ロストケアの紹介:2023年日本映画。2013年に刊行され第16回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞した葉真中顕の小説『ロスト・ケア』。老人介護の現場を舞台にしたこの犯罪小説を映画化したのは『こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話』『そして、バトンは渡された』の前田哲監督だ。主演は初共演となる松山ケンイチと長澤まさみ。殺人犯と検事として対峙するシーンが見どころの社会派エンターテインメントとなっている。共演は鈴鹿央士、坂井真紀、戸田菜穂、藤田弓子、柄本明など。
監督・脚本:前田哲 脚本:龍居由佳里 原作:葉真中顕 出演:松山ケンイチ(斯波宗典)、長澤まさみ(大友秀美)、鈴鹿央士(椎名幸太)、坂井真紀(羽村洋子)、戸田菜穂(梅田美絵)、峯村リエ(猪口真理子)、加藤菜津(足立由紀)、やす<ずん>(春山登)、岩谷健司(柊誠一郎)、井上肇(団元晴)、綾戸智恵(川内タエ)、梶原善(沢登保志)、藤田弓子(大友加代)、柄本明(斯波正作)ほか
映画「ロストケア」ネタバレあらすじ結末と感想
映画「ロストケア」のあらすじをネタバレ解説。予告動画、キャスト紹介、感想、レビューを掲載。ストーリーのラストまで簡単に解説します。
映画「ロストケア」解説
この解説記事には映画「ロストケア」のネタバレが含まれます。あらすじを結末まで解説していますので映画鑑賞前の方は閲覧をご遠慮ください。
ロストケアのネタバレあらすじ:起
ケアセンター八賀の職員、斯波宗典(松山ケンイチ)と猪口真理子(峯村リエ)、そして新人の足立由紀(加藤菜津)は預かっている鍵を使って利用者の自宅へと入っていきます。
認知症の家主・梅田の世話をしていると、別に暮らしている娘の美絵(戸田菜穂)が慌ててやってきました。三人の子供を育てながら夜は夫の焼き鳥屋を手伝い、昼は父親の介護をしている彼女の心身はもう限界に見えます。
梅田家を出ると利用者の老人が徘徊しているのを見かけ、斯波は家へと送っていきます。そんな斯波を足立は尊敬していました。センター長の代わりに利用者の通夜に向かう斯波に猪口と足立もついていきます。亡くなった母と同居していた羽村洋子(坂井真紀)は離婚後ひとりで幼い娘を育てながら介護をしていました。そんな彼女を斯波は労います。
検事の大友秀美(長澤まさみ)は、高級老人ホームに自ら入居した母を一か月ぶりに訪問します。先週も来てもらったしそんな頻繁に来なくていいのに、と言う母と微妙に会話がかみ合いません。
翌朝、いつもどおり実家にやってきた美絵はケアセンター八賀のセンター長、団の死体を発見します。そして父も亡くなっていました。借金があり金にだらしなかった団は利用者の自宅の合鍵を大量に持っており窃盗目的で梅田家に侵入、階段から足を滑らせて落下し死亡したという線で県警の捜査が始まります。
しかし屋内に落ちていた注射器が何なのかわかっていません。捜査を始めた検事の大友は付近の防犯カメラ映像から、アリバイがあると言っていた斯波が現場にやってきていたことを知り取り調べを始めます。
斯波は利用者が心配で現場に行き、団と鉢合わせになってもみ合いになり転落死させてしまったと正当防衛を主張します。なぜそれを言わなかったのかと問われると、一度にふたりも職員が抜けたら業務がまわらなくなる、介護士は足りてないので、と答えました。
ロストケアのネタバレあらすじ:承
家宅捜索で訪れた斯波の殺風景な部屋には3年に及ぶ介護ノートがありました。検察事務官の椎名はケアセンター八賀での利用者の死亡件数が県内平均よりも圧倒的に多いことに気づき、大友は斯波の介護ノートを調べ始めます。
その結果、死亡した利用者たちの死亡推定時刻が斯波の休日に集中していることを突き止めます。上司の柊(岩谷健司)に大量殺人での立件を目指すことを報告した大友は、県警の沢登(梶原善)から証拠となる盗聴器を受け取り、被害者と思われる41人の写真を並べて斯波を尋問します。
予想に反して斯波はあっさりと殺人を認め、その理由を介護している家族が限界で救いの手が必要だったからと答えます。盗聴器を仕掛けて家の中の様子を把握し、被害者が確実にひとりの時間を狙って殺害していたと話す斯波。梅田の家で彼を毒殺した斯波は、鍵を開けて入ってきた何者かがそのまま2階に上がったのでこっそりとその様子を伺います。
センター長の団が盗みをはたらいているのを目撃した斯波は彼を問い詰めますが反撃され、もみ合っているうちに団が階段から落下し絶命してしまったといいます。斯波は殺害用の注射器を落としたことに気づかずその場をあとにしました。
ケアセンター八賀では、斯波が犯人だったことに動揺した足立が錯乱して暴れてしまいます。猪口は彼女をなぐさめながら、おそらくやめてしまうだろうと思っていました。
ロストケアのネタバレあらすじ:転
大友は、42人を殺したという斯波の言葉について考えていました。偶発的な結果の団について含めないとするとあとひとりは誰なのか?その手がかりをつかむため、斯波の介護士になる前の経歴を調べ始めます。前職の印刷会社を辞めてから、彼には3年4か月の空白期間がありました。
その間彼は脳梗塞の後遺症でひとりでは生活できなくなった父と同居し介護をしていました。アルバイトをしていたものの認知症が悪化してひとりで過ごさせることが困難になり、瞬く間に生活は困窮していきました。「生活保護さえ受けられない、この社会には穴がある。この穴に落ちたらなかなか抜けられずおかしくなってくる」と斯波は淡々と語ります。
辛い介護から逃げたくて殺した身勝手な殺人だと責める大友に対し斯波は、「検事さん。あなたは安全地帯にいる」と言い放ちます。正気に戻った斯波の父は自分が認知症であることを理解し、自分も息子も苦しんでいる現状を悲しみます。そして斯波に殺してほしいと頼みました。
数日後、入手した注射器にタバコから抽出したニコチンを入れ父に注射して殺害すると、斯波は警察を呼びました。不審死ということでその場で検死がおこなわれましたが結果は心不全。斯波はこの犯罪がバレなかったことがのちの大量殺人のきっかけになったと語ります。
介護士として働き始めた斯波は、かつての自分たちのように介護に疲弊している家族をたくさん目の当たりにしました。そして自分が救ってほしかったように、彼らを救うべく密かに殺人を続けてきたのです。
それでも勝手に人の大切な家族を殺すのはよくない、と言う大友。しかし彼女は先日、長年音信普通になっていた父親が孤独死したアパートを訪れたばかりで、斯波の方が正しいのではないかという考えが脳裏に浮かびます。そんな彼女に斯波は「殺人はよくないというあなたも私を死刑にして殺そうとしている」と言い、大友は自分の信念が揺らいでいるのを感じました。
大友と椎名は被害者の遺族にも話を聞きます。梅田美絵は斯波の極刑を望んでいますが、母親を殺された羽村洋子は自分も母も彼に救われたと発言しました。
ロストケアの結末
ケアセンター八賀では猪口が団と斯波、そして足立のネームプレートをはずしていました。介護士をやめた足立は風俗の仕事に就き、斯波のニュースにも興味なさそうです。
羽田洋子は以前からよく世話を焼いてくれていた春山(ずんのやす)という男性と再婚を決めました。辛い介護を経験した彼女にまた同じことをさせてしまうのでは?と躊躇する春山に対し、だれにも迷惑を掛けないで生きられる人なんていない、自分も迷惑掛けると思います、とほほ笑むのでした。
日本中の注目を集める斯波の裁判で彼は、家族の絆は呪いでもある、自分のしたことは喪失の介護・ロストケアだと言いました。もちろん犯した罪は認め、極刑にも甘んじる姿勢ですが、自分のしたことは間違っていないと主張します。すると傍聴席から梅田美絵が「お父ちゃんを返せ!人殺し!」と叫んで退場させられました。
老人ホームで母を見舞った大友は、既に会話が成り立たない母の姿に寂しさをおぼえ、その膝の上に顔をうずめます。「よしよし」と母は幼子に言うように頭をなでながら何度も言い、大友は「お母さん!」と涙を流すのでした。
大友は結審したあとの斯波との面会に望みます。そしてまるで告解するように斯波に自らの親のことを話します。大友は斯波を断頭台に送りつつ、その考えを完全に否定できない自分を認めていました。そんな彼女に斯波は、父親を殺したときのことを話し始めます。
認知症になっても人間としての尊厳はある。だから苦しんでいる父を解放してあげなけれいけないと斯波は殺害を決意しました。いざ決行しようとすると、父は目の前の息子がだれかわかっていない状態でした。少し苦しんだあと絶命した父。部屋には不自由な手でいっしょうけんめい折ったと思われる鶴が残されていました。それを開くと中にはつたない文字で、お前が息子で幸せだったと感謝の言葉がつづられており、それを読んだ斯波は泣き崩れたのでした。
以上、映画「ロストケア」のあらすじと結末でした。
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