君を愛したひとりの僕への紹介:2022年日本映画。小説「君を愛したひとりの僕へ」と「僕が愛したすべての君へ」。2016年6月にハヤカワ文庫より刊行された乙野四方字のこれらの小説は、同じ名前の少年がそれぞれの物語で別のひとりの少女と恋に落ちるストーリー。トムス・エンタテインメントが製作した『君を愛したひとりの僕へ』の監督は、テレビアニメ「のだめカンタービレ」や「メジャー」シリーズのカサヰケンイチ。主題歌はSaucy Dogの「紫苑」。主人公の日高暦は声優初挑戦の宮沢氷魚が演じている。
監督:カサヰケンイチ 原作:乙野四方字 声優:宮沢氷魚(日高暦)、蒔田彩珠(佐藤栞)、橋本愛(瀧川和音)、水野美紀(佐藤紘子)、余貴美子(老年期の瀧川和音)、西岡徳馬(老年期の日高暦)、田村睦心(幼少期の日高暦)、浜田賢二(日高翔大)、園崎未恵(高崎真由美)、西村知道(高崎康人)ほか
映画「君を愛したひとりの僕へ」ネタバレあらすじ結末と感想
映画「君を愛したひとりの僕へ」のあらすじをネタバレ解説。予告動画、キャスト紹介、感想、レビューを掲載。ストーリーのラストまで簡単に解説します。
映画「君を愛したひとりの僕へ」解説
この解説記事には映画「君を愛したひとりの僕へ」のネタバレが含まれます。あらすじを結末まで解説していますので映画鑑賞前の方は閲覧をご遠慮ください。
君を愛したひとりの僕へのネタバレあらすじ:起
日高暦は両親が離婚し、虚質科学の研究者である父親と暮らしています。今日は母親も交え3人で食事をする日。母を待つ間、研究所の保育室で父から並行世界、パラレルワールドについての説明を聞いています。しかし母から飼犬のユノが死んだと知らせが入り、暦は母の家へと向かいます。庭につくられた墓の前では祖父が泣いていました。
ある日、保育室で暦は突然泣き始めます。それはユノに似た犬の写真を見たからでした。ちょうどその場にいた同年代の少女が驚いて暦をなぐさめると、暦は可愛がっていた犬が死んだこと、もう会えないと思ったら悲しくなってしまったと話します。少女は暦を研究所内の一室に連れていき、そこのカプセルに入って「会いたい」と念じればその犬が生きている並行世界に行けるといいます。
暦がカプセルに入って念じると、いつのまにか彼は川原でユノを散歩させていました。そのまま母の家に戻るとそこでは祖父が亡くなっていました。どうやらここは暦が母についていった並行世界のようです。祖父を失ったショックと日頃母に甘えられない寂しさから、暦はその晩母といっしょに眠りました。
翌朝、自然にもとの世界に戻っていた暦を起こしに来たのは祖父でした。暦は「おじいちゃん、長生きしてね」と声をかけ、それから研究所に向かいます。そこでまた会えたあの少女は、自分も並行世界に行きたくて暦を実験台にしたといいます。彼女の両親も離婚しており、離婚せず仲良く暮らしている並行世界に行きたいと言う少女。暦はなんの疑いもなく、彼女のためにいますぐ実行しようとあの部屋へやってきます。
するとあと少しのところでだれかに止められてしまいます。それはこの研究所の所長で少女の母親でした。説教というより並行世界についての講義を聞かされたふたりは改めて「佐藤栞」「日高暦」と名前を教え合います。
お互い親が研究所勤めのふたりはあっという間に仲良くなり、ほとんど毎日いっしょに過ごすようになります。
夏休みを前に、栞は急に人助けがしたいと言い出します。暦が理由をたずねると、実はこっそり別れた父親に会いに行き、「見返りを求めず人を助けられる人間になりなさい」と言われたと話します。そして「名乗るほどの者ではありません」と言いたいから助けるのは知らない人じゃないとダメだと真面目に言うのでした。
君を愛したひとりの僕へのネタバレあらすじ:承
ある日、暦は父に大事な話があると研究所に呼び出されます。そこには栞と所長もいました。ひとしきり虚質科学について聞かされたあと、所長が「再婚しようと思ってる」と言いました。
ふたりきりになった暦と栞。再婚について異論はないもののモヤモヤした気分のふたり。口火を切ったのは栞でした。「いつか暦くんと結婚するんだと思ってた…」
親同士が再婚したら結婚できなくなる、と思いつめたふたりはかけおちを決意します。
リュックにお菓子をつめて自転車で走り出すふたり。公園やデパートで昼間は楽しく過ごしますが、夜になると職務質問されたり山には虫がいたりしてこれは無理だと悟ります。そしてふたりは並行世界に逃げることを思いついてしまいました。研究所に忍び込みIPカプセルに入るふたり。結婚を約束し、お互いの両親が離婚していない世界に行けるよう念じます。
暦の目の前には、リビングでくつろぐ母と父の姿が映ります。成功を確信する暦。
一方栞は横断歩道の上にいました。雨が降る中、すぐ前方には笑顔の両親がいます。しかしそんな栞に無情にも車が迫ってきていました。
前回のパラレル・シフトとは異なり、暦はすぐにカプセルの中で目覚めます。隣には先ほどと変わらず栞が横たわっていますが彼女は目を開けません。
暦は大声で助けを呼び、父と所長が駆けつけます。外からカプセルを開けふたりは救助されますが栞は息をしていません。栞はそのまま病院へ運ばれ、暦は父にこうなった経緯を説明します。親が再婚してもその子ども同士は血縁関係がないので結婚できると聞かされ、自分たちの無知を悔い絶望する暦。ひとりで研究所を出た暦は昭和通り交差点に差しかかります。その横断歩道の上には栞の姿がありました。彼女は悲しそうに微笑んで「ごめんね…私、幽霊になっちゃった…」と言いました。
翌日、所長から栞が“虚質素子核分裂症”だと暦は聞かされます。脳死のような状態で、これは不幸な事故だったと言う所長。その冷静な言い方に暦は苛立ち、「どうして俺を責めない?娘がこんなことになって悲しくないのか?」と詰め寄ってしまいます。所長は一筋の涙を流し暦は所長がいちばん傷ついているのだと気づきます。そして、栞を元に戻すためになんでも手伝わせてほしいと頼むのでした。
昼は学校、夜は研究所で勉強と研究に没頭する暦。そのおかげか高校には主席で合格し、入学式では総代をつとめました。常にトップの成績だったものの大学には進学せず、卒業後はそのまま研究所に無理矢理入所しました。この町から離れると交差点にいる栞が寂しがると思ったからです。その間もパラレル・シフトの実験をくり返す暦。栞が幸せになれる世界はないかと探しますが、どの並行世界でも栞は事故に遭い幽霊になってしまいます。
ある夜、暦は自然にパラレル・シフトし、知らない女性といっしょに寝ている自分の姿に動揺します。急いでもとの世界に戻った暦に、栞の心臓が止まったと連絡が入ります。ついに栞の戻るべき肉体が失われてしまった…葬儀を終え、憔悴した暦はしばらく足が遠のいていた交差点を訪れます。「私がついてるから大丈夫」と栞がはげましてくれました。
暦はパラレル・シフトの実験を『不可避の事象半径』という論文にまとめ、発表します。それは、暦と出会った栞は事故を避けられないということを証明するものでした。
君を愛したひとりの僕へのネタバレあらすじ:転
論文発表後、スランプに陥っていた暦のもとに新人が配属されます。名前は瀧川和音。暦は覚えていませんが彼女は高校の同級生で、当時から暦をライバル視していたようです。海外で最速で博士号を取りこの研究所を選んでやってきました。
父の命令でしぶしぶ彼女を食事に誘った暦ですが、彼女はカラオケボックスがいいと言い、そこでいままでの暦に対する不満をぶちまけます。すっかり酔っ払った和音を送るため歩いていると、栞のいる交差点に差しかかりました。暦が「あとで来る」と栞に耳打ちしていると、和音が「あなたも見えるの?」と言い出します。自分以外にも栞が見えるのか、と驚く暦に和音は、表情などはわからないが影が見えることがあり、他にも見える人がいて“交差点の幽霊”として有名なのだと教えてくれました。
次の日。暦はついに和音に秘密を話します。それは、栞を救うためには時間移動を実現させるしかないが、時間移動の研究では予算が下りず、仕方なく並行世界の研究予算を流用している、というものでした。横領を見逃し、その研究を手伝ってほしいと暦は持ちかけ、和音はそれを承諾します。
しかしそううまく研究は進まず、暦は落ち込むたびに栞の交差点にやってきます。栞は、もう大丈夫だから、と暦に自分の幸せを考えるよう言いますが、それを聞いた暦は怒り、「俺をひとりにしないでくれ」とその場で泣き崩れるのでした。
10年が過ぎ、研究所は国立の法人へと変わりました。任意の並行世界に移動するオプショナル・シフトは実用化されましたが、時間移動の方法はまだ見つかっていません。
ある日、和音が黒ビールを買ってきました。ちゃんとグラスに入れて飲もうと専用のグラスに注ぎ始め、このビールは粘性が高く、泡が沈むのだと和音は説明します。そのとき、沈む泡を見ながら突如暦はひらめきます。粘性が泡の浮力を上回るとき、そこに渦をつくって下降流を起こせば粘性に押されて泡は沈む。それを応用させれば時間を遡ることが可能だと。和音が、それだと人格や記憶が残らないのでは?と質問すると、栞が幸せになってくれればそれでいいと暦は答えます。彼は気づいていたのです。栞が幸せになる世界、それは「俺と栞が絶対に出会うことのない世界」なのだと。
君を愛したひとりの僕への結末
子どものころの暦。離婚して母親についていった高崎暦は、父親に買ってもらったエアガンを祖父に取り上げられてしまいます。怒った暦は祖父と口をきかなくなってしまいますが、そのまま祖父は他界してしまいました。後悔する暦がユノの散歩をしていたとき、転んで気がつくとカプセルのようなものの中に入っていました。
そこにいた少女に開けてもらいその建物から出ると、そこは虚質科学研究所でした。母を呼び出しその家に行くと、祖父がにこやかに出迎えてくれます。代わりにそこではユノが死んでいて、庭にはお墓もあります。暦はその晩祖父の部屋へ行きいっしょに寝ましたが、翌朝目を覚ましたときには母親と寝ていました。祖父が亡くなったもとの世界に戻ってきたようです。
成長して優秀な成績で高校に入った暦は、同級生の瀧川和音にライバル視されてしまいます。和音は85離れた並行世界から来たと言って暦をだましますが、それをきっかけにふたりは話すようになります。同じ大学に進んだふたりは恋人同士となり、いっしょに虚質科学研究所に入所、功績をあげてやがて結婚します。涼という息子に恵まれ、成長した彼は結婚しいまは愛という孫娘も生まれ家族5人で暮らしています。
もとの世界で73歳になっている日高暦。彼は和音にいよいよ時間移動を決行するときがきたことを伝えます。それは並行世界の高崎暦が余命半年を宣告され、いよいよ残り一ヶ月となったタイミングでした。命がギリギリの時点で時間移動を行えばダメージが少なく、万が一暦と栞が出会ってしまっても事故に遭って幽霊になる可能性は低いだろうと暦は考えたのです。
時間移動をする前に暦は交差点の栞に別れを告げに行きます。60年以上も交差点から動けなかった栞を解放するため、ふたりが出会わなかった世界の過去に行くのだと暦は説明します。そうすることで栞は幸せになれるのだと。しかしそれを聞いた栞は激しく拒否し、暦と会えない世界なんてイヤだと訴えます。暦は自分も栞と会えないのはイヤだが、栞が幸せになれないのはもっとイヤだと説得し、妥協案として一度だけ待ち合わせをします。一ヶ月後の8月17日(正確には並行世界で人生をやり直した66年と一ヶ月後の)同じ時間にここに迎えにくると約束を交わす暦と栞。
並行世界の高崎暦を8月17日に交差点へ向かわせるため、和音はオプショナル・シフトして高崎家の中に入ります。眠っている暦のIP端末にスケジュールを入力し、暦と幸せな結婚生活を送っているこの世界の和音に気づかれないように彼女宛の手紙を置いてきました。手紙にはひと月後スケジュールをみた暦がそのとおり交差点に向かうよう後押ししてほしいと書いておきました。
殺風景な日高暦の部屋で、和音は暦にぬかりなく準備したことを報告します。お互い結婚もせず、こんな年齢まで研究につき合わせてしまったことに感謝と申し訳なさを感じつつ言葉には出さずにいる暦。和音もそんな暦にあくまで淡々と接します。
その翌日。研究所にやってきた暦と和音は、IPカプセルの部屋へ入ります。カプセルに横たわった暦に「なにか言い残したことは?」と和音が問います。暦は少し考えてから、「きれいだな。アクアマリン」と彼女の指輪をほめます。それは並行世界の和音が暦から贈られた指輪とおそろいなのです。そこまでは言わずに和音は暦を送り出しました。
自宅のベッドで療養中の高崎暦は73歳。IP端末に「8月17日10:00昭和通り交差点」という記憶にないスケジュールが表示されています。不思議がる暦を妻の和音は、行って確かめてきたら?と送り出します。
電動車イスで交差点へとやってきた暦。横断歩道の上にひとりの少女が立っています。
突然、横断歩道の上に立っていた佐藤栞は近づいてくる車に気づきますがもう避けることができません。気づけば行き交う人や車は彼女の身体をすり抜けていきます。するとそこへ日高暦が「待たせたね」と言ってやってきました。
栞が「迎えにきてくれたの?」と聞くと「うん、迎えにきた」と暦は答えます。そして「結婚しよう」と言って栞を抱きしめました。栞は涙を流し、やがてふたりの姿は消えてしまいます。
その後、交差点の近くから73歳の日高暦の声が聞こえます。「お名前は?」
その質問に答える老婦人の声も聞こえてきました。「名乗るほどの者ではございません」
以上、映画「君を愛したひとりの僕へ」のあらすじと結末でした。
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