孤高のメスの紹介:2010年日本映画。現職医師・高山路爛のベストセラー小説『メスよ輝け!!』を映画化した感動の医療ヒューマンドラマです。「ひとりの医師の想いが、病院を、人々を、動かしていく。」「諦めるな。この命を救うために。」というキャッチで、命と医療に真摯に向き合う情熱的外科医の姿を通して、地域医療問題や臓器移植問題などの現実の医療問題にも目を向けた作品です。
監督:成島出 出演:堤真一(当麻鉄彦)、夏川結衣(中村浪子)、吉沢悠(青木隆三)、中越典子(大川翔子)、松重豊(実川剛)、成宮寛貴(中村弘平)、矢島健一(村上三郎)、平田満(島田光治)、余貴美子(武井静)、生瀬勝久(野本六男)、柄本明(大川松男)、ほか
映画「孤高のメス」ネタバレあらすじ結末と感想
映画「孤高のメス」のあらすじをネタバレ解説。予告動画、キャスト紹介、感想、レビューを掲載。ストーリーのラストまで簡単に解説します。
孤高のメスの予告編 動画
映画「孤高のメス」解説
この解説記事には映画「孤高のメス」のネタバレが含まれます。あらすじを結末まで解説していますので映画鑑賞前の方は閲覧をご遠慮ください。
孤高のメスのネタバレあらすじ:1.母の日記
ある地方の小さな港街。看護師・中村浪子は適切な処置を受けられず急死していまいました。浪子の一人息子で新米医師の弘平は、母・浪子が高齢になっても、なぜ激務の地方の病院勤めにこだわっていたのかと疑念を抱いていました。「地方の病院でなく、都会の病院なら、こんな貧乏くじを引くような事にはならなかったのに…」と弘平は思いながら、母の遺品を整理していました。弘平はそこで母・浪子の古い日記を見つけました。そこには若かりし頃の母と病院の同僚と医師との記念写真がありました。ふと、ページをめくり読んでみると、そこには当時の母の仕事上での苦悩が記されていました。
孤高のメスのネタバレあらすじ:2.一人の名外科医の赴任
時は1989年、浪子は独りで幼い一人息子の弘平を育てていました。浪子は昼間、弘平を保育園に預けて、地元のさざなみ市民病院に看護婦(この当時は「看護師」ではなく「看護婦」と呼ばれていた)として勤務していました。
「看護婦という仕事が嫌でたまらない」と浪子は日記に苦悩を吐露していました。職場復帰して間もなくオペ看となった浪子は、外科手術ひとつも満足にできない口だけの慶応医大の外科医・野本六男たち、彼らを中心とした直ぐに患者を大学病院に移送させ、自らの力で患者の命を助けようという意欲が乏しいさざなみ市民病院の態勢に不満を抱いていました。オペ看である浪子は「自分の渡したクーパーやペアンが血管を傷つける。私も共犯者だ」と、その痛切な思いは自分の仕事への誇りを傷つけ、次第に仕事への意欲を削っていっていました。
そんなある日、一人の外科医がさざなみ市民病院に赴任してきました。名前は当麻鉄彦という医師で、アメリカのピッツバーグ大学で肝臓移植などの外科手術を学んできた名外科医でした。当麻は帰国してからというもの、地方の病院を転々としていました。それは都会に比べて遅れた医療しか受けられない地方医療を少しでも救い、少しでも地方医療技術を向上させるためでした。さざなみ市民病院も、市長・大川松男の「地方の市民病院でも大学病院に匹敵する医療を受けさせる」という強固な方針のもと、当麻が赴任してきたのでした。しかし、そんな事とは露とも知らない浪子は、当麻からいきなり「器械は優しく扱わないとダメです」と注意されたので、「なんて嫌な奴」が当麻への第一印象でした。
当麻が着任したその日、虫垂炎と思われた患者が搬送されてきました。事情を聞いた当麻は着任早々、「そんな酷い対応で死なすわけにはいかない」と言い、早速患者の診断にかかりました。すると、実際は肝臓内の腫瘍が破裂し、体内で大出血を起こしていました。当麻は直ちにオペを決行することにしました。当麻はこの難しい肝臓手術を素早く的確に進め、開腹から僅か10分で止血して見せました。そして、「今までの慣例」で慶応医大に送る肝切除も淡々とこなし、見事に手術を成功させました。当麻は助手に当たっていた慶応医大出身の医師・青木隆三に「外科医にとって大切な事は目の前で苦しんでいる患者を助ける事だよ。断じて慣例なんかじゃない」と諭しました。この命に対する真摯な当麻の姿勢と、当麻の無駄のない美しいオペを見た浪子は感動し、看護婦になったときの初心を思い出したのでした。
孤高のメスのネタバレあらすじ:3.変わっていく人々と病院
病院は慶応医大出身の野本医師が率いる第1外科と、当麻の第2外科という2つの外科を作りました。当麻の評判は良く、患者優先で対応し、難しいオペでも進んで行い成功させ、患者さんたちから信頼を得ていきました。大川市長も島田光治院長も大喜びしました。
そんな当麻にもちょっと面白い一面がありました。当麻は演歌が大好きで、中でも好きな都はるみの歌を手術中に流して行っていました。それは“演歌の耐えて忍んでコツコツと”という心が、外科手術の心と相通じるからでした。しかしある日、「都はるみは古臭くて、コブシが強烈すぎて集中できない」というオペ看の丘香織の指摘を受け、みんなで多数決をとることになりました。その結果、流してもいいと手を挙げたのは当麻と浪子だけで、結局、多数決で敗れてしまいました。結果に落胆した当麻は「信じられんな…」と呟き、おもちゃを取り上げられた子供にようにふてくされました。浪子にはその時の当麻の姿が面白くて仕方がありませんでした。
しかし、当麻のオペはいつも見事で真摯なものでした。ただただ患者の事を考えて、どんな症例に対しても諦めずに立ち向かっていき、気負いも衒いもなく真摯にコツコツと向き合い、成功へと導いていきました。そんな当麻の姿に、第2外科のスタッフたちや青木医師も次第に感化されていきました。オペ看で器械出しをする浪子は、当麻の高い技術のオペについていくため、より高い技術を得ようと思い、仕事への意欲を徐々に取り戻していきました。
そんな患者優先する当麻の姿勢に感化されていく医師がいる一方で、第一外科医長の野本ら慶応医大から派遣された医師たちは、熱い情熱を持った当麻に反発しました。そんなある日、その野本がかつて執刀した患者が命を落としてしまいました。原因はその時、取り切れなかった癌でした。野本はそのオペが自分の手に余るものだったので、それを適当に処理して、患者の家族には嘘の説明をしてその場凌ぎをしていたのでした。野本の助手としてオペの一部始終を見て知っていた青木医師は、医師として続けていく自信を失い、病院を去る決意をしました。まだ若く、責任感があり、優しい青木に、当麻はピッツバーグ大学への紹介状を手渡しました。青木はその紹介状を持ち、ピッツバーグ大学へと旅立ちました。
孤高のメスのネタバレあらすじ:4.命を繋ぐ、想いを繋ぐオペ
その数日後、市議会の壇上で大川市長が突然、吐血して倒れました。大川市長は末期の肝硬変と判明し、命を助ける唯一の方法は生体肝移植しかありませんでした。しかしこの当時、成人から成人への生体肝移植は、世界でも前例がなく、非常に難しいものでした。娘・翔子と大川の弟・慎二は、自らの肝臓提供を申し出ますが、条件に合いませんでした。
そんなある日、浪子の隣人の小学校の教師をしている武井静の息子・誠が、交通事故で搬送されてきました。青年・誠は数日後、脳死と診断され、あと2週間で死亡すると思われました。武井先生の息子・誠は、「人のために何かをしたい」という想いを強く持って生きてきた青年でした。母・武井先生はそんな息子・誠の遺志をくみ取り、息子の臓器提供を強く希望してきました。
ただ、まだ日本では脳死状態での臓器提供は法律に抵触する禁断の領域でした。一歩間違えば、当麻は殺人罪で検察から告訴され、医師生命を絶たれるかもしれませんでした。しかし、母・武井先生の息子の遺志を大切に想う熱意に打たれた当麻は、脳死肝移植を大川に施す決意をしました。院長や事務長、他の医師たちは反対しますが、当麻は医師生命をかけた意志は揺らぎませんでした。大川を助けたいという当麻の熱い情熱に打たれた院長と他の医師たちは、当麻を全面的にバックアップする決意をしました。
手術が近づいてきたある日、当麻と共にピッツバーグ大学で肝移植を学んだ慶応医大の実川剛が、当麻を心配して訪ねてきました。しかし、当麻は心配する実川に「助かりたいと願う患者と、命を繋ぎたいと願う脳死患者の家族が、僕の目の前にいるんです。その悲痛な想いを無視したら、もう僕は医師じゃない。自らメスを置きます」と言い、決意を曲げませんでした。その頃、この当麻の暴挙を事務長から聞いた第1外科の野本医師は、この機会に当麻を医学界の異端児として、病院から追い出そうとマスコミに情報をリークしまくりました。
そして日本初の脳死肝移植の日がやって来ました。急遽、ピッツバーグから青木医師が帰ってきました。青木医師は第1助手として当麻のこの世紀の大手術に参加することになりました。野本医師のリークで当日、病院には大勢のマスコミが押し寄せました。そんな中、当麻たちは淡々と丁寧に大手術を進めていきました。オペ開始から約12時間、世紀の大手術は無事に終了しました。スタッフから拍手が沸き上がりました。器械出しの浪子に当麻は「見事だったよ」と声をかけました。浪子の目から感動の余り、涙があふれ出てきました。
当麻の今回の手術での刑事訴追は見送られました。それは当麻医師の脳死判定が正当なものであり、ドナーとレシピエント双方の家族の同意も確認され、その上、ドナーの母・武井先生の感謝の気持ちが綴られた嘆願書が大きな決め手となったからでした。
しかし、当麻は責任を取って、病院に辞表を提出しました。当麻は多くの患者、医師や看護婦たちに惜しまれながら病院を去りました。浪子は当麻に感謝の意を述べました。すると当麻は浪子に「君は、素晴らしいナースでした」と褒め称え、去って行きました。浪子はその当麻の言葉を胸に刻み、ナースという仕事に誇り持ち、小さな地方の病院に勤め続けていたのでした。
孤高のメスの結末:5.絆を紡ぐ「孤高のメス」
浪子の日記を読み終えた弘平は、母・浪子の日記から大切な想いを受け取りました。弘平は新たに赴任する病院に行きました。その病院は地方の田舎町の病院でした。弘平は院長室で院長を待つ間、部屋を見渡しました。すると書架には院長がこれまで赴任してきた病院のファイルがありました。そこには「さざなみ市民病院」と書かれたファイルがありました。そして、都はるみ全集のカセットテープもありました。弘平はもしやと思い、机の上に目をやりました。するとそこには母・浪子の日記に大事に挟まれていたあの記念写真と同じ写真がありました。弘平は運命を感じました。そう、この病院の院長はあの当麻医師でした。当麻は今も命と想いの絆を紡ぐ「孤高のメス」を振っていました。
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