犬王の紹介:2021年日本映画。「平家物語」を伝える謎に包まれた実在の人物“犬王”と相棒の琵琶法師。このふたりの物語を大胆な能楽ミュージカルに仕上げたのは日本アニメ界の鬼才・湯浅政明監督だ。ドラマ「アンナチュラル」や映画『罪の声』などで評価の高い野木亜紀子の脚本によって、古川日出男の原作「平家物語 犬王の巻」にさらに現代的なテーマが込められている。主役のふたりは映画『モテキ』以来の共演となるアヴちゃん(バンド・女王蜂のボーカル)と森山未來。
監督:湯浅政明 脚本:野木亜紀子 原作:古川日出男「平家物語 犬王の巻」 声優:アヴちゃん(女王蜂)(犬王)、森山未來(友魚)、柄本佑(足利義満)、津田健次郎(犬王の父)、松重豊(友魚の父)ほか
映画「犬王」ネタバレあらすじ結末と感想
映画「犬王」のあらすじをネタバレ解説。予告動画、キャスト紹介、感想、レビューを掲載。ストーリーのラストまで簡単に解説します。
映画「犬王」解説
この解説記事には映画「犬王」のネタバレが含まれます。あらすじを結末まで解説していますので映画鑑賞前の方は閲覧をご遠慮ください。
犬王のネタバレあらすじ:起
平家が滅んで60年。壇ノ浦の漁師の息子・友魚は、沈んだ宝を探しに来た男たちに頼まれて父とともに海に潜ります。ふたりが海底から引き上げたのは三種の神器のひとつ「草薙の剣」でした。父親がそれを鞘から引き抜くと、強烈な光とともにその腹は引き裂かれ、友魚は目が見えなくなってしまいます。突然襲った不幸に友魚の母は半狂乱になり、やがて友魚は亡霊となった父の声を聞くようになります。
友魚は男たちを追い、都を目指して旅に出ました。途中、年老いた琵琶法師・谷一と出会った友魚は、目が見えない自分でもこういう生き方があるのだと知り彼の弟子になります。琵琶法師は平家の隠れ谷をたずね、秘かに伝わる話を聞き出しては語り継いでいます。父の無念を晴らす使命を背負った友魚は、呪いで自分たちをひどい目にあわせた平家について調べ始めます。
京の都には、比叡座という能の名門一座がありました。そこに生まれたのちの「犬王」は異形のため仮面をつけられ、犬同然の扱いを受けていました。棟梁である父が兄たちに厳しく芸を教えているのを外から見ていた犬王は、やがて誰よりも上手に踊れるようになります。すると犬のようだった脚が一瞬にして伸び、彼は美しい脚を手に入れました。
犬王のネタバレあらすじ:承
数年して友魚はようやく京都へたどり着きました。谷一と同じ琵琶法師の団体に所属することが許され「友一」という名をもらいますが、それに反対する父の声が聞こえます。
橋の上でひとり悩む友魚はそこで犬王と出会いました。目の見えない友魚は犬王の異形に気づかず、気をよくした犬王は琵琶を弾いてくれと頼みます。その音色に合わせて犬王は踊りだし、ふたりは特別な高揚感を得ます。まだ名前のない犬王は比叡座の者だと言い、友魚は琵琶法師・覚一座の友一と名乗ります。
その覚一が亡くなり、一座は定一が仕切ることになりました。一方の比叡座は、最近将軍・足利義満がライバルである観阿弥とその息子・藤若ばかり贔屓にするので勢いがありません。棟梁は息子たちが思うように上達せず焦っていますが、いくら犬王が上手に踊っても異形の長い腕がある限りは舞台に立たせない、と彼を邪険にするのでした。
数年後、すっかり仲良くなっていた友一と犬王は如意ヶ嶽(大文字山)から京都の町を見下ろし話しています。犬王はそこで初めて、芸事でなにかを達成すると異形である身体の部分が変化するのだと打ち明けます。これが呪いなのか疑問に思っている犬王のため、友一が久し振りに父の亡霊を呼び出すと毒気が抜けたように小さくなっていました。
“成仏”によって亡霊が消えることを知ったふたり。犬王は京都中に平家の亡霊があふれ、それが自身の呪いに影響していることを悟り、友一と協力して知られざる平家の逸話を人々に知らしめようと決意します。
比叡座の演目にぶつけるように、ふたりは河原での公演を始めます。まずは三条大橋の上で友一が前座をつとめて客を集め、その後河原で犬王が演目を開始。そこで初めて彼は自らを「犬王」と名乗ります。そこで披露されたのは、壇ノ浦の戦いで多くの雑兵が舟の乗せてもらえずしがみついた腕を切り落とされたという壮絶な演目『腕塚』。
観客を巻き込む犬王のパフォーマンス、土の中から出現する“腕”の数々、そしてなんといってもラストに犬王の異形の腕がどんどん伸び、やがて普通の腕に変化する様子を多くの人が目の当たりにしたのでした。
評判をとった彼らは次に清水寺の舞台で演じることになりました。ここでの演目は『鯨』。壇ノ浦の戦いで平家の棟梁・宗盛がイルカ(鯨ともいう)の大群がどちらに泳ぐかによって勝敗を占わせたというエピソードです。清水の高い舞台の梁を使った大掛かりな演出に集まった観客は大興奮。最後には竜も登場し、その様子に将軍の妻・業子までもが夢中になるのでした。
『鯨』を演じることによって背中を覆っていた醜いウロコのようなものが消し飛び、犬王は一段と美しくなりました。しかし顔を隠す面をはずすことはなく、美しいのか化け物なのか様々な憶測を呼んでいました。
一方、友一も人気と実力を兼ね備えた琵琶法師として注目され、名を「友有」と改め新たに友有座を立ち上げました。多くの弟子を抱え、彼らの考えた平家の物語はあっという間に広まっていったのです。
犬王のネタバレあらすじ:転
南北朝統一を悲願とする将軍・義満は、犬王と友有の活躍を快く思っていませんでした。平家の物語は覚一の座のものを正本と定め、それ以外を一切禁じると決めてしまいます。
犬王を良く思わない者がもうひとりいました。犬王の父親です。比叡座に天覧能の話が来て彼は喜びますが、舞うのは犬王だと言われ猛烈な嫉妬心に苛まれます。しかし直(ひた)面という素顔で踊らなければならず、もし犬王の顔が化け物だったなら処刑されるかもしれないと知ると彼の心は踊りました。直面で天覧能を行うことを父から聞いた犬王は謹んでそれを引き受けるのでした。
池の上に立つ将軍の別邸・北山殿で天覧能はおこなわれます。様々な思惑が絡む中、女面をつけ羽衣を纏った犬王が妖しく天女の舞を始めると、まるで演出であるかのように日食が起こりあたりは幽玄な雰囲気に包まれます。犬王の舞は素晴らしく、業子や藤若、そこにいる多くの人を魅了しています。
しかし犬王は違和感をおぼえていました。おそらくこれで平家の亡霊はすべて成仏し、自分にかけられた最後の呪いが解けるはずなのですがなにかが邪魔をしています。
それは父親でした。父は物陰に潜み、演目に登場する竜が出られなくなるよう妨害していたのです。その父の背後には禍々しい怨霊が憑いていました。それこそが犬王の呪いの元凶なのです。父はかつて芸事を極めるために何十人もの琵琶法師を殺しては彼らの伝える平家の物語を奪い、その生命を怨霊に捧げてきたのです。
そして当時妻のおなかの中にいた犬王の「美」まで与えてしまったのでした。彼は怨霊に、世間に評価されたのは自分ではなく犬王だと食い下がり、犬王を亡き者にするよう頼みます。しかし怨霊は約束を破るのかと怒り、逆に父親の方を殺してしまいました。それによって呪いは解け、犬王は無事に面をはずすことができました。
犬王の結末
その後、正式にお触れが出され友有座は解散、抵抗する弟子たちは耳を切られてしまいました。友有は覚一座の定一に助けを求めますが、友一に戻ることを拒む彼をどうすることもできません。捕らえに来た役人に抗って斬られそうになった友有をかばったのは谷一でした。それでも考えを変えず、とうとう友有は捕まってしまいます。
一方犬王は義満に気に入られ、これからは彼のために舞うよう命じられます。そして今まで友有と演じてきた演目はすべて捨てるように、とも。それができなければ友有は処刑されると言われ、犬王は悔しさに顔を歪ませながらもうなずくのでした。
しかしその後結局友有は、あの河原で処刑されてしまいます。琵琶ごと腕を斬り落とされ、最後には斬首されてしまいました。
*
600年後の現代。犬王はずっと友有の魂をさがし続けていました。友魚、友一、友有と何度も名を変えた彼をさがすのは大変だったと犬王は言います。ようやく友有を見つけた犬王は、ふたりが初めて出会ったときのように、彼の弾く琵琶に合わせて踊り出すのでした。
以上、映画「犬王」のあらすじと結末でした。
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