映画 横道世之介の紹介:2013年日本映画。1980年代の東京を舞台に、大学進学のため長崎から上京した、お人よしの横道世之介。持ち前の明るさで周囲の人を幸せにする世之介と、その周囲の人たちの青春像を、16年後の後日談を交えて切なく描いた力作。
監督:沖田修一 出演:高良健吾(横道世之介)、吉高由里子(与謝野祥子)、池松壮亮(倉持一平)、伊藤歩(片瀬千春)、綾野剛(加藤雄介)、朝倉あき(阿久津唯)、黒川芽以(大崎さくら)、柄本佑(小沢)、佐津川愛美(戸井睦美)、大水洋介(石田健次)、田中こなつ(清寺由紀江)、ムロツヨシ(前原)、ほか
映画「横道世之介」ネタバレあらすじ結末と感想
映画「横道世之介」のあらすじをネタバレ解説。予告動画、キャスト紹介、感想、レビューを掲載。ストーリーのラストまで簡単に解説します。
横道世之介の予告編 動画
映画「横道世之介」解説
この解説記事には映画「横道世之介」のネタバレが含まれます。あらすじを結末まで解説していますので映画鑑賞前の方は閲覧をご遠慮ください。
横道世之介のネタバレあらすじ:起
東京の大学に入学するために、長崎から上京してきた横道世之介(高良健吾)。彼がこれから暮らすアパートの部屋には、まだ何もありません。がらんとした部屋で一人、たたずむ世之介。次の瞬間、突然目覚まし時計が鳴り響きます。
世之介は、急いで自分のカバンの中を探しますが、目覚まし時計は自分の物が鳴っているわけではないことがわかり、外に出てみました。すると目覚まし時計は、横の住人のものだと2軒隣の女性から教えてもらう世之介。「いつも目覚まし時計が鳴っているんですか?」と女性に尋ねると、「もしかしたら死んでるのかもね…」と、女性は薄ら笑いを浮かべました。
世之介は、大学の入学式に参加します。長い長い話に退屈していると、横に座っていた同じ学部の倉持一平(池松壮亮)から話しかけられました。その後、教室で声を掛けてきた阿久津唯(朝倉あき)と一平と共に、世之介はサンバ同好会に入部することになります。
ある日、合宿に参加するために清里へとやってきた世之介は、風呂場で一平と唯とが付き合っていることを知り、大変驚くのでした。
その後、サンバ同好会の先輩に紹介してもらい、ホテルでバイトを始めた世之介。同好会にはあまり、顔を出さなくなります。そんな時、同郷の小沢(柄本佑)と一緒にいたカフェに、大人の色気を漂わせる女性・片瀬千春(伊藤歩)を見つけます。千春に一目ぼれをした世之介は、ちらちらと彼女の方ばかり見てしまいます。すると、千春から世之介のほうに近寄ってきて、「ねえ君、バイトしない?」と声を掛けられました。
世之介は、自分がバイトしているホテルへと連れて行かれます。この日、千春は男性と別れるつもりでいました。その話の席に、世之介を連れて行った千春。上手く男性と別れられた千春は、別れ際に「次ぎ会うまでに、いい男になってなさい!」と、世之介に告げるのでした。
横道世之介のネタバレあらすじ:承
翌日、ニタニタしている世之介に、「何か良いことでもあったの?」と唯が尋ねます。世之介は、待ってましたとばかりに千春の話をしようとしますが、唯は話が長くなりそうだと勘付きその場から逃げてしまいます。それでも誰かに話を聞いてほしい世之介は、同じ教室にいた加藤雄介(綾野剛)に声を掛けました。
加藤とは全くの初対面でしたが、世之介が一方的に加藤に話しかけて、嫌がる彼を無理やり学食に誘います。世之介は、どうすれば千春が振り向いてくれるいい男になるか、加藤に悩みを打ち明けました。そして車の免許くらいはもっておいた方がいいと考えた世之介は、加藤と自動車教習所に通うことにします。
自動車教習所に通い出した加藤に、同じクラスの女子がデートに誘います。まずはWデートをすることになり、加藤は世之介を誘いました。加藤が気になる女の子は、幼馴染のお嬢様育ちの与謝野祥子(吉高由里子)を連れてきました。祥子は明るく人のいい世之介のことをすぐに気に入り、その後家まで勝手に押しかけてくるようになりました。
ある日プールに誘われた世之介がビーチサイドで寝ころんでいると、千春の姿がありました。うれしくなった世之介が話しかけると、千春は迷惑そうな顔をしました。その後、プールで遊んでいた時に、世之介は夏休みに実家の長崎に帰省することを話します。すると祥子は、自分も行きたいと言い出し、世之介は少々困り顔になるのでした。
ある日、加藤の家で世之介がスイカを食べていると、急に加藤が散歩に行くと言い出します。嫌がる加藤のあとをついて行った世之介は、実は彼が女性ではなく同性である男性が好きだと知りました。それでも、加藤への態度を変えない世之介。これまであまり心を開いていない様子だった加藤ですが、世之介にすっかり心を開いたのでした。
横道世之介のネタバレあらすじ:転
夏になり、実家へと戻ってきた世之介が家に入ると、先に祥子が家へとやって来ていました。明るい祥子はすぐに家族と打ち解けて、両親も祥子のことを気に入ります。翌日、祥子を連れて地元の友人と海へ行きました。夜になり、祥子をホテルへと送っていく時に、夜の海を眺めながら世之介は祥子にキスをしようとしました。
しかし、そこへベトナムからの大量のボートピープル(難民)に遭遇。その中にいた一人の女性が、赤ちゃんを抱きかかえて必死で逃げ惑っています。祥子はその赤ちゃんを受け取りますが、すぐにその後警察に保護されてしまいました。その後東京に戻った世之介は、赤ちゃんが無事助かったと祥子から聞かされて安堵。しかし大好きな祖母が亡くなり、再び世之介は深く落ち込むのでした。
夏休みが終わった世之介は、一平と唯がサンバ同好会だけではなく、大学も辞めたことを先輩から聞かされます。何も知らなかった世之介は、一平に会いに行きました。一平から、唯が妊娠したことを知らされた世之介。一平は、結婚して就職するつもりでいました。
大学の文化祭でサンバを踊った世之介に、祥子が会いに来ます。食事に誘われた世之介ですが、この日は一平と唯の新居への引っ越しの手伝いがあったため、誘いを断ります。しかし、日曜日なら会えると言われて、祥子は飛び上がって喜ぶのでした。
軽トラで荷物を運ぶ世之介と一平は、古びたアパートの前でトラックを止めます。世之介が部屋に荷物を運び入れようとすると、窓のほうを見て仁王立ちしている一平がいました。「唯と子供のために頑張るから…」と、涙ぐみながら決意する一平でした。
祥子とデートの日、世之介の家へ祥子の母親がやってきます。祥子の家へと招かれた世之介は、祥子の父親から「どういった付き合いをしているのか?」と尋ねられました。付き合ってもいない祥子との関係を尋ねられ、世之介はどう応えていいのかわからなかったのですが、その場は祥子のおかげで何とか切り抜けることができました。その後、二人きりになった時に、世之介は初めて祥子に好きだと伝え、二人は正式に恋人同士になることができました。
横道世之介の結末
そしてクリスマスの夜、世之介と祥子は二人きりでパーティーをします。雪の舞い散る中、二人は初めてキスをしました。年が明けると、スキーで足を骨折した祥子が病院に入院していることを世之介は知ります。お見舞いに行った世之介は、祥子に「どうして教えてくれなかったんだよ!」と、少し怒って見せました。するとそれまで世之介さんと呼んでいた祥子が、「これからは世之介と呼び捨てにします!」と宣言。何度も世之介の名を呼ぶ祥子でした。
後日、ひょんなことから隣人の男性と交流を持つことになった世之介は、隣人の男性の影響を受けて、写真に興味を持つようになります。隣人の男性に借りたカメラで、一平と唯の子どもを撮ったり、周囲の風景を撮るなどしていた世之介は、写真のおもしろさに目覚めていきました。
そんな時、祥子が2週間のパリ留学に行くことになりました。見送る際に、世之介は祥子の写真を撮ることにします。すると祥子が、「世之介さんの撮った写真を最初に見せていただけませんか?」と、お願いします。世之介は「封をして押し入れに隠しとくよ。」と約束。バスに乗り込んだ祥子は、「世之介、大好き!」と叫びながら、手を振って去っていきました。
それから16年が過ぎました。カメラマンとして活躍していた世之介は、ある日駅のホームから転落した女性を助けようして、命を落とします。同じ頃、一平と唯の娘・智世は中学生になっていました。智世には、ガソリンスタンドで働く18歳の彼氏がいます。「中学を卒業したら、彼氏と一緒にアパートで暮らす!」と宣言する智世が心配で、一平は彼氏に会いにガソリンスタンドを訪れました。そして、「娘にこれからの人生を考える時間を与えてやってくれ!」と、彼氏に頼む一平。
家に帰った一平に、唯は世之介の話をします。世之介とはもう何年も連絡をとっていない一平と唯ですが、彼の話をしながら笑みがこぼれました。それは一平と唯だけではなく、加藤も同じです。彼は、恋人の男性と酒を飲みながら、「大学の時に面白いやつがいてさ~」と、世之介の思い出話を始めます。その顔は、幸せそのものでした。
そして大学時代に恋人同士だった祥子は、パリ留学の後はNPOで発展途上国を支援する活動をしていました。彼女は帰国した時にニュースで世之介の名を聞いて、彼の実家に連絡を取りました。すると世之介の母から、小包が届きます。小包の中には、祥子の写真を始め、世之介の撮った写真がたくさん入っていました。16年前に世之介と約束したあの写真です。写真を見ながら、世之介との楽しかった日々を思い出す祥子。タクシーに乗っている時に、ふと世之介のことを思い出して、笑い泣きするのでした。
以上、映画「横道世之介」のあらすじと結末でした。
映画「横道世之介」の解説
主人公の横道世之介(高良健吾)は九州・長崎から上京した18歳。法政大学に入学した彼は、入学式で隣に座った倉持一平(池松壮亮)と親友になり、東京でのキャンパスライフを始める。ずうずうしいが、人の良さは抜群という持ち前の性格ですぐに大学生活に溶け込み、サンバ同好会のサークルに加入した。
ありふれた毎日ではあったが、ふとしたことで知り合った年上の女性・片瀬千春(伊藤歩)に片思いし、心を揺らす。女性に興味がない同級生の加藤雄介(綾野剛)とはなぜか気が合い、交遊を深めた。教習所では社長令嬢の与謝野翔子(吉高由里子)と知り合い、いつの間にか恋人になる。世之介は常に呑気で異常なまで空気が読めない。その上、とことんお人好しで憎めない。そんなどこにでもいそうな世之介とその周囲の人たちの1年間が、コメディタッチでありながらも淡々と描かれていく。
その1年間と主な登場人物の16年後を交差させながら描かれていく。倉持一平は1児の父、片瀬千春はラジオのDJ、加藤雄介はセクシャルマイノリティ、与謝野翔子は外国でボランティアとして世之介と別々の人生を歩んでいた。そこへ届けられたニュースが世之介の死。線路に落ちた人を助けようとして電車にはねられたというものだった。それぞれが不意に思い出す世之介とともに歩んだ日々、そして憎めないお人好しの笑顔。誰もが持つ青春時代のほろ苦く、懐かしい思い出を沖田修一監督が絶妙のカメラワークで描いていく。主演の高良健吾、吉高由里子をはじめ、綾野剛、伊藤歩ら脇を固める役者の演技も光っていた。160分もの邦画にしては久々に長い映画だったが、少しも退屈せず観賞することができた。おかしく、楽しく、そしてほんのり切なさを感じさせる作品だ。
「横道世之介」感想・レビュー
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上京したての大学生が主人公の映画。学生生活を通しての青春や世之介の人柄の良さを映しつつも、映画の途中途中で時間軸でいうと現代の様子が描かれる。自分の人生を自分が思うままに生きなければと感じるような作品でした。世之介の生き様は本当にかっこいい!途中で衝撃の事実を知ることになりますが、ショックを受けつつ映画は最後まで見るべきだと思います。
群像劇タイプの作品の難点をしっかりと克服できている。特に本作は、吉田修一の原作があまり整理されず非常に読み辛い構成になってしまっているのに対して、話を大きく変更することなく必要な部分だけをしっかりとブラッシュアップできている。
役者について。蛇にピアスの時のような猟奇的な役も似合う高良健吾であるが、こういった純朴?天然?風変りな青年役の方が実はしっくりと嵌っているのではないかと感じさせられる。彼のイケメン具合は、むしろこういった方面で発揮されるべきなのだろう。イケメンにして清潔感、好青年感を含む俳優としては、今のところ右に出る者はいないだろう。
そして、吉高。彼女に対する私のイメージがまさに本作のような破天荒な元気娘というもので、ピッタリ過ぎて驚愕した。
というように、演者陣がしっかりとしているために長時間の映画でも十分に鑑賞に値するのであろう。残念ながら「よくブラッシュアップされている」とは言ったものの、セクシャルマイノリティーやら何やら、とにかくパーツが多いのが本作で、正直お腹いっぱい感は否めない。ただ、原作はもっと読み解くには困難であることを考慮すると、映画化としての努力の跡は伺えるし評価すべきである。