首の紹介:2023年日本映画。世界的にも評価の高い北野武6年振りの監督作品。何十年も前から構想していた北野版〝本能寺の変〟は、あの巨匠・黒澤明監督も「傑作になるだろう」と期待していた話だ。
状況を読みながらうまく立ち回っていく秀吉を監督自らが演じ、弟秀長役の大森南朋と黒田官兵衛役の浅野忠信とのアドリブを交えた絶妙の間で笑いを誘う。加瀬亮がエキセントリックな信長を、複雑な光秀像を西島秀俊が体当たりで表現し、一筋縄ではいかない圧巻の愛憎劇が繰り広げられる。
原作・監督・脚本・編集:北野武 出演:ビートたけし(羽柴秀吉)、西島秀俊(明智光秀)、加瀬亮(織田信長)、中村獅童(難波茂助)、浅野忠信(黒田官兵衛)、大森南朋(羽柴秀長)、遠藤憲一(荒木村重)、木村祐一(曽呂利新左衛門)、勝村政信(斎藤利三)、寺島進(般若の左兵衛)、桐谷健太(服部半蔵)、寛一郎(森蘭丸)、副島淳(弥助)、六平直政(安国寺恵瓊)、荒川良々(清水宗治)、大竹まこと(間宮無聊)、津田寛治(為三)、小林薫(徳川家康)、岸部一徳(千利休)ほか
映画「首」ネタバレあらすじ結末と感想
映画「首」のあらすじをネタバレ解説。予告動画、キャスト紹介、感想、レビューを掲載。ストーリーのラストまで簡単に解説します。
映画「首」解説
この解説記事には映画「首」のネタバレが含まれます。あらすじを結末まで解説していますので映画鑑賞前の方は閲覧をご遠慮ください。
首のネタバレあらすじ:起
天正七年。織田信長に反旗を翻した荒木村重は攻め落とされた有岡城からひとり逃げ出していました。村重を取り逃がしたことに信長は怒り、「お前が逃がしたのか?」と明智光秀を疑って飛び蹴りを食らわせます。そんな中、光秀は過去に村重が信長から刀に刺した饅頭を食わされ、血だらけになった口に熱い接吻を浴びせられていた様を思い出していました。
口のきけない仲間ふたりと旅芸人をしている曽呂利新左衛門は、荒れ果てた有岡城の城門で敵兵に化けて抜け出そうとしていた村重をつかまえます。
そのころ京都六条河原では、村重の一族数十人の斬首が行なわれていました。丹波の百姓・為三と茂助は女や幼子も容赦なく殺される様子を見ていましたが、興奮した群衆が柵を壊してなだれこむといっしょに入り込んで死体から盗みをはたらき、茂助は子どもがもっていたでんでん太鼓を手に入れました。
一方千利休の茶室には光秀など信長の家臣三名が訪れていました。以前村重の説得に失敗した光秀は、村重を匿っているのではないかと疑われますがここでもきっぱりと否定します。しかし散会後、ひとりだけ利休に引き留められた光秀が見せられたのは、捕らえられた村重の姿でした。一旦は刀を抜いたものの光秀は、村重を自分の亀山城に運ぶよう指示します。
翌年。羽柴の軍勢が村に差しかかり、為三と茂助は侍になるためそこに合流します。しかしすぐに敵襲に遭って全滅、死体の下で生きていた茂助が起き上がると為三が敵将のものだと言って首を持ってきました。ふたりでこれをもって侍に取り立ててもらおうと喜ぶ為三の腹を刺し、茂助は首を奪い取ります。その様子を曽呂利たちが見ていました。
茂助は曽呂利たちの仲間となり、千利休の使いとして鳥取城を攻める羽柴秀吉の陣までやってきました。そこでは官兵衛の作戦で兵糧攻めが行なわれようとしていました。役目を終えた曽呂利たちは雑兵たちを相手にイカサマ博打をして袋叩きにされそうになりますが、曽呂利を面白いと思った秀吉らに助けられ仕事を与えられます。しかしそれは生きて帰れないようなもので、甲賀の里にいる光源坊から〝信長の手紙〟を預かってこいというものでした。
そこへ向かう途中、丹波で茂助の村を通りましたが、焼き討ちに遭って村人は皆殺しにされていました。呆然としていた茂助ですが、せいせいした!と言って先を急ぎます。
甲賀の里に近づくと、いつの間にか曽呂利たちは囲まれていました。近づいてきたのは〝般若の左兵衛〟。甲賀の抜け忍である曽呂利の兄弟子でした。左兵衛の案内で光源坊に会うことができた曽呂利は首尾よく信長の手紙を手に入れ、左兵衛とともに戻り彼に金を渡す約束をします。その夜、里では祭りが行われ、片手や片足のない者たちが白目を剥いて踊る異様な光景に茂助は圧倒されるのでした。
首のネタバレあらすじ:承
村重を匿っている光秀は、実は以前から彼と恋仲でした。ふたりは亀山城で抱き合い、今後のことを話し合っています。村重を逃がした黒幕が徳川家康だということにして陥れる算段をします。その様子を左兵衛と曽呂利が天井裏からうかがっていましたが、気配を察知した光秀が部下の斎藤利三を呼び、「曲者だー!誰の間者かつきとめろ」と命じます。
その後、京都では〝馬揃え〟という大々的なパレードが催されました。それは信長の威光を知らしめるもので帝も招待されています。すべてを取り仕切った光秀は「男前やなー」と羨望のまなざしを向けられていますが、そこに百姓上がりの秀吉の姿はありません。
信長の手紙を受け取った秀吉はその内容に失望します。手柄を上げた者に跡目を譲ると公言していた信長ですが、息子信忠に宛てたその手紙には
・家督はお前に譲る
・光秀、家康は斬れ
・秀吉はエテ公(猿)だから領地での与えておけ
と書かれていたのです。「嘘ばっかり」と秀吉は怒り狂います。
そんなことはつゆ知らず、信長は安土城で寵愛する森蘭丸を光秀の目の前で抱いています。その後お気に入りの黒人奴隷・弥助に身体を揉ませながら噛みついて逃げられ、それを見せられた光秀は苦々しい表情をしています。
毛利攻めの途中で呼び出された秀吉が安土城にやってくると、いつものように信長は秀吉をバカにし、止めようとした光秀が信長に命じられた弥助によって室外に投げ飛ばされてしまいます。さらに信長によって殴る蹴るの暴行を受けた光秀は、嫌がっているのに頬に唇を押し当てられます。
その後、秀吉・秀長・官兵衛は密かに光秀を呼び出します。信長の仕打ちに同情しつつ、単刀直入に村重について尋ねる秀吉に、以前の間者は秀吉の手の者だったのだと理解した光秀は里の者を傷つけてすまないと謝ります(甲賀の里は明智勢によって全滅させられていました)。秀吉は「忍びは使い捨てですから」と気にも留めず、それより村重を殺したらどうです?と持ちかけます。はぐらかす光秀に秀吉はあの信長の手紙を読ませます。みるみる怒りに震えだす光秀。秀吉はここぞとばかり光秀をけしかけ、天下を取りにいくときは必ず味方すると約束するのでした。
次に秀吉たちは利休のもとにいる家康をたずねます。信長と光秀が命を狙っていると伝え、十分気をつけるよう進言したあと、突然土下座した秀吉はもし信長に何かあったら一度だけ、自分に天下取りの夢をみさせてほしいと頼みますがその勢いに家康は困惑気味です。自分たちの宿に戻った秀吉は、家康の草履取りをしてしまったことを悔やみ大荒れです。
首のネタバレあらすじ:転
武田側の高天神城を攻めていた家康の陣営に、秀吉から家康を守るよう遣わされた曽呂利たちがやってきました。彼らは家康のために連れてこられた女たちが間者だと見破り信頼を得ます。戦場では本陣の家康が後方から矢で射抜かれてしまいますがそれは影武者で、手慣れた本田忠勝らによってすぐ次の影武者へと差し替えられます。しかしまたすぐ殺されてしまい、今日の影武者はもういない状態に。本物が座ろうとしますが危ないから、と忠勝が阻止します。
信長と光秀はしぶとい家康を確実に殺すため、武田に勝った祝いの席で毒を盛ることにしました。家康の好物である鯛を供し、早く食べさせようと促しますがそれを察した家康は食べたフリをして汁椀に隠していきます。論功行賞の発表のため皆が部屋を出ていくと、信長は家康がなぜ死なないのかと怒り心頭で光秀を打ちすえます。下膳の者に鯛を食べさせるとその者は絶命し、家康が食べたフリをしていたことが発覚。怒った信長は外国人宣教師に刀を持たせると光秀を殺すよう指示します。光秀は助かりたい一心でとっさに「私はお館様をお慕い申しておりました」と叫び、突然の告白にハッとした信長は刀を奪い取ると宣教師を斬り捨てて光秀を抱きしめるのでした。
その後皆の前に現れた信長は、光秀から丹波を没収するなど罰を与えると宣言し、今度こそ家康を殺せと光秀に耳打ちします。
亀山城に戻った光秀が村重に事の顛末を話すと、本当に信長のことが好きなのではないかと嫉妬して不機嫌になります。死にたくなくて口からでまかせを言ったと弁解する光秀に村重はついに、信長を殺してふたりで天下を取ろうと持ち掛けます。本能寺で宴席を設け、そこで信長と家康を一気に葬り去ってしまおうというのです。光秀は、「天命だと思うか…」と覚悟を決めようとしています。
その頃秀吉は、足場の悪い備中高松城を攻めあぐねている兵たちを眺めその様子を笑っていました。そこへ千利休とその側近・間宮無聊が、光秀たちが画策している本能寺の茶会について知らせにきました。官兵衛はまたしても曽呂利に「お館様のところに行ってくれ」と命じ、茂助は曽呂利にお守りだといってでんでん太鼓を手渡します。しかし秀吉は事がうまく運んだら曽呂利を始末するようです。
残った茂助たちは水攻めのための工事に駆り出され泥だらけの毎日を送っていました。
安土城で信長に謁見した曽呂利は、茶会の準備で忙しい信長に、あとで面白い話を聞かせると約束します。そして同じく茶会に招待されていた家康は千利休らの手引きでそこから抜け出し、いつものように本田忠勝や服部半蔵に守られながら逃げていきます。
亀山城では出陣を迎え、「いよいよだ」と光秀と村重が熱く抱擁します。障子を開け外に出ると光秀は態度を一変させ、斎藤利三とともに村重の首に刃を突きつけます。いつの間にか通じ合っていたふたりは村重を小さな箱に押し込み、家臣の者に崖から突き落とさせました。光秀は利三に逃げた家康を追わせ、自身は信長の首を狙います。
炎に包まれる本能寺を曽呂利は遠くから見つめています。本能寺の中では瀕死の蘭丸を気づかった信長が介錯をしてやり、次に現れた弥助にも同じようにしてやると声を掛けますが、弥助は「黄色いクソ野郎!」と英語で吐き捨て信長の首を斬りとばしてしまいました。
鎮火した本能寺内部で光秀は必死に信長の首を探しますが全く見つかりません。
一方家康を追っている利三には再三暗殺のチャンスが巡ってきますが、影武者ばかりで一向に目的を果たせません。半蔵と刃を交えますが、少し時間を稼ぐとそそくさと半蔵は逃げていってしまいます。
首の結末
〝本能寺の変〟を知った秀吉陣営ですが、仕掛け人である秀吉・秀長・官兵衛は仲間をだますため、今初めて知って驚いているという芝居をします。秀長のあまりの下手さに秀吉は笑いをこらえるのに必死。官兵衛は迅速に指示を出し、用意周到だと褒められてしまいます。一刻も早く京都に向かわなければならない秀吉たちは、水攻めを何とか耐え忍んでいる敵将・清水宗治の切腹をもって和睦を成立させるため、官兵衛を交渉に向かわせます。
毛利方の交渉相手である安国寺恵瓊の芝居がかった物言いに白ける官兵衛、曽呂利でしたが無事に宗治が切腹することで片が付きました。しかしきちんとした武士である宗治の切腹の儀式は舞に始まり辞世の句を詠むなど、百姓出の秀吉たちには理解できないものばかり。早く出発したい彼らはヤキモキしていますが、ついに腹を刺した宗治に介錯の刀が振り下ろされる瞬間、あわてて出発していく羽柴軍の姿を見て宗治が疑問に感じてももうあとのまつりでした。
そこからはまるでマラソン大会のような強行軍。姫路までの道を武器ももたずに走り続け、嫌がる秀吉は神輿に担がれて川を渡り気持ち悪くなって吐いてしまいます。その様子を見て秀長は「兄者が死んだらおれが大将だ」と冗談とも本気ともつかないことを言うのでした。
姫路に着いた茂助は官兵衛から、次の戦に連れていくと言われ喜びます。明智と羽柴の戦いが五分五分とみた曽呂利はいち早く秀吉の陣営を抜け出し千利休をたずねますが、間宮によって刺されてしまいます。しかし曽呂利も刺しておりふたりはその場で刺し違えました。
秀吉は消極的な家臣に一番槍を求め、光秀は息子や家臣たちに金子を与えて天下取りを鼓舞します。こうして光秀は、味方だと思っていた秀吉に追われることになったのです。
戦況は秀吉の優勢で進み、光秀は利三と合流して敗走しています。そしてどちらの軍ももとは百姓だった野盗に襲われ大打撃を負ってしまいます。利三は光秀を逃がして討ち死に、茂助の仲間たちも野盗たちに殺されてしまいます。
そんな中、茂助はついに木の下に座り込んでいる光秀を発見します。あれほど熱望していた敵将の首がいま目の前に!
「オレの首が欲しいか」と問う光秀。目をらんらんと輝かせる茂助に対し光秀は刀を首に押しつけ、「受け取れ!」と自ら首を斬り落とします。急いでその首を拾い上げた茂助は喜び勇んで首を掲げますが、野盗に取り囲まれ四方八方から槍で刺されてしまいます。
秀吉の陣営には無数の首が持ち込まれ、光秀のものかどうか検分が行なわれています。いま秀吉たちの前に並べられたふたつの首、それは光秀と茂助のものでした。しかし薄汚れた光秀のものはそうと気づかれません。すると官兵衛が「これは?」と気づきます。「茂助じゃないか」と言った官兵衛の言葉には耳を貸さず、秀吉は「首なんてどーでもいいんだよ」と言って光秀の首を蹴りとばすのでした。
以上、映画「首」のあらすじと結末でした。
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