PERFECT DAYSの紹介:2023年日本映画。2023年のカンヌ国際映画祭で主演の役所広司が男優賞を受賞した日独合作映画『PERFECT DAYS』。監督は『パリ、テキサス』(1984年)『ベルリン・天使の詩』(1987年)などで知られる名匠ヴィム・ヴェンダースだ。渋谷区内の公衆トイレ刷新プロジェクトのPRとして製作を依頼された監督が、役所扮する清掃員の男性・平山の日常を淡々と、そして慈しむように丁寧に描いている。劇中で使用される音楽は平山がカセットテープで聞く曲として流れ、映画の印象を際立たせている。
監督: ヴィム・ヴェンダース 出演:役所広司(平山)、アオイヤマダ(アヤ)、中野有紗(ニコ)、石川さゆり(ママ)、田中泯(ホームレス)、麻生祐未(ケイコ)、柄本時生(タカシ)、三浦友和(友山)ほか
映画「PERFECT DAYS」ネタバレあらすじ結末と感想
映画「PERFECT DAYS」のあらすじをネタバレ解説。予告動画、キャスト紹介、感想、レビューを掲載。ストーリーのラストまで簡単に解説します。
映画「PERFECT DAYS」解説
この解説記事には映画「PERFECT DAYS」のネタバレが含まれます。あらすじを結末まで解説していますので映画鑑賞前の方は閲覧をご遠慮ください。
PERFECT DAYSのネタバレあらすじ:起
その男・平山は今朝も日の出前、近所の老婦人が道を掃く竹ぼうきの音で目覚めます。布団をたたみ、階下の台所で歯磨き後ヒゲを整えて顔を洗ったあと、2階の一室で育てている苗木に霧吹きで水をかけ、青いツナギに身を包み、玄関横に並べられた鍵や携帯電話、腕時計、小銭などを順番に手に取ってドアを開けます。まだ明けきらない空を見上げ、自動販売機で缶コーヒーを買うと青い軽自動車へと乗り込みます。カセットテープを一本手に取ってセットすると、スカイツリーの見える押上のアパートを出発します。
首都高を使い渋谷区の公園に着くと、道具を持ってトイレ掃除へと向かいます。渋谷区に数か所あるスタイリッシュな公共トイレ〝The Tokyo Toilet〟の清掃を仕事としている平山。ゴミを拾い、ペーパーを補充、手鏡を使って便器の裏まで丁寧に拭きます。利用者が入ってくると外で静かに待機。モップで床掃除をしていたとき、同僚の若いタカシが遅れてやってきました。口数が多くお調子者のタカシはスマホ片手にいい加減な仕事ぶりです。
次のトイレでは迷子の男の子を保護し母親を探しますが、ベビーカーを押しながら現れたその母親は平山とは目を合わさず、彼とつないでいた男の子の手を消毒し、小言を言いながら立ち去っていきます。でも男の子は振り返って平山に手を振っていました。
代々木八幡公衆トイレの掃除を終えた平山は、脇の石段を上って神社の境内でサンドイッチを頬張ります。風に揺れる木漏れ日を見上げるとカメラを取り出して撮影し、その木の下に生えていた苗木を土とともにすくって準備してきた入れ物に入れ、車の後部の棚にそっと置きました。
ガラス張りのトイレのある公園では、木に抱きついていたホームレスの老人が、次の瞬間には舞踏のように手を空に向かって伸ばしていました。
帰宅した平山は、持ち帰った苗木を湯呑みに移し替えコレクションに加えます。それから自転車で銭湯に向かい一番風呂を堪能。その後降り出した雨の中浅草駅にやってくると、地下街のなじみの居酒屋できゅうりをつまみにチューハイを飲みます。再び帰宅すると読書灯のあかりで本を読み、眠くなったところで眼鏡をはずして就寝。昼間見た木漏れ日のようなモノクロの夢を見ました。
PERFECT DAYSのネタバレあらすじ:承
翌朝。いつものように目覚めた平山はルーティンをこなし仕事に出かけます。
ガラス張りトイレではタカシが入れ込んでいるガールズバーの女の子・アヤがやってきて、タカシは早く仕事を終わらせてデートしようとソワソワしています。しかしいざ仕事が終わるとタカシのバイクのエンジンがかかりません。今日のデートに賭けているタカシは平山に車を貸してほしいと頼みますが、大事な仕事道具を貸すわけにいかず、タカシが運転しアヤが助手席、平山が後部座席に座って車は走り出します。アヤは平山のカセットテープに興味を示し、聞いてみたいと言います。手に取ったパティ・スミスの歌を聴き気に入ったようなアヤ。デートはお預けにして車を降り、タカシにはまた店に来てねと声を掛けて去っていきます。その際タカシはアヤのバッグにさっきのカセットテープを黙って忍ばせていました。
タカシは平山の持っているカセットテープが、売ったらいくらになるか気にならないか?と持ちかけて平山を下北沢のショップに連れていきます。そこで一本1万円前後になることがわかり、タカシはそれを売ってお金にしようと言い出します。しかし平山は断固としてそれを拒み、金がないと恋もできない!と騒ぐタカシに財布から3万円を取り出して渡します。タカシは喜んで走り出していき、平山はひとり車で帰途につきますがガス欠で止まってしまいます。財布にはもう現金がなく、ふとポケットに入っていた1本のカセットテープに気づいた平山は仕方なく歩いてそれを売りに行くのでした。
ようやく帰宅した平山はもう銭湯や居酒屋に行く気にもなれず、非常用のカップラーメンを作って食べました。
翌日。いつものように丁寧にトイレ掃除をする平山は、隠すようにはさんであったメモを取り出します。3×3のマス目に○×を交互に書いて陣取りをするゲームの初手、○がひとつだけ書いてありました。一度はそれをゴミ袋に入れた平山ですが、その後×を記入して元の場所に戻しておきました。
次の日、仕事で一緒になったタカシは、アヤとはもうダメかもしれないと話します。そして、ひとりで寂しくないかとたずねますが平山は答えません。するとそこへダウン症の少年・でらちゃんがやってきて、背後からタカシの耳たぶをさわります。それはもう習慣になっているようで、タカシは快くさわらせています。
その後、平山が陣取りゲームのメモを見つけて取り出してみると、それはやはり進んでいました。再び×を書き入れてはさみこみ、車に戻ろうとすると突然アヤが現れます。バッグに入っていたカセットテープを返しに来たアヤは「もう一度聞いていい?」と言い、平山はアヤを車に乗せてテープをかけてあげます。アヤはその歌を口ずさみながら泣き、平山の頬にチュッとキスをして車から出ていきます。平山はしばらく呆然としていました。
その後仕事を終えた彼は、いつもの居酒屋でいつものように黙っていてもチューハイときゅうりを出され、ほほ笑むのでした。
PERFECT DAYSのネタバレあらすじ:転
休日の平山は自転車でコインランドリーへ行き、洗濯している間に行きつけの写真屋でフィルムを現像に出します。先週出した分を受け取り、家で四角い銀色の缶をふたつ並べて片方にネガを、もう片方に写真を入れていきます。その際気に入らない写真は惜しげもなく破って捨てていき、缶は押し入れにきちんと月ごとに整理して収納します。
再び自転車に乗って古本屋に向かい、一冊100円の文庫本コーナーを物色して幸田文の『木』を購入。女性店主は、幸田文はもっと評価されるべきだと力説します。
その後はいきつけのスナックへ行き、カウンターでチューハイを飲みながらママの出してくれたお通しを食べていると、自分のより多いと他の常連客が絡んできます。ママが軽くそれをかわしますが、他の客よりも平山を気に入っている様子。そんなママは客たちに促され、平山も好きな『朝日のあたる家』を歌います。
その夜、平山の夢にはママの横顔が出てきました。
翌日、さらに進んでいた陣取りゲームに×を書き入れた平山はいつものように神社の境内でサンドイッチを食べます。
夕刻、いつもの居酒屋は混んでいて、平山はいつもと違う席に座ります。
その夜は帰宅した平山を珍しい人が待っていました。数年振りに会う姪のニコです。彼女は伯父である平山を頼って鎌倉の家を飛び出してきたようです。その夜は2階の寝室をニコに使わせ、平山は1階の納戸のようなスペースで横になりました。
朝になり、ニコを起こさないように苗木に水をやり着替えて出かけようとするとニコに気づかれてしまいます。「一緒に行っていい?」というニコを仕方なく車に乗せ、缶コーヒーを2本買って車を走らせます。トイレ掃除をする平山を少し離れて見ているニコ。そんなふたりの昼食はいつもどおり神社でのサンドイッチ。平山と同じようにニコもスマホで木漏れ日を撮っています。平山もカメラを取り出して撮影すると、なんとニコも同じカメラを持っていました。「伯父さんが私にくれたんだよ」というニコの言葉に平山は適当に合わせますが、覚えていないことはバレバレでした。
その夜もニコは2階で眠り、階下の平山はなかなか寝つけません。
ニコは平山の本棚にあった『11の物語』という本を読んでおり、登場人物のヴィクターは自分だと言います。ニコは翌日も平山と共に出かけ、少し手伝います。仕事が終わるとふたりで銭湯へ行き、常連客の老人たちを驚かせます。その後、橋の上で川を見ながら平山は、ニコの母親と自分は住む世界がちがうのだと説明します。ニコは、自分の世界はどこなのかと疑問を口にします。そして海に行こうと言いますが、平山は「今度な」とはぐらかします。
すっかり暗くなってふたりが自転車でアパートに戻ってくると、駐車場に運転手付きの高級車が停まっています。降りてきたのは平山から連絡を受けたニコの母・ケイコでした。ケイコは嫌がるニコに荷物を取ってくるよう指示し、平山はニコに読みかけの本を持っていっていいと貸してあげます。別れ際、ニコは平山に抱きついてから車に乗りました。しばしの沈黙の後、平山は妹であるケイコを抱きしめ涙を浮かべます。そしてうなずきながらふたりの乗った車を見送ります。
2階の寝室で眠ろうとする平山は枕を抱え、その夜は自転車に乗ったニコの夢をみました。
PERFECT DAYSの結末
ガラス張りトイレのある公園。今日はホームレスの姿が見えません。そんなとき、タカシから「仕事辞めます。金はあとで返します」と電話がかかってきました。珍しく「おい、シフトどーすんだよ!」と声を荒げる平山。すると今度は会社から電話があり、タカシの代わりがすぐには見つからない、と彼の分の仕事を任されてしまいます。慣れない場所での長時間労働に四苦八苦し、夜にはやっとつながった会社の担当に早く誰か寄越すよう平山は文句を言います。
翌日。最初の公園に着くと赤い車からタカシの代わりの担当者が降りてきて平山に「佐藤です」と声をかけてきました。
昼、神社下のトイレでは完成した陣取りのメモが置いてあり、〝Thank you!〟とスマイルマークが描かれていました。
その後平山は交差点の真ん中で、あのホームレスが手を伸ばして踊っているのを見かけますが、すぐにその姿を見失ってしまいました。
休日。いつものルーティンをこなし、古本屋でニコに渡してしまった『11の物語』を買う平山。そのままスナックに行きますがまだ開いていません。仕方なく向かいのコインランドリーのイスに座って買ってきた本を読んでいると、ママと見知らぬ男性が店内に入っていくのが見えたので平山も立ち上がります。少し開いたドアの隙間から、ママがその男性にすがるように泣いているのが目に入り平山は慌ててその場を離れます。
コンビニで缶チューハイ3本とピース1箱、ライターを買った平山は隅田川沿いで缶を開け、タバコに火をつけて咳込んでしまいます。しばらくすると先ほどの男性が近づいてきて「タバコを1本いただけますか」と声をかけてきました。平山に火をつけてもらいタバコを喫い始めたその男・友山も平山と同じようにむせてしまいます。彼はママの元夫だと言い、離婚後再婚して子どももいるそうです。癌が転移していることがわかり、最後に元妻に会いに来たのだという彼に缶チューハイをすすめ、ふたりで1本ずつ飲み始めます。友山が唐突に、影は重なると濃くなるのか?と言い出し、少しして平山が街灯でできた影でそれを確認しようと友山を呼びます。努めて明るく、そして必死に重なると影は濃くなると主張する平山。急に「影踏みしましょう」と言い出すと、ふたりは鈍い動きで動き回り、友山はすぐに疲れてしまいます。平山が彼を気遣ってそれをやめると友山は元妻のことをよろしくお願いします、と平山に頼んできました。そんなんじゃない、と平山は言いますが友山の目は真剣でした。
その夜、平山は隅田川の川面のようなきらめく水面の夢を見ました。
翌朝。いつものように支度をしてドアを開け空を見上げ、缶コーヒーを買って車に乗り込みます。カセットでニーナ・シモン『Feeling Good』を聴きながら車を走らせる平山。何かを慈しむような穏やかな笑みを浮かべていた彼の目に涙のようなものが浮かび悲しげな表情に変わります。そんな平山の顔に上ってきた陽の光が当たり、明るく染め上げるのでした。
以上、映画「PERFECT DAYS」のあらすじと結末でした。
今朝、英国ラジオの平日10時から1時までの放送を担当している人気ジャーナリストのジェームス・オブライエンがこの映画がここ数年で見た一番素晴らしい映画と太鼓判をおしていた。