ゆきゆきて、神軍の紹介:1987年日本映画。まだ元号が昭和だった頃、天皇に向けてパチンコを発射する等の事件を起こした奥崎謙三(1920年-2005年)は、たったひとりの「神軍平等兵」として宣伝カーで旅をする。彼同様ニューギニアの戦場を生き残った元兵士たちを追い詰め、戦争の実態を明らかにしていく。最初今村昌平から奥崎のことを教えられた原一男監督は、時には暴力を振るうこともいとわない奥崎の過激な活動につきあい、時にはふりまわされつつこのドキュメンタリー映画を作り大ヒットさせた。ヒーロー奥崎の生誕100年を記念して2020年にリバイバル公開された。
監督:原一男 出演者:奥崎謙三、ほか
映画「ゆきゆきて、神軍」ネタバレあらすじ結末と感想
映画「ゆきゆきて、神軍」のあらすじをネタバレ解説。予告動画、キャスト紹介、感想、レビューを掲載。ストーリーのラストまで簡単に解説します。
ゆきゆきて、神軍の予告編 動画
映画「ゆきゆきて、神軍」解説
この解説記事には映画「ゆきゆきて、神軍」のネタバレが含まれます。あらすじを結末まで解説していますので映画鑑賞前の方は閲覧をご遠慮ください。
ゆきゆきて、神軍のネタバレあらすじ:宣伝カーと共に
男が、政治的メッセージがびっしり書かれた店のシャッターを上げる。バッテリー・中古車修理店店長の奥崎謙三である。62歳の彼は64歳の妻・シズミと兵庫県神戸市兵庫区荒田町に暮らす。
その夫婦が兵庫県養父町の太田垣家で開かれる太田垣敏和の結婚式に行く。媒酌人として奥崎は参列者を前に「今日の結婚式は花婿と媒酌人が共に反体制活動をした前科者であるがゆえに実現しました、たぐいまれなる結婚式でございます」という型破りの式辞を述べる。
奥崎は昭和31年に傷害致死事件を起こして懲役10年、昭和44年に新年皇居参賀で天皇にパチンコを発射して懲役1年6カ月等の経歴をもっていた。
奥崎は兵庫警察警備課長にあらかじめ断ったうえで派手な宣伝カーに乗って東京へ行く。深谷の日赤病院に元軍曹山田吉太郎を見舞った後、天皇誕生日は都内で公安に止められた宣伝カーの中で演説をぶつ。帝銀事件主任弁護士遠藤誠のパーティーのスピーチでは、法廷での判事や検事相手の武勇談を披露する。
地元に戻ると、「自宅屋上に独居房を作ろう」と思い付いて、実寸を測るため神戸拘置所に向かい、制止する職員を「ロボットみたいな顔しやがって!」と罵倒する。
ゆきゆきて、神軍のネタバレあらすじ:戦友を訪れる
奥崎は、ニューギニアで亡くなった、奥崎や山田吉太郎が所属していた元独立工兵第36連隊の戦友達の慰霊の旅に出る。
広島県江田島町に島本正行一等兵の母イセコを訪ね、涙ぐみながら島本一等を彼自身が埋葬した時のようすを話し、イセコに感謝される。彼女に自分がお世話しますからニューギニアに行きませんかと話をもちかける。さらに「怨霊を弔う」という文字を記した角材をもって、ジャングルで死んだ他の元兵士の墓を訪れるのだった。
36連隊のウエワク残留隊で、終戦後23日もたってから二人の兵士が射殺された事件が奥崎には気になっていた。彼は真相を探るために当事者と思われる元兵士たちを訪れる。岡山県矢掛町に住むかつての奥崎の分隊長、高見実元軍曹(旧姓妹尾)は、突然訪れた奥崎と友好的に話をするが、事件について自分は知らない、他の人に当たってくれと言う。
島根県伯太町の元軍曹妹尾幸男を訪れるが、非協力的なのに怒り奥崎は妹尾を罵倒して組み伏せ、近所の人が集まり警察が呼ばれることとなる。
ゆきゆきて、神軍のネタバレあらすじ:兵士処刑事件の真相を求めて
奥崎は処刑された吉沢徹之助の妹・崎本倫子、野村甚平の弟・寿也をともなって、関係者を訪れて当時の状況を聞き出そうとする。東京都世田谷区の元伍長・会川利一は妹尾幸男を含む6人が処刑に手を下したと証言する。
奥崎・崎本・野村は会川が名前を挙げた一人、元軍曹・原利夫を山梨県石和市にある彼の職場に訪れる。野村は兄の「遺骨」の箱をもってきた原と昔会ったことがあった。処刑された二人に悪い所はなかったと言うばかりで真相を話そうとしない原。奥崎に挨拶しに来た石和署の二人の刑事に奥崎が自分を不法監禁で逮捕してもいいよと言う一幕を経て原はとうとう、自分も処刑の引き金を引いたが不発弾だったと言う。
神戸市長田区の元衛生兵浜口政一は、彼の営む飲食店の営業のじゃまになると言って奥崎たちと外へ出て料亭で話をする。吉沢と野村は食べるものがなくて逃亡したが終戦後に戻ってきたと言う。
戦争が終わっているのだからこの処刑は殺人では?野村弟や崎本は兄たちの死は人肉食と関係があるのではと問い詰めるが、浜口は黒豚(現地人)や白豚(白人)は食べたが戦友は食べなかったと言う。崎本と野村は兄たちが食べられてしまったのではという疑惑を捨てきれないが、その後奥崎に同行することはやめてしまう。
ゆきゆきて、神軍のネタバレあらすじ:処刑の実行者
奥崎は知人を野村に、シズミを崎本にしたてて、処刑を直接命令した元ウエワク残留隊隊長村本政雄(旧姓古清水)に会いに広島県大竹市に行く。
二人の兵士の軍法会議によらない処刑は当時でも殺人だぞと迫る奥崎。客間に通された奥崎たちに村本は、上官が彼に処刑を命じた理由は、吉沢と野村が人肉を食したことである言う。そして自分は処刑の場には立ち会わなかったと言う。
奥崎たちは未明に再び妹尾幸男を訪れる。前回奥崎に組み伏せられて大騒ぎになったが、妹尾は、朝の早い時間であるにもかかわらず丁重に奥崎たちを迎えて話をする。村本の命令で妹尾幸男、妹尾実ら5人が至近距離で吉沢と野村を撃ったことを認める。そして村本の話したことと違い、村本が拳銃で2人にとどめをさしたと言う。
さらに高見実(旧姓妹尾)を再訪する。高見の妻に迷惑がられながらも奥崎は高見に話をさせる。前回訪れたときは何も知らないと言っていた高見は、自分は照準を外して撃ったこと、やはり村本が吉沢と野村に一発ずつ撃ってとどめをさしたことを話す。
ゆきゆきて、神軍の結末:責任と天罰
奥崎のいた36連隊本隊でもくじ引きで負けた橋本義一軍曹が殺される事件があった。奥崎は彼が天皇に向けてパチンコを撃った同じ日に、皇居で発煙筒騒ぎを起こしたアナーキスト・大島栄三郎を橋本の兄にしたてて、正月、退院した元軍曹・山田吉太郎を埼玉県深谷市の家に訪れ、事件について証言させようとする。
悲惨な戦争をありのままに語ることは、生き残った者の務めだと考える奥崎に対して、ニューギニアでの悲惨な体験について自分は十分記録を残したという自負がある山田は、それ以上のことは語れないと言い張り、橋本を殺したことをカメラの前で言おうとはしない。
奥崎は山田の病気も天罰だと言いつのるが、山田には自分だって犠牲者だという思いがある。とうとう奥崎は喧嘩腰になり、病身の山田を押し倒してしまう。山田の家族も怒り、奥崎が自分で110番をして一時二人の警官が来る騒ぎになるが、山田も奥崎も落ち着きを取り戻す。
橋本が食料を盗んだために他の兵士の食料にされたことがほのめかされる。そして山田自身の命も危なかったが、自分が山のことに勘が利く有益な人物だったから食われなかったのだろうと言う。山田が足をけがしたかもしれないので念のために救急車を呼び、山田の妻と奥崎がいっしょに救急車に乗り込む。だが結局、山田を奥崎の攻撃からかばったシズミのけがの方が大きいくらいであった。
奥崎がニューギニア行きを誘った島本イセコが死に奥崎は墓参りに行く。イセコの作ったパスポートは無駄になった。1983年、奥崎は一人ニューギニアに行った。
その年、奥崎は村本宅を再訪し、たまたま居合わせた息子に銃を発射して重傷を負わせ、2日後に逮捕された。囚われの身になった奥崎からのメッセージを伝え続けたシズミは1986年9月18日に亡くなり、1987年1月28日、奥崎は殺人未遂などで徴役12年の実刑判決を受ける。
以上、映画「ゆきゆきて、神軍」のあらすじと結末でした。
ありのまま話す事が2度と戦争を繰り返さない