ヴィレッジの紹介:2023年日本映画。第43回日本アカデミー賞最優秀作品賞を受賞した『新聞記者』(2019年)。『余命10年』(2022年)でもヒットを記録した藤井道人監督が監督・脚本をつとめた社会派ヒューマンサスペンス映画が本作『ヴィレッジ』だ。主演は2022年公開の『線は、僕を描く』で繊細かつ真摯な演技を披露した横浜流星。2023年夏にも主演映画の公開が控えており、2025年NHK大河ドラマの主演も決まっている。共演は黒木華や古田新太など演技派揃い。特に中村獅童の見事な薪能の舞台は必見。
監督・脚本: 藤井道人 出演:横浜流星(片山優)、黒木華(中井美咲)、一ノ瀬ワタル(大橋透)、奥平大兼(筧龍太)、作間龍斗(中井恵一)、杉本哲太(丸岡勝)、西田尚美(片山君枝)、木野花(大橋ふみ)、中村獅童(大橋光吉)、古田新太(大橋修作)ほか
映画「ヴィレッジ(2023年)」ネタバレあらすじ結末と感想
映画「ヴィレッジ(2023年)」のあらすじをネタバレ解説。予告動画、キャスト紹介、感想、レビューを掲載。ストーリーのラストまで簡単に解説します。
映画「ヴィレッジ(2023年)」解説
この解説記事には映画「ヴィレッジ(2023年)」のネタバレが含まれます。あらすじを結末まで解説していますので映画鑑賞前の方は閲覧をご遠慮ください。
ヴィレッジのネタバレあらすじ:起
うなされて目覚めた片山優は借金まみれの母・君枝とふたり暮らし。今日も山の上のゴミ処理施設へ働きにいきます。そこは村長の息子・透が仕切っており、優は毎日のように殴られ賭けの対象にされています。そこへ高級車で議員とともに乗りつけた村長の大橋は、自身の肝いりでつくったこの施設を補助金でさらに拡大させるつもりです。
仕事が終わりスーパーで弁当を買う優。村の人たちは嫌な顔で〝犯罪者の息子〟と後ろ指を指します。帰宅すれば母に金を無心され、夜中には地元のやくざ・丸岡に呼び出されてゴミ処理施設で不法投棄の産廃ゴミの処理をさせられます。
丸岡は借金苦の者を使って非合法的に施設にゴミを埋めさせていました。現場を指揮する透は作業する者たちの写真を撮り、裏切らないための証拠にしています。初めて参加する新人の龍太は驚いた様子ですが、借金がある以上断ることはできません。仕事が終わると丸岡から現金を受け取り皆帰途につきます。
そんな中、優の幼なじみの美咲が東京から戻ってきました。彼女はゴミ処理施設の広報として働くことになり、美咲の父が営む食堂で歓迎会が開かれます。透は美咲にご執心の様子で子どものころ美咲と仲の良かった優を目の敵にし、無理矢理酒を飲ませます。店の外で吐いていた優を気づかう美咲。東京には何もなかった、と悲しそうに話す美咲に優は、自分には村を出る選択肢などないと吐き捨てます。
パチンコ屋で騒ぎを起こした母を迎えに優が警察署に行くと、村長の弟・光吉がやさしく声を掛けます。村を出て刑事をしている光吉はかつて優や美咲に能を教えてくれていました。光吉がもう通う者のいない教室に優を連れて行くとそこには美咲が待っていました。久しぶりに舞うふたりの姿をぼんやりと見ている優。ふたりは間近に迫った祭りに優を誘います。
かつて優の父も光吉といっしょに能を舞っていました。美咲は自宅で昔のビデオを見てかつての自分と優に思いを馳せます。優は深夜の仕事をしながら父のことを思い出し、疲れて帰宅すると枕に顔を押し付けて泣き叫ぶのでした。
ヴィレッジのネタバレあらすじ:承
祭り当日。能面をつけ松明を持った人々が整然と神社へ歩いていきます。優と美咲が能を見るため席に座ると、周りの人々がコソコソと彼について話していて美咲は悲しくなります。面をつけた光吉が舞台で『羽衣』を演じ始めると、美咲は優に「能は自分の内面と向き合うもの。自分なりの解釈に間違いはない」と優しく語りかけます。次第に魅せられていく優は涙を流し、子どものころ薪能を見たあとで自宅の燃える様子を見つめていたことを思い出します。
その日の夜中。突然丸岡が優の家に押しかけてきて母の借金が300万円ある、と借用書を突きつけてきました。
翌日、職場で美咲が優を子供向けツアーの案内役に抜擢します。面白くない透は、犯罪者の息子だからと反対しますが父である村長にたしなめられます。いたたまれず逃げ出した優を美咲が追い、自宅に送ってほしいと頼みました。同情は迷惑だと不機嫌な優に対し美咲は渡したいものがある、と家に寄るよう誘います。彼女は優に「心を静める力がある」と能の面(おもて)を渡します。
何もしていない優が非難されるのはおかしい、優は自分と同じようにずっとひとりで闘ってきた目をしている、という美咲の言葉に心の緊張が解けたのか、優は涙を流しながら嗚咽します。「もう大丈夫。これからは私がいるから」と美咲は優を抱きしめ、ふたりはキスをしてそのまま愛し合います。その様子を外の車から透がうかがっていました。
無精ひげを剃り清潔な制服に身を包んだ優は、小学生相手の見学ツアーを案内しています。その様子を龍太は誇らしげに見ていますが透は苦々しくにらんでいます。
ロッカーで着替えていると優は龍太の身体にアザがあることに気づきます。透のターゲットが龍太に変わったびです。
美咲の部屋で夜を過ごしている優。すると美咲が能の演目『邯鄲』の話を始めます。人生はすべて夢のようなもの、と彼女は言い、「いま、生きてるって感じがする」と幸せそうに微笑みます。東京でつらい目に遭い精神を病んだ美咲は、故郷に戻り優と関わることで「生きてていいんだって思えた」と優に感謝の気持ちを伝えます。
村長らゴミ処理施設の会社側が村民向けの説明会を開いています。子供向けツアーが好評なこと、そしてテレビの取材が来ることが決まり、その対応を片山優がおこなうと報告します。異論が噴出しますがそれに美咲が反論します。終了後、透は美咲に異議を唱えますがふたりの意見は交わらないままでした。
優には村長から取材の件が伝えられ、さらに夜の仕事はもうやらないようにと言われます。丸岡に話をつけてくれると村長は言い、「ここから人生逆転だ。生きてるって感じだな」と笑います。優の顔に安堵の表情が浮かびます。
ヴィレッジのネタバレあらすじ:転
村長の屋敷では、癌で寝たきりの老いた母・ふみが次男である光吉が舞う能のビデオを見ています。
優の案内ツアーの仕事は順調ですが、代わりに龍太は現場で殴られ続けています。
ある日、やってきたテレビ取材に対し、龍太といっしょに働く男性が食ってかかるという出来事が起きます。優に対する羨望なのか、殴られる龍太を思っての発言だったのか?その場は村長がおさめますが優は落ち込みます。
その夜、美咲の家に透がひとりでやってきます。
仕事が終わった優は美咲に電話をかけますが、「いま取り込み中だから」と応対したのは透でした。透は美咲に、優が深夜の不法投棄の作業をしている動画や証拠写真を見せ「犯罪者だ」と言います。そして昔から美咲のことが好きだった、いっしょにこの村を出よう、幸せにしてやる、といって肉体関係を迫ります。
そのとき優が駆けつけてきました。美咲から透を引き離しますが、逆に投げ飛ばされてしまいます。挑発する透に我慢を重ねる優でしたが、暴言に耐え兼ねて手を出そうとして屋外に放り出されます。体格で勝る透にサンドバッグのように殴られ続ける優。美咲が泣いて止めようとしますが聞くはずもなく、彼女の「やめて、死んじゃう!」の声に殺意を意識した透は拳を振り上げます。
テレビ出演当日。転んだという優は顔中アザだらけです。息子の透が電話に出ない、と不機嫌な村長は、メイクでごまかしてくれと頼み、優の顔をなんとか見られる状態になります。その様子を見守る美咲は憔悴しきった顔をしています。
そのテレビ放送はゴミ処理施設でも、村長宅でも、優の家でも、多くの村民が見守っていました。
やがて有名になった村には多くの観光客が訪れるようになり、今日もドライブインの前で優はテレビのインタビューを受けています。店では優の母・君枝が働いており、明るく手を振っています。ゴミ処理施設の広報としてPRする優はすっかり村のエースといった存在です。
村長の屋敷で行われている宴会では、村長が頑張った優とそれを支えた美咲を大橋家に迎えたいくらいだと笑い飛ばしています。しかし優は、何も言わずぼけたような村長の母・ふみの目が気になって仕方ありません。彼女は次男の光吉がお気に入りでしたが、彼が村を出ていってからずっとあんな感じだといいます。
優が職場にやってくると、そこでは美咲の弟の恵一が働き始めていました。他人とコミュニケーションをとることが苦手な彼は、優に憧れてここにやってきたようです。借金を返し終わったらしく龍太は来月〝卒業〟して地元に帰ると優に報告します。そして「あんまり背負い過ぎない方がいい」と忠告します。
優は事務所で村長から、ゴミ処理施設の水質検査で基準値を上回ってしまった部分があるから何とかしろと言われます。それは不法投棄の産廃のせいなのですが、「ここはお前に任せている」と村長は逃げ腰です。
そんな中、恵一が土の中から産業廃棄物を見つけてしまいます。バイオハザードマークについて調べた恵一は事の重大さに気づき、警察署の光吉をたずねて報告します。
光吉は優と美咲に探りを入れますが、ふたりは特に変わったことは何もないと答えます。
その夜、不法投棄の現場に警察が踏み込み悪事が明らかとなります。もうすぐここ去る予定だった龍太もパトカーに乗せられていきます。
美咲の部屋で電話を受けた優は「バレた」と言って現場に向かいます。光吉は「知ってたのか?」とたずねますが優はごまかします。そして光吉のとなりにいた村長はこっそりと「どうにかしろ」とささやくのでした。
ヴィレッジの結末
光吉は後輩の刑事に、10年前に優の父親が事件を起こしたときに何もしてやれなかったと悔しそうに話します。ゴミ処分施設の建設に反対していた優の父は孤立して村八分にされ、彼をひどい目に遭わせていた人物を殺し自分も自宅に火をつけて自殺してしまったのです。以来優と母の君枝は村で忌み嫌われ、そんな状況に嫌気のさした光吉は村を出て行ったのです。
実家にやってきた光吉は兄である村長に「大変そうだな」と声をかけます。そして「また臭い物に蓋をするのか」と非難します。
帰宅した優を待っていたのは丸岡でした。不法投棄ができなくなって困っている丸岡は、優に自分のことを口外しないようクギを刺しに来たのです。話したら殺すぞ、と言われ優は追い詰められていきます。
後日、捜査中のゴミ置き場からついに透の遺体が発見されます。その現場にやってきた優は、ある記者からゴミ処理施設に反対していた父親についてどう思うかと聞かれ思わず激昂してしまいます。
事務所に戻って頭を抱える優に恵一が、姉を守ってくれたこと知っていると話します。恵一が自分のことをヒーローのように慕っていると美咲から聞いていた優は彼を車に乗せ、記者会見で透が怖い人たちに連れていかれるのを見たと証言するよう頼みます。
しかし正義感の強い恵一はそれを拒絶し、困惑して走行中の車から降りようとし、それを止めようとした優は道の脇の木に車をぶつけてしまいます。血を流して意識のない恵一の姿を見て優は「ごめんな、ごめんな」と謝り続けます。
恵一は一命ととりとめ、優は美咲の部屋で呆然としています。美咲は「これからも恵一のヒーローでいてあげてね」と言い上着を羽織って出かけようとします。優は「俺も行く」と言いますが美咲は「優君はこの村に必要なみんなのヒーロー」だと言って制止します。優は、自分の方こそ美咲に救ってもらったと反論しますが、美咲は優自身の努力の結果だといいます。
そのころ警察署では、透のスマホから取り出された動画や写真データを刑事が確認していました。そこには不法投棄の現場で働く優の姿や、透に襲われる美咲の姿が残されていました。その映像を見るや光吉は署を飛び出していきます。
あのとき透を刺したのは美咲でした。必死で優を助けようととっさに透の首に植木用のはさみを刺してしまった美咲。その後ふたりは遺体を車で運び、優がゴミ置き場に埋めたのです。
朝もやの中、優はひとりで歩いていきます。村長の屋敷にやってきた優が透のことを打ち明けると、村長はそうだろうと思っていたと言い驚きもしませんでした。優は、俺の親父のときもこんな感じだったのかとたずねますが、村長は正直覚えてないと笑います。そして、今回は美咲に犠牲になってもらい、ふたりでこの村を立て直そうと言い出します。
「あんた、ゴミだな…」そう言うと優は村長の首を絞めて殺害してしまいます。そしてかつての父と同じように部屋に灯油をまいて火をつけます。屋敷の奥では村長の母ふみが、そして美咲の家では彼女が能「邯鄲」の一節を口にしていました。ふみはそのまま息子の遺体とともに炎に包まれます。
火の手のあがる村長の屋敷から出てきた優が歩いていると、光吉の乗った車が到着します。
「優!」と呼ぶ光吉の声に彼はゆっくりと振り返ります。その目からは涙が流れ、そして力なく笑ったように見えました。
しばらく後、ひとりで村を出ていく恵一の姿がありました。
以上、映画「ヴィレッジ」のあらすじと結末でした。
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