と言い、治を家に泊めました。
大鹿村騒動記のネタバレあらすじ:6.リニアと芝居
治が二階に寝に上がると、織井がやって来ました。用件は満が重田と芝居はできないと言っているということでした。善はそれを聞いて、自分が満を説得して芝居に出させると約束しました。それを聞いて安心し帰ろうとした織井に、善は「木綿のハンカチーフ」の一節を歌い、織井の東京に行った彼氏が新しい彼女を作って帰ってこないと茶化すと、織井は怒って出ていってしまいました。翌朝、満は三保ノ谷役の台詞稽古をしながら、白菜畑で中国人農家の馬くんと仕事をしていると、善がやって来ました。善は「満の三保ノ谷があっての、俺の影清じゃねえか」と言い、満を褒めましたが、彼は「重田が芝居中にリニアの話をすることはなし」という条件を出しました。それを聞いた善は、重田の所に直ぐ向かい、説得しましたが、重田は「芝居とリニアは間接的には大いに関係あるんだよ」と言い、聞きませんでした。善は重田の頑固さに呆れながらも、なんとかなるだろうと思い、帰りました。その頃、大鹿歌舞伎保存会会長の津田義一(貴子の父)の家に、電器屋がテレビのチューナーを取り付けに来ました。津田は昔、大鹿歌舞伎の千両役者でしたが、今は隠居し、縁側で木を削り小さな木像を作るのが趣味でした。電器屋は津田に、駆け落ちした治と娘・貴子が帰って来たことを知らせました。
大鹿村騒動記のネタバレあらすじ:7.逃げる治と雷音の一目惚れ
お昼時、治は急に「俺、帰るわ」と言い出ていこうとしました。善は「歌舞伎、観て行かないのか?あと4日だぞ。待てないのか?」と言い残し、店の中に入って行きました。すると治のところに、山谷が宿代の請求に来ました。治は「金がない」と暗に逆に借りようとしました。しかし、そこに村役場職員・平岡健太が来て、駆け落ちしていた18年間分の住民税と延滞金を払うように告げに来ました。切羽詰まった治は、二人の隙をついて、走って逃げようとしました。山谷と平岡は治を追いました。そこに郵便局員の柴山寛治がバイクで来ました。店の直ぐ前で柴山はバイクを転かしてしまいました。それを偶然、タバコを吸いに出た雷音が彼の姿を見て、一目惚れしました。雷音は柴山が舞台の下で黒衣として回す役と聞いて、手伝うことに決めました。その頃、貴子はお腹がすいたのか、台所にある何でも口に入れようとしました。善は驚き、貴子を取り押さえ、「落ち着きなさい」と言い、椅子に座らせました。貴子は「晩ご飯、何します?」と善に聞いてきました。善は「稽古が終わってから、俺が作るから」と言うと、貴子は「あなたが最後に目を振り向くところ、私、好きです」と呟きました。
大鹿村騒動記のネタバレあらすじ:8.貴子に戸惑う善
治は金がないため、山谷の旅館で働くことになり、風呂掃除をしていました。その時、食料品店店主の朝川が風呂に入りに来ました。治は朝川に貴子との駆け落ち生活の愚痴をこぼしだし、素っ裸になって、風呂に飛び込み自殺しようとしました。びっくりした朝川は治を助けました。ディアイーターではお昼のお客を捌き終え、善、貴子、雷音で遅い昼食を食べていました。味が「治ちゃんの味だ」と言い、貴子に醤油を要求しましたが、貴子には醤油が通じませんでした。貴子はもう物の名前まで忘れていました。善が夜、トイレから出ると洗濯機が回っていました。「誰だよ、こんな時間に」と呟き、中の物を出すとそれは女物の下着でした。飛んできたのは雷音でした。雷音は「心は女、体は男」の性同一性障害を煩っていました。雷音は「心を体に合わせるのか、体を心に合わせるのか」自分を見直すべく、何もない大鹿村にやってきたのでした。善は驚き、どう言えばいいか分かりませんでした。織井が車で村を回って連絡放送していると、貴子が一人で歩いていました。車を止め、織井が貴子に声をかけると、いきなり貴子が織井の頬をビンタしました。貴子は「恐かったの。何か浮かんだの。恐いことが」と呟き、去っていきました。貴子はその足で朝川の食料品店に行き、イカの塩辛のビン詰めを万引きして帰ってきました。善は朝川に謝り、貴子にも謝るように言いましたが、貴子は「私、何もしていません」と言い張り、挙げ句に善が私を追い出そうとしていると言い始めました。こんな状態の妻・貴子に困った善は、今回の歌舞伎には出演しないと言い出しました。朝川は必死で説得しました。その時、貴子は過去自分が歌舞伎で演じていた景清の妻・阿古屋の台詞を呟き出しました。それを見た善は、貴子を連れて、歌舞伎保存会会長で貴子の父・義一の家に行きました。
大鹿村騒動記のネタバレあらすじ:9.善、舞台への決意
善が貴子を連れて父・義一の家に行くと、治が義一に頭を下げて謝っていました。貴子は認知症から戻ったように振る舞いました。善は義一に、貴子のことを考えると今回は出演できないと相談しました。義一は歌舞伎が終わるまで、娘・貴子を預かると言いました。義一は昔の自分の話をし、ずっと下を向いている善に、顔を上げてこっちを向けと言いました。善の父と親しかった義一は、善の父が「村の舞台で歌舞伎をやりたい」と言い残して息をひきとったことを、目に涙を浮かべて語りました。善は父の遺言を聞き、男泣きしました。貴子を義一の家に預け、善は治と帰りました。その途中、治は貴子が何を万引きしたのかと善に聞いてきました。善はイカの塩辛だと言うと、治は「それ、善ちゃんの好物じゃないか。で、俺の一番嫌いな食べ物だ」と言い、善に「歌舞伎、やったほうがいいよ」と言いました。善はもう舞台に上がる決意はしていたので、治に「お前に言われることはねえ」と答えました。
大鹿村騒動記のネタバレあらすじ:10.妙案
台風23号が接近してきました。織井は村中の人に放送で避難場所の案内をしました。台風接近に伴い、雨、風が強くなってきました。不運なことに、阿古屋役の越田が土砂崩れに遭い、ケガをしてしまいました。それを聞いた善と織井は、入院している越田に見舞いに行きました。立ち上がるのもできない越田に、善は「痛み止め100本打っても出ろよ」と無茶苦茶なことを言いました。越田は、自分の代役は貴子しかできないと言い出しました。善と貴子が結婚したのも、元々は貴子が景清の妻・阿古屋を演じ、二人が共演したのがきっかけでした。善は認知症の貴子にはできないと言いますが、越田と織井は、貴子が阿子屋を演じるのは妙案だと、善を説得にかかりました。織井は、この芝居がきっかけで「今の貴子さんが元の貴子さんに戻るかもしれない」と善に言いました。善は「それはない」と呟きました。
大鹿村騒動記のネタバレあらすじ:11.罪悪感から失踪した貴子
その頃、暴風雨で何か崩れるような音を耳にした貴子は、治と駆け落ちした時のことを思い出したのか、罪悪感に陥り、台所で泣き崩れました。病院にいた善の携帯電話に、義一から貴子がいなくなったという知らせが入りました。善は治の所にいるのではないかと、直ぐに、治に連絡しましたが、治も知りませんでした。善は雷音に電話をして、車で貴子を探すように伝えました。暴風雨の中、善と治は貴子を村中、探し回りました。その頃、貴子は自殺しようとしていました。偶然、雷音が見つけ、貴子を引き止めました。「私はひどいことをしたの。…こんな天気の日に」と呟く貴子に、雷音は近くの小屋に貴子を入れて、「だったら、謝りましょう。遅くないです」と言い慰めました。貴子はひどい罪悪感に駆られていました。そこに善が来ました。善は泣き叫ぶ貴子を抱きしめ、慰めました。
大鹿村騒動記のネタバレあらすじ:12.阿子屋を演じる貴子
善は貴子を舞台に上げる決意をしました。雷音と共に貴子を舞台に連れて行きました。貴子に阿子屋役の着物を着せ、善は「明日、ここに一緒に立つぞ」と言うと、貴子は「自分に何が起きるかわからない」「自信ないです」と言い返してきました。善は貴子に「何が起きるかわからないのが大鹿歌舞伎のおもしろいところじゃないか」と励ましました。貴子が阿子屋役をやると聞いた仲間たちが、稽古にやってきました。重田も貴子を励まし、舞台に上げ、稽古を始めました。すると、貴子は阿子屋を演じ始めました。貴子は台詞を一言一句間違えずに覚えていました。それを舞台裏で聞いていた善は、越田と織井が言っていたような奇跡が起こるかもしれないと、淡い期待を抱きました。
大鹿村騒動記のネタバレあらすじ:13.大鹿歌舞伎の奇跡
台風が過ぎ去った晴天の下での大鹿歌舞伎の公演日、村中の人々が総出で応援に駆けつけました。演目は歌舞伎十八番之内「影清」です。善は主演の景清を、貴子がその妻の阿子屋を、朝川が源頼朝を、重田が畠山重忠を、柴山が三保ノ谷を、平岡が大鹿軍内を演じました。奈落で柴山は雷音に演目の簡単な説明をしながら、裏方に徹し、合図の音に合わせて廻り舞台を回しました。柴山は演目で「目をくりぬく」場面の説明を雷音にすると、雷音は「イヤなものは見たくないけど、…いいもの、好きなものも見えなくなる」と言いました。柴山は「何、好きなものって」と雷音に言うと、雷音は「恥ずかしい」「好き」と言って、柴山に飛びつきました。影清が目をくりぬく場面を、舞台袖から見ていた貴子は、善に「私、許してもらわなくていいよ」と呟きました。影清になりきっていた善は、一瞬、戸惑いましたが、演じきりました。観客は応援する役者が出てくると声援を送り、お捻りを舞台に投げました。貴子は見事に阿子屋役を演じきり、舞台は観客の盛大な拍手のもと、無事、幕を下ろしました。貴子は舞台が終わり、着替えるとき、手伝ってくれた織井に「ありがとう」と言いました。この共演で善は奇跡的に貴子の認知症も直り、彼女との仲も元に戻ったように思え、善は「やっぱり、歌舞伎はおもしろいな」と言いました。その夜、善は貴子と家に帰り、隣で寝ている貴子の手を握りしめて眠りました。
大鹿村騒動記の結末:「善さんは俺だ!」「あれ~?」
歌舞伎公演終了の翌日、織井は「東京か私かどっちかはっきりさせてくる」と善に言って、東京の彼氏の所に行こうとし、バスに乗り込みました。ケガも治った越田が運転席にいました。越田は織井が東京に行くと聞き、「行かせない」と言い、「なぜ?」と問う織井に、歌舞伎調の台詞回しで「好きだからよ~」と告白し、バスをバックさせました。バス停にいた善に、妻の貴子が笑顔で駆けて来ました。「善さん、塩辛~!」と塩辛のビンを手に持って高く振りながら、善のところに駆け寄って行きました。善は貴子を抱きしめようとしました。しかし、貴子は善をすり抜け、後ろにいた治に駆け寄って行きました。治は「違う、違う。俺は治だよ~」と言いながら、貴子から逃げました。善は「善さんは俺だ!」と大声で叫び、二人が逃げる後ろ姿を見て「あれ~?」と呟き、空を見上げました。
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