蜜蜂と遠雷(みつばちとえんらい)の紹介:2019年日本映画。原作は、2017年に直木賞と本屋大賞W受賞という快挙を成し遂げた恩田陸の同名小説。映像化不可能といわれた508ページの大作を、『愚行録』で知られる石川慶監督が2時間の脚本にまとめ、まるで聴衆として国際ピアノコンクールを聞きにきているかのような緊張感のある映画に仕立て上げた。主演は、『勝手にふるえてろ』や『万引き家族』などでその演技力を高く評価されている松岡茉優。かつて天才少女と呼ばれたピアニストの復活を、セリフの少ない表情のみで表現するその演技は一見の価値あり。
監督:石川慶 出演:松岡茉優(栄伝亜夜)、松坂桃李(高島明石)、森崎ウィン(マサル・カルロス・レヴィ・アナトール)、鈴鹿央士(風間塵)、臼田あさ美(高島満智子)、ブルゾンちえみ(仁科雅美)、福島リラ(ジェニファ・チャン)、眞島秀和(ピアノ修理職人の男)、片桐はいり(コンクール会場のクローク係)、光石研(菱沼忠明)、平田満(田久保寛)、アンジェイ・ヒラ(ナサニエル・シルヴァーバーグ)、斉藤由貴(嵯峨三枝子)、鹿賀丈史(小野寺昌幸)、ほか
映画「蜜蜂と遠雷」ネタバレあらすじ結末と感想
映画「蜜蜂と遠雷」のあらすじをネタバレ解説。予告動画、キャスト紹介、感想、レビューを掲載。ストーリーのラストまで簡単に解説します。
蜜蜂と遠雷の予告編 動画
映画「蜜蜂と遠雷」解説
この解説記事には映画「蜜蜂と遠雷」のネタバレが含まれます。あらすじを結末まで解説していますので映画鑑賞前の方は閲覧をご遠慮ください。
蜜蜂と遠雷のネタバレあらすじ:起
海辺の町、芳ヶ江で行なわれる国際ピアノコンクール。
かつて天才少女として騒がれた栄伝亜夜(松岡茉優)は、母の死のショックからピアノが弾けなくなり、表舞台から遠ざかっていました。今回のコンクールは亜夜にとって再起を賭けたラストチャンス。そんな亜夜の演奏を聞いた審査委員長の嵯峨(斉藤由貴)は、1次予選は通るものの、その後は難しいだろうと思っていました。
コンクールの本命は、ジュリアード音楽院に通うマサル・カルロス・レヴィ・アナトール(森崎ウィン)。マサルの師匠は、嵯峨のかつての夫で今回の審査員でもあるシルヴァーバーグ教授です。教授仕込みの完璧な演奏と甘いルックスで、一番の注目株です。
楽器店に務めるサラリーマン高島明石(松坂桃李)は、年齢制限ギリギリで今回のコンクールに挑んでいます。明石の同級生である仁科雅美(ブルゾンちえみ)が、ドキュメンタリー番組の撮影クルーとして密着取材をしています。
1次予選終了後の審査会場では、16歳の風間塵(鈴鹿央士)に対する評価が真二つに割れていました。そこへ嵯峨が、ある人物からの推薦状を出してきました。先ごろ亡くなった“ピアノの神様”、ユウジ・フォン=ホフマンからです。ホフマンは塵を天からの『ギフト』と評し、「彼を本物の『ギフト』にするか、それとも『災厄』にしてしまうかは、審査委員の皆さんにかかっている」と挑発します。
会場では亜夜とマサルが顔を合わせていました。ふたりは幼なじみで、久しぶりの再会を喜び合います。ピアノ教師だった亜夜の母親にマサルもピアノを習っており、いっしょに連弾した幼いころをふたりは懐かしむのでした。
蜜蜂と遠雷のネタバレあらすじ:承
明石は無事に1次予選を通過しました。明石は、有名人である亜夜を見かけると彼女に話しかけます。これが自分にとってラストチャンスだと明石が話すと、亜夜も同じだと言います。
第2次予選の課題曲『春と修羅』は、後半のカデンツァを演奏者自身が作曲して弾くというむずかしいものです。
マサルは亜夜に、自分の曲は完璧に楽譜に書き起こした自信作だと言います。まだ何もできていない亜夜は焦りますが、昔の亜夜の即興演奏は凄かったとマサルに言われハッとするのでした。
2次予選当日。マサルはむずかしいテクニックを駆使した演奏で聴衆を魅了します。しかし完璧主義者の師匠はいい顔をせず、リスクは避けろとマサルを叱責します。
明石の2次予選の会場には、妻の満智子(臼田あさ美)が息子を連れて来ていました。満智子は宮沢賢治の詩集『春と修羅』をよみながら、夫とともに作曲のヒントを探り、協力してきました。そんな明石のカデンツァは、宮沢賢治に詩のように優しくあたたかく、その演奏には亜夜や塵も心を動かされました。
蜜蜂と遠雷のネタバレあらすじ:転
亜夜は明石の演奏が終わった途端、客席から立ち上がりピアノを探しに行きます。しかし練習室には空きがありません。たまたま通りかかった明石が、見かねて知り合いのピアノ工房を紹介し、そこで亜夜は高まる気持ちを鍵盤にぶつけようとします。すると、同じようにピアノを求めて亜夜を尾けてきた塵が現われ、亜夜よりも先にピアノの前に座ってしまいます。邪魔をされ困惑気味の亜夜でしたが、無邪気な笑顔で塵が「月の光」を弾き始めると誘われるように亜夜もとなりに座り、ふたりは自由な連弾を楽しむのでした。
塵は、養蜂研究家の父親とヨーロッパを転々とする中でホフマンと出会い、ピアノを教わったといいます。なんとピアノを持っていない塵は、ホフマンからもらった音の出ない木の鍵盤でずっと練習していたのです。そして、コンクールで優勝したらピアノを買ってもらえるのだといいます。
2次予選での塵のカデンツァは荒々しくて迫力があり、マサルのインタビューをしていた記者がモニターに見入ってしまうほど魅力的なものでした。その楽譜には、簡単な記号のようなものだけが書かれていました。
塵に続いて登場した亜夜も今までのトラウマを払拭するような力強い演奏を披露し、美しく流れるようなメロディはすべて即興で奏でられました。その証拠に、亜夜の楽譜は白紙でした。
2次予選の結果、本選に残ったのは亜夜、マサル、塵を含む6名で、明石は落選してしまいまいた。明石と仁科は、親交を深めた亜夜、マサル、塵と砂浜を散歩しています。楽しそうに先を行くファイナリスト3人を眺めながら、明石は「あっち側にはなれなかったなあ」と悔しそうに言います。
その3人は、海の彼方で光る遠雷をみながら、響いてくるその音を感じていました。
蜜蜂と遠雷の結末
本選。曲の条件は、オーケストラと合わせるピアノ協奏曲であること。
指揮者の小野寺(鹿賀丈史)はクセのある人物で、オーケストラに対し、ピアニストに合わせてレベルを下げないようにと命じるのでした。
にこやかに始まったマサルのリハーサルですが、フルートの入るタイミングが合いません。マサルは、自分のタイミングに合わせるよう要請しますが、小野寺は聞き入れてくれません。
続いてリハーサルをした塵は、オケの位置を修正するだけで終わってしまい、予定より早く亜夜の番がまわってきました。
亜夜の曲は、プロコフィエフのピアノ協奏曲第3番。かつてステージで弾くことのできなかったその曲を、「宿題」として亜夜は選びました。
しかし小野寺は厳しく、亜夜はリハーサル中にうまく弾くことができませんでした。
嵯峨は、そんな亜夜に忠告します。覚悟もないままピアニストになるのは悲劇だと。かつての自分を見ているようだと嵯峨は亜夜に対して感じていたのです。
本選の日。練習室でマサルはまだ悩んでいました。そんなマサルに亜夜は、いっしょに練習しようと言い、幼いころのようにふたりで弾くと、ウソのようにうまく弾くことができたのです。
そうして迎えた本番でもマサルの演奏は大成功で、会場は割れんばかりの歓声に包まれました。
本選の会場には、明石も来ていました。廊下で亜夜に会った明石は、亜夜やマサルや塵、天才たちと共に過ごせたこと、そしてピアノが好きだと改めて思えたことに感謝する、と亜夜に伝えます。しかし亜夜は、純粋にピアノが好きだと言えない自分に言葉を詰まらせてしまいます。
続いての演奏者は風間塵。リハーサルで弾いていない塵はまさにぶっつけ本番。しかしその姿はのびのびと自由で楽しそうです。
そんな中、次の奏者である亜夜は会場をあとにしようとしています。
どしゃ降りの雨の中、雨音を聞くうちに幼いころ母とピアノの前で過ごした記憶が蘇ってきます。母は、世界にはさまざまな音があふれていると言います。楽しい連弾の思い出。
「世界が鳴ってる」と言う亜夜に母は言いました。
「あなたが世界を鳴らすのよ」
黒のロングドレスに身を包んだ亜夜が、ゆっくりとステージへ進んでいきます。
マサルはうなずき、塵は笑顔で見送ります。
そして亜夜は、渾身の演奏で自らを乗り越え、天才ピアニストとして復活を果たすのでした。
以上、映画「蜜蜂と遠雷」のあらすじと結末でした。
小説も読んだけれどやはりいい作品だった。映画ではその音楽が幻想的に描かれていて感慨深い。塵がおもちゃでピアノの練習している姿、亜夜とマサルの感動の再開。赤石の家庭環境から生まれた春と修羅。どれも情熱的に描かれていてこの作品を生み出した恩田陸。そしてこの作品を演じた松坂桃李や松岡茉優たち。全てにおいて感動を覚える作品であると感じた。