線は、僕を描くの紹介:2022年日本映画。水墨画家でもある砥上裕將のデビュー小説『線は、僕を描く』。水墨画との出会いを通して再生し成長していく男子大学生の姿を繊細に描いた物語である。監督は『ちはやふる』シリーズなど青春物を得意とする小泉徳宏だ。主役の霜介を演じるのは主演映画目白押しの横浜流星。撮影前一年かけて墨と筆に慣れていったといい、真剣な眼差しと時折見せる子どものような表情が印象的。同年代の天才的な絵師を清原果耶が演じ、凛とした美しさが光る。
監督:小泉徳宏 原作:砥上裕將 出演:横浜流星(青山霜介)、清原果耶(篠田千瑛)、三浦友和(篠田湖山)、江口洋介(西濱湖峰)、細田佳央太(古前巧)、河合優実(川岸美嘉)、矢島健一(国枝 豊)、夙川アトム(滝柳康博)、井上想良(笹久保隆)、富田靖子(藤堂翠山)ほか
映画「線は、僕を描く」ネタバレあらすじ結末と感想
映画「線は、僕を描く」のあらすじをネタバレ解説。予告動画、キャスト紹介、感想、レビューを掲載。ストーリーのラストまで簡単に解説します。
映画「線は、僕を描く」解説
この解説記事には映画「線は、僕を描く」のネタバレが含まれます。あらすじを結末まで解説していますので映画鑑賞前の方は閲覧をご遠慮ください。
線は、僕を描くのネタバレあらすじ:起
法学部の大学生、青山霜介は美術イベント設営のアルバイトで神社の境内にいました。椿を描いた水墨画に惹きつけられた霜介は、その絵を見つめ涙が浮かんできます。現場を仕切っていた西濱という男に弁当を食べていくよう声をかけられた霜介は、初老の紳士とともに弁当を食べます。しかしその紳士はすぐに、西濱と部屋を出ていってしまいます。
そのあと霜介がイベントの開始を待っていると、舞台に現れたのは先ほどの紳士でした。彼こそが水墨画の巨匠、篠田湖山だったのです。あっという間に大きな水墨画を描き上げた湖山は舞台下にいた霜介に近づき「私の弟子になってみない?」と声をかけました。
後日西濱の運転で湖山の家にやってきた霜介は、すぐ帰るつもりでしたが断りきれず水墨画を教わることに。手本を渡され不安がる霜介に「できるかできないかじゃない。やるかやらないか、だよ」と湖山は言います。筆の持ち方がきれいだとほめられ、練習に没頭する霜介。筆を洗う水場を探していた霜介は、一輪のバラを描いている若い女性を見かけます。霜介に気づいた彼女は、彼が湖山の新しい弟子だとわかり苛立った態度を取ります。
霜介は大学で、バラの彼女は湖山の孫で天才絵師の篠田千瑛だと聞かされ、あの椿の絵は彼女が描いたものだと知ります。友人の古前巧は美人の千瑛に会いたいといい、川岸美嘉は考えがある、とほくそえみます。
再び湖山の家を訪れた霜介は、何度も墨をすり直させられます。千瑛に湖山先生は人に教えることが苦手だと言われた霜介は、彼女から水墨画はいかに筆の中の墨色をコントロールするかが勝負だと教わります。西濱から食事の時間だと声がかかり食卓を囲む4人。ここでは西濱が食事をつくり、千瑛が片付けるという分担になっているようです。その席で霜介は千瑛に、大学で水墨画の講師をしてもらえないかと頼みます。千瑛は驚きますが、湖山に「いい話じゃないか」と言われ少し考えたあと承諾してくれました。
大学で熱烈な歓迎を受けた千瑛は、古前と川岸が集めた学生たちに水墨画について説明します。手始めに四君子という基本の画題を説明する千瑛。蘭、竹、梅、菊の4つで、最も描きやすい竹を皆で練習します。その後千瑛は講義後の打ち上げに参加。しかし酒の弱い霜介は誤って飲んで酔いつぶれてしまいます。
古前と川岸とともに霜介を送っていった千瑛。霜介の部屋は練習した紙で埋め尽くされていました。古前は千瑛に「霜介をよろしくお願いします」と頼み、なにか彼に不幸な出来事があったことを匂わせます。
その夜、霜介は、実家の庭に咲いた椿の夢を見ています。朝起きると目には涙が浮かんでいました。
線は、僕を描くのネタバレあらすじ:承
大学では川岸が水墨画サークルを立ち上げ、霜介はそこでも練習しています。
湖山の家では西濱が生きのいい魚をさばく前に手を合わせています。霜介は千瑛に指導を受け、家でも熱心に練習します。
西濱によると千瑛は最近スランプ気味。千瑛の指導で描いた霜介の絵を湖山はほめますが、「君の線じゃない」と言い、秋の展覧会にお手本なしで描いた作品を出すようすすめます。そして落款印を贈り、「もっと力を抜いて」とアドバイスするのでした。霜介は小さな菊の鉢を家に持ち帰り、早速練習を始めます。
その展覧会の会場で、霜介の出品した菊の絵の前で足を止めた女性がいました。彼女は散々ダメ出しをしますが「けどなんか、とてもやさしい」と言います。そして霜介が来年の四季賞に挑戦するつもりだと知ると、「だったらもっと命かけて描かないと」とアドバイスしてくれました。実は彼女は四季賞の審査員長をつとめる藤堂翠山だったのです。西濱に呼ばれた霜介は、このあと行われる湖山の揮毫会のために墨をすり始めます。しかし集中していた霜介の耳に、湖山と西濱が見当たらないという報せが入ってきました。
あちこち探しますがふたりはどこにもいません。主催者がわざわざフランスの大臣を呼んでいるイベントなのでスタッフは大あわて。大臣がイライラし始め、千瑛を代役に立てる案が持ち上がりますが、それに待ったをかけたのは翠山でした。中途半端なものは見せられないという翠山に霜介は、千瑛の絵に命を感じたことがあると反論します。
しかしそのとき、突然揮毫会の舞台に西濱があがり場内がざわつきます。西濱は目を閉じてひと呼吸すると、大胆に大筆を走らせ始めます。墨を飛び散らしながら西濱は躍動感あふれる見事な龍の絵を完成させ、拍手喝采を浴びるのでした。
線は、僕を描くのネタバレあらすじ:転
湖山は倒れて病院に運ばれていました。西濱からそのことを聞いて急いでかけつける千瑛と霜介。処置を待つ間、不安を口にする千瑛に霜介は「泣いてもうろたえても結果は変えられない」と話します。過去になにがあったのか千瑛は質問し、大学生になってひとり暮らしを始める日にケンカして家を出たのが家族との最後の別れになってしまった、と話す霜介。「それ以来ずっと立ち止まっています」と彼は言います。
いつの間にかふたりとも眠ってしまい、霜介は妹の夢を見ます。妹が生まれたときに庭に植えた椿の花が、夢の中で咲き誇っています。しかしやがてそれは墨に覆われてしまい…霜介は目を覚まします。千瑛とともに病室へ向かうと、そこにはにこやかに話している湖山と西濱がいました。一週間ほどで退院できると湖山は言い、霜介が展覧会に出品した菊の絵について「花の向こうに何が見える?本質に目を向けなさい」と評します。そして千瑛には「こんなところにいていいのか?」と突き放し、霜介に言ったことは千瑛に向けて言いたいことでもあったとほのめかします。千瑛はそのまま病室を出ていき、霜介を「ついてこないで」と拒絶します。
しばらく千瑛は姿を見せず、霜介は悩んで描けない日々を過ごしています。
湖山が退院する日、霜介は西濱の食材調達につき合っています。牧場でしぼりたての牛乳を分けてもらい、その後も農家で野菜を、養鶏場で卵を、漁港で魚を手に入れます。西濱は、食材の生きている姿を見ることで食べるときもその姿を思い出せるといいます。そして霜介が、初めて会ったころよりいい顔になったと笑うのでした。
その夜は湖山、西濱、霜介の3人で退院祝いのごちそうを食べました。あの日以来姿を見せていないという千瑛について、湖山は「賢い子だ。心配ない」とほほえんでいます。そんな湖山が左手で食べているのを霜介が指摘すると、湖山は明日から手伝ってほしいと霜介に依頼します。
入院で制作が遅れてしまった襖絵を左手で描いている湖山。不自由になってしまった右手の代わりに左手で描きながら、墨をするなど周りのサポートを霜介がおこないます。霜介は湖山に、どうして自分に声をかけたのかたずねます。あのとき、椿の絵を見て涙を浮かべていた霜介の姿を湖山は見ており、真っ白い紙がそこにいたから描いてみたくなったのだと湖山は答えました。
線は、僕を描くの結末
大学でひとりぼーっとしていた霜介に、リクルートスーツ姿の古前が話しかけてきます。霜介の家族が亡くなって3年。そろそろ前に進むべきだ、と古前は霜介を叱咤激励し去っていきました。
霜介が家に戻ると、その外に千瑛が座り込んでいました。展覧会のとき、霜介が翠山に反論したことについて礼を言った千瑛に対し、あの椿の絵に心を動かされたのは本当のことなので…と霜介は答えます。あの絵は楽しんで描いた最後の絵、あのときの気持ちが思い出せないと悩みを吐露する千瑛。霜介は、左手で描くようになった湖山の正式な弟子となって手助けをしようと思っていると言い、その前にちゃんと自分と向き合うため実家に帰らなければならないと話します。すると千瑛は同行を申し出て、ふたりは高速バスで霜介の実家に向かうことに。
その道中、何があったのか霜介は千瑛に説明します。3年前の夏、友だちと夜遊びしていた霜介は妹からの着信を「またか」とうんざりした顔で無視し続けます。明け方スマホで見たのは、自分の実家付近が豪雨による川の増水で流されたというニュースでした。恐る恐るスマホに残されたメッセージを再生すると、「お兄ちゃん、助けて」という妹の声が入っていたと霜介は言います。
バスを降り、実家のあったあたりにやってきたふたり。そこは何にもなく、草だけが生えています。霜介の家の庭にあったと思われる椿の木がかろうじて残っており、枯れた椿の花を拾って千瑛は霜介に渡します。そして「描いてみない?あなたの思い出の花」と言います。「僕にできるのでしょうか?」霜介がそう答えると、夜が明け、陽の光がふたりを照らすのでした。
ふたりは揃って湖山の家に戻ってきました。入口に佇むふたりに湖山は「おかえり」と声をかけます。霜介は「もっと知りたいです、水墨画のこと」と湖山に言い、千瑛もそれに「私も」と続きます。
翌年、千瑛は見事四季賞を授賞しました。審査員長の藤堂翠山は握手したあと、拍手をして千瑛を讃えます。そんな授賞式の様子を西濱が動画に撮って送り、ニコニコしながら霜介はそれを見ています。霜介もまた、四季賞の新人賞を授賞しました。その絵は椿を描いた作品でした。
霜介は授賞式には参加せず、自分の大学にいました。今日は大学の屋外ステージで水墨画サークルのイベントが行われるのです。大きな紙の前に立つ霜介は、晴れやかな顔で描き始めました。
以上、映画「線は、僕を描く」のあらすじと結末でした。
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