月の紹介:2023年日本映画。芥川賞作家・辺見庸が実際に発生した障がい者殺傷事件を題材として執筆した同名小説を、『茜色に焼かれる』『舟を編む』『愛にイナズマ』などの石井裕也が監督・脚本を務めて映画化したドラマです。『新聞記者』『茜色に焼かれる』などを手がけ、本作の企画・製作総指揮を担当したプロデューサーの河村光庸は本作の公開を待たず2022年6月に急逝したため、本作が遺作となりました。原作にはない映画オリジナルの主人公を宮沢りえが、物語のカギを握る青年を磯村勇斗が演じています。
監督:石井裕也 出演者:宮沢りえ(堂島洋子)、磯村勇斗(さとくん)、長井恵里、大塚ヒロタ、笠原秀幸、板谷由夏、モロ師岡、戸田昌宏、鶴見辰吾、原日出子、高畑淳子、二階堂ふみ(坪内陽子)、オダギリジョー(堂島昌平)ほか
映画「月」ネタバレあらすじ結末と感想
映画「月」のあらすじをネタバレ解説。予告動画、キャスト紹介、感想、レビューを掲載。ストーリーのラストまで簡単に解説します。
映画「月」解説
この解説記事には映画「月」のネタバレが含まれます。あらすじを結末まで解説していますので映画鑑賞前の方は閲覧をご遠慮ください。
月のネタバレあらすじ:起
かつて有名な小説家だった堂島洋子は夫でストップモーションアニメ作者の昌平と二人暮らし。洋子は過去の出来事がきっかけで作品を書けなくなっていましたが、昌平はそんな洋子のことを“師匠”と呼んでいました。
ある日、洋子は深い森に囲まれた重度障碍者施設で働くことになりました。この施設の職員には作家志望の坪内陽子、そして絵を描くことが大好きで入所者たちと真摯に向き合う青年“さとくん”らがいました。施設の入所者の中には洋子と生年月日が同じで、視力と聴力を失い自力でベッドから動くこともままならない“きーちゃん”がいました。
ある日、洋子は産婦人科に通院した際に自らの妊娠を知りました。しかし、洋子は先天性の心臓病により幼くしてこの世を去った息子・翔一のことを思うと嬉しく思うことはできず、昌平にも打ち明けることができませんでした。
やがて洋子は施設で働き続けているうちに、この施設では職員が入所者に非人道的な暴力を振るっていることを知りました。洋子は陽子には自らの妊娠、そして過去を打ち明けましたが、その様子をさとくんはこっそり盗み聞きしていました。洋子の脳裏には中絶という選択肢もよぎっていました。
陽子は洋子に「本当はこの仕事は嫌いだ」とこぼし、施設が隠蔽しているきーちゃんにまつわる事実を語りました。元々は自力で歩けていたきーちゃんでしたが、10年以上もの間ベッドに縛り付けられた末に歩けなくなり、わずかに残っていた視力も職員の「光を見ると暴れるから」という勝手な判断により真っ暗な部屋に閉じ込められたせいで完全に失われていたのです。
月のネタバレあらすじ:承
陽子は幼い頃から父の暴力を受けて育ち、今やその父は愛人を作り、母は黙認するのみでした。陽子はそんな両親を憎んでおり、自分の夢である作家への道も上手くいっていないことから、洋子の小説は“綺麗事”しか書いておらず、いわば“善意の形をした悪意”だと言い放ってしまいました。そして陽子は昌平に洋子の妊娠と中絶を考えていることまで暴露してしまいました。
洋子が小説を書けなくなったのは、かつて震災をテーマにした作品を執筆したことが起因でした。しかし、出版社は洋子に「読んで元気が出る作品」を求め、洋子は被災地の過酷な状況を書いたものは削除させられ、綺麗事ばかりを強調された作品を出版されられたことで洋子は何も書けなくなってしまったのです。
昌平はアニメ制作の傍らマンションの管理人の仕事も始めました。一方、さとくんはきーちゃんに、きーちゃんは何者なのか、何のために生まれてきたのか、何のために生きているのかと問いかけましたが、きーちゃんの思いがさとくんには届きませんでした。その夜、洋子はきーちゃんの部屋の窓を開けて月の光を取り入れ、「あなたには何が見えてるの?」と語りかけました。
ある日、洋子は昌平と共に翔一の墓参りをし、お腹の子はまだ堕ろしていないこと、そして自分の生み出すものに自身が持てないことを打ち明けました。昌平は洋子の葛藤に気づけなかったことを謝り、新たな命への喜びを露わにしました。
その頃、さとくんは同僚から“無駄な仕事”と言われながらも紙芝居作りなどに励んでいました。しかし、同僚たちは常に笑顔を絶やさないさとくんを入居者たちと同類だとバカにしました。さとくんは破かれた紙芝居の一部を使って三日月を作り、きーちゃんの部屋の壁に飾ってあげました。
その夜。施設長から絶対に近づくなと厳命されていた入所者の部屋から異音が聞こえてきました。この日は夜勤だった洋子はさとくんや陽子と共に部屋へ向かうと、そこではこの部屋の入居者が自らの糞尿にまみれながら自慰行為をしていました。さとくんはこの入居者の姿に同僚からバカにされている自分自身の姿を重ね合わせ、自分はこの入居者とは違うという思いを抱きました。
その後、さとくんは突然自分と洋子の考えは同じだと言い、「無駄なものは要らない。人間じゃないのは要らない」とまで言い出しました。やがてさとくんは“無駄な仕事”をしなくなり、大麻に手を出し、ボクシングジムに通って肉体を鍛えるようになっていきました。
月のネタバレあらすじ:転
洋子は施設での仕事やきーちゃんとの出会いを機に創作意欲を奮い立たせ、「人間とは何か」「生きるとは何か」などをテーマに筆を執る決意を昌平に告げました。執筆の締め切りは洋子と昌平の出逢いのの記念日である7月26日に設定しました。
洋子は執筆の傍ら施設で働き続け、ベッドに横たわるきーちゃんの“声にならない声”に耳を傾けていました。そこにきーちゃんの母が訪れ、洋子がきーちゃんと真摯に向き合ってくれていることに感謝しました。そのうえできーちゃんの母は他の入居者の保護者から聞いた話として、以前この施設のある職員が入居者に「お前は“心”がないから人間じゃない」と暴言を吐いたことを証言しました。洋子は施設長に現状の改善を要求するも一蹴されてしまいました。
洋子は以前のさとくんの不穏な発言が気にかかっていました。洋子はさとくんに会いに行き、最近何を考えているのかと問いかけました。すると、さとくんは思いもよらぬ驚愕の計画を明かしました。それは「日本における障がい者施設が抱える欺瞞という現実を変える」という名目で、この施設の入居者計260名を“安楽死”させるというものでした。
計画に反発する洋子に対し、さとくんは「“人”って何ですか?」と逆に問いかけ、これから入所者一人ひとりに「あなたに“心”はありますか?」と問いかけ、応じなかった者に死を与えると告げました。さらにさとくんは、洋子は施設の現実に対して何もしなかったと責め、洋子はきーちゃんのような障碍者が自分の家族だったらと真剣に考えたことはあるのか、洋子は作家としても人間としても必要とされていない、新作で障碍者を題材にしたのは結局は自分が評価されたいだけだと持論を展開しました。洋子はさとくんの発言が自分の本音を代弁してしまっていると感じながらも、さとくんの計画は絶対に認めないと泣きながら訴えました。
月の結末
さとくんは自らの計画の内容をある政治家に送りつけ、通報されたさとくんは精神病院へと収容されました。しかし、さとくんはわずか2週間ほどで病院を出てしまい、施設長はさとくんの計画を冗談だと考えていました。
さとくんは昌平のもとに向かい、昌平もまた自分と同じだとして計画に協力するよう求めました。しかし、短い人生を精一杯生き抜いた我が子を侮辱されたと感じた昌平は「お前みたいな奴が一番嫌いだ。師匠(洋子)に何かしたら殺す」とさとくんを殴りつけました。
7月25日、洋子と昌平の約束の日の前日。さとくんは密かに凶器を用意し、髪を金色に染めると施設に向けて出発しました。その夜、新作を書き終えた洋子は改めて思い出の場所である回転寿司屋で二人の今後について話し合おうと約束すると、昌平は自分の作品がフランスの小さな映画祭で賞を獲得したことを伝えました。二人は喜び合いました。
7月26日の未明。さとくんは施設にトツニすると、入所者一人ひとりに「“心”はありますか?」と問いかけ、応じない者たちを次々と刺殺していきました。そしてさとくんは夜勤中の陽子を捕えて拘束し、今度は陽子を通じて入所者たちに問いかけ、殺戮を展開していきました。そして遂にさとくんはきーちゃんまでも手にかけ、以前さとくんがきーちゃんのために作った三日月が剥がれ落ちました。
その頃、自宅で就寝していた洋子は胸騒ぎから目を覚ましました。洋子は昌平からさとくんが退院していることを聞かされました。昌平はさとくんは計画を実行するはずがないと語りましたが、洋子の不安は収まりませんでした。
やがて夜が明け、洋子と昌平は回転寿司屋に向かいました。周囲は何台もの緊急車両が慌ただしく行き交っており、昌平は店内のテレビのニュースで施設の惨状を知りましたが洋子に伝えられませんでした。
洋子と昌平は改めて互いの想いを伝え合い、これからも一緒に頑張っていこうと誓い合いましたが、テレビのニュースを見た洋子は施設に向かうことにしました。日中の空には月が微かに浮かび上がっていました。
以上、映画「月」のあらすじと結末でした。
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