ほかげの紹介:2023年日本映画。製作・脚本・撮影・美術などを自らこなし、俳優としても活躍する映画監督・塚本晋也。戦争や暴力の悲惨さを描いたこの『ほかげ』は2023年ヴェネツィア国際映画祭オリゾンティ部門で最優秀アジア映画賞を受賞した。主演はNHK連続テレビ小説「ブギウギ」でヒロインに抜擢された趣里。朝ドラとは全く違う表情で作品の緊張感を高める。物語のキーマンに森山未來。『ラーゲリより愛を込めて』で主人公の息子を演じた塚尾桜雅の真っ直ぐなまなざしが印象に残る。
監督・脚本・撮影・編集:塚本晋也 出演:趣里(女)、塚尾桜雅(戦争孤児)、河野宏紀(復員兵)、利重剛(中年)、大森立嗣(優しそうな男)、森山未來(テキ屋の男)、ほか
映画「ほかげ」ネタバレあらすじ結末と感想
映画「ほかげ」のあらすじをネタバレ解説。予告動画、キャスト紹介、感想、レビューを掲載。ストーリーのラストまで簡単に解説します。
映画「ほかげ」解説
この解説記事には映画「ほかげ」のネタバレが含まれます。あらすじを結末まで解説していますので映画鑑賞前の方は閲覧をご遠慮ください。
ほかげのネタバレあらすじ:起
空襲で焼け残った居酒屋。畳に敷きっぱなしの布団で横になっているのは、ここでひとり暮らしをしている女です。
いきなり男が店の戸を開けて何かを探すようにあたりを見回していますが、女と目が合いそのまま出て行きました。そのあと、店の中に隠れていたかぼちゃを抱えた少年が、カウンターから何かを手に取って逃げていきました。
この日も女は座敷で横になっています。戸を開けて入ってきたのは愛想の良い中年の男で、酒の瓶を持ってきてくれました。変な客は来てないか、などと心配する彼は女を抱きしめ押し倒します。そしてやることだけやると無言で出ていきました。
ある晩、店には若い復員兵がやってきました。女はコップに酒を注ぐとカウンターに置き、「それ飲んだら上がってください」と告げます。座敷に上がってきた復員兵に女は先払いだと言って金を要求し、それを受け取ります。緊張しているような復員兵は「もう一杯いいですか?」とたずね、女が出した酒を飲むと目が据わり、眠そうな表情になっていきました。
翌朝、復員兵が目を覚ますと既に女は起きていて「大丈夫ですよ」と声をかけ、無表情のまま「朝ごはん、ありますよ」と言いました。復員兵はお金を作ってくるので今夜も来ていいかとたずね、朝ごはんをかき込むと店を出ていきました。
その日の夕方、あの泥棒少年が今度は冬瓜を持ってやってきました。そしてお金をつくれなかった復員兵も、明日は必ず今日の分と合わせて持ってくるからここにいさせてほしい、と懇願します。復員兵はロウソクに火を灯し、調理場を借りて少年の持っていた冬瓜を煮て出しました。そして自分の持っていた小学生用の算数の教科書を取り出すと、少年に勉強を教え始めます。彼は出征前教師だったといい、教科書はお守り代わりに持っていたそうです。
それから女は少年の顔をゴシゴシ拭いてきれいにし、奥の部屋には入らないよう怒りながらも三人で川の字になって眠りました。
翌朝も復員兵は「また来させてください」と言って出ていきます。しかし帰ってきた彼は元気がなく、夕食をなかなか食べずについには少年に自分の分をあげてしまいました。
その夜、女が少年のバッグには何が入っているかたずねると、少年はそれには答えずバッグを抱えて寝てしまったので女は機嫌が悪くなりました。しかし夜中に少年がうなされていると、心配してトントンと少年の身体をたたきながら声をかけて落ち着かせようとしました。
復員兵は、ここに来ればやさしくしてもらえる、と声をかけられたからここに来たと言い、それが何を指すのか何となく察したけれど、戦争から戻ってきてここで初めてぐっすり眠れた、ほんとうにぐっすり眠れたんだ、と涙ぐみました。
次の日の夕方、卵をふたつ持って帰ってきた少年は女に、復員兵が仕事を探さずぼーっとしているだけだと告げ口します。復員兵は帰ってきますが、中に入るまで少し外で突っ立っていました。
その夜の復員兵はやけに明るく、遠足ごっこをしておにぎりを作って食べるマネなどをして遊びました。しかしそのとき突然外から銃声が聞こえ、異常なまでの復員兵の怖がりように女も少年も驚いてしまいます。
夜中。ブツブツと何かを言い続ける復員兵の様子に女が気づき、目が合うと彼は「僕にここを教えてくれた人は誰ですか?」「あのおっさんともやってるんですか?」などと女に質問を浴びせてきます。女は毅然と「明日朝起きたら出ていけ」と言い、日数分の金を持っていたら二度と来るなと言い放ちます。すると外でまた銃声が聞こえ、復員兵は立ち上がって女に近づいてきます。「いまやらせてくれ」と迫る彼を拒絶し、子どもがいるのにやめて!と言うと復員兵は女を殴ってきました。
もみ合っているうちに店の方へ逃れた女に復員兵は更に殴りかかってきました。そこへ少年がかばうように割って入りますが大人の力にはかなわず、窓ガラスを破って外に投げ出されてしまいます。女があきらめかけたその瞬間、酒瓶を持った少年が復員兵を背後から殴りつけました。そしてうなじに銃口を突きつけたのです。這いつくばった状態のまま、少年は復員兵を店から連れ出していきました。
ほかげのネタバレあらすじ:承
しばらく経って少年はひとりで戻ってきました。心配する女に(復員兵は)動かなくなったし、もう来ないと思うと少年は告げます。女は少年が銃を持っていたことを咎め、これは持っていたらダメ、預かっておく、と言って店の棚にあった缶の中に入れ、そこに置きました。
翌日。女が店の入口横で割れたガラスを片付けていると、いつもの中年男がやってきました。状況に驚いた男に女は「少し休ませてください」と言い、「う、うん」と男は生返事で酒を置いて出ていきした。
女は少年にしばらくここにいてもいいと告げ、その代わりまともな仕事をするよう言い聞かせます。どこも人手は足りないので店の手伝いなどをしてきちんとお金を稼ぐよう説得し、自分も昼間働いて稼ぐから、夜はふたりの時間にしようと言うのでした。
翌日から少年は朝出かけ、夕方野菜などを持って帰ってくるようになりました。女は帰ってくるたびに、「まともな仕事?」「ちゃんと働かせてもらえてる?」と心配して質問攻めにします。少年はそのたびにうんうんと返事をしますが具体的なことは話しません。それでも女の表情は以前に比べ明るくなり、夜はふたりで算数の勉強をしたりして過ごしていました。
ある晩、少年の服のボタンが取れそうなので女は奥の部屋に彼を招き入れます。初めてそこに入った少年は男性の写真と陰膳を見つけますが、女はそれには触れずにボタンを縫い付けてくれました。
その後女は家にあった男性用の服を仕立て直し、少年に合わせたシャツを作り彼に着せてやりました。新しい服を着てうれしそうな少年は笑顔で「いってきます」と言い、女も「いってらっしゃい」と笑顔を向けるのでした。
しかしその晩、少年はなかなか帰ってこず、女は暗い室内でまんじりともせず待っていました。やっと帰ってきたと思ったら、少年は頭から血を流しています。女は激怒し、やはりまともな仕事をしていないからだと少年を責め立てます。
少年は仕方なく、列車から投げられる荷物を拾う仕事をしていること、その荷物を奪おうとする怖そうなお兄さんたちに殴られたこと、それを親切な男の人に助けてもらったことを話しました。しかも拳銃を持っていることを話したら仕事をくれるというので必ず持っていかなければならない、とも。それを聞いた女は心配で半狂乱になり、そんな仕事がまともなわけがない、そんなことをしたら拳銃を奪われて殺されてしまう、今すぐ断ってきて!と譲りません。ちゃんと断って私を安心させて、と女は言い、少年は再び外へ出ていきます。
女は憔悴しきった様子で奥の部屋に行き、鏡台の前に座り込むと、暗い中自分の姿を鏡に映しました。
翌日、明るいうちにいつもの中年男が酒を持ってやってきました。女は奥の部屋にいるのか返事がありません。気になった男が部屋に上がり込み、鏡台の前で座り込む女に声をかけます。「どうした?」優しい声ですが、男は女にキスをしようと身体をこちらに向けさせます。そして何かに気づき驚愕の表情を浮かべました。
ほかげのネタバレあらすじ:転
少年が戻ってきました。奥の部屋から出ずに女は質問し、少年はきちんと断ったと報告します。しかし女の返事は「出ていって」でした。女にはかつて夫と子供がおり、夫はいい人で息子はいい子だったといいます。でもあなたは全然いい子じゃない、だからもう嫌いになったのだと。強い口調でまくし立てられ少年は涙ぐむほど悔しさをにじませます。そしておもむろに缶から銃を取り出すと店を出ていきました。
結局少年は、拳銃を使いたがっている男と合流し、付いていくことにしました。その男は片手が不自由ですが、川で器用に魚を捕らえ、少年にも焼いて食べさせてくれました。しかし男は拳銃の使い道も、どこに向かっているのかさえ教えてはくれません。そんな男を怪しみながらも悪い人だとは思えず少年は付いていきます。途中、人さらいに遭って農家に売り飛ばされる少年の姿を見かけたり、土蔵に閉じ込められ奇声を発する男の姿を見たりしますが、いっしょにいる男は淡々とそれらを見つめています。
野宿をしながら歩き続けるふたりですが、相変わらず少年はうなされ、男の方も寝ながら泣いていたりしています。
暑い夏の日、ふたりは青々と茂る畑の中の道を歩いています。男に聞かれた少年は、拳銃を道で拾ったといい、男が手に持ったまま倒れていたと説明します。少年はふたたび男に銃で何をするのかたずねますが、「どっちみち人生お先真っ暗だ」とはぐらかされてしまいます。
人気のない道で男は「弾、何発残ってる?」とたずね、少年に銃を貸すよう促します。少年は逡巡しますが最後には男に銃を渡し、男は弾を確認します。
弾は4発。男はふぅっと息を吐き、「神の思し召しだ」とつぶやきました。
そして男は弾を戻し、銃を少年に返します。
男はとある屋敷の庭に少年と忍び込み、庭石の影から座敷を見つめています。夕方になりそこへ男性と夫人らしき人物がやってきて夕餉が始まりました。その様子を見ながら男は石にギリリと爪をたてています。
男は少年に、〝アキモトシュウジ〟が待っていると言ってその男性を呼び出してくるよう頼みます。
暗い森の中、ひとり佇むアキモトのもとへ少年に案内された男性がやってきました。ふたりは戦場での上官と部下らしくアキモトの態度は礼儀正しく、男性は再会を喜んでいるようです。アキモトは自分のしてきたことの償いについて考えていると話しますが、元上官の男性は戦場でのことだ、気にするな、となぐさめるような発言をします。アキモトは少年に銃を渡すよう笑顔で促し、迷って手間取った末、ついに少年は彼に銃を手渡します。
するとアキモトは戦友の名前を呼びながら元上官を撃ちました。上官の命令に従って捕虜を殺し、正気を失って自殺してしまった友の分、と。続けて撃った2発目は別の戦友の分。その男は上官命令で捕虜を殺したあと、おかしくなってしまい敵の女子供に至るまで虐殺してしまった、と。そして3発目はアキモトの親友の名でした。彼は捕虜を殺すことができず、あろうことか上官はアキモトに彼を殺させたのです。そんな極限の地獄のような状況をくぐり抜けて故郷に帰ってきたとしても彼らには二度と平穏は訪れません。しかしやらせた上官はのうのうと平和に暮らしている…そんな理不尽がアキモトの犯行の理由でした。彼は4発目に自分の頭を撃とうとしますがそれを止め、銃身で元上官を殴りつけました。
「次はすぐ殺す」と言い、アキモトは銃を少年に返します。少年は元上官の男性に銃口を向けますが、アキモトはもうそいつに使う必要はない、と言ってやめさせます。
アキモトは少年に報酬を渡そうとしますが、少年は受け取りを拒否。すると「汽車賃だと思って」と言い、少年は1枚だけお金を受け取ります。そしてアキモトは、元上官の家に知らせに行き、すぐ立ち去るよう少年に指示します。
その場に佇んで天に向かって片手を突き上げるアキモト。少年は立ち止まってその姿を見つめつつ、言われたとおり元上官の家に向かって走り出すのでした。
ほかげの結末
少年は店に戻ってきました。
「坊や?」と奥から女の声がします。追い出されたときとは違う、やさしい声でした。
「私、病気になっちゃったの」と顔を出さないまま女は言い、うつる病気だからいっしょにはいられないと告げます。「でも私は大丈夫。助けてくれる人がいるから」と少年を安心させると、彼にはちゃんとまじめに働いて生きていってほしいと伝えます。そしてこの前嫌いになったと言ったのは嘘で、嫌いになんかなるわけない、と言うのでした。その上で、銃は置いていくこと、あんなものに頼っていてはダメだと諭します。
少年は女の言葉に従って缶の中に銃を入れて店を出ていきます。
たくさんの人でにぎわう闇市にやってきた少年は、うどんを出す店の脇で勝手に皿洗いの仕事を始めますが、怒った店主に投げ飛ばされてしまいます。何度投げ飛ばされても立ち上がり黙々と皿を洗い出す少年。次第に根負けした店主はもう何も言いません。
しばらく経つとだまって一杯のうどんを目の前に置いてくれました。少年がおそるおそるそれに手をつけると、今度はくしゃくしゃのお金を投げてくれたのです。
仕事を終えた少年は闇市の一角、ガード下のトンネルのような場所にやってきました。そこには精神を病んでしまったような復員兵たちが所せましと座り込んでおり、少年はその中にあの女の店で殴った若い復員兵がいるのを見つけます。彼はうつろな目をしており、少年に気づく様子もありません。少年はそこにそっと算数の教科書を置いていきました。
外に戻った少年は、食べ物の屋台で「これ食べたら病気治る?」と聞きますが、持ち金が足りず買うことができませんでした。
別の洋服を売っている店で女物の洋服を買おうと店員に質問していると、どこからか一発の銃声が聞こえてきました。一瞬静まり返り少年はハッと顔を上げますが、すぐに闇市の喧騒が戻ってきました。そしてそこにもう少年の姿はありませんでした。
以上、映画「ほかげ」のあらすじと結末でした。
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