スパイの妻<劇場版>の紹介:2020年日本映画。太平洋戦争前夜、貿易会社を経営する優作は満州で恐ろしい国家機密を知った。優作と妻の聡子は狂気に満ちていく時代の中で愛ゆえに次々と重大な決断を迫られる。8Kカメラで撮影されNHK・BS8Kで放送されたサスペンス・ドラマの劇場版。第77回ヴェネチア国際映画祭銀獅子賞(監督賞)受賞。脚本作りには黒沢清監督が教授を務める東京藝術大学大学院の学生だった二人――『寝ても覚めても』を監督した濱口竜介と、濱口が監督した『ハッピーアワー』等の脚本を担当した野原位――に黒沢監督自身が加わる。
監督:黒沢清 出演者:蒼井優(福原聡子)、高橋一生(福原優作)、坂東龍汰(竹下文雄)、恒松祐里(駒子)、みのすけ(金村)、玄理(草壁弘子)、東出昌大(津森泰治)、笹野高史(野崎医師)、ほか
映画「スパイの妻<劇場版>」ネタバレあらすじ結末と感想
映画「スパイの妻<劇場版>」のあらすじをネタバレ解説。予告動画、キャスト紹介、感想、レビューを掲載。ストーリーのラストまで簡単に解説します。
スパイの妻<劇場版>の予告編 動画
映画「スパイの妻<劇場版>」解説
この解説記事には映画「スパイの妻<劇場版>」のネタバレが含まれます。あらすじを結末まで解説していますので映画鑑賞前の方は閲覧をご遠慮ください。
スパイの妻<劇場版>のネタバレあらすじ:夫の満州行き
1940年.神戸生糸検査所にやってきた憲兵たちが、イギリス人のドラモンドを軍機保護法違反容疑で逮捕する。その日、津森泰治(東出昌大)は軍服を着て、幼なじみの聡子の夫、福原優作(高橋一生)を彼の経営する福原物産のオフィスを訪れる。神戸憲兵分隊に分隊長として赴任した挨拶のためだけでなく、ドラモンドの友人である優作に注意を促すためでもあった。しかし優作は、ただの商人にすぎないドラモンドへのスパイであるという嫌疑を笑い飛ばす。
横浜から神戸に引っ越し、今は洋館に妻と暮らす優作。妻に仮面の女スパイの役をさせたアマチュア映画を甥で福原物産に勤める竹下文雄(坂東龍汰)と作って楽しみながらも、優作はドラモンド釈放のために手を尽くし、ドラモンドは福原家に挨拶に来てから上海へと去った。
本当に危なくなる前に大陸を見ておきたい。優作は聡子(蒼井優)の心配をよそに、文雄をともなって満州へ出張する。撮影機材も一緒だった。夫の留守中、聡子は女中の駒子(恒松祐里)を連れて山に自然薯を掘りに行った時に偶然、天然の氷を取りにきた泰治と会う。福原邸に通された泰治は、聡子も女中も執事も洋装、ウィスキーも舶来ものという福原家の暮らしぶりに、世間の目が厳しくなると心配する。
予定より二週間遅れて優作と文雄が帰国する。港に出迎えた聡子は、しかし、二人が一人の女を日本に連れてきたことに気づかなかった。
その年の福原物産忘年会。社員たちに優作が聡子や文雄と作った映画が披露される。その後、文雄は社員たちを前に退社することを告げる。いつ軍隊に入れられるかもわからない、その前に有馬温泉の旅館たちばなにこもって小説を執筆することにしたと言うのだった。
スパイの妻<劇場版>のネタバレあらすじ:君は何も見ていない
聡子は泰治に神戸憲兵分隊本部へ呼び出される。旅館たちばなの草壁弘子(玄理)という仲居が殺された。嫌疑がかかっているのは文雄だが彼女を満州から連れてきて仲居の仕事を世話したのは優作だと言われる。帰宅した優作は自分を信じてほしいと聡子に言う。そして自分は聡子に嘘をつけないようにできているから問い詰めないでくれと頼む。
夫と弘子の仲について疑惑の消えない聡子は旅館たちばなに文雄を訪れる。快活さの消えた文雄は聡子に対して「あなたは何も見ていない」と言って多くを語らない。そして、ある包みを優作に渡すように頼む。中身は見ないように、「英訳が終わった」とだけ伝えるようにと言う。旅館の外には文雄を監視する男たちがいた。
しかし、聡子は包みの中身を見ずにはいられなかった。包みの中のノートについて問いただされた優作は真実を話す。満州で彼と文雄は死体の山を目撃する。それは関東軍の細菌戦研究の犠牲者の死体だった。それを告発しようとした医師は殺害され、草壁弘子は看護婦で彼の恋人だった。優作は細菌戦研究の証拠をもちかえり文雄に英訳をさせた。それをアメリカで公表すればアメリカとの間で戦争が始まり日本は負けるだろう。それは売国奴のすることではと問う聡子。自分はコスモポリタンだと優作は答えるのだった。
スパイの妻<劇場版>のネタバレあらすじ:夫を出し抜く
優作が帝大で野崎医師(笹野高史)と会うために出張したとき、聡子は会社の倉庫にある金庫から文雄から託されたノート、そしてその側にあったフィルム缶を盗み出す。そして和装で憲兵分隊本部に泰治を訪れる。弘子殺しの犯人は横恋慕した旅館主人であったことを知るが、それでも文雄から託されたノートを泰治に渡す。
優作は会社で金庫からノート等が持ち去られたことに気づくが、すぐに憲兵に参考人として連行される。逮捕された文雄が爪をはぎ取られる拷問を受けてスパイ活動を自白したことを知る。通報者は聡子しか考えられない。帰宅した優作は妻を密告者とののしるが、聡子は、文雄が夫を売らないことをわかっていて、夫を守るために泰治にノートを渡したのだった。渡したのは日本語の原本だけで、英訳と、細菌研究の様子や原本のページが撮影されているフィルムはまだ手元にあった。
スパイの妻<劇場版>のネタバレあらすじ:スパイの妻
聡子と優作はアメリカ行きを考えるが、アメリカからの石油輸出が禁止される。もはや亡命以外にアメリカに行く方法はない。「あなたがスパイなら私はスパイの妻になります」と言い放つ聡子にとって今までになく人生が輝いているようだった。
結婚記念日にかこつけて二人は、監視の目をかいくぐりながら、現金を貴金属や高級腕時計に換えて出国の準備をする。優作は聡子に神戸港から貨物船でサンフランシスコまで行くように言う。一方、優作は上海に行ってからサンフランシスコに渡る。今彼らが隠しているフィルムは、オリジナルの鮮明な証拠フィルムが映写されたスクリーンを撮影したものであり、オリジナルのフィルムは上海のドラモンドに託されていた。そしてドラモンドが金を要求しているので優作は彼と会って交渉しなければならなかったのだ。聡子は優作と一緒に行きたかったが、優作は離れていても二人の絆は深まると説得する。
スパイの妻<劇場版>の結末:お見事です
駒子と執事の金村(みのすけ)に見送られて聡子と優作は屋敷を自動車で後にし、神戸港で聡子は優作と別れて貨物船のコンテナに身を隠す。ところが憲兵隊が貨物船にやってきて、聡子の身を託されていた船員ボブも聡子の隠れ場所を教えざるを得なかった。
憲兵分隊本部で泰治は、密航の通報があったが、密航者は優作だと思っていたと言う。そして聡子の容疑は死刑相当だとも。直ちに聡子がもっていたフィルムが映写される。聡子は泰治にフィルムに国家の機密が隠されていると言い、そう信じていた。だがスクリーンに映し出されたのは忘年会で上映した映画だった。優作は聡子を欺いたようだ。聡子はスクリーンの前に歩み出て「お見事です」と言って気を失う。
1945年3月。聡子は精神病院にいた。患者の女たちは東京や各地が空襲に遭っているといううわさ話をする。その日は野崎医師が聡子に面会に来た。野崎は優作をインドのボンベイで見た人がいるという情報を伝える。だが、彼が乗ったロサンゼルス行きの船が日本の潜水艦に沈められたとも。そしてそれも不確かな情報だった。聡子が退院できるように取り図ろうと言う野崎に聡子は「先生だから申しますが私は一切狂っていません。それが狂っているということなのです。この国では」と言う。
深夜目を覚ました聡子は机の上のものが不思議な振動をするのを見る。間もなく病院付近も空襲にみまわれたことがわかり、患者たちは逃げ出す。最後に大部屋の病室を出た聡子は廊下の先が既に焼け野原となっているのを見る。これで日本は負ける。戦争も終わる。お見事。聡子はひとり海辺へと逃げて嗚咽する。
1945年8月、終戦。翌年優作の死亡が確認されるが、報告書には偽造の疑いがあった。数年後、聡子はアメリカに渡った。
以上、映画「スパイの妻<劇場版>」のあらすじと結末でした。
「スパイの妻<劇場版>」感想・レビュー
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71歳ですが、国家より社会正義という考え方は知りません。洗脳されていたのですか?この映画の言わんとすることが分かりませんでした。これがスパイなのかどうかもわかりません。目的は何だったのかもわかりませんでした。女優の人は、感心しました。そういえば、木村功のほうがいいですね。功大好き。
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この映画はタイトルが示す通り蒼井優演じる聡子が主人公です。黒沢清監督の映画は主人公が葛藤する様を描く事が多いので、テーマはスパイの妻の葛藤でしょう。コスモポリタンの二面性に葛藤してラストで嗚咽しているのだと思います。バブル崩壊後の日本ではGHQが主導した民主主義的ナショナリズムが成り立たなくなり世襲議員と財閥系企業が主導する格差社会になっています。狂っている日本でまともでいる事が狂っている事になる訳です。テーマは現代的ですよね。
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市川雷蔵の『陸軍中野学校 雲一号指令』を思い出しました。同じ神戸が舞台のスパイ映画です。市川雷蔵も高橋一成/蒼井優も自分の正義を信じますが、立場は真逆です。この2つの映画の対立が、同じ時代の同じ地域を舞台に展開します。これは戦後80年近く日本人がほったらかしにしてきたコンフリクトを再考するよう迫っているような気がします。船に乗っても亡命できない蒼井優を見ているとフィリップ・K・ディックの『高い城の男』(Amazon映画版)で、チルダンとユキコがサンフランシスコの港で離れ離れになるシーンを思い出しました。そういう意味では、この80年間の日本は、リアルなパラレルワールドだったのかもしれませんね。よく考えるとキーになるところに映画フィルムが使われている点など『高い城の男』の影響も感じ取れます。
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蒼井優の演技を見るための映画だな。
どれくらい史実を考えるべきか疑問だが、「スパイ」の件と開戦との関係度が、全く描かれていない。
最後に「お見事」と言う以上は、開戦の決定的要因になってないとね。それ以外に、何か見事なことがあったんだろうか。
それとも、モヤモヤこそ善しとするタイプの脚本家なんだろうか。 -
美しい妻を愛する夫と、夫を愛する妻の物語。
ただそれだけ。
深い意味を探る必要はないかと・・・・。
蒼井優の演技、素晴らしかった。私は高橋一生のファンで彼の演技を見たくて見たのだが、蒼井さんには、まいったというのが第一の感想だ。当時の社会背景をからめて展開する物語は私の若かったころ.映画全盛時代には少なからずあった。当時の社会は戦争に負けたこともあり、GHQの洗脳が最も浸透していた頃で、優作の、国家より世界正義だという考え方は、非常に斬新でかっこよい思想として世間に好感を持って受け入れられた。しかし現代では現実味のない薄っぺらな考え方として、多くの人が違和感を持ってしまっていると思う。若い時にその思想を受け入れた70代以上の年配の方はいまだその洗脳が解けず、社会背景には何の疑問も持たないで見たと思う。ただ、この映画は完全に夫婦の愛情の形を描いたものであるので、あまり事実だとか事実でないとかとらわれるものではないと思う。
蒼井優は、当時の時代の女性の雰囲気を見事に出していた。比べて高橋一生は、戦前の経営者としての佇まいが足りない。似たような俳優として私の中では佐田啓二や木村功を思い出すが、彼らの落ち着いた貫禄にはまだ及ばない。私は高橋一生の演技に惚れていて大好きなのだが、最近になってから主役級の役が多くなってきたばかりなので、今は修行中なのだと思っている。主役の経験を積むことによってその立ち位置や佇まいに磨きがかかってくると信じている。